12345678910111213141516171819202122232425262728293031323334353637383940 「魔都物語 -darker than darkness- 同人誌完成に寄せて」                   江島一二三  魔都物語の同人誌の無事発刊を祝うと共に、魔都物語に関して色々と語って欲しいと言われたので、色々と駄文を書き連ねてみようと思います。お付き合い頂ければ幸いです。  十年一昔と言いますから、もう一昔前と言って差し支えないでしょう。当時はインターネットなどという言葉はなく、個人個人が自由気ままに草の根BBSと呼ばれる掲示板を設置し、そこに日本各地から適当に集まった人々が気ままに書き込む、まさしく奔放な場所でした。そこに、細江ひろみさんが設置していたTRPG系の草の根BBSこと、EXCEL−NETという、だべり場がありました。  そこで私は、TRPGに関して、今の自分自身を構成する要素を貪欲に吸収する経験をします。当時そこに集って書き込んだり、オフ会でだべっていた連中は、今ではTRPG業界を担う重要な連中となったりしてしまいました。今から考えてみると、山北篤さんが初代会長を勤めたギルドマスター、希有馬さんや遠藤卓司さん、中村知博クンを始めとした連中が遊んでいたヘリオンコート、鈴吹社長や山本剛さんが来ていた最後の砦などの各種サークルに出入りしていた経験は、「俺も何か作り上げてやる!」というモチベーションの1つだったと思います。  EXCEL−NET、そしてサークル・ヘリオンコートにおいて、後に天羅万象チームの一員となった谷口和也、通称“J”という男と私は出会いました。彼は初参加のサークルなのに十年来の常連のような雰囲気と態度を取る面白いヤツで、同時期にサークル参加していた私は何故か彼と仲良くなったものです。  その谷口氏が、「魔都物語」なるTRPGを作り上げ、当時まだ珍しい、オンラインセッション(掲示板形式)にてテストプレイを始めました。……途中まで。何故途中までかと言うと話は簡単で、ルールが非常に難解で、ルーンクエストより難しく、菊池秀行モノという折角の着眼点を生かしきれないものでした(身体の命中部位、身体の各パーツの耐久力がどうだの、本当にわかりにくかったのです)。オンセには不向き、かつ彼が飽きた(笑)事もあり、谷口氏は魔都物語を放り投げます。(補足:彼は天羅万象や天羅零、テラ・ザ・ガンスリンガーの製作に関与していた関係で、多忙でもあったのです)  私は、彼が放り投げた魔都物語を、非常にもったいないと感じました。コンセプトやその着眼点など、菊池秀行好きな自分は見捨てるわけにはいかなかったのです。  私は彼に直接お願いしました。魔都物語をくれ、俺が必ず完成させる、と。  彼は答えました。何もかも全部くれてやるから、必ず完成させてくれ、と。  ただ、彼はこう付け加えました。今、希有馬さん達と一緒に似たようなコンセプトのTRPGを作成している。作るのなら早く作った方がいい、もし間に合うのなら俺が持ち込んで議題にかけてやる、と。しかし、私の望むシステムは、期限までに完成する事はありませんでした。当時の自分は結婚しており、ただ生きていく事に埋没していたのです。  結果、彼らが世に出したのが、そう、ビーストバインドです。本屋でそれを買い、一読した私は、それが自分の望む「領域」ではないと察したものの、悔しい事に変わりはありませんでした。それ以来、魔都物語は紆余曲折の道を辿る事となります。  時代はインターネットに移り変わり、私は慣れぬタグを使って魔都物語のホームページを作成し、自分自身ですら納得のいっていないシステム下で、無理やり模擬戦を始めたりしました。嬉しい事に少なからずの人がEXCEL−NETから追いかけて下さり、あーでもないこーでもないと意見を出してくれたものです。しかし、やはり個人的な事情で、魔都物語どころではない環境におかれ(要は離婚です)、一時的に魔都物語の事を綺麗に忘れ、離れようと暫く努めた時期がありました。  数年が経過し、各方面から「魔都どうしたの?」