滅びた城より帰還して、暫く後の朝 季節は冬、この街でも吐く息も随分と白く為りだした頃…一方的な約束を護る為にリアの部屋のドアが打ち鳴らされる 【シュヴェルト】「嬢ちゃん、嬢ちゃん居るー?」とんとんととんと軽妙な音を音を立ててドアが鳴り 【シュヴェルト】「ちょいと、儂とお出かけせーへん?」と言いながら中からの返事を待ち 【リア】「……?」 読んでいた神学の本を机に伏せ、怪訝そうにドアのほうを向く。 こんな朝に誰なんであろうか、と、首を傾げる。 「いるけれど、何かしら?」 なんにせよ、返事でもしなければ話も始まらない。 【リア】「………シュヴェルトと? リアが?」 ドアのほうへと歩きながら、疑問めいた言葉を返しながら。 【シュヴェルト】「そやそや、この前服の一つでも買うたろ言う話したやろ?そのお誘いやなー、ちゅう訳でお暇なんかな嬢ちゃん?」 【リア】「んー…?」 記憶を辿り、そんな言葉があったかどうかを手繰り寄せ。 暫しのちに、ああ、とひとりごちる。 そういえば、そんな事を言っていたかもしれない。 まさか本当だとは思わなかったけれど。 「あら、驚いちゃったわ。 てっきり、冗談の一つだと思っていたから。」 【シュヴェルト】「はははははかなわんなぁ。口約束ちゅうても女の子との約束事は可能な限り護る事にし取るんやで」軽く笑い声を上げてそれに返し「んなら魅力的な女の子への先行投資つーことにしとこか?」それこそ冗談めかした口調で切り返し 【リア】「あら、先物買い? シュヴェルトってば、中々抜け目がない事をするのね。 でも、中々判っているじゃない。」 ふふん、と、笑いながら、何処まで本気かわからないような口調でそうかえしてみせ。「丁度良かったわ。 今日はお仕事も予定もないし、それならうんといい服、買ってもらっちゃおうかしら?」 【シュヴェルト】「ははは、嬢ちゃん中々の自信家やなー。オーケーオーケー言いだしっぺは儂やしな、ええ服見繕って貰ったらええよ」 【シュヴェルト】「んでもまあ金かかっとちゅうてもええ服とは限らんしなーお手柔らかに頼むで。」 【リア】「うふふ、本当のレディは高級品だけを身につけているものじゃないわ。 でもそうね、リアの眼に留まるのが凄く高い服でないといいわね? それじゃあ、準備をしてくるから少し待っていてもらえるかしら?」 ドアの向こうで鏡台に眼をやり、どのようにめかしこんで出かけようか、などと考えながら返事をして。 【シュヴェルト】「なんやほんまにええ女になりそうなしっかりしたお返事やな、そう言う考えはええね。花丸やなー」と言ってから「ほな、ロビーで待っとるわーゆっくりしてもええで、ええ女はこう言う時男を待たせるもんや」と言いながらその場を離れ 【リア】「うふふ、寛大なお返事ありがとう。 待つことが出来る男の人も、いい男だと思うわよ?」       【リア】「…んー。 晴れていてよかった。 雨は家の中で見ている分には悪くないけれど、出歩くとなるととたんに憂鬱ですもの。 それに、買ったばかりの服をぬらすのも嫌だしね。」  今日は、黒ではなく白の部分を基調としたゴシック調のドレス。 シュヴェルトの先を歩くようにして、街の中を歩く。 【シュヴェルト】「そやなー流石に冬の雨は身に堪えよるしなぁ・・・んでも白いドレスとは珍しいなー嬢ちゃんは黒い服の方が好きやと思とったけど」離れぬ様に歩調を調整しながらリアの意外な服装に感想を述べる為に上から下まで眺めて「んでも嬢ちゃん自分白い色もなかなか似合とるな」 【リア】「そうね、黒は好きよ。 何も寄せ付けない、強い色。 でもたまにも、こんな色を着たくなる日もあるのよ。 乙女心は複雑なんだから。」 シュヴェルトのほうを振り向いて言葉を返してから、また先を向いて歩きだし。 【シュヴェルト】「ほうほう、そいつは一つ勉強になったなぁレフォウも何れそない事言い出すんやろか?」ふと思った感想を口にして「ん、でも何もよせつけんちゅー事は無いやろ、黒い色に魅かれるもんも居るやろし」 【リア】「ちょっと違うかしら。 黒い色に、赤色を混ぜても青色を混ぜても、そう変わることはない、ってことよ。 これも捕らえ方の違いかもしれないけどね。」 歩く歩幅を少し小さいものにして、速度を落としながら、振り向かずにそう返し。 【シュヴェルト】「おお、なるほどなぁ。でもそいつは変わらんのやなくて変わったんが見え難いっちゅうだけちゃうんかな?