―――その日、少女は“逃げ”た。 与えられた任務は、半端ではあるが…否、調査、と言う意味では達する事が出来たと言えるだろう。 受けた苦痛についても同様、種別も、意図も、どういうモノであるかも、 その専門である己からすれば解くにそう難しい事でもない。 だが。 “それ”と“これ”とは、別、である。 ウィザード然として在り、ウィザード然として生きる事を糧とし、生きるモノ。 その来歴を…否定された。 存在の否定なんてものならば如何だって良い、そもそもそんな人生なのだ。 だが。 …矜持を、意図を、目的を――― 一気に、失いかけようとしているのだ。 所詮はユメ。 所詮はマボロシ。 それでも…それこそが少女の“在る”場所なのだ。 ユメを繰り、ユメと在り、ユメを己とする少女が逃避する先もまた、ユメ。 早朝に長距離を飛翔し、逃れた先は裏山程度、鬱蒼と木々の茂る、人口のモノではない荒地。 その一角、ぽっかりと現実から抜け落ちた場所…少女の張り巡らせた小規模の月匣。 その中、ゴシックロリータの衣装に身を包み、背から漆黒の翼を生やした少女が一人、居た。 うずくまる様に、拒絶するように、護るように、その翼で小柄な身を覆い隠し、寝息一つ立てずに“逃避”を続けていた―――   21:27 (rouge_) 【尚也】「……っ。」 全身の筋肉が痛みと悲鳴を上げている。 想像以上に、肉体は悲鳴を上げていた。  やはり、限界など簡単に超えるものでは無いらしい。 だが、暖かな布団に潜って眠る前に、やっておかなければならないことがある。 「…ったく、寝れるか、っての、こんな状況で。」 自分の手を振り払い、飛んでいった少女。 ……あの部屋は、強烈だった。 自分が見た幻は、心を壊してしまいかねないような、酷いもの。  彼女にとって同じようなものを見て、ああなったとするなら…放っておくわけにも行かなかった。 散乃と共に探索を開始したものの、既に明け方、体力と眠気の限界が近づき… 電信柱にぶつかった(だが寧ろ無傷だったやばかったのは電柱かもしれない)彼女をとりあえず家に寝かせ、探索を再開する。 【尚也】「………僕にとってのエルシアは、燐にとっての何か、って話だよな。」 想像は、つくようでつかない。 …踏み込む所に遠慮しているのか、微妙な距離感。 そんなことを考えながら街中は一通り探した。 シェルファの力を借りて空からも探した、見つからなかった。 捜索範囲を裏山のほうへと広げてみる。 ……違和感があった。 月匣。  …この状態でエミュレイターに遭遇するのはことだったが、やばそうなら逃げよう。 今は先ず、少しでも気配のありそうなところを調べてみるのが先決だった。 意を決して突入した月匣。  とはいえ、その中には、今の目標が静かに、ただ静かに存在していた。 「………ふぅ…よー…やく、みつけた。」 とはいえ、この距離まで近づいても何のリアクションもないという事は、寝ているのだろうか? 「…ま、大丈夫なんだろうけどさ。 一応、連れ帰らせて貰うぞ。」 近づき、その身体を抱え上げようと… 21:40 (hikami) 【燐】「……―――ママ……―――?」 ぼう、と、目じりに涙の痕の浮く寝起き顔、ぼんやりと、明朗にならない思考…… 何の事はない、泣き疲れ、寝不足と相まってそのまま眠りこけてしまっていた、と言うだけの話し。 触れられそうな手にも直前まで反応せず―――……寧ろ、反応したのは背の、翼。 ばさり、と、少女を護る様に舞い、その振動で漸く…意識を、覚醒レベルまで持っていった 「っ―――尚也っ!?な、なんでこんな所に、いるのよ」 とは言え色々と手遅れなのだ、寝起きで俊敏な動きが出来るでもなく、翼が叩き落としていなければ容易に、触れる。 21:45 (rouge_) 【尚也】「…っ、と。」 驚きはしたが、手を引っ込めるほどのことではない。  彼女を抱え上げることには成功した。 僅かな重みが手に伝わる。  とはいえ、酷使した腕にとっては中々その重みも厳しいものではあったが。 …まだまだ足りないな、などと実感しながら。 それでも、そんな表情は微塵も出さないように答えを返す。 「や、だってそりゃ、探すだろ。 ……おこしたっぽいな、そこはごめん。」 21:48 (hikami) 【燐】「そ、そういう問題じゃないわよ、勝手に出てったんだから勝手に戻るわよ!」 見た目同様に軽く、細く、柔らかな肢体。