ギルド、AAAには、一風変わった一人の少女がいる。 名は、レフォウ。銀色に輝く髪、紅と青の狭間で揺らめく紫紺の瞳。 素肌は白く、四肢も体躯も細い。 あどけない素顔は見目麗しいながらも未だ幼く、一見すればそれは、どこにでもいるような少女でしかない。   ――しかし、彼女はただの少女などではあり得ない。 今を遡る事200年の昔、異邦の賢者が生み出した、『アルカナ』という名のアーティファクト。 銀の少女レフォウ。彼女は、始まりのアルカナ《愚者》の化身である。   そんな出自の彼女であるが、何やら最近、やたら懐いている人物が一人、存在する。 今日も今日とて、その人物のドアをノックするのであった――真夜中に。     【レフォウ】「…いる、の……?」コン、コン、コン、と。小さな手で拳を作り、廊下と室内を隔てる木の扉を、等間隔で3回、ノックする。 (どぞー) 【シュヴェルト】「誰やー?」資料で目に付いた帝国の最近の動向を記した書類から眼を上げるてドアを向く 【シュヴェルト】「おう、レフォウかい?」最近慣れ親しんでいるその等間隔のドアを叩く音に表情を緩めて立ち上がるとドアを開けてやる 【レフォウ】「ん、しょ……ぁぅ」背伸びして、ドアノブを回そうとした矢先、先にドアが開き、つんのめるようにして室内へ…文字通り、ころりんくるりんと転がり込んで。最後にごちん、とおでこをぶつけて止まり。 【シュヴェルト】「おおうっ!?怪我あらへんか?」慌てて転がった先に駆け寄って         「おーおー赤うなって、女の子の顔は命やから気いつけなあかんで」赤くなったおでこを撫でてやりながら 【レフォウ】「ぁぅ……うん、だいじょうぶ…い、いたくなんて、ないよ?」おでこをさすられ、目をうるうると涙で潤ませつつも、何ともない、とばかりに首をふるふる、と振りながら立ち上がり。 【シュヴェルト】「泣かんかったかええ子やなーええ子には御褒美上げなあかんなー」よっと立ち上がったレフォウを抱かかえてやると用意していた飴玉を取り出して         「晩やから今食べたらアカンよ、明日のおやつなー」軽くゆすり背を撫でて注意する 【レフォウ】「……っ」飴玉をきゅ、と手の中に握り締め、ほんわりとした微笑みを浮かべながら、何度もこくこく、と頷き。       抱きかかえられながら、飴玉を寝巻きのポケットに仕舞い。 それから、じー、とシュヴェルトの顔を見て「…まだ、ねんね、ないの…?」 【シュヴェルト】「そやなーレフォウの可愛い顔見るまで寝れへんかったんよ。こー見えても寂しがり屋やねん」その顔に微笑を浮かべて         「もう少ししたら冷えだすから暖こうして寝んといかんよーレフォウは今日もねんねここでするんな?」 【レフォウ】「さびし、がり…?ぱぱ、さびしいさびしい?」きょとん、とした表情の後、小さな手を精一杯頭に伸ばし、いいこいいこ、と撫でるような仕草。       「うん……ぱぱと、いっしょにねんね、するの…」きゅ、と服の裾を掴みながら、上目遣いにシュヴェルトをじーっと見上げる。 【シュヴェルト】「そやそや、でもレフォウが居ったら寂しゅう無いで」と撫でやすいように頭を動かして撫でられてながら         「・・・ぱぱ?」昨日までとは違う呼び名に軽く驚いて尋ね返す 【レフォウ】「うん……ぱぱ。 いちばんおっきくて、やさしいひとがぱぱなの……ぱぱ、だめ?」小首を傾げつつ、尋ねる。       それは純粋に、可不可を尋ねているようでもあり、恐る恐る尋ねているようでもあり。ただ、シュヴェルトを見つめる紫紺の瞳だけは、真っ直ぐに視線を向けていて。 【シュヴェルト】「ぱぱ…ぱぱなぁ…」んーと考えながらその言葉を繰り返す、今の自分を優しいと言ってくれた事は嬉しくもあって         「レフォウがそうしたいんやったらええよ、光栄やな。でも優しいやなんて照れよるなぁ他にも優しい姉さん一杯おるやろ」微笑みながら返す、少なくとも傷つけるような真似をしないように 【レフォウ】「……? ぱぱは、おとこのひと…だから、ぱぱなの。おんなのひとは、まま、だから…ぱぱが、いちばんおっきくて、あったかくて、やさしいの」       そのちいさな両手で、シュヴェルトの頬をぺちん、と挟みながら。「だから、ぱぱが、わたしのぱぱなの」 【シュヴェルト】「いやいや、そういうんとちゃうけど。