ギルドハウス 中庭 街中で料理人とのやりとり(後日CC参照)の後 なんとなく剣を振りたくなって、中庭に出た 時刻は既に夜半すぎ。大抵のPCたちは寝床に戻って寝ているはずだ 中庭へと続く廊下を抜けるとき、小さな風切り音が聞こえる 【アルクゥ】「……誰だ?」  そうしてドアを開けると、先客の姿がそこにはあった ~~~ 【 ユーキ 】「……ん? お、よーっす、アルクゥさん!」斧をぶん回している小柄な黒い影。夜の宵闇にあって溶けさってしまいそうなシルエットは黒鼠の異名を顕すように。 【アルクゥ】「……アンタか。こんな夜中に何をやっている?」 自分のことは棚に置いて 【 ユーキ 】「訓練……っすね、新しく身体強化系のパッシヴスキルを覚えたんで」に、と笑って斧を一振り「俺にはVR系の熟練度がねーっすから……だから、ちっとでも身体にきざみつけとこーと?」 【アルクゥ】「……(暑苦しいヤツ)」 心の中で失礼な感想を呟き 「……せめて昼間にやったらどうだ?」 【 ユーキ 】「昼間だったらこー……人の眼も多そうだし? そん中で武器振り回しているのも居心地が悪いってゆーか」アハハと笑い「まあ、なんとなくって奴っすねー……主に気まぐれ的な意味で」 【アルクゥ】「……斧か。随分器用に振り回すものだな」 斧といえば自分の大剣と同じく、大振りな斬撃をメインとする武装だと思っていたが、目の前の少年は小枝を振り回すように操っている 【 ユーキ 】「スキルの補正と、熟練度と……後は、俺の選んだスタイルがライトウォーリアのそれだったから、っすかねー」目線を上に上げ思考。       「大降りな一撃に頼りきって、もし倒し損ねたら自分の身が危ういし。んだから、一撃離脱するために、こーんなふーになったって感じっすかね」自分でもよくは分かってないけれど、なんて、軽く笑いつつ。 【アルクゥ】「……なるほどな」 自分は一撃に重きを置く重戦士タイプ。当然、スキルの派生も変わってくるのであろう 【 ユーキ 】「アルクゥさんは――魔法も使えるっすか?」自分に縁の無いスキル、遠距離攻撃という可能性に、ふと聞いてみたくなって。 【アルクゥ】「最弱レベルの弱い魔法だけだ。とんでもなく中途半端だからな」 【 ユーキ 】「ふーむ……」最弱レベルといわれ。「でも、あのときポップした魔法の威力を見る限り……んー」ごろんごろん「……アルクゥさん」 【アルクゥ】「……なんだ?」 急にころがりだしたユーキを怪訝そうな目で見て 【 ユーキ 】「ちょっとデュエルしませんか?」斧向けて「色々考えてたけど、俺には考えるのなんざあわねーし、アルクゥさんの闘い方を見てみたい」 【アルクゥ】「……(これはまた)」 大剣に手を這わせ 「……ちょうどいい。オレも剣を振ろうと思っていたところだ。レギュはどうする?」 【 ユーキ 】「んー……お互い軽装、下手にダメージ積むとちょいと危ねーし……強攻撃一撃ヒットで終了……どーっすか?」 【アルクゥ】「問題ない。HPイエローでの終了だな。距離はオーソドックスに10Mでいいか?」  【 ユーキ 】「10mでも20mでも……それこそ、お互いの間合いっしょ?」に、と笑い「構わないっすよ」アルクゥターゲット、《デュエルを申請します、よろしいですか?》 Yes、デュエル申し込みを送りつける。 【アルクゥ】「……ふん」 唇を軽くゆがめ、デュエル申請を受理。剣を片手に持ち、軽く半身を引いて無造作に立つ 【 ユーキ 】「30秒前……」魔法でカスタムされたハルバードを背に構え、片手だけで握り。全身を緊張させる。二人の間には【Duel】の文字とカウントが発生し。 【アルクゥ】「……」 カウントが小さくなる。こちらは微動だにしない 【 ユーキ 】「……ッ」5、4、3、2,1……【Duel】のポップが弾ける「せ、やあああああああああああああああ!」突貫!地を駆け、黒いリメインライトをたなびかせながらアルクゥに迫る! 【アルクゥ】「……」 ユーキが駆け出すのと同時に空けていた手を一閃。炎を呼び出し、進路上へを置く 【 ユーキ 】「!」