アルハとの遭遇から数日。クレイルが人間だったと言う事実があって、直接彼女から聞いたのは、やはり驚く。 今日はゆっくり出来る日。 のんびり過ごそうかなと思っていたときに…ふ、とそのことを聞いてみようと思って。 【フィア】「ねえ、クレイル…? そういえばさ…」と、自らの持つ腕輪に呼びかけ、形を取ってもらう 【クレイル】「ん…なにかしら?」 ぼんやりとしていて、フィアからの呼びかけ。 壁を背にもたれかかるような形で姿を取って。 【フィア】「……クレイルのこと、教えて? 魔器になる前の、クレイルのこと。 嫌ならいいけど…できれば、教えて欲しいな、って思ったから」ベッドにぽふっと座り、足を軽く動かしながら…クレイルを見上げる。 【クレイル】「別に、聞いても面白い事なんて無いわよ?」 腕を組んで、ひとつ溜息。 少し困ったように、頭を捻り。 【フィア】「うん、それでも。クレイルのこと…知りたいの――一緒に過ごしてる割に、私は…クレイルのことを全然知らないから。 だから…かな」困らせちゃってるな、というのを申し訳なく思う。 【クレイル】「まあ、知らなくても当然よね。  だって話してないんだから。」  壁に反動をつけるようにして、ベッドに腰掛け。 フィアと少し距離を置いて座る。 【フィア】「…ん」その距離の差を、詰めたいなと思う。クレイルが支えてくれるなら、自分もクレイルを支えたいから。 「…話したくない?」僅かに首をかしげ 【クレイル】「話したくない、ってわけでもないんだけどね…。」 困っているな、というのが判って、笑みを浮かべ。  「ただ、何度も言うように、私は武器だからね。 そう、深い事を知る必要もないか、ってね。」 【フィア】「…クレイルは、確かに武器だけど。私にとっては…武器だけじゃなく、パートナーだよ?」 僅かにクレイルに近寄って、クレイルの手に触れる。目を閉じて、そっと祈るかのようにその手を自らの両手で包む 【クレイル】「ま、そうね…究極的には、フィアの言ってる事が正しいのよ。  …お互いをパートナーとしてみたほうが、つながりは強くなり、魔器は強くなる。」 フィアの体温を感触で感じながら、目を閉じて淡々と告げて。 「…私も、そうは思ってるわ。 なんだかんだいっても、ね。」 【フィア】「…うん。けど…クレイル、なんだか…話したくなさそうだから。無理して話して欲しいってわけでもないから…ね」 その手に自らの暖かさを贈る。クレイルのことは好きだから、知りたいと思う。もっと好きになりたいから。 【クレイル】「…ん、別に、そういうわけでもないのよ。 でも、本当に面白い話でもないし…。  そうね、どんな事が、聞きたい?」 静かに目を閉じて、昔を思い出しながら。 【フィア】「…クレイルの家族とか、クレイルがなにをしてたか、とか…。色んなこと、教えて欲しいんだ」 目を閉じて、そっとクレイルへ寄りかかる 【クレイル】「…クレイル=リヴィエ。 こう言っちゃ何だけど、凄く普通の人間だったわ。  剣を齧っていてね…町中の男に位は負けない自信があったっけ。」 フィアを受け止め、支えながら。 もう、何年も…数え切れないくらい昔の事に、記憶を馳せる。 【フィア】「うん…。」普通の、と言う言葉に実感は薄い。自分はとても普通の人間とはいえないから。 クレイルが語る言葉一つ一つを聞いて、記憶に刻みつつ。寄りかかった体の力を抜く 【クレイル】「自分は強い、って、そう思ってたわ。 結構、天狗になりやすいのよ、私。  そう見える? 結構、今は自制してるつもりだけど。」 くすり、と、悪戯げにわらい。 ゆりかごのように、僅かにフィアを揺らしながら。 【フィア】「ん…今はそうは見えない。むしろ…私の事を抑えてくれるとか、あるから」 その言葉にくすりと笑う。クレイルのそんな姿を想像しているのか、少し楽しそうで 【クレイル】「無茶も色々やったものよ。 