…居間に行ってみると誰も居ない…珍しい事も有る物だ、何時は誰かしら居て賑やかなのに 一寸だけその事を寂しく感じながら自分でコーヒーを入れる用意をしてソファーに座れば、その前のテーブルに置いている本が否応にも目に入り きょろきょろと辺りを見回して人影が無い事を確認しつつ、そーっと表紙を捲って見る… ペラ、ペラとアズマが本を捲る音だけが居間に静かに響く   【アンジェ】「アズマに捲くらせるだなんてえっち〜。どこの中学の虐めでホームルームで吊るし上げの羞恥プレイだ〜」挙げられた手にぱぁんと景気良く自らの手を打ち合わせ 【アズマ】「えっえうううっ!?」ビックっとして慌てて辺りを見回すとすぐにアンジェの姿が目に入る…何せ彼女は色んな意味で目立つのだ「あっあのアンジェさんおは・・・いやこんにちはっ!」慌てて本を元に戻して何もなかったかのように取り繕おうと 【アンジェ】「はちみつくまさ〜ん、読書とは珍しいねぇ。もしや、知力2同盟から逃げ出そうと勉強を?」片目を瞑り、チッチッと口元で人差し指を振り 【アズマ】「僕クラス修正で元々3有りますよっ!!」自分でも何を言ってるのか判らない言い訳をしてから正気に戻って「あうっあの、置いてたからそのつい…」 【アンジェ】「2と3の差なんて黒い顔の無い男と邪気眼王の差くらい小さいものだよ。で、何が置いてあったって?」たわわな胸を揺らしながら、手元を覗き込み 【アズマ】「どー言う比較ですかそれは…あの…他の人には言わないでくださいね…」驚きと羞恥以外で頬を少し染めると成るべく自己主張の激しいアンジェのそれを見ないようにと目線を逸らしながら本を渡す、本は最近発売された女性向けのファッション誌で 【アンジェ】「着るの?」即座にまっすぐに、アズマを指差し 【アズマ】「違いますっ!!」珍しくしっかりきっぱり否定してから「ええと、ほらこういうのってプレゼントとして如何なのかなって思って…」 【アンジェ】「プレゼントねぇ、相手にもよるんでない? そもそも、いつの間にサイズ調べ上げた〜? とか。もう知ってるんだよね? それともこれからストーキング? 服とか下着とか盗んで着てごしごししちゃう?」 【アズマ】「ああえっと、サイズとは知らないんですけど……やっぱり知ってないと駄目ですか…」はふと溜息をついてしょんぼりして「……ごしごし?」きょととしてアンジェを見る 【アンジェ】「ぶかぶかの服とか、裸エプロンしか萌えないんだっ!! とか言うなら別に調べなくてもいいと思うけど。アズマは、着て窮屈な服貰って嬉しい?」きょとりと首を傾けて 【アズマ】「裸エプロン…いえ、それは一寸幾らなんでも…」真っ赤になって全力で困る、無論少しばかり想像したのは横に置いて「うーん、ある程度見立てより大き目の服を買うとかならいけるかなーって思ったんですけど…」と見通しの甘い台詞を口に出す 【アンジェ】「そ〜ゆ〜もんかね〜? わたし薔薇しか貰った事無いから良くわかんないや〜」けらけら笑って 【アズマ】「ふぇ……アンジェさんはその時嬉しかったですか?……薔薇」その言葉に真面目に質問して 【アンジェ】「ぜんぜ〜ん。これあげる〜」首を横に振りつつ「これあげるー」と、胸元から手品の万国旗のように【この顔にピンと来たら110番】と書かれたティーシャツを引っ張り出し。アズマに放って 【アズマ】「やっぱり怪盗さんから貰ったのじゃ駄目ですか・・・・・・・・・・・・ふぇ?」これはなにかとティーシャツを見て 【アンジェ】「嬉しい? それが答えでないかなぁ。私にはわかんないし」そのティーシャツは、ぴったりより少し大きくて 【アズマ】「うーん……」アンジェの顔とティーシャツをじーっと見比べて「なんだか一寸違う気もするけれど、とっても正しい回答の気もします」ともう一度ティーシャツを見る 【アンジェ】「どっちなんだ〜!? 吐け〜、吐くんだジョ〜!! 旗坊だじょ〜!」両肩掴んでがっくんがっくん揺らし。ついでに自分の上体もたっぷんたっぷん揺れて 【アズマ】「あわわわわわ、それがっ判ってたら苦労しませんよっ!?」とがっくんがっくん揺らされて 【アンジェ】「それもそっか」両手を打ち合わせるついでにぺいっと放して開放し「苦労してるの?」