21:11 rouge_ >【尚也】「…………」  21:11 rouge_ >全身に力が入らない。 今日一日使い続けてきた体が、限界を迎えて悲鳴を上げていた。 21:11 rouge_ >休憩室のソファにだらりと力を抜いてもたれ掛かる。 21:11 rouge_ >遠方へと戦いに行き、取って返すように我妻に戻ってきた身体は順当に疲れを訴えかけていた。 21:11 rouge_ >……眠気などがくるわけでもない。 ただ、だるいだけだ。 21:11 rouge_ >  21:11 rouge_ >焦点の合わない瞳でぼんやりと天井を見上げる。 21:11 rouge_ >……視界に入れたものを認識することさえ、面倒だった。 21:11 rouge_ >ずきずきと、自らの力で傷つけ、折れた指と腕が痛む。それが、絶え間ない痛みを送り込んでくれる。 21:11 rouge_ >光が眩しい。 目を覆いたかったが、腕が満足に動かない。 ……諦めて目を閉じることにした。 21:11 rouge_ >  21:11 rouge_ >【尚也】「…………」 21:11 rouge_ >  21:11 rouge_ >………あんたは今、ここにいる奴全員の思いを踏みにじった。 21:11 rouge_ >…護りたいって思うのに、資格なんているんですか? 21:12 rouge_ >……一生懸命なら、何でもっと、みんなを信じてくれないの…!? 21:12 rouge_ >  21:12 rouge_ >目を閉じれば、声がぼんやりと、耳に流れ込むような錯覚。 21:12 rouge_ >……自分に対して向けられた、それぞれの感情。 21:12 rouge_ >  21:12 rouge_ >【尚也】「…………どーしろ、ってのさ。」 21:12 rouge_ >腕は痛み続けていた。 ……だけれど。 それよりも別のどこかが、痛みを訴え続けているような。 21:12 rouge_ >そんな気が、した。 21:23 hikami >―――その日は酷く不快な日だった。 21:23 hikami >唐突な呼び出しなど茶飯事であり、ウィザードとして“何かの危険”に巻き込まれる事も茶飯事だ。 21:23 hikami >人質をとるやり方は好きではないが……手段、として、必要ならば己もやるだろう程度の事。 21:23 hikami >その対象となったのが“ヒーラーである”と言う事実も……悲しいかな、自衛力の乏しさでは他のポジションを大きく下回るのだから無理もない。 21:23 hikami >つまりはそういう事。 21:23 hikami >いつもどおりの任務、いつもどおりの仕事、いつもどおりの発端。 21:23 hikami >そんなコトに腹を立てていたのでは、ない。 21:23 hikami >        ―――誰でもいい、僕を殺してくれ――― 21:23 hikami >        ―――お前らに土下座でもするから――― 21:23 hikami >エイラベスタが放った戯言、だが“彼”は否定しなかった。 21:23 hikami >それこそが不快、それこそが不愉快。 21:23 hikami >その日、初めて“戦闘”を片手間に感じた。 21:23 hikami >その日、初めて“任務”を如何でも良い事のように感じた。 21:23 hikami >いっそ、早く、少しでも、早く。 21:23 hikami >邪魔者の撤去、それだけでしかない戦闘。 21:23 hikami >終い、基地で―――逢ったというのに、逢ってしまえば話す気力すら沸かなかった。 21:23 hikami >感情的になる気にもなれない、他の連中の様に、彼の傍に向う気にもなれない。 21:23 hikami >だから、いつもどおり。 21:23 hikami >幸い、癒し手ならば春奈がいる、任せてしまえばいいんだ、負傷者の治療なんか。 21:23 hikami >―――なのに、なぜ。 