出向して数日。いい加減そろそろ慣れてきた。 というわけで今日は休暇にしよう、と訓練を一日放棄し街に出てきてみた。 よく考えればこの世界のハンバーガー食べてないや。当たりがあるといいな。 そんな希望一杯に繁華街へと向かっていた 【静】「……♪」自然、その足は軽くなっている と、不意に聞こえてくる 【笑い声】「あーっはっはっはっはっ!」 大きな笑い声 【静】「……」足を止めた。見回す「何、今の……」様々な平行世界と繋がる街、ただの奇人変人がいるだけに違いない。そう思うのだけど、なんだろう、この言い知れぬ嫌な予感は 【声】「あーっはっはっはっ!そこのこれから吉野家行って『よーし、父さん大盛り頼んじゃうぞ』って顔してるアンタ!」見回せど姿は見えず。しかし、どうやら声の主は君に話しかけているらしい 【静】「え、誰?」きょろきょろと見回す。相手を見つけようというよりも、むしろ声をかけられたのが自分以外であることへの祈りを込め長柄 【声】「誰?この姫子様に向かって誰?!アンタ何様?!」ぴきーんと声のトーンが2つ上がる 【静】「何様って……北崎静一個人、だけど……」 【声】「アンタの名前なんて聞いてないわ!セイイチだか、セイイチコジンだか知らないけど!どこ見てるのよ!こっち見なさい!」叫ぶ声は女の子の声。どうも上のほうから聞こえてくる気がする 【静】「いや、しず……一個人……」つられるままに、覚悟を決めて上を見た 上を見上げれば、輝明学園の制服に身を包んだ少女が風に白いマントとスカートをはためかせ、腕を組み、勝気な瞳で見下ろしている。電柱の上で。時折ちらちらとスカートの中の白が見えるのはご愛敬 【静】「っ」咄嗟に視線をそらした「と、とりあえず、降りたほうがいいと思うよ……」 【女の子】「そんなことどうでもいいわ!アンタ、ちょっと答えなさい」視線をそらすと、電柱の下でにゃーにゃー登りたそうにしてる数匹の猫とお行儀よくお座りしてる一匹の犬が見えた 【静】「何を答えればいいのさ!?」微妙に視線をそむけたまま 【女の子】「あーっはっはっはっ!とおーっほっほっほっ!どっちがいいかしら?」電柱の上で可愛らしく小首を傾げ。綺麗な長い黒髪が風にさらりと揺れる 【静】「……へ?」あっけに取られ、また見あげてしまう。ぽかーん 【女の子】「個人的にはおーっほっほっ、はちょっと下品かなと思うんだけど」見上げれば、組んだ腕に持ち上げられるように制服を押し上げる膨らみが見え。静を見つけたねこが一匹足元に頭を擦りつけてくる 【静】「あ、あのー、質問の趣旨がわかんない、んだけど……」猫が擦り寄ってきてコレ幸い、としゃがんで撫でる。とりあえずコレで見あげなくてすみそうだから安堵 【女の子】「だからぁ、『あーっはっはっはっ!』と『おーっほっほっほっ!』どっちがいいかって聞いてんのよ!シズイチ故人!」 【静】「だから北崎静だってば!?つなげなくていいから!」猫を抱えて胸に抱き見あげる。っとワスレテタ。反らす「とりあえず降りて、こない?」 【女の子】「だから、アンタの名前なんて聞いてない!それと話をするんだったらちゃんと目を見てh話しなさいよ!」相変わらず電柱の上で腕を組んで仁王立ち 【静】「だから!降りてきて話そうよって言ってるのっ」 【女の子】「だが、断るわ!この覇王姫子もっとも好きなことのひとつは高い所から人を見下ろすことなのよ!何、アンタ、人の趣味にケチつけようっての?!」形のいい眉を吊り上げ頬を膨らませる 【静】「あー……」考える。言葉を捜す。なぜか赤くなる「とりあえず、あの、そのままだと、その…見える、よ?」 【女の子】「何?王気(オーラ)でも見えるの?」きょとんと見下ろし 【静】「あ、んっと、その、スカートの、中……」くそう、恥かしい。