重心バランスが酷く悪いのは背に未だ翼だけが残っているからだろう。 暴れると危ない、程度の自制はあるのか動きこそ小さいものの、もどかしげに身を捩り抜け出そうと足掻く。 「―――無理しまくりの体でそんな事されたら余計に気になるじゃない…… 別に何処を怪我したわけでもなし、飛べるんだから、下ろしてよ」 21:51 (rouge_) 【尚也】「条件次第では下ろそう。」 落とさないように細心の注意を払いながら、一歩歩き出す。 無理しまくりの身体。何ていわれて。…うーむ、隠すのが下手なのか、思った以上に僕は。 なんてことを改めて自覚する。 …いや、知ってましたけどねそんなこと。 「帰るまでが遠足ですって話をね。昔小学校の先生は言ったような気がするんだよね。」 21:53 (hikami) 【燐】「何よ、条件って。―――遠足になんて出た覚え、無いわよ。 これは任務、冷静になる時間を採るぐらい、赦されると思うけれど?馬鹿みたいに暴走したわけじゃない……これは私の問題よ」 事実、戦闘中に癒しを繰ってまでいるのだ、己は。 負傷の度合いぐらい測れずに癒し手なんてやってはいられない……肝心の其方の能力は、あまり高いとは言えないのだが。 21:57 (rouge_) 【尚也】「言葉の文ってヤツだよ。 全員で帰って報告して、それで始めて解散だ。  れあこさんに報告押し付ける形になっちまったんだから、謝っとくといいと思うよ? いや、ある種僕も同罪っちゃ同罪なんだけどさ。」 ふう、と、遠い眼などしてみせながら。 報告というめんどくさい一面をそっくり押し付けてしまったので、一寸今更ながらに罪悪感。 ごめんなさいれあこさん。 「で、肝心の条件ですが。 …逃げない?」 燐の目をじっと覗き込んで、尋ねる。 22:00 (hikami) 【燐】「―――…判ってるわよその位。逢ったら、言っておくわ。 報告纏めるのぐらい何時もの事だけれど―――相応に面倒だものね、あれ」 半ば、ウソ。情報を扱う事も、それを整理することも、把握する事も……現状の把握、と言う己の能力前提にも関わるのだ。 いっそ必須要綱、苦に思った事など一度も無かった。 「―――“そんなボロボロで”追っかけてこられる方が心臓に悪いわよ。 それこそ今更、鬼ごっこするほどゆとりのある生活なわけじゃないし、観念してあげるわよ。」 22:05 (rouge_) 【尚也】「この状況で、嘘は無しだからな。」 そっと、彼女を地面に下ろす。 「……ん。」 月衣から、散乃を家に置くときに引っつかんできた麦茶の缶。 一寸ぬるい…を、燐に差し出し、自分の分も一息つくようにプルタブをあける。 「少しは、落ち着いたか?」 22:08 (hikami) 【燐】「―――……それは無理ね。“ウソ”がなければ私はここに存在しないわ」 言うも、遁走を計る様子はない。 降りるバランスを採るためにとまたも漆黒の翼ははためき…とん、と、地面を踏むと共に折りたたまれる。 だが、消えはしない。全幅は己の身長と良い勝負ないし… 一回り大きい程度、やろうと思えば翼に身を隠す、ぐらいはできるだろう。 ―――実際、先刻はそんな状況だったが。差し出された缶を受け取り、手元で弄んだ。 「…だいぶ、ね。ま、ドールマスター…だったわよね、あれの顔を見てどうか、までは保障しないわ」 22:13 (rouge_) 【尚也】「ま、趣味悪いよな。 あのやり口はさ。」とりあえずは、逃げないでくれていることに安堵する。 安心して、飲み物に口をつけることが出来た。  …水分を補給したら、全身に疲れがいきわたったような気がする。 「…なら、今度は質問タイムだ。」 聞いていいこと、なのかは迷う。  だが、この前の彼女と同じだ。 好奇心、などといっている状況では、ないような気がする。 同じことが、ないわけじゃないのだ。 同じ仕掛けをされる可能性だって、十分にありえるのだから。 「………何が見えた、燐は?」 傷を抉る問いかもしれない。 しかし、尋ねた。 22:17 (hikami) 【燐】「けれどアレは罠としては常套手段みたいなものよね、 引っかかった私が間抜けなだけだけれど……同種のチカラだもの、 ユメと判っていて抜けるのに手間がかかったのは失態も良い所だけれど…」 そこで漸く此方も一息。乾いた涙には漸く気づいたか、缶の水滴を含ませた手で乱暴に拭い、誤魔化す 「―――何も、なんていっても信じないわよね。