21:23 hikami >【燐】「―――此処に居るのよ。怪我人は医務室にでも行けばいいじゃない、それに、春奈に“後は頼んだ”って言った筈よ、私は。 なのに……なんで“そのまま”なのよ」 21:23 hikami >            ―――なんで、此処に居る。逢う気なんて、なかったと言うのに。 21:29 rouge_ >【尚也】「…………んー、ああ……。 燐か…。」  聞こえた声。 それに首を向けることも無く、ただ声だけ出して答える。 顔を合わせる気力すら感じられない。  普段の彼からすれば、抜け殻にも等しいような精彩。  「…もう、時間遅いだろ。 帰ったほうがいいんじゃないか、明日、辛いだろ。」  抑揚無く、告げた。 21:32 hikami >【燐】「…………別に、夜闇の魔法使いは夜に動くものよ。 辛い、が、学校が、なんて理由だとしたら心配要らないわ、任務に響きかねないと感じたら大人しく休むもの」 あっさりと告げるボイコット宣言、逢う気なんてなかったが…こうなれば放っておく事もできない。 「―――……腕、どうしたわけ?ほら、見せなさい。そのままじゃ…―――理夢が心配するわ」 結果、言葉に出したのは最近交友(?)を持つ様になった彼の妹の事、言い訳でしかなく、本心ですらない…自覚的な“嘘” 21:38 rouge_ >【尚也】「………折れたよ。」  どうした、との言葉にはただ簡潔に告げる。 痛みは続いているが、どうにか出来る相手がいても。 どうにかしようとすら思わなくて。  「……理夢には、悠人が口裏合わせといてくれるよ、どうせ。」  煩わしいことを考えたくない、とでもいうような、投げやりな返事。 21:43 hikami >【燐】「―――良いから、貸しなさいよ、ほら」 折れた、なんて事は見れば判る……その程度には…“損傷”と呼べる程度には…無残な有様なのだ。 それでも、腕だけ、である。癒し手を欠いたチーム編成であったとは言え、他の面子はそう惨事になっているわけでも無さそうだったのだが 「私が聞いてるのは“事実”じゃないわよ。折れていることなんて見れば判るし……ユウト、は、確かこの間の幼馴染、だったかしら。 そっちも…まあ、どうでもいいわ。実際目の前に“こんなもの”があったらイノセントは普通動揺するわ、 それこそ…異常を思い返しかねないぐらいには、ね。―――私が聞いているのは“なんでこうなったのか”ってことよ」 21:48 rouge_ >【尚也】「………足りなかったんだよ、色々とさ。」  ぽつり、と、吐き捨てるように言葉を続けた。 近くに彼女が来ることまでを否定するほどの気力は無いのか。  だが、口元に薄ら笑いを浮かべて。  「……笑えるだろ、単なる自爆だよ。 絶対に壊せない壁に、何度も何度も剣叩きつけてさ。  挙句の果てには反動で腕自体が、バン、だ。 あそこでオルギステを殺したって、春奈のところには間に合わないのになぁ。馬鹿みてぇ。」  くっくっ、と、しまいには、小さな笑いを漏らし始める。 21:52 hikami >【燐】「…成程、だったら、少し安心したわ」 傍ら、常とは風合いの違う彼の傍らに佇み術式を繰る。 常は言葉に頼る構築の安定も治癒なんていう初歩のものであれば無動作で発動するのも難しくはない。 …最も、その分時間はかかるわけだが 「“戦う意思”で壊れたモノなら、それは治す価値があるってものよ。―――安心したわ」 それが…自傷でないのならば、と。 緩い動きで腕のラインを、指先を、辿るように中空を指を揺らめかせ…徐々に、ではあるがその傷を、損傷を“修復”して行く 21:58 rouge_ >【尚也】「………安心、か。 戦う意思……そんなもの、僕にあったのかな。」  少しずつ、痛みが退いていくのがわかる。  「……だけど、何の意味もないのさ。 結局、何にもならなかった。  ただのこのこ出てって、あいつらの思うように踊って。 素敵な暇つぶし時間を提供しただけ。」  