進路上に発生した焔、突進技の途中、大きな回避行動はスキルの不発を招く……「っ!」ならば、直撃しなければいい! 体を掠らせるようにして、しかし、芯からは身体をずらし前進! HPゲージが僅か減少しつつも、潜り抜け、距離を詰める。 【アルクゥ】「……ふっ」 大剣へと手を沿え、側面から振りぬく。下段から発生する範囲に秀でた迎撃技 【 ユーキ 】「っ、ちい!」対峙して思う、やっぱり、面倒くさい、と。「二重の迎撃とか酷いっすよ……!」大剣と敢えて交錯させるように斧を上段から振りぬいて 【アルクゥ】「……純戦士にまともにぶつかり合って勝てるわけがないだろう?」 二人の刃が交錯し、派手なエフェクトを撒き散らす。お互いが技の相殺によってノックバックする 【 ユーキ 】「っちい!」筋力ステータスの差で大きくノックバックさせられて、硬直。「っぐう!」空中で反転、トンボを打って地面に着地する。 【アルクゥ】「……っ」 俊敏性(Agi)は向こうが上。だが、筋力(str)補正はこちらが上。ノックバック硬直が半瞬早く解ける。そしてそれと同時に炎の塊をユーキへ投げつける 【 ユーキ 】「ファイアボルトっ……遠距離攻撃手段は厄介っすねえ!」緊急回避、不意を打たれた体勢で地を蹴って……斜め前に跳ぶ「俺には、これしか、できねーんでぇ! だから、次は、当てる!」馬鹿正直な突撃。 【アルクゥ】「……(あの状態から避けるか。厄介な)」 今度はこちらも剣を構え、ユーキへと突撃する 「……その前に打ち砕く」 【 ユーキ 】「上等ッ!」禍々しく黒焔を上げる大斧、長いクールタイムが課せられる代わり、決殺の威力を宿す一撃……「《ヴォルティカ・クラッシュ》ゥ!」高らかに叫んで、縦、一閃! 【アルクゥ】「……!」 剣にオレンジのスラッシュエフェクトがのる。こちらも攻撃力増強スキルを使った一閃。縦攻撃同士がかみ合い、火花のようなエフェクトを撒き散らす  【 ユーキ 】「く、っ!」スキルの効果がぶつかり合う、鍔迫り合い……エフェクトと金属がそれぞれ喰らい合って轟音を散らす。 【アルクゥ】「……」 ぎりぎりと押し込む。筋力補正はこちらが上。このまま一気に体勢を崩し、一撃を入れるつもりだ 【 ユーキ 】「く、っそ……何が純戦士には及ばない、っすか……、普通に剣技磨いてりゃ、俺なんざぶッちぎられそう、っすよ!」押され気味、そもそも、ユーキの真骨頂である一撃離脱戦術とは異なる戦況の為、仕方の無いことではあるのだが「っ」押し負ける……、認識し、自身、床を蹴って、退避体制に入る。 【アルクゥ】「ちっ」 絶妙なところで力を逃がされる。このままではこちらが体勢を崩し、一撃を入れられる。そう判断し、軸足を入れ替えながら、体ごと回転させて剣を振り回す。牽制のため威力は低いが、これで追撃の出足を潰す 【 ユーキ 】「つうっ!」牽制の一打は、すでに回避体勢にあったユーキを不完全ながらも捉え、がりっ……HPゲージが1割程削れる「つー……っ、小攻撃じゃなきゃ、終わってたっすよ……っ」 【アルクゥ】「……くっ」 こちらも無理な体勢から攻撃を出したためか、硬直で追撃できず 【 ユーキ 】「っくう、ふー……」5m、互いが武器を振れば、そこは間合い。硬直の隙に逃れ、体勢を整えられたのはそんな近距離だった。 【アルクゥ】「……(やりにくいな)」 俊敏性を生かした突撃と、どの間合いからでも打ち込める強攻撃。今のところは先読みとカンで凌いではいるが、薄氷の上を歩くような攻防だった。「……っ」 こんどはこちらから、地面をこするような低い位置へ大剣を構え、突撃する 【 ユーキ 】「っ!」突剣技、対応を模索し、選択。「大剣の攻撃は、重くて、速いが……一回きりっ! 気合避けぇ!」雄たけびとともに、紙一重のステップ。        攻撃回避から、一寸の隙をついての、中威力袈裟切りの選択!幾分か先より弱いエフェクトを伴って、斧が振り回される。 【アルクゥ】「っ!?」 斧が体をかすめる。HPを削られながら大剣を引き戻し 「はぁっ!」 