時間は、大分さかのぼる事となる。 第一のアルカナ、愚者を入手する事になった温泉郷での出来事。 その数週後。 そんな所だろうか。 季節は、まだ秋。 寒さが目立ち始める、ほんの少し前。 過ごしやすい気候の、穏やかな日。 それは、そんな日の小さな出来事。 【リア】「……ふぁあ、あ。」 小さな欠伸を漏らし、少女は口元を押さえた。 手元には読み終えた本。 買っておいた取って置きのクッキーも、もう残りがないようだ。 やれやれとばかりに溜息をつく。 【リア】「…はぁ。」 きょろきょろと、辺りを見回す。 ……詰まるところ、なんと言うか。 …暇、その一言に尽きるのではないだろうか。 【リア】「そうね、何か面白いことはないかしら。 ……少なくとも、この部屋にはないわね。」 部屋の椅子から立ち上がり、そのまま扉まで身体を伸ばしつつ歩く。 【リア】「さあて、それじゃあ誰で遊ぼうかしら。」 そんな不穏な事を言いながら、扉を開き廊下へと足を踏み出す。 …最初に出会った人間、それをターゲットにしようかなどと、そんな事を考えながら。         【リア】「あら、アーヴィニ。 奇遇ね。」 はたして、そんな少女に出会ってしまったのは、幸か、不幸か。 …見る人が見れば、もしかしたらその時のリアの表情は、獲物を見つけた小悪魔そのものの笑いだったという。         暫しの後。  スリーエースのギルドハウス、庭に設置されたテーブルでお茶を囲む少女が二人。 買ってきたばかりのお茶にお菓子。 ささやかなお茶会の様相を呈した穏やかな光景である。 卓を囲む少女は二人。  リアと、アーヴィニ。 いや、ジニーと呼ぶべきだろうか。 仮面を外した彼女。 彼女を見つけ、あまつさえ仮面を外した状態で買い物に付き合わせ、こうしてお茶にまで誘う強引極まりないコンボ。 正体を知るというアドバンテージを最大限に利用した中々外道な行為であった。 十分な暇つぶしが出来た事に、リアは満足そうな表情を浮かべているが、さてはて、相手はどんな表情をしているやら。 そして、ここはギルドの中庭。憩いの場。 誰だって、ひょっこりと顔を出すかもしれない。 【リア】「ううん、良い午後ね。」             【ジニー】「そうですね、リアさんに出会わなければそれなりにいい日だったんでしょうけれど。これを飲み終えたら、流石に帰りますよ?」お茶の美味しさにそぐわない、うんざりとした渋い表情を浮かべ 【リア】「あら、ジニーってば酷い言い草。 リア傷ついちゃうわ。」 といいながらも、意に介さないような余裕を持った笑みを浮かべ、皿に並べられたクッキーをはむ、とひとかじり。  【リア】「いいじゃない。 お仕事もないんだし、のんびりとしましょうよ。 それとも、用事でもあったかしら?」 【ジニー】「この程度で傷つくような繊細な人は、そもそも意図して脅迫なんてしません。したとしても、そんな笑顔なんて浮かべられませんよ。それに、人の都合につき合わされるのは、のんびりするとは違う事です」言っても通じない相手とは分かっていても、ついそう愚痴りつつ。乾いた唇をカップの液体で湿らせて         丁度その15分前…… ふわわと眼を覚まし…ええと昨日は、と記憶を辿る 骨董品屋で見つけた首飾の汚れを磨き粉で落としてて…どうやらそのまま眠ってしまった模様…ベッドの下にその後がぐちゃりと残っていて 【アズマ】「御腹すいた…」はふと溜息を吐きながら開けっ放しだった窓に気が付き閉めようと近づく ・・・ ・・  二人に用が有るのか、中庭を目指す足音が聞こえる 【リア】「あら、脅迫だなんて人聞きが悪いわ。 唯お茶に誘っただけじゃないの」 ころころと笑いながら、その愚痴を受け流しつつ。 「でも、リアとても暇だったの。 ジニーが付き合ってくれて嬉しいのよ? だからありがとうかしら?…あら、誰かくるみたい。」  