22:03 hikami >【燐】「―――その“予測”が誰かに出来た訳?少なくとも私は、春奈が“浚われてくれたから”エイラベスタの存在に気づけたわけだし、 春奈が耐えていてくれたから、戦場で春奈の力も使えたわ。もっと言えば―――」 そこで一端言葉を区切る、我ながら 「―――尚也が、レイセニア一党と戦いに行くっていうのに置いてってくれたから、と言うのもあるけれど。 ま、それは良いわ、結果的に風華もこっちにいたし、本命を叩けたってこと、だもの。」 ―――…我ながら拗ねた台詞だと思ったからこその言い淀み、なのだ。             自虐的な言葉を聞けば矢張り―――件の言葉を思い出す事になるのだが 「…少なくとも剣を握るツモリをなくして、自分で腕を砕いた、ってのじゃないだけマシよ。どんなものであれ向っていったのなら、ね」 22:09 rouge_ >【尚也】「……燐は、怒らないんだな。」  多くの仲間が、自分に足りないものがあると、言葉を紡いだ。 だけど、彼女は…  「……………っていうかさ、僕は、そんな酷そうに見えるか? 燐が僕を慰めるような言葉を言うぐらいには、酷い顔をしてるのか?」 何処か、いらだたしげな声さえ上げて、漸く燐のほうへと顔を向ける。 目を充血させ、暗い何かを表情に灯して。 22:11 hikami >【燐】「怒られたがってる相手を怒る趣味なんて、ないわ」 酷い、なんてものではない。だが…慰める?そんなツモリなんて無いのだから、一瞬向けるのは怪訝そうな表情である。 とは言え、漸く…こっちを向いた。治療もあともう少しで終わるだろう 「―――ま、怒りたい気持ちは勿論あるわよ。尚也……私が死なない、と言うのは事実よ。 それでも……尚也が死んだら“私が死ぬ”のと尚也にとっては同じ事だわ?―――約束を、破らせる気?」 22:18 rouge_ >【尚也】「………。」  暫く、口の中で言葉を転がし。  「…レイセニアから生み出された八鬼が、どういう存在かは知ってるだろ? …僕の記憶をもとに、存在する奴らだ。  …あの場で、あの瞬間で、あいつらが春奈を殺さない理由なんて、あるのか?  …あいつらにとって、僕以外の命なんて、楽しんで奪うためのものでしかありゃしない。  僕に出来る最後の手が、あれだ。 もう、それしか残ってないんだよ…なら…仕方ないだろ。」  約束。 ……それは、重い物だ。 この世界で、戦っていこうと思えたきっかけの一つにだって、なっている。 …だけど。 22:24 hikami >【燐】「―――殺させない」 殺さない理由なら、ない。故にそこを否定する事など出来なかったが…それでも、断言。 常の、それが決定だとでも言えそうな言葉の調子で 「そもそも、春奈だってそう簡単に死にはしないわ。良い? “貴方は我妻市に私を置いていった”のよ?エイラベスタに浚われた春奈も我妻市内だったわけだし、 あの程度の脆い夢の繰りで私が惑わされるはず、無いわ。―――少しぐらい、私を信じなさい」 言って…言った自分を苦くおもう程に戯れた、欺瞞。―――嗚呼、これが…“慰めている”と言う事、か 22:31 rouge_ >【尚也】「環君にさ、殴られたよ。 ……あんたはここにいる奴全員の思いを踏みにじったって。  ………春奈にまで平手打ち食らったよ。 何でもっとみんなを信じてくれないの、ってさ。」  少し、動くようになった手。 そっと動かして、自身の頬を撫でる。 そこは、既に冷たい。  …だが、触れれば痛みを受けた熱を思い出しそうな気がして。  「………間違ってるのか? 最後の一瞬を信じられないってのは。  ……残酷な現実を見るくらいなら、確実なものを選びたい。…そう思っちまうのは…悪いことなのかな…」 22:34 hikami >【燐】「……―――それが、答え?」 寧ろ問いの形であったはずのものを…そう、返す。 「尚也が“死”を恐れるの、いっそ…病的よね。 本能的に人間は死を恐れるものだし、私にその気持ちが無いってわけでは、ないわ。