何で言ってるんだ、僕「せめて高いところに行くときはズボンとかにしようよ」 【女の子】「……」ようやく登って来た猫を抱きあげ「見るな!この痴漢!」おもむろに猫を投げつける 【静】「うわ!?」受け止め「見たくて見たんじゃないやい!?だからずっと顔そらしてたんだろ!?気付こうよまず!」 【女の子】「何?!姫子様のスカートの中を見たくないって言うの?アンタホモ?ホモね!悪いことは言わないわ、死んだ方がいい」ほんのり頬を染め、大きな胸をきゅっと両手で抱いて 【静】「なんでそんな極端なのさ!?僕はノーマルだ!見たいとか見たく無い以前に見せないようにしようよって話だよ!」」 【女の子】「まあ、いいわ。とりあえずアンタ」相変わらず腕を組んだままスカートを抑えようとせず 【静】「だから見えるってば!?」思わず突っ込み「安売りとか良くないよ!?」 【女の子】「うるさいわね!時価60兆円よ!いいから、アンタ!」じろり、と睨んで「梯子とか持ってない?」 【静】「……もしかして……降りれない……?」 【女の子】「そんなわけないでしょ!単に梯子持ってないかって聞いてるだけじゃない!ほら、よくある世間話じゃない」相変わらず腕を組んだまま。制服の上に羽織ったマントがぱたぱた揺れる 【静】「普通、梯子は持ち歩かないと思うんだ……」 【女の子】「アンタダメね。全然なってないわ。梯子くらい持ってないと女の子に持てないわよ?何?アンタあれでしょ?女の子と付き合ったことないでしょ?」 【静】「……い、いいだろそんなこと!?……梯子はないけど、箒はあるんだけどな」ちょっとムカっときたので「でも、いらないよね」意地悪してみる 【女の子】「箒?何、アンタ。道路掃除公団の人?そこ、ゴミ落ちてるわよ」電柱の根元で猫がちょいちょいと空き缶で遊んでいる 【静】「こーゆーの」何も無い空間から巨大なハンマーを取り出し、目の前で乗って、少し宙に浮く「でも、梯子じゃないからなぁ」 【玄武】『是』マシンボイスがハンマーから響く 【女の子】「ああ、アンタあれね。魔法使いね。ちょうどいいわ。ほら、さっさとこっち来なさい」電柱の上でちょいちょいと手招きして 【静】「何?」意地悪してやろうと思ってたくせに、素直にそちらに飛んで近づく 【女の子】「よいしょ、と」静の後ろに腰を下ろして、背中に抱きつき。何かとってもやらかい 【静】「ぅわ!?ちょ、ちょっと!?」どぎまぎ 【女の子】「ほら、さっさと降りなさいよ。あ、シャアが登って来てるから、拾ってくわ。あっち寄せて」背中に抱きついたまま、電柱にしがみついてる猫指差し 【静】「あうあうあう」いわれるままに。その顔は真赤 【女の子】「何よ?あうあうあうって?」電柱の途中で猫を抱きあげて肩に乗せ 【静】「あ、あの、む、無防備すぎるのもどうかなって思うんだけど!?」 【女の子】「ああ、なるほどね。アンタ素人ね。この姫子様には隙なんてないのよ。隙のように見えるのはそう見せてるだけ、わかる?わかんないだろうなぁ」ふ、と不敵に笑って見せて 【静】「む……胸……アタッテマス」思わず敬語 【女の子】にっこりと笑顔を浮かべ、静の首をきゅっと締める 【静】「ぎぎぎ、ぎぶぎぶ!?」タップタップ 【女の子】「ひとつ言っておくわ。65のFよ。別に寄せてあげたりしてないから」きゅっきゅっきゅ 【静】「それが無防備って言ってるんだー!?」着地! 【女の子】「うるさいわね!隙なんてないって言ってるでしょ!」よいしょと箒から降りて、再び胸を押し上げるように腕を組んで。どうやらこのポーズが基本形らしい 【静】「……死ぬほど隙だらけだと思うんだけど」真赤な顔で視線をそらし、玄武を仕舞う 【女の子】「まったく素人ね。