判った判った、なんやしかし急にぱぱ言うて呼ばれよると照れるなぁ」         しっかし昔の知り合いが知りよったな如何言われるやらやなぁと思いながら「んなら儂がぱぱやったらレフォウはうちの子やなぁ、弟できるけど構わんな?」挟まれたままにこにこと笑みつつ 【レフォウ】「ん……ぱぱ、はじめておんぶ、してくれたから…」ぽつり、と呟いたそれは、はじめて自分が「自分」の姿になった日。自分を負ぶさってくれた、大きな背中。       「おとう、と? わたし、おねえちゃん…?」おとうと、おとうと……と、何度も口の中で転がすように呟き、再度視線を向けて「おとうと、どんな子…?」 【シュヴェルト】「それやったら儂の背中はレフォウの特等席やな」その小さな呟きに答えて抱きしめてやりながら         「そやそや、うちの子はレフォウより小さいしな、レフォウが姉ちゃんや。どんな子どかな子なー一寸大人しゅうてあんま笑わん子なんや、レフォウがお姉ちゃんしてくれたら儂も嬉しいなぁ」         やっと最近笑うことをし始めた甥っ子の顔を思い出しながら 【レフォウ】「とくとー、せき…? わふ…ゅ…ん」まだまだ、難しい言葉は分からないお年頃。少し頭がこんがらがりそうになるも、抱きしめられるとすぐにそんな事は消えてなくなってしまう       「わたし、おねえちゃん……うん、がんばる…ちゃんと、おねえちゃん、するよ?」自分なりに、たよりになるよ、というところをアピールしたかったのだろうか。ぐっ、と反り返るような仕草で、あまり感情の浮かばないその顔は、ちょっとだけ得意気にも見える。 【シュヴェルト】「ほな頼むな、弟はレト言うんや。」その可愛げな仕草に笑みを零す         「でも頑張るんやったら、他の姉ちゃん達にお姉ちゃんの仕方聞いた方がエエかもしれんなー、ぱぱは女やないからお姉ちゃんのやり方しらんのよー」抱かかえていたのを背負うように変え 【シュヴェルト】「レフォウがおぶられたい言うたらこんな風に何時でもおんぶする言うこっちゃなー」そのままくるりと回って 【レフォウ】「…レト、わたしの、おとうと……れと」れと、レト、と何度か呟き、大きくこくん、と頷く「おねえちゃんの、しかた……ん、と……おねえちゃん?」       シュヴェルトの背中にぎゅ、としがみつきながら。おねえちゃんの仕方って何だろう、とハテナ顔。くるりん、と回る身体、回る景色。くるくると目が回りそうになりながら。 【シュヴェルト】「そやそや、弟が悪い事したら叱ったり、絵本読んだりとか色々せなあかんのやで、大変やでーお姉ちゃんするんは。んでも今日の所はぱぱの子やなーもうおねむするな?」 【レフォウ】「しかる…めっ、ってしたり……えほん、よんだり……ふぇ、おねえちゃんって、たいへん……でも、がんばる」       できるカナ?と少し不安になりそう、けれど、ぐっとこらえて握り拳をつくり、可愛らしい気合を入れる「うん……ぱぱといっしょに、おねむ、する…」こくこく首を上下に振りつつ。 【シュヴェルト】「そかそか、んなら眠るまでおんぶしとこか?・・・・ああでも今日はこっちがええやろか?」おぶったまま紙袋を取り出して         「レフォウが風邪引かんように毛布買ってきたんよー綺麗な花のんと、なんや月奈の姉さんが言うには子供に人気や言う話やったから」と子供用に花の模様のあしらった毛布とクランファイブのロゴの描かれた毛布を取り出しながら 【レフォウ】「うゅ……んー………」シュヴェルトが取り出した二枚の毛布。負ぶわれた肩越しに、手の中のそれを交互に見比べる。片や、綺麗な花柄模様。       片や、なんだかデカデカと派手な文字が大きく描かれている。時間にして数秒、視線が二つの間を交互に数回往復して「…こっち」すっ、と指差した先は…クランファイブの毛布。 【シュヴェルト】「ほほう、レフォウはこっちかお気にかぁ、なら今度名前をつけて貰おなーレフォウっちゅうて此処に」と名前欄を見せてからレフォウに毛布を渡してやり         「んならベッドにごーや子供は寝んも仕事やからなー」再び抱え直すと自分のベッドにレフォウを寝かして毛布をかけてやり 【レフォウ】「くらんふぁいぶ……おばさんのお部屋で、みた…」おばさん、というのが誰の事かは兎も角、その人物の部屋に飾ってあった、五人組の人形は、少女の目には輝いて見えたらしく。       