それでも―――行き過ぎよ、尚也」 動く程度には回復してくれたか…内心、微かに、安堵。 ならば、と繰りを続け、傷を癒す。ただ淡々と、己の…ヒーラーとしての矜持を保つべく 「―――“無理やりにでも聞く気”になったわ。…そろそろ、教えて。“エルシア”の事。―――死んでるのよね、その子」 22:43 rouge_ >【尚也】「……死ぬときは、誰でも簡単に死んでしまうからさ。そういう簡単なことだけには、残酷だよな。世の中の理ってのはさ。」  自分が、死を恐れている。 それも、病的なまでに。 ………言われてみて、ああ…それは、そうなんだろうなと納得する。  …………命。 …良く知る者の、家族の、仲間の命が失われるのは。 痛み以上のそれでしか、無いのだから。  「……気付いてたと思ってたよ、燐ならさ。 エルシアは、確かにもういないよ。  …彼女の代わりなんて、何処にもいない。 …だけど、味わうのは簡単なんだよ。 死んだときの痛みを味わうのは…簡単なんだ。」  此処にはもう、エルシアはいない。あなたが作り出そうとしない限り。 …燐は、そう言った。 それを思い出しながら。 22:47 hikami >【燐】「…そうね。」 簡単、なんて言葉には素直な同意を返す。 ―――繰りは、そろそろ終わり、この術式が完成すればそれこそ怪我、と言うだけならば元通り、骨にも爪にも筋にも異常は残るまい。 あれだけ損傷していたのだから…暫くはだるいだろうけれど 「―――やっぱり、ね。そんなコトだろうと思ったわよ、尚也が怖いのは誰かが死ぬ事、じゃないもの。 “二人目のエルシア”が出来るのが怖いだけ―――……話して、尚也。彼女は……誰。 予想が当たっただけじゃ満足できないわ。…尚也にとってのエルシアは、どんな子だったのよ。それに―――」 流石に酷、か。今これを問うのは。だが……逢ってしまえば我慢できそうにないのだ、これ以上……苛立つだけなのは御免だ 「―――何故“死んだ”の?」 22:58 rouge_ >【尚也】「……はは。」  小さく、乾いた笑いを漏らす。  「僕はさ、異世界にいつの間にか、飛ばされてた。 ……何の苦労も知らなかった、臆病で意気地の無い男の子。  勇者なんて言葉が、似合いそうにも無い。 それが僕だった。 …はは、割と想像しやすい、ってのが…なんとも悲しいやな。」 薄笑いを浮かべたまま、言葉を続ける。  「………逃げ出すことなんてざらだった。痛いのは嫌だし、血を見るのだって嫌だ。  訳の分からない城砦に足を踏み入れるのも、過剰な期待をかけられるのだって嫌だった。」 少しずつ感覚の戻ってきた指先を、無意識に動かしながら。  「…エルシアとは、勇者が嫌になって、逃げ出したときに出会ったんだ。  優しかったよ、凄く。……最も、同じくらい厳しかった。  僕が動かなけりゃ、一人でだって飛び出していくような、無茶なこでさ。 …こんな僕を。 ……こんな僕の傍に、ずっといたんだ。」 23:03 hikami >【燐】「―――……」 繰りを安定させる、なんて言い訳を…己に、する。言葉を返す事なく…相手の独白を、己の強いた言葉を聞く。 珍しく……目は、伏せた。 嗚呼、そういえばうっかり燃やされる、なんて話も以前聞いたんだったか――― よほど活動的な性格だったのだろう、実際、出逢っていれば―――煩わしく思いかねないタイプか。 などと、一句ずつ噛み砕き、己の記憶へと変えて行く 「―――で、好きになった?向こうでの……恋人……って所、よね」 ―――そうなのだろう、ずっと、なんて言葉は普通…“そう”使う。 23:11 rouge_ >【尚也】「………そうだね。 恋人だった。 僕が彼女を好きなように、エルシアも、僕を好きでいてくれた。  …凄いことだよな。 それって。 素敵な、ことだった。」  今も、目を閉じれば……まだ、その顔が鮮明に思い出せる。 …蒼い髪の少女。 その微笑と、最後の表情。  「……『全部終わったら、帰っちゃうんでしょう? どうせ…』なんて、泣きそうな顔でそんな事言ってさ。 ……天秤にかけた。  彼女と、この世界。 …両親や、理夢や、悠人や春奈。 …いろんな人の顔がよぎったよ。  ………でも僕は、残るって答えた。それで、キスなんかしたりしてさ。 …ハハ、何語ってるんだろうな、僕は。」 23:16 hikami >【燐】「―――……」 視線を合わせぬままに…いっそ惚気、か。言葉を耳にいれつつ…―――繰りの終わった術式を解く。ためしにと相手の腕を突いてなどみつつ 「凄い事かも、素敵なコトかも、判らないわ。―――私には必要のない感情だもの。 漫画にせよなんにせよ、恋愛モノを見るのは面白いけれど、ね。 …だからそれに関しては、判らないわ、そもそも―――嘘を吐き続ける間は、ね。ほら、終わったわよ」 終わったのは治療、の方である。言わずとも治療されている側が一番わかっていそうなものだが 「別に、聞いたのは私だもの、それに応えているだけでしょ、尚也は。まあ……どれだけ好きだったのか、は、判ったわよ。 最初に理夢とあった時の尚也を見てから“あの子を捨てる”宣言が出来るぐらいなら、ね。 ……―――それでも“死んだ”わけよね。…殺された、のかしら。八鬼衆に?」 23:24 rouge_ >【尚也】「………ん…。」  治療が終わったとの声に、小さく腕を動かして様子を確かめて、少し安心したような声を。  「少し、町で別れただけだったんだ。 決戦の前に、一寸英気を養って。 …夕暮れには、また会えると思ってた。  ………見つからないから探しにいって。 夜に出会ったのは、もう二度と動かなくなったエルシア。  …ドラマチックじゃないんだよな、現実って。 …死に際の言葉すら、聞こえなかった。そのとき、八鬼は全員死んでたさ。  …四天の誰かかもしれないし、魔王軍の誰かかもしれなかった。 結局、僕はそれを知る機会は無かったよ」  拳を、握り締める。 握り締めた拳。 握る力が強すぎて、拳が、ぶるぶると震える。 23:28 hikami >【燐】「―――…………まだいるのね」 つまり“あれ”で終わりではない可能性があるのか。新たな名前には矢張り…状況が状況だけに警戒心が芽生える、だが。同時 「…にしても、なんだ。八鬼は“それ”を利用しただけ、か。 …貴方の中にある“エルシアを喪った恐怖”を、春奈を依代にして嬲るだけの魂胆、安い策を採ったものよね、本当」 それでも効果的、ではあるのだろう、事実…“これ”を見てしまえばこそ。 23:34 rouge_ >【尚也】「………安い、か。」  握り締めた拳を、開く。  「……僕は、エルシアの最後に何もできなかった。 ホントに僕は、どうしようもない人間だよ。  自分一人じゃ、何一つ為すことができない。そういう類のね。  …でも、今、春奈のときには、出来たんだ。 出来る事があったんだ。 ……最後の手段が、さ。」 23:45 hikami >【燐】「尚也が抜けてるのは今更よ、そのためのフォローが要るのも、ね。……つまり“自分の居ない所で誰かが殺されてしまう事” ―――これが尚也の傷、ね。そういう意味では今回の春奈なんてうってつけ、凄いシチュエーションではあったわけ、ね。 ま、こっちに私が居たのが向こうのミスではあるけれど。 やるなら一緒に私も別場所に括っておくべきだったわね、もっとも―――それでも風華がいたわけだし、 私があいつら程度にただで浚われる程脆いと思っても居ないけれど。 …それで結局“エルシア”の居なくなった世界ではなくこっちを選んだ、と。 ―――……だから良く、遠い目、してたわけ?私“向こう”の話を聞くと。」 寧ろ…思い起こされるだけの事だったのだろうか。…件のコインはまだ、懐にある。 布に包まれた上に着衣越し、感じるはずもないソレに…硬さを、覚えていた 「―――……それが何か、それがどういうことか……もう一度、私に言わせたいわけ?」 23:53 rouge_ >【尚也】「……彼女は、僕らの中心だったから。  …僕は勇者だったけれど…本当にみんなを纏めていたのは、エルシアだったんだろうって、思うよ。  …ギクシャクしちゃってさ、色々と。 それでも、笑って送り出してくれる辺り。  …最高の仲間だった、とは思うけどさ。 …どうにもならない馬鹿は、僕だけさ。  ……未練、あるのかもね。 遠い目をしてた、そういう風に見えるってのはさ。」  目に浮かぶ、向こうの世界の人間の顔。 …余慶に、動悸が増した 「………それが何かって、どういうことさ。」 23:58 hikami >【燐】「―――尚也が戻れる時があるなら、私も見てみたいわね。そこ。 元々外には行きたかったのよ、それが何処だって良い―――私が求める“何か”なんて、何処にあるとも知れないんだもの。 ……―――だったら尚也のいた世界に“何か”があるかもしれないじゃない。 だから、興味を持ったし―――だから“聞きたかった”のよ」 今まで問う度に、なんで面白そうに聞くのか、なんて言葉の度に返してきた理由、外の世界への興味 「―――…“取る事の出来た手段”―――何を、言いたい訳?先刻、それ、嗜めたばかりよね。」 00:05 rouge_ >【尚也】「………此処では会えない人にあえる。 ただ、それだけの違いの気はするけどね。 ……それが、大きいんだろうけどさ。」 以前に、燐に述べたとおりに、その辺りの持論は変わらない。  「………この事件の、一番簡単な解決法は、燐だって知ってるだろ。 僕が死ねばいいって。  …そうすりゃ…もう春奈は狙われない…! 無駄にウィザードがけがすることだってないだろ…!  そうしないために頑張ってるってのだってわかってる! でも! 誰か死ぬより…いいだろ!」 言っているうちに、激情が走る。  …春奈の、為なのだ。  一番、楽で、安全な、解決法。  …後味が悪いことは分かる。  …それでも…。  僕は、その光景を…見ないで済む。 00:12 hikami >【燐】「…判らないわよ。無性に“外の何か”に惹かれるんだもの。それが逢えない所為なのか…何かが足りないのかなんて、判らないわ」 こればかりは言い様のない衝動なのだ、答えなんて恐らく出ない。焦がれるだけの方がいいこと、かもしれないと思わなくもない程に 「―――…………なら、尚也。“私の事は、好き?”―――嗚呼、変な意味じゃないわよ。 春奈みたいなことになったら、傷つく程度には尚也の中で存在価値があるのか、それを確認させて欲しいだけの意図」 …いっそ淡々と、激情に反するように紡ぐ、言葉。真っ直ぐに視線を向け…胸元に、硬さと重さを感じ始めたコインへと手を、触れた。 00:20 rouge_ >【尚也】「燐が、今日の春奈みたいにされたってんなら。  ………きっと、春奈にしたのと、同じことしたと思う。 …変なこと、聞くんだな。」  ロイヤルガードで出会った少女。 …正直言葉はきついし、全く容赦が無い。  あの魔王フリウにかけた言葉や、霧崎の申し出を断った姿など、自分という考え方からはかなり遠い所にいる少女。  …それでも。 力をくれた一人で。 …それに何より。 たまに見せる困った顔や、少女らしい一面は、とても可愛らしいのだから。  …大切な仲間で、友人だ。  だから、そう答えた。 00:25 hikami >【燐】「―――なら、尚也の負担を軽くしてあげるわ。それと……約束、破る事になるわね」 クッ、と、喉の奥、自嘲気味な笑み…常らしくもない…… 「…尚也は私を“燐”と呼ぶわね。私も“一華燐”と…名乗ってるわ。だから貴方は私を“燐”と認識する。 ―――でも残念、悪いわね。“そんな子、何処にも、居ないわ”  アンブラにね、戸籍も何もかも、上手いこと弄って貰ったけれど最初からこの世界に、正しく存在する子じゃないのよ “一華燐”って、だから―――……“居ないものの為”に、尚也が激昂する必要も、悲しむ必要も無いわ。 貴方の中に居る“一華燐”は―――私じゃ、ないもの」 00:31 rouge_ >【尚也】「………。 ………?」  