上から下までジーっと見て 【アズマ】「改めて聞かれると困りますけど…うーん、多分人並みには苦労したと思いますよ?」 【アンジェ】「人並みってどんな波さ〜?」ざぶ〜んと人波にさらわれ沖合いに流されつつ 【アズマ】「ここっ二人っきりですってばっ!?………ああ、それじゃ後学の為にお聞きしますけどアンジェさんはどう言う物を貰ったら嬉しいんですか?」 【アンジェ】「ん〜、電波の聞こえない耳とか?」頤に指をあて、暫く宙を見上げながら、ポツリと呟き 【アズマ】「うーん、それは貰える物なんですか?」アンジェの視線を探るように宙を見上げ 【アンジェ】「さぁ? でも、全部作り物だし、貰わなきゃどうしようもないんじゃない?」もちろん視線の先には、天井以外何物も無くて 【アズマ】「全部作り物…?」きょととして今度はアンジェの方を見て 【アンジェ】「うん。天使なんて見た事無いでしょ?」ばさりと、翼を拡げ。光輪を輝かせて大仏のポーズ 【アズマ】「天使は色々勉強させられましたから、知ってますけど見た事無いですよ…でもアンジェさんそのポーズ色々混じってませんか?」 【アンジェ】「混じってるって何と〜? わたしは何も知らないよ〜?」そのままくるぅり横回転しつつ 【アズマ】「ええっと色んな宗教観が……でもアンジェさんは天使になりたいんですか?」 【アンジェ】「別に何とも〜? 作りたかったのは天使らしいけどね〜。アズマは人間になりたかった〜?」 【アズマ】「それじゃあ別に電波が届かない耳じゃなくても平気なんじゃないですかアンジェさんは。うーん、僕元々人間ですし。でももう一寸しっかりした自分って言うのなら憧れますよ」 【アンジェ】「寝てる間もずっと聞こえるってうるさいよ? それでも寝るけど」両手の指で、耳の穴を塞いで見せて 【アズマ】「どうして聞こえるんだろう?普通の耳に見えるのに」とアンジェの耳に目を向けて「ええと…子守唄でも聞いて寝てみるとか、他に気になる事があったら聞こえるの少しはマシになりませんか?」 【アンジェ】「神様の声が聞こえるようにって事でない? もっとも、聞こえるのは神様の声には到底聞こえないけど。『ぎゃ〜っ!?ここでファンブルかよぅ』とかわけわかんないよ」 【アズマ】「ふぇ・・・良く判りませんけどアンジェさんにもアンジェさんの苦労が一杯有るって事がわかりました」 【アンジェ】「うむ、分かられた〜」エロそうに胸を張り「で、プレゼントするのは服にするの? 他のものにするの? まぁどうでもい〜けど」ふわぁと大きな欠伸ひとつ 【アズマ】「あう・・・ええと」張られた胸から視線を逸らすように一歩引き「…他の人にも色々と相談してから決めようと思います、アンジェさんの話だけでも色々と考えること有りましたから…」ジニーを良く知ってる人ならまた違う回答も有るかもしれないと思って 【アンジェ】「ほいほい、ま〜、好きにするのがいいんでない? 自分の人生なんだから」何も考えてないように、能天気に手を振って 【アズマ】「あっえっと、ありがとうございます」アンジェにぺこりとお辞儀をして 【アズマ】「ええと…でも、ジニーさんを良く知ってる人と言うと……」頭に浮かぶのはアーヴィニの仮面姿とリアの顔 【アズマ】「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 【アズマ】「……何だか究極の選択って気がしなくも無いなぁ…」どちらも最終的には確りと答えてくれそうな気がするとは思うも及び腰になって 【アズマ】「そういえばリアさんは今日は出かけるって言ってたっけ…」となるとと、考えれば選択肢は自動的に一つになり 扉の前に立ち止まると長く感じた数分後… 【アズマ】「あっ、あのアーヴィニさん、少し相談したいことが」とアーヴィニの部屋の扉をノックしてみる 【アーヴィニ】「相談か。何の事かね?」カチャリと、掛け金を外す音がドア越しに漏れ。