山で暴れまわっている獣を狩りにいったり、素行の悪いならず者を懲らしめたり。  …意外と、武闘派でしょう?」 【フィア】「ん…そうだね。少し予想外だったかな――」僅かに揺れる身体。温かな雰囲気が心にしみてくる。 【クレイル】「そういう私を、許容して笑ってる父親と母親…早く結婚しろ、と、五月蝿くはあったけど。」  そこだけは、少し苦い笑い。 小言を言われている時を思い出したのか、複雑そうな笑いだった。 「そして……妹が一人いたわ、大事な妹。」 【フィア】「…ん。家族が居たんだ、ね。妹……」目を閉じ、クレイルのそんな様子を想像する。 温かい家族だったんだな…と、自分には手に入りそうもない物に僅かな憧れを覚えながら 【クレイル】「……ええ、歳はあなたくらい、かしら。 フィアみたいな銀色の髪…」  フィアの髪を手ですくい、撫でながら。「…おとなしそうに見えて、これと決めたら考えを曲げない、強情な子だったわ。」 【フィア】「ん…私みたいな銀色の?」瞳を開いて、クレイルのほうを見る。髪を撫でられると、心地良さそうにして… 「そうなんだ…強情、かぁ…」 【クレイル】「ええ。 意志の強い子だった。 ……少し、あなたに似ているのかもね。」  寄りかかるフィアの身体に、少し力を篭めて抱き。 【フィア】「私に,似てる…?」全身を包んでくれるクレイルの暖かさ。この暖かさが、私を支えてくれる一つだな、と思いながら。 「…意志、強いのかな。私…」 【クレイル】「何だかんだで、投げない所なんか、ね。」 【フィア】「そっか……」その妹、どんな人だったんだろう。と思う。似てる、と言われると…凄く気になって 【クレイル】「目の中に入れても、っていったら言い過ぎかもしれないけれど。 割と、姉馬鹿だったと思うわ。 私。」 続きを促すようなフィアの視線を感じて、表情を緩めて。 【フィア】「…それはなんとなく、わかる気がする。クレイル…優しいから」 じっとクレイルのことを見つめる。自らがこの魔器を持ってから、ずっと見守ってきてくれた存在への信頼が、そこにはある 【クレイル】「……だから、かしら。 あの時…私が選んだのは。」  不意に、フィアを抱く力が強くなる。 少し寂しげな、追憶の声。 【フィア】「…ん」クレイルの声が寂しくなった、と思う。きゅ…と自らの腕もクレイルの背に回して 【クレイル】「……12の悪意が世界を覆ったわ。 …誰も、何も出来なかった。 …たくさんが死んだわ。」 【フィア】「病魔のこと……だよね」ぎゅ、と僅かに力が篭る。自分が頑張らなきゃ…エリンディルはそうなってしまうのだから」 【クレイル】「家族はその時にいなくなって…私のもとには、妹だけが残ったわ。」 その、光景を思い出しているのか。 声は、暗い。 【フィア】「……クレイル…」自分を育ててくれた人も、部族の壊滅できっと逝った。 どんな気持ちだったんだろう、と…クレイルのことをじっと見て 【クレイル】「…アルハとであったのは、その頃。 彼女は私たちを保護し、護った。 …私たちだけではない、多くの人を。」 【フィア】「アルハは…今、何がしたいんだろう。なんで私たちと…ううん、今は…クレイル、続けて」 考えるのは、庭園の主である彼女のこと。 【クレイル】「彼女は、魔器となる存在を求めたわ。 …けして無理強いすることなく、自らの意思で、身を捧げる存在を。」  【フィア】「それで、クレイルや…アムは、魔器になったんだ。世界を護るために」 【クレイル】「私、アム、エクス、ミヤビ、クラウ、ティル。 ……6人が、アルハに自らを捧げた。  …でも、私はね。 ……世界を護る、というよりは…。」  そこで、言葉をきる。 くく、と、自嘲をこめた笑いを浮かべて。  「…私は、世界より、妹を護りたかったの。 