燐らしくない、笑み。 自分に対して、常に自信を持ち、ウィザードとしての矜持を持つ。  それが彼女ではなかったのか。 …彼女の言っている言葉の意味が、分からない。 正しく自分で認識する前に、聞き返す。 「…どういう意味か、分からない。 燐が、一華燐が燐じゃない? …言葉遊びは止めてくれ…!」 00:35 hikami >【燐】「事実よ。ウィザードである“一華燐”は此処に居るわ。でも、それは“嘘”―――言ったでしょう、私は、嘘吐きだって。 何も世界結界に対してだけ、イノセントに対してだけ嘘を吐いているわけじゃ、ないもの。 ―――自分にだって、誰にだって嘘を、吐くわ。だから、尚也の知っている“燐”は嘘、偽者よ」 そこで、言葉を区切る。一歩…ただの1歩、尚也から離れ、スカートの裾をちょん、と、摘む 「“初めまして、三崎先輩。私は一之瀬鈴音”……これが本当の名前で、本当の私、です。燐、なんて、何処にも居ませんから。 ―――そんなものの為に『同じ事』をする必要、ありません」 ―――少女らしからぬ、幼い笑み。そんなものを、初めて、向けた 00:40 rouge_ >【尚也】「なん…だよ、それ。」  思わず、身を沈めたソファーから、立ち上がった。 訳の分からない憤りが、湧き上がってくる。  「何が言いたいんだよ。 …馬鹿にしてるのか、それ…。」  00:43 hikami >【鈴音】「―――事実ですよ、三崎先輩。なんなら……戸籍でも調べれば判ります。 今の名前は“一華”になってますけど、昔の名前は“鈴音”です。 ―――本名はこっちですし、燐、は自称みたいなものです。 自分で偽った名前、それが持っていた人格も、存在も、意義も―――“彼女のもの”ですよ。」 あくまでも穏やかに、あくまでも“少女”らしく。 言い様こそ常の響きが隠しきれて居ないものの、12、という年齢、それに見合う幼さを 「―――それだけ、ただ、それだけです。…怪我、お大事に。 治療はしましたけど、直ぐに無茶をすると筋肉痛どころじゃないと思いますから今日明日は重いものをもったりしないでくださいね?」 00:48 rouge_ >【尚也】「……わけ、わかんないよ。 治療したのは…燐だろ。  何で、今そういうことを言うんだよ…! 言いたい事があるならいってくれよ!  僕に何を言いたいんだ、燐なら言うだろ! 僕に言いたいこと言ってきただろ!」  その、演技の一挙動一挙動が、つかれきった心に刃のように刺さる。 何時しか少女の前にたち、叫ぶように次の言葉を求める。 00:52 hikami >【鈴音】「…三崎先輩こそ。確かに治療をしたのは燐、ですよ。 彼女は“ウィザード”…三崎先輩の同僚、ですから。私も同じ事は出来ますが―――“初めて逢った”んですから」 挙句…叫びに反応し、身を竦め…一歩、下がる。 「……“何も”ただ……三崎先輩にとっての“燐”は―――これで、居なくなりましたよね。 これで少なくとも一人“居なく”なりました。大丈夫ですよ、死んだわけじゃ、ありません。 ただ、鈴音は、三崎先輩に大事に思われる権利も、意味も、ありません。だって、今が始めて、なんですから。 ―――……“こういう事”ですよ。三崎先輩?……三崎先輩は“これでも私を燐の代わりにしますか”?」 01:04 rouge_ >【尚也】「………。 何で、こういうことをする? 僕の……何がいけない…。  燐を死なせる理由なんて無いだろ…! 全部今まで演技で、今までの会話になんとも思ってなかったって言うのかよ!  興味持ったり、馬鹿みたいに真面目すぎるウィザードの燐はもう僕の前からいなくなったって、死んだってことかよ!」  激情のままに、言葉を紡ぐ。 ……吐かれた音量は、大きくて、部屋に木霊する。 …死という言葉が、反射する。  「………死んだ…死ぬ……」  ………重い、言葉だった。 01:08 hikami >【鈴音】「―――怖いですよ、三崎先輩」 少し、困ったような、顔。