<流し雛>  五月の端午の節供が男児のものであるのに対し、三月上巳は女児の祭りである。 江戸時代から雛は次第に贅沢な人形となり、三日がすめば次の年まで大切にしまわ れる事になっているが、古くは植物や紙でつくられた粗末な人形に過ぎず、水に流 されるのが本来の姿だったのである。今も鳥取県用瀬では、祭りの終わった時点で、 桟俵(サンダラ)に乗せて川に流す、いわゆる「流し雛」の古習がみられる。  日本民族学ではこれを「罪ケガれを祓う禊ぎの名残り」、と解するが、私は神道 の原点としての「ミソギ」は「身殺ぎ」であって、蛇の脱皮のもどき、と考える。 従ってこれは脱皮によって新生をはかる祖神としての蛇の生理・生態を忠実に模倣 しているに過ぎず、本来、そこに罪の意識などはなかったのである。 人形は脱皮の科(シロ)で、ヌケガラに見立てられたものであろう。従って本来は自分 自身が水浴して、脱皮の擬き(モドキ)をすれば一層よいわけである。 <神無月 −10月−>  神無月とは文字通り、神不在の月であって、昔人は結婚さえ差し控えたのである。 その不在となる神々の行き先は出雲なので、日本の中で出雲に限って、この十月を、 神有月とも神在月ともよんでいる。  佐太神社はその昔、出雲大社に比肩する大社であったが、その「祭典記」には次 のように記されている。「古老伝えていわく、出雲州は日城の西北隅にして、陰の 極まるところの地なり。伊邪那美命は陰霊にして、十月純坤(純陰)の時を司る」  ここには出雲の地が日本国の西北(大和から見れば出雲は西北にあたる)という 極陰の地であり、女祖先神・伊邪那美は陰霊、つまり陰気象徴の神で、亥月(十月) という極陰の時を司る神である、と明言されている。そこで「祭典記」の内容は、 ●出雲は西北(戊亥)の極陰の地 ●十月は一年のなかの極陰の時 ●女祖先神・伊邪那美は極陰の時間・空間を象徴する存在 として要約される。陰陽五行の特質の一つは、時間・空間の一致であるから、出雲 と十月は極陰という点で一致し、陰霊・伊邪那美命はこの両者を統一し、象徴する 存在である。  極陰の象徴は、同時に無の象徴でもある。伊邪那美命の本質は極陰と無の象徴で あるが、この神の祭りが、十月及び出雲というそれぞれ時間・空間の極陰と無を象 徴する時処において年毎に行われているのである。そこには、「無」の確認、或い はその現象化には、時処一致を要する、という考えが窺われる。 (中略) 古代日本人が十月を神無月とよんだ背景には「無」に対する認識がある。この認識 から2つの重要な彼らの意識が知り得られる。 1.「有」の前提となるものは「無」。従ってその「無」の確認、「無」の具象化、   が必至となる。 2.「無」の確認、その具象化は、「祭り」を媒体とした「時処の一致」によって   可能。 <たたら師における死屍>  土砂の中から多量の金気、即ち鉄の生産を希求するたたら師にとって、土気の死屍 は、「土生金」の相性の理によって、鉄の生産が期待できる強力な呪物である。たた ら師の守護神、金屋子神(カナヤコガミ)は文字通り金属の神である。従って、ここにも 「土生金」の理は当てはまり、この神にとって土気は必要不可欠、土気の死屍はもっ とも歓迎されるわけである。 木、青、東、青龍    木生火 木気は火気を強める 火、赤、南、朱雀 火生土 火気は土気を強める 土、黄、中央、蛇or麒麟 土生金 土気は金気を強める 金、白、西、白虎    金生水 金気は水気を強める 水、黒、北、玄武    水生木 水気は木気を強める <出雲国風土記よりの一文>出雲国風土記・733年成立 窟(イハヤ)の内に穴あり、人入(イ)ることを得ず、深き浅きを知らざるなり 夢に此の磯の窟(イハヤ)のほとりの至れば必ず死ぬ 故俗人(カレクニヒト)古(イニシエ)より今に至るまで黄泉の坂・黄泉の穴へとなづく…… ひふみよいむなや こともちろらね しきるゆゐつ わぬそをたはくめか うおゑにさりへて のますあせえほれけ おき津鏡 辺津鏡 八握剣 生玉 足玉 道返玉 死反玉 蛇比礼 蜂比礼 品物比礼 布留部 由良 由良止 布留部 高天原の誓約(ウケイ) アマテラスとスサノオの対決 アマテラスがスサノオの剣から生んだのが三柱の女神(ミハシラノメガミ)。 宗像三女神とも呼ばれる。 宗像大社 御神体 三柱の女神の名前 象徴するもの 沖の島  青玉  タキリビメノミコト 霧 (オキツシマヒメノミコト) 大島  紫玉  イチキシマヒメノミコト 港 (サヨリヒメノミコト) 玄海町  八咫鏡 タキツヒメノミコト 早瀬 元歴二(1185)年の壇ノ浦の合戦にて、草薙剣は失われた(?) 天叢雲剣 = 草薙剣 十握剣  = オロチノアラマサ 大和書房「日本の神々の謎」著:武光誠 18 52-53 31 80-81 56 134-135 70 166