第一階層にそれは存在する。 ただただ広い空間に乱立する数個の巨大な石群、 近づいてみれば分かるが、その石郡にはびっしりと文字が刻まれている。 古代の遺産でも先人達の言葉でもない―― それは人の名前、この世界で果てた者たちの名前を刻んだ碑である。 これを考えたものは悪趣味だ、そう思いつつ足を向ける…。 この時間なら誰もいないだろう、そんなことを考えていると 珍しいことにそこには先客がいた。 【イッカク】「む、先客か?」 そんなことをいいながら、碑の前に立った少女に声をかける 石碑に刻まれた文字をなぞっているのは、白を基調にした服にジャケットを纏った少女。 茶の髪は真っ直ぐに背中まで伸ばされている。腰にあるのは銃。片手で扱うタイプの銃で。 【 フィズ 】「レイミ……」 石碑に刻まれた、友人の名…リアルの名を片仮名にしただけ。 私をこの世界に引き込んだ張本人――そして…失った親友。 【 フィズ 】「私はまだ、生きてるよ――」 そんなことを呟きながら…近づいていた気配、声に振り向いて。 【イッカク】「…フィズ、リア……だったか」 少し目を開き、 【 フィズ 】「何だ…イッカク、だったの」びっくりしたと呟いて…石碑から、彼へ視線をやる。「何か用があったの? それとも、誰かが探してるとか?」 【イッカク】「あぁ、探し人だ。 見つからないのが最善の探し人だ」 と一つ頷き、碑を睨み 「…――知り合いか?」 と先ほどなぞっていた名前を指差す  【 フィズ 】「なるほど、ね。なんとなく理解した――」あぁ、同じなのかなと…ちょっと思った。「知り合い…私をこのゲームに引きずりこんだ本人。勝手だったよ――」目を閉じ、石碑から離れながら。 【イッカク】「そうか…」 とだけいうと碑に近づく 「…恨んでいるのか?」 上から順番に、祈るように名前を探す。 【 フィズ 】「恨んでる…それは無いかな。子供のころからの親友だったし――恨んでるって言うか、自分だけさっさとクリアしちゃったことにちょっと怒ってる」イッカクの様子を眺め、見ながら…「イッカクも、誰か探してるの?」 【イッカク】「そうか」 と少し穏やかな調子で応えると 「あぁ…俺をこの世界にさそった、友だ。 昔から悪運だけは強い奴でな、心配はしていない」 といいながらも真剣に目を動かす 【 フィズ 】「誘われて、っていう感じなんだね。結構似てるね、互いに」その様子、少し大人しくしつつ… 【イッカク】「似ている、か…」 少し間を置き、考える 「確かにそうかもしれんな…フィズリアの知り合いとあいつとでは雲泥の差はあると思うが、な」  【 フィズ 】「そうかなあ――生きててくれるほうがよっぽど…とは思うけど…」石碑の立っているあたり、腰を下ろして… 【イッカク】「…すまない」 顔を俯ける、音が鳴りそうなほど拳を固め 「フィズリアには、辛い話だった…」 【 フィズ 】「別に――既に起きてしまった結果が変わるわけじゃない。失ったものが戻るわけでもないから」そうは言うものの、自分の中では軋み。それを表に出さぬようにしつつ…苦笑とともに返して 【イッカク】「それでも、謝らせてくれ…こんな話は、すべきではなかった」 顔は下を向いたまま、碑に指を滑らす 【 フィズ 】「いや、ここに来てる時点であんまり――」と、苦笑。「後、どれだけの人の命を奪うのかな…このゲーム。最初はPKKちょっとやったけど…今は、それが…PKの命を奪う行為なんだよね――」 【イッカク】「俺にはわからないが…できる事ならばこれ以上、誰も死んでほしくない」 目を瞑り 「俺もPKだからといって、死んでいいとは思っていない…俺は、甘いな――」 と苦笑いし 「こんな状況でも誰かが傷つくのが嫌なんだ…」 【 フィズ 】「…死にたくないし、死なせたくない――その気持ちはわかるけど…」座ったまま、空に手を伸ばし…「どうにかしなきゃいけないこともあるのかな――」 【イッカク】「そうなったとき」 初めてフィズに向き直り 「――フィズリア、お前ならどうする?」 見下ろすその表情は真剣そのもので 【 フィズ 】「私は――引き金を引けなきゃいけないなら……」空に伸ばした手、それを握って…「恨まれても、皆からどう言われたとしても…引く。そうしなきゃ、護れないなら」 【イッカク】「…強いな」 フィズリアの伸ばした拳を見 「俺は…誰かの為にそこまでできんかもしれん、な」 【 フィズ 】「どうだろ。本当は…ぎりぎりまで、悩んだほうがいいんだと思う――どれが正しくて、何が正しいのかなんて…知らない」 【イッカク】「それは俺も同感だ、何が正しいかなど誰にもわからない、理解できない…だから、俺に出来るのは覚悟決めることだけなんだと思う。」 【 フィズ 】「…覚悟を決めることすらも正しいのかはわからないな――」 【イッカク】「そうかもな…だが、俺はそれしか知らん――」 【 フィズ 】「正直、こんな深くこのゲームで考えるなんて思わなかったなぁ。あんなアナウンスがあって…本当に色んなことがあって」 【イッカク】「あぁ…こんな事で悩む事になるとは思わなかった。 本当はこれすべてが夢なのではないか、と思うことすらある」 【 フィズ 】「でも、夢じゃないってあたりがひどいよね――」 【イッカク】「あぁ、夢じゃないと落胆しているだけでは、何も解決しない事もひどいな――」 【 フィズ 】「…だから、AAAにいるんだよね。多分。何とかしようって気があるから」イッカクのほうを見つつ…「私は…あんまり理由が無いからなあ…」 【イッカク】「何が正しいのかわからんのだ、理由がないフィズリアのほうが正しいのかもしれんがな…俺のは、言い訳にすぎん」  【 フィズ 】「ま、こんなこと言ってても…始まらないか――」す、と立ち上がって…パタパタと服をはたいて。 【イッカク】「ふむ、それもそうだな――」 碑の前に花を添え 「どうもここは、感傷的になりすぎるな」 【 フィズ 】「そういう場所、何だと思うけど――イッカク、この後コロシアム行かない? 少し身体動かしたいから」 【イッカク】「ふむ…面白いな」 と笑みを浮かべ 「俺も用事は終わった――倒れるまでなら付き合おう」 と指を鳴らす 【 フィズ 】「倒れちゃ元も子もないから…程々にしておくつもりだけどね」少し身体を伸ばしながら… 【イッカク】「ふむ、わかった…だが、手は抜かんし、抜かせんぞ?」 【 フィズ 】「それは当然――」こん、と自らの銃を叩く仕草。 【イッカク】「よし、いい覚悟だ…っと、少し待ってもらえるか」 それだけいうと碑に向かい目を閉じ、黙祷をささげる 【 フィズ 】「……」また来るよ、レイミ――そんなことを思いながら、同じように石碑を眺めて。 【イッカク】「もうだいj…」 その横顔を見ると、口を閉じ、フィズが碑を見つめるのをやめるまで待つ 【 フィズ 】「…行こ」くるり、と背を向けて…歩き出して 【イッカク】「…あぁ、行こう」 その横に並び歩いていく       お疲れ様でしたー