扉が招じ入れるように開かれ 【アズマ】「あっあの、極個人的な相談で恐縮ですけど…相談する相手がリアさんかアーヴィニさんしか思いつかなくて」 【アーヴィニ】「それしか相談相手が居ないというのも、なかなかに不幸な話だね」仮面の奥から笑を漏らし、書き物机の椅子を引き出し腰掛けて 【アズマ】「あっあう・・・そう言う訳でもないんですけど、その…アーヴィニさんかリアさんしかよく知ってそうな相手知りませんから…」その笑い声に赤面しつつ部屋に入り「それでですねアーヴィニさん相談と言うのは…えっと…アーヴィニさんはそのジニーさんと仲が良いって聞いたんですけどそれでジニーさんが貰って喜ぶ様な物って何か心当たり無いですか?どんな小さな心当たりでも良いんです」息を継ぐのも忘れたかのように一気に用件を伝え 【アーヴィニ】「なるほど。それならば、私は適任であるともそうでないとも言えるね」そこで暫し間を置き「生憎と、彼女が喜ぶような物は知らない。ただ、欲しがりそうな物は知っている」 【アズマ】「知ってるんですか?あっあのもし差支えが無ければ教えてくれませんか?」真剣そうな面持ちでその仮面姿を見て 【アーヴィニ】「何故ならば、彼女と私は共通項の多い研究をしている。つまり、研究を進めるに足る資料やアイディアが、欲している物だろう。故に、それがどこに在るかまでは知らないがね。何故ならば、私が知っているならば、既にその取得のために動いているからだ。故に、教えられるのはそこまでとなる」講義が終わった先生のように、広げていた本を閉じて 【アズマ】「ふぇ…行ったことが無い場所への転移の研究って…アーヴィニさんもしてたんですか?」温泉街で話した事を思い出して「じゃあジニーさんとは研究繋がりで仲が良くなったんですね」 【アーヴィニ】「仲が良いわけではなく、親交があるという事だよ。その研究繋がりというのは間違いではないがね」雲を掴むような話。研究とは、もとよりそういう物。今まで研究をしてきた自分にとってさえそうなのだ。その土台の無い、アズマにはなお、ハードルの高い話だろう これで諦めてもらえると、助かるのだが。それとも、困難を知ってなお、それを探すために動くのだろうか。困難を知らず、動き出す、といった可能性が最も高いかもしれないと、仮面の奥で密かにため息を漏らし 【アズマ】「ん・・・でもそれは、前にジニーさんと約束したんです手伝うって。だから…それはうん、あんまり役に立ってはないですけど…続けていけば喜んでくれるかな…?」じーと床に視線を合わせるように下を見ながら考え込んで「でも、それだと結局の処振出ですね」と一寸困ったように微笑み 【アーヴィニ】「言っただろう? 研究繋がりで親交があるだけだと。それ以上の彼女の事情に興味は無い。それで、より多くの進展が見込めるのならば別だがね」肩を竦めて 【アーヴィニ】「他のアドバイスを期待するのならば、もっとそういった交渉に長けた人物に求める物だよ。もっとも、助言者が相手の事を良く知らなければ、適切なアドバイスなど望めないというのも真だが」 【アズマ】「そう言う物ですか・・・でも同じ目標持ってる相手なら話も合うと思いますし仲良くしたくなりませんか?同じ系統の知識を持ってる者同士で考え方の穴の埋め合いも出来ますし…」 【アズマ】「ええと、さっきアンジェさんと話してたんです…それで知らない人からの押し付けってやっぱり良くないのかなって思ったんです…だから…ええと、その上手く言えませんけど、それでアーヴィニさんに相談してみようかなって思ったんです」 【アーヴィニ】「そもそも、穴の埋め合いを求めての付き合いだ。その点で現状不足は無い、少なくとも、私にとってはね。そして、それ以上を相手が求めていない以上、私からも求めるつもりは無い。付き合いというのは、金も時間も掛かる物なのだよ。それに益が無ければ、その時間と金は、研究の方に振り分けるのも私の勝手ではないかね?」 【アーヴィニ】「それにしても、よりによって掴んだ藁がアレかね。藁と言うよりは、羽毛と言った方が適切かも知れないが」 アズマの来た。居間の方に仮面を向けて 【アズマ】「…間違っても無いと思いますけど…正しくも無いって思います…。アーヴィニさんの研究もそうですけど一方的なものの見方じゃ今までと変わるなんて中々難しいんじゃないですか?アイディアって言うのはそう言う物だと僕は思います、遠周りに見えることが実は近道とか、違う場所から違うように見てはじめて気が付く事だって有るかも知れませんよ?」 