【ジニー】「そりゃ、リアさんだけの庭じゃないんだから、誰かが来る事もありますよ」糠に釘を打っているような徒労感に、背もたれに背を預け 慌てたように駆け寄るその足音は中庭の境で暫し立ち止まると意を決したように二人を目指して近づいて来て 【アズマ】「ジニーさんっあっあの珍しいですねギルドハウスにいるなんてっ!!」真っ赤になって何時もの倍は上擦った声を出して二人の傍に立つ 【ジニー】「あぁ……ええと、シノノメさんでしたか。こんにちは」席に着いたまま、声の方を振り向き、小さく頭を下げて 【リア】「あら、アズマじゃない。 ごきげんよう。 リアには挨拶はないのかしら?」 そんな様子を楽しげに眺めながら、ジニーとアズマ、両方に視線をやって唇をゆがめる。 にやり、と。 【アズマ】「あうっ、はいっこんにちは・・あう・・・・えっと、リアさんもこんにちは…」おずおずと頷いてからリアに挨拶を返して 【アズマ】「あの、…えっと…僕も…お邪魔して良いですか?」二人に問い 【リア】「丁度お茶をしていたところなの。 勿論、構わないわよ。 ジニーもいいでしょう?」 そう述べて、アズマの分の椅子を指差しながら。 【ジニー】「リアさんがいいんでしたら、断る理由は無いですけど……あまり長くは居ませんけど」3人目のために、自分の席をずらして 【アズマ】「あっありがとうございます・・・」ほっとしながら二人に礼を言いい差された席に腰を落ち着け「あの…長く居ないってやっぱり又お仕事ですか?」 【リア】「んー…カップは…これでいいかしら。」 さりげなくウサぐるみから出てくる新しいカップ。 もはやその原理は謎である。 アズマがジニーに話しかける中、二人の様子を観察しながらお茶の用意など。 【ジニー】「いえ。今日は、リアさんに頼まれて……」と、買い物の袋にちらりと視線をやり「それももう終わりましたから。仕事自体は、私もありませんよ」 【アズマ】「リアさんのぬいぐるみってマンガに出てくるポケットのようですよ」その様子に何だか別の意味で感銘を受けて「あのそれだったら…えっと…でっ出かける前に一声掛けてくれませんか・・・えっと、そのわっ渡したいものが・・・」あうあうと言葉に詰まりながら 【リア】「うふふ、そうかしら?」 そういいながらも、準備を着々と整え。  成り行きを見守る。 なんというか、判りやすいこの二人のやり取りはとてもいい暇つぶしになりそうだなどと、そんな事を考えながら。 【ジニー】「渡したい物、ですか。ええと……もしかして、最初に会った時の?」心当たりとしては、2つ。だが、敢えて外れていると思われる選択肢を選んで。流石に、それが何かまでは口に出さずとも。恥ずかしげな仕草だけで、知っていれば察せようほどに 【アズマ】「そうですよ、僕の国だったら子供なら知らない人が居ないって言うぐらい…あっえっと・・・兎に角凄いポケットなんです」と詳しい説明を省いてリアに頷き「最初の時の…えうっ、ちっ違います・・・あっのあのえっと普通のものです普通の」 【ジニー】「普通のものと言われても、貰ういわれが無いんですけれど……先日も、貰ったばかりですし」恐縮したように、縮こまって 【アズマ】「たっ大したものじゃ有りませんし…えっと、そんなにお金が関わるものじゃないですから…」縮こまったジニーを見て余計に恐縮して 【リア】「そうよ、ジニー。 くれるって言うんなら、貰っておくのがいいんじゃないかしら? かわいい女の子は、それなりの扱いを受けるべきだってリアは思うわ。 ね、アズマ?」 【アズマ】「はい、そうですね・・・・」とリアの言葉に頷いてから「ええっえっとリアさんだってとっても可愛いですよっ!!」カクカクとした動きで更に同意する 【ジニー】「お金の多寡じゃありません。何も返せないのに、貰ってばかりはいられないって事です。貰う事を当然と思ってる女の子を、私はかわいいなんて思えませんし」アズマを困らせる返答だというのは分かっている。でも、できれば芽のうちに摘み取っておきたいと。