まあ、理由や結局感情のあとに付くもんやしな、好きな色は好きで嫌いな色は嫌いでもええと思うけどな」 【リア】「うふふ、シュヴェルトはそういう風に考えるのね。 でも、少し同意ね。リアもそんなところで議論をする気はないわ。 んん、あそこなんてどうかしら?」 肩をすくめながらそれに答えて。 小洒落た雰囲気のブティックを指差す。 【シュヴェルト】「買い物しにきたんやしなー。見た目は中々のええ感じの所やなー男一人ではいるんは辛いんやろけど。此処は嬢ちゃんはよう来よん?」うんと頷いてそのブティックに視線と足を向けつつ 【リア】「ええ、ラインの街では新しい服を取り扱うのが早いの、ここ。」 その言葉をもって、よく来るのだという事を暗に示して。 「あんまり、お勉強はしてくれないんだけどね?」 悪戯っぽくシュヴェルトに微笑むと、店の中へと一足先に入っていく。 【シュヴェルト】「んん?ええもんやったらしゃあないなぁ。良い仕事にゃそれ相応の対価がなかったら腐るしなー、そんなんつまらんやろ」と覚悟を決めてリアの後を追ってその店に入る 【リア】「あら、てっきり慌てたりするかと思ったのに。 シュヴェルト、気前はいいんだ?」 そういって入ってきたシュヴェルトを振り返り。 楽しそうにすると、小走りに店の中へとかけていく。 【シュヴェルト】「んにゃ、今度はリアの嬢ちゃんの考え違いやなぁ。気前がええんや無くて金の使い道ちゅーんを心得とるだけやで。それに言うたやろ先行投資やって、けちけちしたら成果やでんやん?」その後ろ背が楽しそうなので良しとしておどけて見せて 【リア】「うふふ、それじゃあ、一本取られた、と言う事にしておこうかしら。」僅かに肩をすくめて。 「それじゃあ、どうしようかしら。 春に向けて何か明るい色のものが欲しいけれど…。」 商品台の方に顔をむけ、並べられた服とにらめっこをはじめ。 【シュヴェルト】「明るい色なぁ…春言うたら東方やったら桜の花を見る言うけど薄い色とかどないなん?白でもええんやったらそんな色もええんちゃうかな?」その辺のある洋服を見ながら答え 【リア】「そうね……。 んー……これなんかどうかしら? ちょっと、何時もと雰囲気は違うかもしれないけれど。」 僅かに桃色みがかった白のワンピースを指差し。 自分の体に当ててみながら、そんな事を尋ね。 【シュヴェルト】「んん、乙女心は複雑なんやったら、たまにはそう言う気分も有るやろしなー・・・そやね似合とると思うで、軽い感じがしてええね肩の力が抜けそうで」 【リア】「んー。 それじゃあ、これにしようかしら。 じっくり選ぶのも時には必要だけれど、時には最初にいいと思ったものを買ってしまったときが良いものがあるものね。 んーと、値札は…。 うふふ、でも。 よく考えてみたら、リアたちの冒険用の装備に比べたら、普通の服ってとても安いものよね。」 500Gと、書かれた値札を見せながら。 珍しく、苦い笑いなど浮かべてみせる。 【シュヴェルト】「そやね、武具には命がかかっとるからなぁ、手ー抜いて死んだらそれこそ泣けるやん…んな?嬢ちゃんどないしたんなんや急に変な笑い方して」気になって目線を下げるようにしゃがんで 【リア】「ううん。 別に。 お金の入る仕事をしているけれど、お金も出て行く仕事ね。 と思うと、思わず笑っちゃったのよ。」ワンピースを手に取りながら、一つのため息。 【シュヴェルト】「それが誰かの為になるんやっら、そう悪い事でもないと思うで金勘定だけで図れる仕事や無いやろう?出費は無いに越すけどなぁ」そのため息に同意はしても 【リア】「ま、言っていてもしょうがないけれどね。 それじゃあシュヴェルト、約束どおりにこの服を買ってもらうことにするわ?」 その服を差し出し。 シュヴェルトが購入してくるのを見ている、と言わんばかりに。 【シュヴェルト】「なんやら年より達観しとるなぁ嬢ちゃん、儂のその年頃はもうちょっと馬鹿やったけどなぁ」と言いながら服を受取ると「ほいほい、ほな待っとってや、ちょいそこの美人の姉さん」と店員を捕まえるとごそごそと話しだし 【リア】「シュヴェルトの子供の頃、…ね。」 何を考えているのか。 あるいは想像しているのか、小さく呟きながら、店員と購入の手続きをとっているシュヴェルトの後姿を眺める。 【シュヴェルト】「んおおきに、ほならよろしゅう頼んますで」暫く話してから店員にお金を渡して戻ってくる「ん、ちょい待っとってーな。いま包装してもらいよるから」とリアの横に戻り 【リア】「ええ、ご苦労様。」 こく、と頷いてその帰りを迎えると。 「ねえ、シュヴェルト。」 