至近距離に対応した小攻撃の薙ぎ払いで距離を置こうとする 【 ユーキ 】「この状況で……っ!?」カウンターへのカウンター、意表を突かれて飛び退いて「……今のは、とどめにならないまでも、追撃かませると思ったっすけど……」 【アルクゥ】「……(引いたか)」 念のために準備していたスキルを中断。両手に大剣を構えなおし 「……すばしっこいな。少しは削れるかと思ったのに」 【 ユーキ 】「そっちこそ……魔法と剣なんて、それこそ上級に謳われるドラグーンでもないと使えネーって思ってたっすけど……対人だと十分怖いとは」 【アルクゥ】「……言葉を返すと、ここまでやらないと生き残れないんだよ。オレにしてみればそっちの動きのほうが怖い。神経張りっぱなしなんだからな」  【 ユーキ 】「そりゃ、誇るべきっすかね」にや 「……さって、俺から振った話っすけど、やっぱ、喋るより、武器ぶつけ合ってるほうが楽しいんで……」息整え、両の手に斧を構える、分かりやすい、上段の構え 【アルクゥ】「……確かに、オレも喋るのは苦手だ」 ぎちりと大剣を握り締める。こちらはユーキの構えに応じるように、下段の構え 【 ユーキ 】「んじゃ――」足を僅かに屈伸、高まる気迫、その構えは、馬鹿正直な突撃の構え「行くっすよぉ……!」ただ真っ直ぐに、翔る! 【アルクゥ】「……」 腰を落とす。完全な迎撃の構え。両腕に赤いエフェクトがまとわりつき、ユーキの突撃へと相対する 【 ユーキ 】「ああああああああっ!」猛り、弾けるエフェクト、今使える最高の一撃でもって、迎撃体勢にあるアルクゥを叩き潰さんと迫り―― 【アルクゥ】「っ!」 剣と斧がぶつかる。そうした瞬間、剣から力が抜ける。いつの間にか大剣を支える腕は右腕のみになっていて、もう片方の左腕はユーキの胸に添えられている。当然、斧は弾かれる事無く、刃が体に迫る。 【 ユーキ 】「……ん、っ、なぁ!?」驚き。この状況でのこの行動、思い出せ、アルクゥの技能は――「ま、さかぁ……っ!?」駆け巡る悪寒にしかし、振り切った腕は、発動したスキルと課せられるアクションは止まらない。肩口から切り裂く一撃が――アルクゥの大剣を弾き飛ばしてその身に叩きつけられる! 【アルクゥ】「……食らっとけ」 斧が体に食い込む刹那。左腕から巨大な炎が巻き上がり、0距離でユーキに撃ち込まれる。ほぼ同時に両者への大ダメージが入った。結果は…… 【 ユーキ 】「……げっふう」黒煙を全身から上げてぷすぷすしつつ――体力はイエローゲージ。 【アルクゥ】「ぐっ……」 こちらも体力はイエローゲージ。デュエルの判定結果には、大きく《draw》と表示されていた 【 ユーキ 】「最後の最後であんな奇策とか……えげつねえ」 【アルクゥ】「魔法を遠距離攻撃と限定している人間は多いからな。しかし、予想以上にそっちの攻撃が速かった。取ったと思ったんだがな」 【 ユーキ 】「ステータスの大半をAgiとDexに割り振ってるっすからねー……それでも、命中ベースはあんまり高くねーけれど」身体起こしてぱ、っぱ、と身体払うしぐさ。 【アルクゥ】「……なるほど。ライトウォーリアの面目躍如、か」 左腕を一振りして残り火を振り払う。広がった燐光が悪魔の翼のように広がり、そして拡散した 【 ユーキ 】「目指すものはアクスブレイブって奴っすねー」軽い口調で将来設計述べつつ。デュエル終了と同時に、与えられたダメージは回復を始める。もうしばらくすれば、ステータスは元の状態に戻るだろう。 【アルクゥ】「……お人よしが。そう他人の前でべらべらと自分のステを喋るな」 これだからここのギルドの連中はと呟く 【 ユーキ 】「んー? ……だって、俺ら、仲間っしょ?」きょとん、と 【アルクゥ】「……(こいつもか)」 内心で溜息をつきつつ 「……そうやって後で痛い目を見ても知らんぞ」 【 ユーキ 】「んー……だって俺、難しいこと考えるの苦手だし? 人が裏切るとか考えてたら、絶対、普段どおり戦えないっす」だから、と、笑って「仲間とは腹割って喋りたい、信用したいし、信頼したい。