ここまでやったんだもの。 尚也は…エルシアでしょう?“あのやり方”なら、多分それを選ぶと思うわ。 ……良く平気よね、尚也」言うものの、結局はこうしてはぐらかす。問いに問いで返す、なんて…少し穢いやり口だが 22:21 (rouge_) 【尚也】「……ま、お見通しっていうか、分かりやすいよな。 その通りだった。」 微笑むエルシア。 自分の知っている彼女と、寸分たがわぬ表情で声を交わしたエルシア。 夢の中とはいえ、抱いた感触すら残っている。 「…何度も、死んだよ。 彼女が。 僕の目の前で。」 ……思い出すだけで、痛みが胸を締め付け、破壊せんがばかり。  …少し前なら、ここで、彼女のはぐらかしに乗っていたのだろう。 誰だって、痛いのは嫌だ。 辛いのは、嫌だ。 でも……変わらなくてはならないと、そう思ったから。 …自らの傷口を開きながら、言葉を返す。 22:26 (hikami) 【燐】「だって他にないじゃない。別に我妻にせよ春奈にせよ“何”があるってわけでも無いんでしょう? ―――だったらより直裁に尚也が苦しむのなんて彼女のユメでしかないじゃない。」 その自覚も…一度問いを向けたからだ。ある程度、知った、その事実。だからこそ思いつき―――腹が立った。 「―――下手人は……なんて言っても今更か。 ユメでしかないならば知らない事実は出てくるハズがないし、あったとしても妄想の類… 何か役立つもの、と言うわけでもないわ。深層的に覚えていた、と言うのならば別だけれど――― ………まあ、でも少し驚いたわ、尚也。 てっきりもっと狂乱するものだと思っていたもの“そんな光景”を前にして。…無茶は相変わらずだったけれど、随分冷静よね」 22:34 (rouge_) 【尚也】「どうだろ、冷静…じゃないとは思うよ、身体に合わない無茶したし。」 悲鳴を上げる体を動かしながら、数えるほども試したことの無い、シェルファとの感覚共有の感触を思い出し。 「…僕はそれに、彼女の命が直接消えるところを、見たわけじゃないから。  既に、駆けつけたときには終わってた。 彼女が死ぬってのはさ、知らない光景なんだよ。 だから……あれは、僕の弱さだ。護れなかったっていう、負い目。 辛くて、きつくて、忘れたい部分。 目を背けたい部分。  自分は本当は、大したことないやつなんだって、語りかけてくる部分。 …それを、ずっと見せ付けられてさ。 …でも、だからって。 だからってさ。 …このままでいいわけがないんだ。 そう思ったからさ。」 22:37 (hikami) 【燐】「―――……そう、少し安心したわ」 呟く言葉は安堵でも、喜色を持つものでもなく……漏れた、程度。 相手の言葉が何処か引っかかったのだろう、呟く音は少なく、低く、脆い。 「―――そういう意味では私の見たモノはもろに、私の弱さね。 ……―――尚也、一つ、聞くわ。さっきの問いに答えてもいい、だけれど……“条件次第では話すわ”」 先刻の、相手の語調を真似ての音。ろくに顔を見ずに、言う。 22:42 (rouge_) 【尚也】「そりゃ、ありがとう。 何時までも心配されてばっかりってのも、男の子としちゃ格好悪いしね。」 呟くような言葉に、言葉を返す。普段なら、割と嬉しくはある言葉。 とはいえ、感情の色の感じられないそれでは、余り嬉しさもないか。 「……で、条件って、どんな?」 身体を動かし、彼女の正面に回る。 22:48 (hikami) 【燐】「ま、心配されないぐらい頼もしくなるのは無理だと思うけれどね、尚也は。 なんだかんだで無茶するのは相変わらずだもの、 頼れる存在には出来ない、て事ぐらいとっくに判ってるから心配要らないわ」 言う言葉も矢張り軽く、上滑りした響き。条件、は――― 「“同情なんて絶対にされたくない”って、事。客観論、結構面倒な話よ。 それでも、哀れみなんて、要らない。聞いた結果で同情するつもりなら……誰にだって話すつもり、無いわ」 22:53 (rouge_) 【尚也】「がふっ」 なんだかんだで、ちょっとその言葉は痛かった。 そりゃ、頼りないとは言われ続けてきたが、こうまで断言されると! しかも年下! ……ともあれ、気を取り直す。 「……ん。分かった。そういうつもりで聞く。 ただ…僕は結構感情が出やすい。その時は、ごめんな。」 同情されたくない、か。 