ジニーの事を否定されたような気がして口調に少し熱がこもり 【アズマ】「あう、生意気な事を言ってすいません…それと、アンジェさんの言った事も間違って無いと僕は思ったんです。だから藁や羽毛じゃなかったと思います」 【アーヴィニ】「それは別に構わないがね。それであまり役に立っていないならば、やはりそのアプローチは近道ではないという事だよ。近道を見つけた後ならば、説得力はあろうがね」 【アズマ】「それでも地図で向かう直線最短距離は遠回りだと思いますけどね……でも変な喩えですよね、知らない場所に行こうとしているのに近道しか探さない喩えなんて」 【アーヴィニ】「どのような手法であれ、間違っている事が確定するまで、その手法が真かも知れない。そうやって、一つ一つ、答えを探っていくのが研究だよ。近付いたように見えても、それが足場から崩れる事もある。むしろ、間違っている事が確定する方が、実りがある事もね。近道かも知れないと言ったのは、私ではなく君だよ。そこは、履き違えてもらっては困るね」 【アズマ】「ああ、ごっごめんなさいっ!!一寸変な喩えだなって思っただけで其処までの意味は無いんです」その言葉に慌てて謝罪して 【アーヴィニ】「一つの事物しか見えてない時は、得てしてそういう物だよ。私も、よく陥るがね。最短は、私も彼女も目指してはいない。何故なら、目的地さえ見えてはいないのだから。地図で直線を描く前の段階だよ。彼女の研究対象のような物だね」 地図を広げ、その上に紙片をちりばめ。名前以外を隠して 【アズマ】「……目的地か…アーヴィニさんも何処かに行きたいんですか?そうやって研究を重ねて」その様子を黙って見て 【アーヴィニ】「あぁ、私は少し違うがね」そう言って、ポーンを紙片の上に乗せ「私の研究は、別の地図へ行く事だよ」紙片の下の地図を勢い良く引くが、速度が足りず。紙片も、ポーンも諸共に落ちて 【アズマ】「別の地図・・・って・・・やっぱり、あのお父さんの?」この前聞いたことを思い出しながら尋ね 【アーヴィニ】「そういう事だ。もっとも、この様では命を掛ける気にはなれないから。当分先の話になるが」落ちた紙片や地図を、身を屈めて拾い 【アズマ】「命なんてそんなに簡単に賭けるものじゃないですしね…あっ…手伝います」慌てて自分も拾い出して 【アーヴィニ】「おかしな事を言う物だ。仕事の度に、いつも賭けている物だろうに」仮面の奥から笑い声を響かせ、自分が拾えた物を机に戻し 【アズマ】「それは、前にアーヴィニさんが仲間を信じろって言ってくれたじゃないですか…だから、命を賭けるなんて事は軽々しくはしないと思います」 【アズマ】「あの、ここに置きますよ」と自分が拾った分を机に置いて「あうえっと、長居しちゃいましたね…」時計はと見ると針は随分と進み 【アーヴィニ】「その程度は想定の内だがね。即座に答えを出せて納得できる物ならば、そもそも相談とは呼ぶまい?」アズマの紙片と自分の紙片を、表裏返して確かめながら 【アズマ】「それは…アーヴィニさんがちゃんと聴いてくれてるからだと思いますよ…人によっては取るに足らないことかもしれませんし…」 【アーヴィニ】「他者の悩みなど、それこそ誰にとっても他人事だよ。人は話は聞けても、解決は自らするしかないからね」 【アズマ】「でも、だから、ありがとうございました」ぺこりとアーヴィニに礼をして「あの、また何かあったら相談に来てもいいですか?」 【アーヴィニ】「時間と余裕があれば。常にあるとは限らないのが、人生のままならぬ所だが」仮面のまま、慇懃に礼を返し 【アズマ】「はい、その時はまた」と再度お辞儀をするとアーヴィニの部屋を後にする   カチャリと、掛け金をまた掛ける 【アーヴィニ】「全く、諦めさせればいいのに発破をかけてどうするんだか」仮面を手に、ぼふんとベッドに転がって 【アーヴィニ】「ねぇ?」手中の、道化のような顔に、問いかけるように 焚きつけて、情報でも拾ってくれば儲け物とでも思ったか。目標のためなら、何でも切り捨てる。それが練法士ではなかったか? その問いかけに、素焼きの顔が答える事は、もちろん無かった