俺は戦略立てられなくても、他の誰かが俺のことを知ってくれていれば、もっといい道を教えてくれるかもしれない」 【 ユーキ 】「それがいいことかどーかわかんねーし、丸投げってのはむしろ悪いことかもしんねーけど……んでも、それが俺のやり方だから、何があっても後悔しないっすよ、きっと」 【アルクゥ】「……お人よしが」 呆れたように溜息を吐く。だが、以前のような苛立ちは少ない。「……言ってろ、単純バカ」 【 ユーキ 】「自覚してるけど、言われると凹む、それが馬鹿という言葉ー!」しょぼーん 「……まー、それでこそ俺なんですけどねっ!」 【アルクゥ】「……(まぁ、みていて退屈はしないな)」 くすりと小さな笑みを浮かべる 【 ユーキ 】「あー! 笑ったっすねー!」ぬう、と怒った様子で「ったく――そんなアルクゥさんも俺のこといえねーんじゃねーっすか? さっきの捨て身の一撃とか……」 【アルクゥ】「……こっちはリスクも計算した上でやっている。お前見たくそれしかできないというわけじゃない」 意地悪く唇を吊り上げながら 【 ユーキ 】「否定できないところがひでえ!?」るーるー「で、でも……そうだ! リスクがあるって分かった上で、危険な賭けに持ち込むっつーのは結局熱血馬鹿じゃねーのかっ!」 【アルクゥ】「……リスクとリターンが計算できていれば選択肢の一つになる。そういったものを考えられないのがバカのやること。違うか?」 【 ユーキ 】「ぐ……ぬー……」反論が浮かばない「……やっぱり戦闘スタイルだけじゃなくて、中身まで意地が悪いっすよ」ぶーたれた。 【アルクゥ】「……当然だ。特にお前みたいなのを見ると無性に腹が立つからな」 セリフとは裏腹に、楽しげな雰囲気を纏っている 【 ユーキ 】「ひでぇっ!? 今こいつすげえひでえことを本人目の前にして言った!?」 【アルクゥ】「……お前見たいなのには、変に遠慮するほうが厄介な事になるからな」 さらりと言ってのけた後で、アイテムイベントリから酒とマグカップを取り出す 【 ユーキ 】「ったく……それは?」 【アルクゥ】「見て判らないか? 酒だ」 さらりといってのけてマグカップに注ぐ 【 ユーキ 】「酒、って……ゲーム中でも一応二十歳未満……って聞くような奴じゃないかー……」嘆息して「強いっすか?」 【アルクゥ】「さてな、とりあえずコイツを一瓶開けても余裕はあるな」 マグカップに唇をよせ、舐めるようにゆっくりと飲む 【 ユーキ 】「ひえー……」ちらちら見つつ「……なあ、少しだけくれたりは?」 【アルクゥ】「断る」 断言した後 「……といいたいところだが、今回は引き分けたんだ。一杯くらいなら分けてやってもいい」 【 ユーキ 】「おお!?」驚き「……人に分け与えるって精神があったんすねー……」 【アルクゥ】「……やらんぞ?」 ジト目で睨む 【 ユーキ 】「ジョークジョーク」慌てて 【アルクゥ】「フン」 もう一つカップを取り出し、酒を注いでユーキに突き出す 【 ユーキ 】「どーもっ」受け取って、掲げる「乾杯は、しねーの?」 【アルクゥ】「何に乾杯するつもりだ?」 特に思い浮かびもしないので、そのまま口をつける 【 ユーキ 】「んー、んー……なんでもいいぜ? いい勝負に、とか、俺達の友情に、とか」 【アルクゥ】「……(恥ずかしいヤツ)」 視線にこめてユーキを睨む 【 ユーキ 】「……ん? なんか気に食わないことでもあったのかよ?」 【アルクゥ】「……言ってて恥ずかしくないのか?」  【 ユーキ 】「なんで恥ずかしがる必要があるんだ? 戦って楽しかったのは事実だし、お前は俺と友人になれないってか?」 【アルクゥ】「……生憎、お前と感性は合わないようだ、だから……」 グラスを目の前に掲げる 「次は勝つ。……これでどうだ?」 【 ユーキ 】「しゃーねーっすね」かかげなおして「でも……勝つのは俺だぜ?」がちん、酒が微か零れる程度に打ち付ける。 ~~~ 夜は更ける。ギルドルームの中庭で二人、正逆な二人は酒とともに時を過ごしましたとさ。 おしまい。