〜ユニット格納庫〜 種々雑多な機動兵器が古代の神像のように立ち並ぶ艦内の格納庫。 重力が発生していないそこを、漂うように飛んでいく中年の男性がいる やがて、彼は白い機体の前でポールに手を掛けて・・「これか。最初に機体名を見たときは何のジョークかと思ったぜ」 【ソルヴ】「もう20年になるのか・・」もっとも俺にはあまりそんな実感がないがね、と白いものの混ざる髭をこすって。 その兵器の名はオービタルフレーム。それも最初期のC型の一体だった。 その名も”ジェフテイ”。神の名を冠した機械。 【ソルヴ】「AIはADAか?おはようございますの時間だ、ハッチを開けな」整備の時間だ、と”彼女”に目覚めを促す ハッチが開かれれば……静謐に静まり返っていたコックピット内の機器が片端から目覚め始めて。 【ADA】「……おはようございます……?」 どこからともなく響いてきた少女の声音は、硬質のクセにやたらと人間臭い風に言葉尻を釣り上げ、男の顔、声、その他諸々からデータを照会し始める。 人間風に言えば……思い出そうとしている、というところ、だろうか? 【ソルヴ】「朝でなくてもあいさつはおはようさ。・・マインドフローシステム開発チームのソルヴ・Cだ。状況を知りたい」そう言うと古びた身分証を差し出し。 【ソルヴ】「古い型だがチップも入ってる。まあ20年以上前のですまないがね」そこには、若き日のソルヴのホロビューとバフラム軍人であった 証明が刻まれている 【ソルヴ】「聞くことは一つだ。・・ここにおまえさんがいる理由だよ。―アヌビスはもう存在しない。 レオのガキがまだ軍にいるならおまえを戦場に出したりは・・」数十年の時差を埋めるように問いかけて 【ADA】「暫くお待ちください……照合終了……ソルヴ・カルステニウス氏と認識しました。私がここにいる理由は一つです。アヌビスが再び現れました」 身分証があれば照合も用意であったのか。すぐにデータを引き出し終え。淡々とした口調で、質問に答えて。 【ソルヴ】「そういうことか。・・だが二十年だぞ。仮に機体は万一再生していたとしてノウマンは・・」 オービタルフレームはメタトロンさえあればかなりの損傷も自己再生する。C型開発スタッフのソルヴには想定内ではあるが・・ 【ADA】「恐らく、乗っているフレームランナーは別の人間でしょう。私がここにいる理由は以上のです」やはり淡々とした口調で返し……20年前に較べれば随分と人間臭くも間を空け…… 「……それから、現在の搭乗者はレオ=ステンバックでもディンゴ=イーグリットでもありません。20年の年月がそれを不可能にしました」と、続ける。 【ソルヴ】「・・いや、セルフバインダーシステムにも限界があるか・・」と、それを受けて。 【ソルヴ】「・・そうか。まああいつらもいいオッサンだからな」おまえみたいに若い娘の相手はつらいさ、と笑って と、2人、と言っていいものかどうか。ソルヴとADAに向かって近づいてくる足音が、聞こえてくる。 やってくるのは……バフラム軍のパイロット スーツに身を包んだ白い髪に褐色の肌の女、で。 【ソルヴ】「まあいい、そういうことなら・・?」と、その女性に気づいて 【ソルヴ】「―まだそのスーツに在庫があったとはな」取り繕う気もないのか、懐旧するように目を細めて 【エアルジェイン】「……だれだ、貴様は?……私………………ジェフティの前で何をしている?」 ジェフティの前に立つソルヴの姿に気付くと、いぶかしげな警戒も露な表情を浮かべてさらに歩速を早め近づいて、開口一番、厳しい誰何の言葉をたたきつける。 【ソルヴ】「・・あいかわらずランナーが女だと目の毒なデザインだ。」浮き出た女性の胸元や腰、股間のラインに目をやって。 【ソルヴ】「ただのメカニックさ。ギルドからの派遣でね。」ソルヴってもんだ、と痩せた狼のような年輪を刻んだ顔を歪める 【エアルジェイン】「……メカニック?」