「ゥ、ウウウ」 轡である、ハミとも言う、ヰギリスではビット等とも申すと言う。 今小生の口腔を占め、顔面をしっかりと捕えるバンドで固定されている物の名であるが、勿論小生は馬借に引かれる類の生物ではない。 小一時間程前先生は微笑みを湛えてこれをお示しになると「つねさん、これをお付けになって欲しいのだけれど」 と何時もの様に仰った。 下腹にいやあなヨカンが去来したので「ハイ仰せの通りに」と言える訳も無く「友人と約束が」だの「駅前のミスター某でドーナツの新作がある様だ」だのと先生の笑みの包囲網からの突破路を探してみたが、結局何時もの様に家賃の低減交渉になり、何時もの様に折れざるを得なくなった。 「フグゥウウウ」 先生の苦心の作だというこの器具は噛み締めると舌上に薬液が漏れ出す仕組となっているという、先月の十四日に散々な目に逢されて居るので、新作ドーナツの味も知らぬか弱い顎に目いっぱいの気力と注意力とを注いで優しく咥えてやらねばならぬ。 「ンゥッ、ンゥウウウ」 この苛立たしい器具を咥えさせてから三十分程大人しくされていた先生だが、小生の間抜け面を見飽きたのか悪戯をさせないと外してやらぬと言い出し今に至る。 先生の指が下腹を這い、小生の秘所につるりともぐりこむ、「フッ」、声が出る。小生の指は先生のお命じになった通りこのレポオトを記しているので、「フ、ウウ」、先生の悪戯を止める手立てがない。「くすくす♪」先生が笑いお堪えになる吐息が首元で聞こえる。「ンゥウウウ」堪らず制止の声を上げるが言葉にならなくて。 先生振り返ってお顔が見たいです。「だーめ♪」とのご返答。 先生胸元がせつないのです。「それもだぁめ♪」とのご返答。 ああ先生、どうか止めを。「だぁーめ♪」とのご返答。 ああ、先生、先生の指が、先生の唇が、先生、先生、先生。 「うふふ♪私が満足するまでぜんぶ、だぁーめ♪」との…… (レポートのここから先は読み取れない)