それが、私の世界だった。」 【フィア】「…立派な理由だよ。私も…世界って言うよりは…AAAの皆を。私の世界を作ってくれる皆を…護りたいんだもん」 ぎゅ、とクレイルを抱きしめる。それだけ、妹が大事だったんだなと思って 【クレイル】「…そうね。 自分の回りこそが、自分の世界。 自分本位かもしれないけど…けして間違っている事ではない。 そう思いたいわね。…あの子も、そう言っていたわ。」  フィアを、抱きしめる。 同じ事を妹が言った、そんな記憶を思い出しながら。 【フィア】「ぁ…そうなんだ。おんなじことを…。でも、やっぱり間違ってないと思う…私は」 温かいなぁ、と思いながら…クレイルとの会話を続ける。 【クレイル】「ええ……そう、言って。 ……わたし、を、手に取った。」  フィアの身体が、痛いほどに抱きしめられる。 クレイルの声に、痛みが混じる。 【フィア】「…」びく、と背が震える。「クレイルを最初に持った人って…」 クレイルのことを、恐る恐る見上げる。眉根が下がり、泣きそうな表情になって 【クレイル】「……ええ。 魔器オートクレールの最初の所持者よ、私の妹が、ね。」  泣き笑い。 涙こそ浮かべてはいないが、そう見えるような。 【フィア】「そんな…そんなの。辛い…よ」ぎゅ、っとクレイルに抱きつく。 クレイルの表情を見ていられなかった。見ていると、自分が泣いてしまいそうだったから。 【クレイル】「…ほら、ね。 面白い話じゃないでしょう?」 暫しの、沈黙。  少しの間を置くだけで、クレイルの声は落ち着きを取り戻していた。 フィアが、辛そうにしていたから。 【フィア】「…」ぎゅぅぅ、とクレイルの身体に顔を押し付ける。涙が零れそうな表情を見られたくなくて。 「…私が、クレイルの妹と似てるなら…クレイル,辛くない…?」 【クレイル】「どうかしら。 …誰かが動かなければならない。  それがあなただった、と言うことで、割り切っているのかもしれないわね。」  淡々と、クレイルは語って。 少しずつ、彼女を抱く力を強めて。 「…でも、フィア、それとは別に、あなたには、生きてもらいたい。 …だから、強くなりなさい。 傷ついて…ほしくないから。」 【フィア】「…私、頑張る。クレイルと一緒に…出来ることを、精一杯する」 クレイルの抱く力が強くなるたび、フィアの力は抜けて行く。彼女に完全に寄りかかって… 「…生きる…うん、強くなる…。まだ、私は…強くはないけど。傷つくかもしれないけど…」 【クレイル】「身体と、それから、心を。 ……強くありなさい、フィア。  私は…私のいられる限り、あなたの傍にいるから。 …あなたの武器で、パートナーですものね、私は。」 【フィア】「ん…うん。頑張る――」強くあろう、強くなろう…と思う。自分の手の届く限り、頑張ろうと思う。この感情を教えてくれたのは…部族を抜けてから出会った色々な人。その人たちのために、頑張ろうと。 【クレイル】「…ええ、頑張りなさい。 後悔の無いように。 ……そしてね、フィア。  何だかんだで、私も後悔はしてないのよ。 ……精一杯、走ってこられたから。」  【フィア】「…後悔の、ないように――そっか、クレイルも…そうなんだ。なら…二人で走ってかな。私たちが護りたいもののために」 ぎゅ、とクレイルに抱きつきながら…問う。銀の髪を揺らし…蒼の瞳を向けて 【クレイル】「そうね、きっと。 ……いえ、そうありましょう。」 強い意思で、その瞳に、同じ蒼い瞳を返して。 【フィア】「…ん」しっかりと頷いて 【フィア】「クレイルのおかげで、私は…今まで歩いてこれたようなもの。だから、これからも一緒に。一緒に…頑張る」 【クレイル】「そう、ね。 よろしくお願いするわ、相棒。 …ちょっと私にはにあわないいい方かしらね。」 珍しく、冗談めかして。 わらってみせた。