アンタ本当に魔法使い?」じろじろとぶしつけな視線で静を上から下まで眺め 【静】「ん、んん」咳払い「これでも絶滅社のエージェントだけど」 【女の子】「絶滅社の?はぁ、絶滅社も底が知れたわね。こんな子供を使ってるようじゃ」やれやれと肩をすくめて 【静】「21」ぽそ 【女の子】「靴のサイズなんか聞いてないわ」 【静】「21歳だよ!靴のサイズにしたって小さすぎるよ!?」 【女の子】「はぁ、嘘はいいから。で、アンタ絶滅社のエージェントのくせに姫子様のこと知らないの?モグリ?ああ、バイト?ちゃんと学校に届け出出してる?」 【静】「……」無言で免許証を見せる 【女の子】「これ見てもわかんない?」くるっと回って背中のマントを見せて。そこには○に覇王の文字 【静】「……ああ、あのとらぶるめいk」そこで口をつぐんだ「とにかく!僕はもう成人してるの!」 【姫子様】「ん?何か言った?」くるっとまわってきょとんと静を鳶色の瞳で見つめ 【静】「ぅ」よくよく見れば整った容姿。どきっとする。でも今は「ほら、これ!偽造じゃないから!」と免許証。緊張してるのかきちっとした写真は今よりも幼く見える 【姫子様】「そんなのどうでもいいわ。ねぇ、アンタホントに姫子様のこと知ってるの?」うさんくさげにじーっと顔を近づけ 【静】「どうでもいいってなに!?割りと大事だよ!?」顔を近づけられれば無意識に少し引いてしまう「い、いちおー」あまりいい噂じゃないのは伏せて「とりあえず、あれ…アーッはっは、のほうがいい、とおもう」ごまかしに入った 【姫子様】「そう?やっぱりそう?そうよね!やっぱり『あーっはっはっはっ』のほうがいいわよね」嬉しそうに頬を綻ばせ。足元で猫たちがにゃーにゃー構って欲しそうにしている 【静】「どうやってあそこ上ったの?」猫を撫でる 【姫子様】「世界の支配者たる者、高い所から現れるのは嗜みでしょ?」何聞いてんの?こいつ?頭悪い?と言った表情で静を眺め 【静】「……悪いこと言わないから、なにかこー、対策、たてよう、ね?」 【姫子様】「対策?はっ!何に対して言ってるかはあえて察してあげない優しさを見せてあげるけど、この姫子様に策など必要ないわ!」はっと笑って胸をそらし。制服の下で柔らかな膨らみがかすかに揺れる 【静】「……ええと、その、見せたい、の?」恐る恐る聞いてみる 【姫子様】「見なきゃいいでしょ!この痴漢!」カァァと頬を染め 【静】「だから高いところでスカートだと見えちゃうんだよ!?しかもこっち見ろって言ってるの、君!」 【姫子様】「それでも見ないようにするのがアンタの仕事でしょ!だいたいあれよ?パンツとかスパッツって風に靡かないでしょ?!」 【静】「無理だよ!?しかも僕以外どうすんのさ!?スカートのしたに履けばいいじゃないかー!?」 【姫子様】「かっこ悪いじゃない!それにアンタ以外にスカートの中気にした奴なんていないわ!」 【静】「たぶんそれ、言わない、だけ……」 【姫子様】「はっ!ダメね、ダメダメね。アンタ名前をダメダメシズイチに変えたほうがいいわ」ふ、と笑って 【静】「なんで!?」 【姫子様】「自分の罪を人にもなすりつけるなんて…お天道様が許しても警察が許さないわ。今自首したら罪は軽いわよ?スプーン一杯ぶんくらい」とん、と静の肩に手を置いて 【静】「擦り付けてないし!?……いやもう、好きにして……善意で言ったのに……姫子ちゃんは皆に見られてるといいよ……」ぐったり、という雰囲気 【姫子】「で、アンタ。えっと、シズイチ?魔法使いよね?アンタ」もう一度じろじろと眺め 【静】「だから静だってば……」 【姫子様】「そんな細かいことはどうでもいいの!