と言われていたある日の事です。旧来の親友が一言、こう言ってきました。「もう閉鎖状態の魔都物語のHPだけど、掲示板のURL、覗いてごらん」と。  そこには、業者の大量の宣伝書き込みに埋もれながらも、数少ない魔都物語のファンの方々が、しかも1人ではなく複数、応援の書き込みをしてくれていたのです。正直、涙が出そうになりました。誰も覚えていないような、作者すら流そうとしていたような作品をまだ待ってくれている人たちがいるのだ、と。  やがて生活も落ち着き、私は魔都物語に目を改めて向けられるようになりました。 その頃にはビーストバインドもBBNTとなり、ダブルクロスや異能使いも発売され、様々な「菊池秀行の世界が再現できるシステム」が世に出る事となりました。  私は悩みました。要は、「魔都物語ならでは」という強い独自個性を主張する「何か」が、その頃の魔都物語には無かったのです。ただ単に強いキャラが暴れ回るだけの、セッション崩壊の危険性を常に孕んでいる、たったそれだけのシステムだったのです。  私は悩みました。悩みながら、基本に帰ろう、菊池秀行の小説を読んでみよう……そう思い立ち、初期の魔王伝を読み始めました。  魔王伝の内容は大体こんな感じです。主人公こと、秋せつらに相対するライバル、浪蘭幻十。どうしても勝てない秋せつら。苦しんだ末、せつらは思い出す。……子供の頃に、浪蘭幻十の首に妖糸をかけておいた事を。そしてその記憶を封印されていた事を。最終的に、せつらは浪蘭幻十の首を落として勝利します。  この部分を見て、私は考えました。そういえば、コレを再現できるTRPGはいまだかつて存在しないな、と。これを再現できるシステムを思いつけば、それは他の既存のTRPGとの違いとなり、十分立派な売りになる、と。  その結果出来上がったのが、魔都物語のルールの主軸となる、ドラマティックシステムです。ドラマティックシステムにおいて気をつけた事は、各個人のロールプレイの評価の方法です。たとえば、格好よいロールプレイをした者を評価するシステムは結構あります。しかし、そこで問題が出ます。いつも格好よいロールプレイをしているつもりなのに、格好良いロールプレイで評価されても困ってしまうのです。……判断基準が無い。これは困り者です。どこからどこまでが格好よくて、どこからどこまでが格好悪いロールプレイなのか?線引きが無いのです。線引きが無いからGMは困ってしまう。  そこで、明確な判断基準を設けました。自己演出か、そうでないかの違いです。自己演出において「俺格好E!俺強エェェェ!」をやって貰うのは当然のこととして、それ以上を求めるようにしました。自己演出以外、つまり他人や場の演出です。  判断基準を明確にした事でプレイアビリティをあげ、少しでも合点がいくようにした事で、だんだんと本当の魔都物語の骨格が見えてきました。ドラマティックシステムに合わせて周囲のシステムを大胆に変更し、慎重に修正を重ねました。  その結果出来上がったのが、今の「魔都物語」です。  完成してから同人誌製作を決め、そして本の完成に至るまでには、幸運と友人の雨あられの協力無くしてはありえませんでした。安価で快く引き受けてくれた絵師達。印刷費の負担を申し出てくれた友人。有料HPにすれば宣伝広告が消えるから、と、有料HP代を代わりに負担してくれた友人。コミケで落ちたらなんにもならないだろうと、当選確率の上昇する青封筒を都合してくれた友人。原稿を依頼し、快く受けてくれた人たち。とにかく沢山の人が、魔都物語に関わってくれました。この場を借りて、彼らには改めて「ありがとう」と言わせて下さい。貴方達のおかげで、素敵な本が出来上がりました。  もし、これを読んでいる貴方が、魔都物語に興味を持ったのなら、キャラクターメイキングだけでもしてみてください。そして願わくば、実際に模擬戦か何かで、ドラマティックシステムを体験してみてください。きっと今までに見えなかった「何か」が、プレイにおいてそれまで味わえなかったような「何か」が、体験できると思います。  長文を読んでいただいて、ありがとうございました。