あくまでも笑みは崩さず、小さく首を傾げた 「“死んではいません”…ただ、あの子は“嘘”だったんですよ。 あんな気難し屋で自分勝手で、傲慢なウィザードは全部私の嘘。 三崎先輩は数ヶ月、私の嘘に騙されて、燐なんて幻想を持っていただけです。 あの子に、燐に会う気になればいつでも“騙して”あげますよ、三崎先輩? だから―――“燐なんか”……春奈さんにしたみたいに気負う対象になんてしないでください。 変ですよ?そんなの、だって―――“嘘”なんですから」 01:16 rouge_ >【尚也】「……………。」  ゆっくりと、腰を下ろす。  「は…は……」  目元を、指で覆って。 零れそうになる涙を、必死で堪えた。  「………ごめん、燐。 ………辛いん、だよな。 わかってた筈なんだ。 …誰かが、手の届かない場所に行くのって。  ………僕は……後のことなんざ…何一つとして、考えちゃ…いなかった。」  耐え切れなかった雫が、一粒伝う。 01:21 hikami >【鈴音】「―――……“さあ、何の事ですか?”」 くるり、と、そこで背を、向ける。言葉は偽りの響きを、背を向け、零した嘆息へは…迂闊にも燐の響きが乗った 「―――……私はただ“燐”の為にそんな風に自分の命を軽んじて考えて欲しくなかっただけです。 騙されて死ぬなんて、幻想の為に死ぬなんて、それこそユメに殺されるようなもの、です。 ―――三崎先輩は“三崎尚也がウィザードをしている”と。…だったら、そう、生きてください。 …嘘をついてて、ごめんなさい。上手く、騙しすぎました。 ―――……詐欺師の狂言なんかに付き合ってもらって有難う御座いました。 お詫びに、いつでも騙してあげます、貴方の好きなユメを―――いくらでも。おやすみなさい、三崎先輩。腕、お大事に」 01:26 rouge_ >【尚也】「……。 なあ、鈴音。 燐に、聞いておいてくれないか。 ……僕が死んだら、どう思うかって。」  彼女の言葉は、聞こえている。 だけれど…刺さることは無かった。 その言葉は、本当ではない。 そんな気がして。  …何しろ彼女は、嘘つきなのだから。  「………あと。 …ありがとう。 …お休み。」 01:33 hikami >【鈴音】「―――………さあ、どうでしょう。私はわかりません、今度、聞いておきます。」 思わず、びくり、と、肩が震えた。呼び止められる事なんて想定していなかった…故に、間。 若干思案するような、そんな風体を装う 「はい。三崎先輩も、ゆっくり眠ってください。 結構、皆心配したでしょうから―――寝不足でまで心配、させないようにしてください。 でないと、浚われちゃった春奈先輩の方が心配されない、なんて変な事になっちゃいそうですし」 ―――言い、少女は姿を消す。ゆっくりとした、穏やかな足取り、そんなものを―――装って。 01:39 rouge_ >【尚也】「…………結局、身勝手なんだよな。 ……誰かが死んで悲しむのは、僕だけじゃない。  ………簡単なことだよな。…僕に、足りないもの…。 なんだろうな。」  静かになった休憩室。 一人、ぽつりと呟く。 鈴音の、いや、燐の去った方向を見つめながら。  ……相棒の気配は無く。 …それどころか、近くにもいないようだった。  「…答えは自分で出せ、か。 スパルタだよな、シェル姉。」  短く、息を吐いた。 ―――少女は、去った。 休憩室から外れた廊下、十分に距離をとったのを確認し……拳を、一振り。無造作に、苛立たしく、壁面を穿つ。 もっとも、そんな事をしても非力な腕ではさした音も、打力も、衝撃も伝わる事はない。 ―――それが、不快。 ぎり、と、歯噛みし、ぶつける場所を喪った苛立ちを前面に浮かび上がらせ…仮面を、偽りを、脱ぎ捨てた。 【燐】「―――それこそ、誰よ。鈴音なんて。そんなの―――捨てたじゃない。―――あんなの、まっぴらよ」 喉の奥、かみ殺した、声。                      ―――誰も居ない廊下に一滴、省みられる事のない“水”が僅かの間、在った。