人の質問にははいかYESで答えなさいって教わらなかったの?」じろーと瞳を見つめ 【静】「それ選択肢おかしいよ……まあ、ウィザードだけど」 【姫子様】「ちょうどよかったわ。アンタAAAって知ってる?知ってるわよね?知らなきゃさっさと調べてきなさい、3秒で」 【静】「今そこに出向中、だけど……?」汗がたらり 【姫子様】「そう。だったら、さっさと案内して」ちちちと猫たちを集め。それぞれがひしっひしっと思い思いに姫子に捕まる。足元ではポメラニアンがうれしそうにぱたぱた尻尾を振っている 【静】「もしかして、AAAに加入する、の……?」 【姫子様】「そうよ。喜びなさい。むしろ、はいつくばりなさい」白いマントをばさっと翻し 【静】「と、とりあえず、ご飯食べてからで、いい?」 【姫子様】「はぁ?何、ナンパ?悪いけど、姫子様そういうのは全部断ることにしてるから」手をふりふり 【静】「僕がご飯食べに行く途中だったんだよ!?」 【姫子様】「じゃあ、アンタがご飯食べてる間、この姫子様にアンタが馬鹿面下げてご飯食べてる顔眺めてろっていうの?」 【静】「テイクアウトできるから……ハンバーガーだし」 【姫子様】「却下。今は一刻一秒が惜しいの、わかる?」じっと静の瞳を見つめ 【静】「お……奢る、よ?」 【姫子様】「何を?」 【静】「ええとセット、ドリンクポテト付」」 【姫子様】「そんなの食べたら太るでしょ!ただでさえまた最近胸が大きくなってきたっていうのに!」うがーと八重歯を見せ 【静】「そーゆーのが無防備なんだってば」呟いて「スイートポテトパイとか、あとヘルシーメニューもあるんじゃないかなあ……?」 【姫子様】「ツナサラダなら食べてあげる。あ、ツナは超増量ね。うちの子達が食べるから」 【静】「はいはい、じゃあ、それでいい?」纏まりそうなので安堵 【姫子様】「エトワールがいいわね。あそこのツナサラダ結構おいしいから」腕を組んだまま、うんうんと。如何にも名案とばかりに 【静】「エトワール?」 【姫子様】「喫茶エトワールよ。知らないの?」 【静】「ああ……」バーガーショップじゃないじゃないか、って言葉は飲み込む。状況悪化しそうだから「じゃあ、そこで」 【姫子様】「じゃあ、さっきのあれ出してよ」 【静】「あれって……箒?」玄武を出す 【姫子様】「何?姫子様に歩けっての?」呆れた、と眉根を下げて 【静】「これ、タンデムシートないんだけど」つまりは密着しないと乗れないわけで 【姫子様】「そんなの見ればわかるわよ。ほら、さっさとする!」じろっと睨み 【静】「うぅ」先に乗って「後ろ、どうぞ……?」 【姫子様】「まったく…気が効かないわよね」やれやれとため息をついて、箒の後ろに腰掛け、むにゅっと抱きつく 【静】「やっぱ無防備、だよ……」そう呟いて、なるべく意識しないように数式を数えながら大空へ 【姫子様】「何か言った?」飛びあがる瞬間、ひょいっと犬を抱きあげ 【静】「言ってません!」必死に別のことを考えようとして 【姫子様】「そう?」少しお尻の座りを変えたのか、静の背中でむにっと膨らみが形を変える 【静】「ぅわぁ!?」一瞬操作を誤ってバランスを崩しかけ、なんとかリカバリー 【姫子様】「ちょ!?安全運転してよね!?」猫が落ちかかって必死にしがみつき。静の背中にぎゅぅぅと思い切りしがみつき 【姫子様】「まったく。アンタ無免許でしょ?」やれやれとため息をつき 【静】「原因は……ああもうっ」言うのを諦めた 【姫子様】「そして、AAAに新たな心強い仲間が加わったのだった。北島静は後に語る。姫子様のおかげで身長が3mm伸びました、と」」 【静】「伸びないよ!?」 【姫子様】「じゃあ、一生ちっちゃいままね」 【静】「なんで!?」