と、くっきりと浮かぶ豊かな肢体への視線にも構わず、若さゆえにかその年輪の片鱗にすらも気付くこともできず。 さらに、眉間に険を寄せ……ちらりと、起動したADAに視線を向けて「……その割には……ADAまで起こして……」 【ソルヴ】「質問の答えだ。―おはようのキスをしてたところさ」大仰に手を広げて 今はまだ目の前の女がすべてを話せる相手かわからない、と考えたままじっと彼女を見て(・・スーツじゃなくても目の毒な身体だな) そんならちもないことを考える 【エアルジェイン】「……ふざけているのかっ!そんな答えで納得なんかできるはずないだろうっ!」 と、小脇に抱えたヘルメットをぎりりと締め付けながらも、ソルヴに詰め寄っていく。 本来なら、シミュレーションによる訓練をしにきたのだが、それすらもすっかり忘れて、目の前の不審者を詰問することに気を取られてしまい。 【ソルヴ】「落ち着けよ、そんなことじゃすぐにメタトロンに喰われちま・・・っと」詰め寄る女性の怒りに押されながら、手を伸ばして、エアルを圧しとどめて 【ソルヴ】「・・ってことはあんたがジェフテイのランナーか?」掴みかからんばかりのエアルの手を取る もっとも、それでも彼女の勢いを軽く制するのがせいぜいだったが/ 【エアルジェイン】「この程度で飲まれるなら、父さんはとっくに飲まれてたさっ!ああ、その通りだ。ステンバック司令から借り受けたものではあるが、今は私がジェフティのランナーだ!」一息にそれだけのことを怒鳴り搾り出すと。勢いのままにソルヴの胸倉を掴み上げ。 ……当然恋人同士の睦言のような甘さは欠片もないモノの豊かな胸の先端が触れそうなほどに、唇が触れてしまいそうなほどに詰め寄っていく。 【ソルヴ】「そいつは運がよかったかよほど頑固だったんだろうな。―メタトロンの魔法ってのはランナーの理性を蝕んでいく」それがオービタルフレームが悪魔の兵器呼ばわりされた一因だ、と告げながら引き剥がすこともせず 【ソルヴ】「・・その前にお前さんじゃフレームに乗るどころか振り回されて撃とされるだけかもな」息の掛かる距離で逆に顔を近づけて。 【ソルヴ】「―少し近くないか?若い娘にそんなに迫られると誘われてる気分だ」厚い胸板でその胸を押し返して。掴んだエアルの腕を緩める (もっともこの様子じゃ軍育ちのバージン士官さんってとこだな)と呟いて 【エアルジェイン】「知っているさ。そのあたりはいやって程両親に吹き込まれていたからな。頑固、というのも当たっている。だが……っ!?!?」 加熱していたときは気付かなかったことを指摘されれば、とたんに気恥ずかしくなってしまい。 慌ててソルヴから身をもぎ離し距離をとる。もっとも言葉に詰まったのは……自身がジェフティに振り回されて扱いきれていない、というのが理解できているからでもあり 【ソルヴ】「ああ・・悪かった。わかってるならいい」触れそうになった唇をさすりながら。 【ソルヴ】「こいつは・・”俺たち”の娘の一人みたいなもんだからな。信頼して預けられるか気になるのさ」目を伏せて静かに告げる 【エアルジェイン】「っ……だ、だれが……名も知らん男などを……っ!そもそも……っ……!!!!」 と、褐色の頬を紅く染めながらもキツイ目つきで睨みつけ。開きっぱなしのハッチからヘルメットをコックピットに放り込み身構えて 「…………俺”たち”の、娘……だと?……」と、次の言葉には怪訝な表情を浮かべて 【ソルヴ】「ロイドの爺さんや俺は、こいつの開発に関わってた。俺はAI担当でね。」その程度の意味さ、と告げて。 【ソルヴ】「オービタルフレームはその最初から地球に対する破壊者として作られた。今でも一部の地球人やコロニーの人間には恐怖の象徴さ」 【ソルヴ】「だからこそ、ランナーには資質、ハートを求める。そんなもんを作っておいて勝手なことを、と思うだろうが・・」まあエンジニアのエゴってやつだ、と自分の胸を探って 【ソルヴ】「―今いえるのはそれだけだ。