彼女の、傷。 ……呟いていた、母を求める単語か。 それとも、自分を傷つけるような勢いで仮面を被っていた、あの鈴音という少女だろうか。 22:58 (hikami) 【燐】「―――………別に、不味いと思ったら話すの辞めるわよ。 実際、これ以上尚也に負担をかけるつもり、ないわ。エルシアだけで手一杯にしか、見えないわ。」 感情、の言葉。不器用なのも今更、だが…それだけに不味い。 下手に刺激するぐらいなら―――そうは思えども、今は愚痴るとするか。 ばさり、と、翼を一振り―――消すつもりはないのだろう、周囲には未だ、月匣がある。 「…私は孤児よ。産まれはここじゃないのは判ると思うけれど……外見が日本人らしからぬものなのは… まぁ今更だけれど。きちんと産んだ“両親”は日本人のはずね。 出身地は……此処からだと少し、遠いわ。日高市…って言っても知らないでしょう?程度。」 23:02 (rouge_) 【尚也】「…そっ、か。 春奈みたいに外国のほうの血が混じってるもんだって思ってたけど。」 金色の髪の少女、不思議に思わなかったのは、自分も知り合いにそういったのが居たからかもしれない。 「日高…知らないな。 この近隣に当たるの?」 兎に角、今は素直に、答えていく。 23:07 (hikami) 【燐】「全く、そんなコトは無いわね。後になって調べてみたけれど…… 3代遡っても純血の日本人、そもそも“こんな”のが産まれて来るのが可笑しいって言う程度にはね。 …日高市は此処から結構、遠いわ。 元々あんなところに近づくのも嫌だったから―――任地が此処になったから体よく、ね。 あちこち飛び回る方じゃ被る可能性あったから。 私の所属は、厳密に言えばアンブラ社だもの、エージェントとして必要があれば、何処にでもいかなきゃならないじゃない」 その分、今のこの形式はありがたいのだ。希少地域の防衛ともなれば…色々と楽だ。 動かないで良い、と言う点が最も、条件として恵まれている 「…ま、そんな“異質なもの”が産まれたわけだからね。気味悪がったんでしょうね、私の事。 “良く生きてた”って言われたわ、シスターに。 結局……ろくに世話なんてされない死にかけで、孤児院に引き取られた、ってわけ」 23:12 (rouge_) 【尚也】「……ああ、うん。 そっか、そういう事か。」 それを聞いて、合点がいく。生まれるはずの無いカタチの子供。 全くの異質。  何よりの証拠である、金色の髪。 同情するな、とは言われた。 …言われた、が。 同情するな、といわれれば、憤る位しかないじゃないか。こんなの。 …燐に、何の落ち度も無い。 そう思ってしまうのは、自分が青いせいなのだろうか。 23:16 (hikami) 【燐】「そ、まぁ思えばウィザードとしての適正があったから……生命力だけはあったんでしょうね。 今の所なにか障害が出てるというわけでもないと思うし。 ―――その頃の名前よ。“鈴音”は。あの両親の苗字が“一之瀬”つまり…… 『一之瀬 鈴音』は、私の昔の本名、って所ね。孤児院に引き取られてからもその名前。 最も―――孤児院とは言っても小さいところよ。 民間の協会が簡単に面倒を見ている程度の所、身寄りがないか、私みたいな虐待児童の収容所みたいな所。 ―――とりあえずご飯と寝る場所はあったし、生きる分には支障なかったわね、ただ……」 そこで言葉を一度区切る、無論……来歴を告げた所での相手の反応をうかがう為の、間。 「―――“子供”は良くも悪くも、異質なものに興味を持って……悪戯するものよね。 “金髪蒼眼”なんて格好の材料、それに…来歴が“面白い”からね。噂話の種にも、随分なったわ」 23:21 (rouge_) 【尚也】「…なるほど。 人間、嘘つくときって…全くのゼロからはつけないもんだしな。」 そうでない人間も、居るだろう、やっぱり。 いろんな人がいるんだから。 でも、目の前の彼女、嘘つきを自称する彼女も、ゼロからの嘘はつけなかった。 「一言で言うなら…。 そうだな、僕が、簡単に想像できる世界じゃないってのが、感想かな。」 時に、子供が残酷なのも知っている。 いじめる方でもいじめられる方でもなかったけれど、かつては子供だったから、そういう一面があるのは、知っている。 23:28 (hikami) 【燐】「―――…ソレで良いわよ、事実、でしかない。想像した所で食い違うのが常よ。 