少し、声のトーンを落として言葉を紡ぐ。「如何して、リアに服を買おう、なんて思ったのかしら?」 【シュヴェルト】「んんん、そりゃなんちゅうか気に為ったからやなぁ、別に変な意味やないで?この前随分と楽しゅう無さそうにしとったやん?気分転換にはええんちゃうかと思てなー」 【リア】「リアが、楽しくなさそうにしていた?」 すっ、と眼を細めて。 「…ふぅん、そう見えたんだ。」 小さく呟く。 【シュヴェルト】「そやね、そう見えたや無うて、そうとしか見えへんかったかやな、違たんやったら悪いけど。なんやら踵の磨り減るような感じや思たからなぁ・・・」 【リア】「………ふ、ん。」 面白くなさそうに息を一つ吐いて。「リアもまだまだね。」 小さくやれやれとばかりに首を振る。 【シュヴェルト】「んんん、誰ぞに判ったら駄目なん?」一寸困った顔でリアを見てから「それやったら空気読めん男で悪いなぁ」と答え 【リア】「別に。 不機嫌に同情されるなんて、子供みたいだなって思っただけよ。」 ふい、と顔を背けて。  【シュヴェルト】「嬢ちゃんまだ子供やと思うけどなぁ、自分で如何思とるかは知らんけど…んーそれに同情っちゅうんやないで気にしたんは自分の都合や、嬢ちゃんがそれに合わせる必要はホンマは無いで?」 【リア】「……そういう余裕めいた物言いって、ずるいと思うわ。」手持ち無沙汰に、近くの服を物色しながら。 低い声で呟く。 【シュヴェルト】「んーそりゃ余裕があるからやな、この件に関してはやけど。儂かて余裕ない時は有るし、その時は嬢ちゃんに笑われるような生き方しか出来へんかも知れへんよ」 【シュヴェルト】「だけど、まあ損な生き方しとると思えるん身近に見たら一寸ちょっかい出したくなるやん?可愛い子やったら余計に」 【リア】「リアの生き方が損?  ………。」 ぴしり、と、空気が固まったような錯覚。 猫のように目を細め、射殺さんばかりの視線をシュヴェルトにむける。  【シュヴェルト】「口が過ぎたなぁ…そやね、そやって怖い視線向ける位には損やな」肩を竦めつつその視線を受けては答え「余裕が有ったら勘違いや言うて笑い飛ばせる程度やと思うで、今のは」 【リア】「うふふふ、忠告はありがたく受け取っておくわ、シュヴェルト。」 直ぐにその視線は解かれ。 変わりに、何時もの子悪魔めいた微笑。 その瞳の奥は、冷たい。 「でもね、生き方って、選べるようでいて選べないものよ。」 くすくすと笑いながら、彼に一歩近づく。 【シュヴェルト】「そやな自分だけやったら選べんし、他人が居ったら枷になる生き方っちゅうんはどない立場でもそう言うもんや、決して自由や無い・・・だからまあ人生の先輩風ふかしての忠告やな」その場でリアを見続けたまま 【リア】「うふふ………シュヴェルトって、基本的に人がいいみたいね。 こんな辛い世界だけど長生きできる事を祈っているわ。」 そのままシュヴェルトの横を通り過ぎ、梱包された品を渡しに来た店員に笑顔を向けながら歩み寄っていく。 【シュヴェルト】「殴られるぐらい覚悟したんやけどなぁ」通り過ぎたリアに苦笑して「ん、養い子も居るしなー簡単には死ぬ心算はあらへんよ。嬢ちゃんも儂よりはようは死んだらあかんで、死ぬんは年の順が正しいしなぁ」 【リア】「あら、暴力に訴えるなんてレディのすることじゃないわよ。」包み紙を受け取りながら、にこりと笑い。 …先ほどまでの表情がうそのように、険の取れたそれで、シュヴェルトに語りかける。「今日はありがとうね、シュヴェルト。 この春は、この服、大事に着させてもらう事にするわ」 【シュヴェルト】「ああそうしてくれたら嬉しいわ、服は着られてこそやからなー。ちゃんと着てやってーな」 【リア】「それじゃあ、次に行きましょうか。 まさか、服を買ってくれただけで終わり、というわけではないんでしょう? 知っているかしら、このあたりに美味しいパスタの店があるのだけれど。」 店の出口へと歩きながら。 【シュヴェルト】「ん、誘ったんは儂やしななんぼでも付き合うんええけど。帝都やったら兎も角この辺の穴場まではなー案内してくれるんやったら行こか」とリアを追って店の外へと こうして、少女と青年は連れ立って街を歩く。  少女が見せた僅かな激情と、冷たい表情も、今ではもう見えない。  街の様子に笑い、興味を示し、少し大人びていても、やはり年相応のように、町を楽しむ。  しかし、垣間見せたその表情が何を残したのか。 それは、シュヴェルトの胸の中だけに答えがある。