掛けられた毛布をぎゅ、と抱きしめながら、ベッドの上でころころ、と転がり。くいくい、とシュヴェルトの袖を引っ張り「ぱぱも、いっしょ…」 【シュヴェルト】「・・・・レフォウ、それ他の人には内緒なー」何かを悟ったらしく一滴の冷や汗が流れ         「んんー、でもぱぱがベッド使うと狭うなってレフォウが窮屈するからなぁ」 【レフォウ】「…ないしょ? ん…………おばさん、ないしょ?」何が内緒なんだろう、と。少し眠くなり始めた頭で考え、なんとなく思い当たった答えを口にしながら。       「ん…ぱぱが、ぎゅーって、してくれればだいじょうぶ…」ころころ、と端っこまで転がり、空けた部分をぽふぽふ、と手で叩きながら 【シュヴェルト】「んならっとちょい早いけどぱぱもレフォウと一緒に寝よか…」空けられた場所にょっと転がってからレフォウに腕を回してぎゅーっとして         「レフォウが優しいからぱぱも暖うして寝れるはおおきになー」レフォウを寝かしつけるように背をぽんぽんとリズムを付けながら叩いてやって 【レフォウ】「ぅゆ……ぱぱも、いっしょに…くらんふぁいぶ……」ぎゅー、と抱っこされながら、クランファイブの毛布をもぞもぞとシュヴェルトの身体にも掛けて。       「ふぁ……ん、ぱぱあったかい……」小さく欠伸を零しながら、しょぼしょぼしはじめた目を、小さく擦って「ぱぱ…ぱぱ、どうして、レトといっしょじゃ、ないの?」そんな、純粋な疑問を口にして 【シュヴェルト】「それはなぁ…レトは一寸体が弱いからええお医者さん所に居るんよ。そやから今度の休みにでも会いに行こな、お姉ちゃんや言うてな。レトもきっと喜ぶで」         少しだけ表情を暗くするもなるべく明るい声でレフォウに答えて 【レフォウ】「れと、びょうきなの……? うん、あいにいく……おねえちゃん、するよ……おみやげ、くらんふぁいぶのおにんぎょう…よろこぶ、かな?」       両手で指折り、もっていくおみやげを数えつつ。シュヴェルトの顔をじーっと見つめて「ぱぱ……だいじょうぶ、レト、きっとしあわせだよ?」 【シュヴェルト】「そやな、きっと喜ぶで。でもお姉ちゃん出来た事の方がもっと喜ぶと思うでー」その言葉に頷きながら答えてやって         「レフォウはええ子やなぁ…勿論やで、うちの子は不幸になんかさせん為にぱぱが居るんやからな、やからレフォウもちゃんと幸せにならなあかんで」          レフォウの特殊な背景を気にしながらもそれ以上に幸せになるようにと抱きしめて 【レフォウ】「わたしも、弟、できたから…すごく、うれしいよ? えっと、ね…あったら、だっこしたり、おはなししたり、するの…いっぱい、あそぶの」       あれも、これも、といくつも遊びをあげながら、その顔は何となく楽しそうにも見えて       「うん……ぱぱと、レトと…みんなと、幸せに、なるの…」ぎゅ、と抱きしめ返すように、腕に力を込めて。うつらうつらと舟をこぎ始めた意識は、徐々に霞みがかってくる 【シュヴェルト】「そやな、いっぱ…………」喋る言葉を途中で止めてレフォウが眠りに入るまで静かに見守る、本当の父親でなくてもその顔は父親のソレで 【レフォウ】「…ぱぱ……すぅ…すぅ……」きゅ、と抱きついた腕は離れないままに、静かに、小さな寝息を立て始めて。        時折、くらんふぁいぶ、とか呟いているのはご愛嬌だろうか。 【シュヴェルト】「おやすみ、レフォウ」小さな子供の暖かさを腕の中に感じながら短く言葉を掛けて「さてと…こない居心地ようなったら儂も寝んとなぁ・・・」         その横でレフォウの顔を視界に一度納めなおしてから瞼を閉じで   静寂に満たされた夜は、全ての命を眠りに誘う。 ヒトも、ヒトにあらざる者も平等に、穏やかな安息に安らいでいく。 ――少女は、決して人ではない。 異邦の賢者の手により創りだされた、神秘という概念の結晶体。 しかし、それでも。そうであったのだとしても。 こうして、穏やかに眠り、安らぐ今、この瞬間だけは。 きっと、人と同じ様に、夢を見るのだろう……生まれて初めて知った、暖かな温もりに、包まれて。