言えるのは……“一之瀬鈴音”はそんな存在だった、と言う事。同時に、日高市で過ごしてきた“私”の全てでもあるわ。」 だが、それを己は捨てた。 すっかり馴染み、完全に一部と思っている“翼”をそっと、なでた。―――無論、感覚なんて在るはずもないが。 「…弱いはずよ、鈴音は。誰にでも脅えて、何にでも竦むはずの子。 ……全くの偶然だけれど、孤児院生活の中で能力の一部を得たわ。アンブラ曰くだと“気づいた”だけらしいけれど。 ……ウィザードとしての自覚と覚醒を得たのはその頃。“この世界の全てはウソなんだ”って悟ったのよね。 ―――それの確信と保障をくれたのが、アンブラ。 この“ウィザード”としてのチカラを使える場所も提供してくれるから、って、ね。 ……それで引き取られたのよ、アンブラに。“一華”て言う、居もしない夫婦の所に養子に行く、ていう形でね。 そこで名前も“燐”に改名した―――其処から数年はずっとアンブラの訓練施設に居たわ。 チカラの繰りと世界の真実と……護らなくちゃいけないもの、なんてのを教えられながらね。 幸い、私の力は普通じゃなかった。 この翼がアンブラの目当てだったみたいだけれど……そのための検査も日課みたいなものだったわね。 小学校なんて、だから途中から全く行ってないわ。書類上は皆勤賞になってると思うけれど」 23:34 (rouge_) 【尚也】「どうして、燐、って名前に?」純粋な、興味。 でも、何となくの予想はあった。 それでも、かける言葉を捜していて。 そんな言葉で、つなぐ。  …彼女は、僕とは違う。 去年まで、この世界のことには気付きもしなかった。 彼女はずっと昔から、そんなものと一緒に居た。 考え方が違うのは、当然だった。 でも、だから僕はこんなにもこの話を聞いて、悲しいものだと思っている。 23:41 (hikami) 【燐】「“鈴の音”だからよ。鈴、って、リン、て鳴るでしょう? 私に鈴は要らないわ、この世界にカタチとして―――存在するつもりなんてない。 必要なのは干渉した結果、音、だけでいいわ。だから…“リン”…漢字のほうはアンブラの希望ね。 “この翼”の理屈を解けば新しい箒が作れるかもしれない、それを自分達に運んできた―――まあ、お世辞よね。 “燐”はギリシャの古語で“光を運ぶもの”と言う意味があるのよ。 ―――名前としては私も嫌いじゃなかった 。 “鈴音”になかった外をくれる名前だもの、だったら“燐”でも構わないって思ったから、その名前になっただけ」 でも、と、少女は言葉を告ぐ。 ここまでは…前提だ、ユメの内容はこんなものでは、ないのだから 「―――逢った鈴音は“私”だったわ。あの子に無かったはずの知識を得て、私と同じ様にユメを知覚していた。 ―――挙句、私の“正体”を……他の世界から拒絶された存在だ、といったわ。 ―――この世界の存在ではない、それでも不要になったから拒絶されて此処にいる、って。 “親”に拒絶されるよりもっと前―――根本的な所から拒絶されて産まれた存在だ、ってね」 言う言葉は、湿らない。だが……虚ろ、淡々と事実だけを告げる軽さと、空々しさを帯びる響き。 23:48 (rouge_) 【尚也】「だから、鈴、か。」 新しい名前に、元の名の形を残してしまう。  …本当に変えたかったのなら、要らないというのなら。 きっと、一片も残さないはず。残しているのは、やはり彼女も…弱かった自分だって、きっと…。 「自分の知らない自分と事実、か。」 燐が見たのは、僕とは種類の違うものだ、と、理解する。  親に拒絶された、で止まるならわかる。 それ以前の事を語ってくる以上、そうとしか考えられなかった。  自分が見たのは、自分の中に潜むもの。 認めたく、ないもの。 彼女が見たのは、自分の知らない、理解の及ばない所の話。 「…燐。 今…怖いか?」 23:51 (hikami) 【燐】「―――……さあ、どうかしら。私は虚像で、嘘吐きよ。“怖い”なんて思う筈、無いわ。ただ……」 そう、怖くは、ない。自分の知らない事などあって当然、探り、求めるのが己の是とする事だ、だが… 「―――……本当に外の世界から拒絶されて此処にいるのならば…… 私の焦がれた“外”って何なのか、って思いはしたわね。 ……手元から逃げたものを後生大事に追うのは趣味じゃないもの、でも…… ―――“いつか外に”…これが、私の目的、だったから」―――どうすればいいのか、と…戸惑い、が正しい感覚か。 