それに・・今のお前さんに重要なのはそこじゃない。―アヌビスを追ってるんだな?」 確認するように射抜くような目で見つめる 【エアルジェイン】「……だから、か。フン……確かに、今の私では、ジェフティの力を引き出しきれてはいない。ADAには歯痒い思いもさせているし、言い争いなどしょっちゅうだが、な。だからと言って……」 其処まで聞けば。親だと聞けば……それまでの怒りは間違って暖かい地域に放り出された流氷のように融解してしまい。 【エアルジェイン】「……その通りだ。3ヶ月前、私が率いる部隊は……奴と出会い、私を除き全滅した。……命からがら逃げ帰った私に下された任務、だ」と……再び表情を一転させて、苦々しさ、悔しさ、哀しみをないまぜにしたものを浮かべて……吐き捨てるように言って 【ソルヴ】「そうか、無茶な任務だな」そう言うと、歩み寄り。 彼女よりやや高い位置からその手がエアルの頭にそっと、乗る 【ソルヴ】「―こんなに怯えてる娘に、あんなものを追いかけてどうにかしろ、ってんだ」大きな、かたい掌のぬくもりが白い髪から頭にじわりと伝わり 【エアルジェイン】「……………………無茶は承知だ。だが………っ……お、怯えてなぞっ?!」 普段なら決して許しはしない、子供に対するような仕打ちにも怒らず身を任せ。 訥々と言葉を紡ごうとしたところで……発せられたソルヴの言葉に反論するかのように、声を荒げて。 【ソルヴ】「正直になりな。・・あんなもの大の男だって向かいあいたかない」 俺だっていかさまめいた真似で退けるのがせいぜいだった、と。数十年前の記憶がよぎっただけで、肩が震える 【ソルヴ】「それでいい。相手が怖くない奴は無茶を重ねて運を実力だと思って勝てない相手にも突っかかる」そいつは味方を殺すのと変わらない まさに自分が通り過ぎてきた道を歩みかけている娘に、静かに語り 【ソルヴ】「どんなランナーだって、スタンドプレーじゃ勝てやしない。クオーターヘッドも、レシーバーも、ラインもいてはじめてゲームになるんだ」そう言うと頭を撫でて 【ソルヴ】「お前に今必要なのはチームメイトとうまくやることさ」そう言って笑うと、腕を回して抱くようにしてエアルの背中を叩く 【エアルジェイン】「………………おかしな、奴だ……なっ……そんなこと、言われて……反発できない、なんて……父さん、以外じゃ初めてだ……ひゃうっ!?」 掠れた声で……そう、呟きながらも……抱きしめられれば素っ頓狂な声を上げて身を強張らせて 【ソルヴ】「こんな風にな―それにそんなにカッカした顔じゃ男だって寄り付かないぜ」そう言うと。 さらっと 尻を 揉んだ 数分後。 【エアルジェイン】「……っ……はぁ……」……やがて長い長いため息を付いて。どこか恨みがましい視線でソルヴを見上げてしまう ゆっくりと深い息をついて「・・言いたいことがあるなら言っていい」 【エアルジェイン】「…………文句なら……何から言っていいのか、判らないくらいにてんこ盛り、だな……まあ、とりあえずは……名前、だ。結局……名前を知らないまま……だ」と、僅かにしどろもどろになりながらも、言葉を紡いで、ゆく。 言葉は次第に力を失い、最後の言葉は……顔の位置が近いとはいえ、聞こえるか、聞こえないか、ぎりぎりの音量になってしまっている 【ソルヴ】「そうだな」息を吸って「・・ソルヴだ。ソルヴ・カルステニウス」苦笑する。 確かにお互い、ろくに名前も知らないままままごとのようにぶつかりあって。 だがそれが、不思議と不快ではなかったことに気づいて・・、なぜだか爽快な気分になる。 【エアルジェイン】「……ああ……わ……私は……エアルジェイン、だ……エアルジェイン=M=イーグリット……」 こちらも釣られたかのように視線をそらしながら。名前を名乗り。 ……苦笑の声には顔を赤らめながらも……重荷に思っていた色々な事が、ほんの少しだけ晴れたような、そんな顔で。