目的が、無くなるかもしれないのだから 23:58 (rouge_) 【尚也】「うそつきだから、怖くないなんて理屈は、おかしいだろ。 僕だったら、僕に、知らない部分があるとするんなら…やっぱりそれは、怖いかな。 根っこから不安定になって、何処を目指していいか、分からなくなりそうだ。」  ちらりと燐のほうを見やる。 彼女は、今何を思っているのだろうか。 「……外、か。 外に行きたいのは、この世界が、嘘にまみれてて、嫌いだからか?」 でも、確かめたいことがあった。 00:05 (hikami) 【燐】「そう?可笑しくないわよ。 ―――知らない何かがあるのなんて当然だし、そもそも……私は人に“報せない”のが生き方よ。 世の中の、ほんの一握りの真実をイノセントの目から隠して騙してる。 ……そんな自分が“知らないのが怖い”なんて言えた義理じゃ、ないわ」 此処へ来てまで、否…此処へ来てこそ紡ぐウィザードとしての矜持。それが“燐”である理由であり、所以であり……寄る辺、だ。 「―――……似たようなものね。私は嫌いなのよ、この世界が。 嘘吐きで、欺瞞に満ちていて……私に居場所を“くれなかった”世界。 ―――思えば私が嘘を吐かないで喋る事が出来た時なんてごく僅かよ、 小さい頃から激昂する大人の顔色を伺って糧を得て、面白がる大人に何も知らないフリをして見せて…… 今は存在すら、偽りだもの。あの“鈴音”が言うのが本当なのなら、そもそも私は――― この世界のニンゲンではないことになるでしょう?だから、焦がれていたのかもしれないわ。 私だって……本当に理由がわからないんだもの。“外に行きたい”…衝動的なものよ、これは。 なぜか判らないけれど無性に、思う。……それが“外の世界に捨てられた”からだ、っていうなら…… 案外、親を求めているのかもしれないわね。そんなもの―――居たこと、ないからどんなものかなんて判らないけれど」 00:15 (rouge_) 【尚也】「や、自分のことと、世の中に満ちてる知らない事を、一緒には出来ないだろ。 そりゃ、自分に制御できない部分があるのなんて、当たり前の話ではあるんだけどさ。 自分の根っこは、分かっておきたい、そう思うよ。」なんと形容していいのか分からない。 だけど、搾り出すようにそう答える。 そして、同時に……やはり凄く、悲しくなった。 「僕はさ。 燐が異世界への道を見つけて、「旅立つ」ってんなら、応援する。 新しい何かを、自分に足りない何かを見つけるために、旅立つっていうんなら、応援するよ。 幾らだって。 でも……「逃げ出す」んなら、いかせない。体張ってでも、止めさせてもらう。」声が、僅かに震えた。 「居場所がないとか、言うなよ。 そりゃ、昔はそうだったかもしれないけどさ! それでも…今はさ。 そりゃ、親になるなんて出来ないよ、でも…友達とか、別に、頼りない兄貴だっていい。 そういうのに必要とされる居場所ってのじゃ…駄目なのか? 在るだろ、そういうの、幾らでも…。」 00:21 (hikami) 【燐】「本当、尚也って変な所傲慢よね。自分の根っこなんて判ってるヒト、そう居ないわよ」 それでも、そう言える事が…希望なのだろう。 妙な達観をしていないという意味ではいっそ幾分も人間らしい相手、己とは…違う。 「―――………判らないわよ。尚也と、私では大きな違いがあるのよ。 私は………“言葉”を、まともに話したのは我妻市に来てからよ。 自分の意思で、どうでもいい“雑談”をしたのは、ここがはじめて。 鈴音は意思を表に出す事を辞めていたし 、アンブラが私に求めるものは道具としての戦力と、基調な“武器”のデータ。 “燐”も“鈴音”も、個人は何処でだって必要とされちゃいないわ。―――判らないのよ。何て言って良いのか。」 判らない、と…繰り返すしかない。繰言の様に紡がれるたった5音。それでも、それが全てだ。 「―――何のために外に行くのかも、何を存在理由とするのかも、 それをもって居場所とするのかも―――“私”が本当は“何”なのかも……判らないのよ」 00:32 (rouge_) 【尚也】「なら……はじめてならさ。 ここから、この街からはじめりゃいい、それだけのことじゃないか? 分からないなら、分からないなりに聞いときゃいい。 僕は、別に燐がウィザードとして優れてるからとか、不思議な力を持ってるから必要としてるわけじゃない。 辛辣で、痛いことバスバス言うけど、たまに優しくて、不器用で甘いもの好きで。 そういう、一華燐と、一之瀬鈴音と居るのは、楽しいと思ったから、必要なんだ。」 始めは、自分を気の違った人でも見るような目で話しかけてきた少女。 何回も衝突したし…何度も、助けてもらった。 でも、それはどちらかというと、ウィザードとして助けてもらったんじゃない。 言葉で、彼女が紡いだ言葉で、助けてもらったんだ。 「この世界だって、燐に辛い所ばっかりじゃない。 それは…わかって欲しいんだ。」 00:37 (hikami) 【燐】「―――本当…………傲慢よね」くす、と、零れるのは微かな笑みの響き。 それでも……お世辞にも愉しげ、なんてモノではなく、痛みを塗り隠す、欺瞞のソレ 「……できるなら苦労、しないわよ。 嘘はね、一度吐いたら吐きとおすのが礼儀なのよ、それがどんなものであっても。でも―――」 …否定の句を、告ぐ。未練、なんだろう、己が… 「―――尚也を見ているのは面白いわ。“ああ、こういうのが人間らしいっていうんだ”って…変な気分だけれど。 悪い感じ 、しないもの。……如何考えたら良いかなんて、言われたからって直ぐに判るものじゃないわ。 ―――少し、考えさせて」 …自分、と言う、ものを。果たして“何”なのか、を……―――判らない、つかめない、失うかもしれない、それ。 …言える程には落ち着いたのだろう、漸く…翼が、消えた 00:44 (rouge_) 【尚也】「傲慢…なのかな、僕には、自分のことだから分からないけどさ。」 その言葉に首をかしげながら。 「それは、一寸違うと思うな。  突き通さなきゃならない嘘は人を傷つけた嘘だけだ。 自分を傷つけ続ける嘘なんて…止めちまえばいいのさ。」 すっかりぬるくなったお茶を、一気にあおった。 風味などは感じず、ただ水の味がした。 「…僕を見て面白いって思うなら、色々考えてみればいいんじゃないかな。  自分のこと、それと、これからのこと。 …僕も、変わろうって思ってる。 何も出来なかったことに怯えて、自分で自分を傷つける。 そういうのから、さ。」 00:52 (hikami) 【燐】「……傷ついてなんか、居ないわ」 無論…嘘、だろう。自然に装いすぎた仮面であるが故、自分に嵌めた枷にも気づかずに要る、と言うだけの話し。 矜持を確固たるものとし、己を保ち……そんな存在で“在ろうとする”時点で難が残るのだ。 「―――そう、ね。一先ず……この状況をどうにかしないと話しにならないわ。 謎なんて考えても判らないんだから―――せめて、今の自分ぐらいどうするか、考えてみるわ」 言い、自分も…残っていた麦茶を煽る。空になった缶は中空に消す……月衣の中へと放り込んだだけ、だが 「―――ま、だから……“これ”は、無かった事にして。話は相応に面倒で重いわ、説明はしたけれど――― だからどう、なんて考えてほしいものでもないわ。これは私の問題だもの、尚也が負うものじゃない。 ……ただ、普通にして欲しい、そうじゃないと……考えるに考えられそうになくなりそうだもの」 00:58 (rouge_) 暫し、考える。 ……今は、このくらいで、十分か。 もう、逃げ出したり、我を忘れたりすることもあるまい。 でも、彼女は、僕より賢いし、理詰めでものを考えられる。 でも、まだ…少女であることには変わりないから、相応に心配で。 【尚也】「別に、荷物を背負うくらいは、幾らでもするけどね。重かろうと、なんだろうと。 必要になったら、何時でも言ってくれればいい、それまでは、またこれまでと同じ。それで、良いかな?」 立ち上がりながら、告げた。 01:02 (hikami) 【燐】「―――良く言うわよ、本当。それじゃ誰を口説いているのか判らないわ」 口の端に浮かぶのは微かな、苦笑。立ち上がる動きを眺め……それでも何をするでもなく、佇む。 もう、暴れたあの時の様相は微塵も残らず…常通り、にみえる。 「……だからその“いつか”は、来ないわ。だからいつも通り、それだけよ。 ―――私は私、それ以外の何者でもないもの。頼ること、なんて、無いわよ」 01:08 (rouge_) 【尚也】「じゃあ、その時、は勝手にお節介を焼くことにするよ。 燐も、そうしてくれたわけだしね。」 肩をすくめて、言葉を返した。 「うし……そんじゃ………」 携帯を取り出す。 時間を覗く。 とてもいい時間だった、朝的な意味で。 「………よし、燐。 散乃も誘って朝飯と行こうか。 ああ、ついでだ、理夢も呼ぶか。」  ここからは、本当に何時ものとおり。 …しかし何時か燐が言ったとおり、本当に食べ物屋ばっかりだ。 01:10 (hikami) 【燐】「勝手にしなさいよ、それで尚也が潰れなきゃ、好きにすればいいわ」 己の危惧はそこ、なのだ。一度盛大につぶれているのを見ているからこそ。 …この衣装のままで地面に座り込み、眠りこけていた所為で微かに乱れ、土のついたスカートに今更気づいてか払いつつ――― 「……って、風羽は兎も角としてなんでそこで理夢がでてくるのよ…!」 01:13 (rouge_) 【尚也】「やあ、散乃も一生懸命探してたんだけど、ついに力尽きたからさ、家で寝かせてあるんだよ。 呼ぶならついでにって感じ? それにほら、燐に会いたがってたし、いい機会かなと。」 燐に言葉を返しながら、その返答をまつまえに妹にメールを送る。 散乃のことは、寮の門限が過ぎて困っていた知り合いを助けた、という事にしてある。 燐も、世間的には同じ風に理夢にはうつるだろう。 01:17 (hikami) 【燐】「…おせっかいは一人じゃなかった、ってことか。あの能天気……」 酷い言い草ではあれども素直な感想がそう、なのだ。妙に元気だった所を見ると――― 悩みが少なすぎて件のトラップに掛かっていなかったのか?そうだとすれば色々と業腹ものではあるが。 「っ………判ったわよ、諦めるわ、そのぐらい。全く……… いつもどおりったっていきなりぶつけてくる相手じゃないでしょう、理夢は…」 相変わらず苦手、ではある。少しづつ慣れては来たが……元々強い“ 苦手意識”の克服には今一つ欠ける。 結果、零れるのは盛大な嘆息―――……流石に、逃げることはないが。 01:21 (rouge_) 【尚也】「そういう事、お節介は一人じゃないのさ。」 暗に、燐の事を考えている人間は、少なくない、なんてニュアンスを含ませて。 「んじゃ、だらだらと朝からファミレスに乗り込むとしますか。」 妹から、返事が返ってくる。文面はそっけないものの、燐もいることを伝えたら妙な速度で帰ってきた。 相当乗り気である、これは。 ……だが、何となく感じる。 漸く、昨晩の事件は終わったかな、なんてことを。 01:23 (hikami) 【燐】「―――………健康には悪そうだけどね」それも今更、である。 殆ど徹夜だったのだし……己は少し眠ったから兎も角、相手は寝てすらいないのだろう。 向けられた言葉にも少し、苦い笑み。慣れない、し、判らない事だらけ。それでも―――悪くはない 「……じゃ、行きましょ。理夢がくるなら一度何処かで顔、洗いたいもの。先回りできるぐらいで丁度良いわ」 01:27 (rouge_) 【尚也】「じゃ、公園とおりつつ、か。 なあに、健康に悪いなんて今更ですよ。 健康に悪いものほど身体には甘美なの。因果なものヨ人間とは。」 はっはっ、と、流石に寝不足なのか、妙なテンションで先を歩き出す。 だが、そうだ。 …あの夢の中で決意したように。 今、彼女に話したように。 変わっていこう、そう思った。 そして、彼女に助けられた分、力になれればいいなと。そんなことを考えながら、町への道を歩く。 01:34 (hikami) ―――少女は歩く。常の装い、常の仮面。再度被り直したそれらのモノ――― 世界にすら嘘を吐く己の性は今更変えられ様もないだろう。 それでも……それでも、己は“今”を考えるべき、なのだろう。昔日の全て、過日に抱いた幻想…それをあの子は否定した。 それでも、過去の否定でしかない―――そんなコト、自分だってやったじゃないか。 ふいに、目の前を歩く青年の背を見、何となく…面白くない想いを抱く。 そんな感慨ですらも新鮮……思えば“此処”に来てから可笑しいのだ、こんな風に人と関わり小姑の如く世話を焼く。 ―――ならば今更だ。探るとしよう、この“外”への想いが郷愁なのだとすれば――― それこそ“いつか”判るだろう。―――歩む道は偽りの道、そんな仮面が少し…揺らいだ。 ―――この仮面を被らぬ日がくるとしたら、その時私は―――なんと、名乗るのだろう――― 01:34 (hikami)   01:34 (hikami)