敢えて、本音の一端を表にし 【リア】「うふふ、ありがとう、アズマ。」 そんなアズマの様子を、満足そうに眺めて椅子の背もたれによしかかる。 【リア】(ふうん……。 中々前途多難ね。 アズマはジニーが好きだけれど、ジニーはアズマを遠ざけたがっている。 …ううん、嫌いとは違うかしら。 さて、どう動くかしら?) ジニーの言葉を受けて、アズマがどう動くか。  【アズマ】「あう。ジニーさんはちゃんとした考えを持ってるんですね…そうやって思った事を言えるのは凄い事だと思いますよ…ええと…うん。じゃあ今回はえとっ止めておきます」だがその思惑など遠い事と言わんばかりの態度で応じぽーっとした様子でジニーを見る「だけど本当に大したものじゃないですよ・・・ええとあのただの紙ですから・・・」 【ジニー】「ただの紙、ですか? 手紙とかじゃなく」それはそれで、何のために贈るのかが分からない。まさか、シャーマンの呪いでもないだろう 【アズマ】「あううぐっ。ええと…なっ内容については秘密です…」リアの前で恥しいから手紙という単語を使わなかったのだがジニーの口から出た単語に慌て 【ジニー】「やっぱり……それじゃあそれは、ただの紙なんかじゃないですよ。どもってしまうと伝え辛い事ですか?」ゆっくりと、丁寧に。落ち着きを伝えるように 【リア】(…それにしても、アズマ。 緊張するのはわかるけれどもうちょっと毅然としていないと格好悪いわよ? まあ、それが面白いのだけれど。) 慌てる様子に僅かに唇を吊り上げ、成り行きを見守り。 【アズマ】「ええと、それはその・・・伝え辛いと言うか何というか…」とどぎまぎしながら「リアさんにだって有りますよね、ええと直接言葉で伝え難い事って」 【リア】「ええ、そうね。 人によると思うけれど、ね。 伝え方は色々あっていいと思うわよ?」 【リア】(…ふうん、でも、一歩距離を詰めにきたみたいね、アズマってば。 さて、手紙の内容を確かめたジニーの反応が気になるところだけど) アズマの問いに答えながら、そんな考えをめぐらせて。 【アズマ】「だから・・・その本当は受取ってくれたらうれしいんだけど・・・んっと・・・ええと。ジニーさんが嫌なら無理にとは言いません・・・」じゃっかんしょんぼりした様子で 【ジニー】「そういう形でしか伝えられないんだったら、仕方ないですよ。受け取ってもらえるだけで嬉しい手紙というのが、少し不安ですけれど」その内容の大方も、もう、"ジニー”でも察せるだろうと判断して 【アズマ】「うん…又変なこと言っちゃいそうだから…手紙にして…」と真っ赤なまま言葉を紡ぎ 【ジニー】「文書にすると、見返す事もできますしね。どう直せばいいかが分からない時が、困り者ですけど」小さく頷きを返し 【アズマ】「そうですね・・・だからできたらのお願いでした・・・って、あう。今この時点でなんだかとっても恥しいことを口走ってる気がしますよ」尤も出会ったとき以上に恥ずかしい台詞など無いだろうが 【ジニー】「何が恥ずかしいかはその人次第ですから。シノノメさんは、その恥と感じる範囲が広いのでしょうね」どもるのは、恥ずかしい時に限った話ではないと知っていながら 【リア】「うふふ、お疲れ様、アズマ。 それにジニーもね。」(…さて、予想以上に面白いものが見れたけれど。 残念だけどリアが近くにいたなら、進展もないかしら。 …しかしまあ、前途多難よね。) ふう、と聞こえないように溜息をつきつつ、音を立てずにクッキーをほおばり。 【アズマ】「そうかもしれませんけど・・・えっと気を使わせたみたいで御免なさい」心を落ち着けるようにリアの用意してくれたカップに口をつけてごくりと飲み 【アズマ】「恥しいというか・・・ううう・・・こう言うの初めてだから・・・」だから如何して良いか解らず思考が白くなる自分が少し悲しく 【ジニー】「疲れるような事をしているつもりは無いんですけどね」小さく苦笑しながら 【リア】「あら、リアは特別に何をしたわけでもないわよ?  …あ、いけない。 忘れていたわ。 リア、用事があったんだった。」 ぽん、と手をたたき。 【アズマ】「あっあのリアさん?」ふぇとリアの方を見て 【リア】「月奈に頼まれごとをしていたんだったわ。 そこのクッキーは二人にプレゼント。 折角用意したんですもの。ティータイム、二人で楽しんでおいてくれるかしら、リアの分まで。」 立ち上がり、服の埃を払いながらしれっと出てくるのはありもしない予定。 【ジニー】「それじゃあ、ようやく解散ですね。シノノメさん、お部屋の方に案内してもらえますか? 誰かに部屋を聞いてもいいんですけれど、二度手間ですし」こちらも立ち上がって、アズマを促し 【リア】「…もう少し落ち着いたほうが、女の子には頼りがいがあって素敵よ、アズマ?」 立ち上がり、部屋のほうへ戻ろうとして…振り向き。 アズマの耳に、小さく囁いてから。 反応を聞く前に、踵を返して立ち去っていく。 【アズマ】「そうなんですか・・・えっとそれじゃあリアさん又」一寸した嬉しさを覚える罪悪感と二人に為る不安を感じながら「・・・・・・・はう」その囁きにぐっさりと来て 【アズマ】「わっ解りましたジニーさん、それじゃあ、こっちです・・・ええと女の子から見たら汚い部屋かもしれませんけど・・・」 【ジニー】「見られるのが嫌なら、部屋の前で渡せばいいんですよ。こちらですか?」知っている道を、知らない振りをしてついて歩き 【アズマ】「えええと・・・それはそれで残念な気がしますけど・・・はい、こっちです」とジニーの事を知りたいと言う欲求と同時に生まれる自分を知って欲しいという希望を感じつつ案内して 【ジニー】「正直なんですね」嘘偽りで出来た自分とは大違い。そのくせ、頼られるのは自分の方。背中を追いながら、そんな事を考え 【アズマ】「ふえ・・・?嘘なんてついてもしかたないじゃないですか」突然の言葉に吃驚した顔で答え 【アズマ】「大体僕に嘘がつけるなんて思えませんよ」 【ジニー】「そうですか? 嘘をついたことの無い人なんて、赤子くらいだと思ってましたけど。確かに、シノノメさんが嘘をつけるなんて思わない人が多いと思いますけど、そういう人の嘘ほど、怖いものですよ?」 【ジニー】「驚かせてしまいました? でも、残念とかそういった感情を隠すのも、広義の嘘ですから」と、端緒を説明して 【アズマ】「怖いですか?」考えた事も無い評価に聞き返して「んー、だってちゃんと態度で示さないと相手に伝わらないじゃないですか」 【ジニー】「誰も嘘だと思わないから、誰もが信じてしまう。そう考えると、怖くありません? もっともその場合、意図してつくより、信じ込むか込まされている可能性の方が高いと思いますけれど」 【アズマ】「隠てて嫌われる時のほうが僕は怖いと思います…」といってからジニーの言葉に考え込んで「大丈夫ですよ、ジニーさんはちゃんと色々考えて話してくれてるじゃないですか。だったらそう言うときもちゃんと考えて話を聞いてくれると思うんです」 【ジニー】「隠してる方が嫌われる事もありますね」表に出して嫌われる事の方が、なお多いけれど。でも、ここまで口に出すのは利口じゃないので口にしない。正直と嘘、使い所を考えないというのは、考える負担を相手に強いる事。アーヴィニであれば、そう諭していたかもしれない。あちらの方が親切だなんて、皮肉な話だけれど 【アズマ】「じゃあそう言うときは黙ってます、それなら大丈夫ですよ」と自分の部屋の扉の前で立ち止まり「それじゃあ一寸待っててくださいね、待ってる間に気が変わったとか言っちゃ嫌ですよ」と扉を開けたまま中に入る…部屋の中にはこの世界の人間には弱冠謎な物が有って 【ジニー】「それは大丈夫ですよ、蜃気楼や幽霊じゃないんですから」苦笑の気配が、扉の向こうからさざめき 【アズマ】「お待たせしました…えっとこれです、読むときは人が居ないところとかでお願いします…絶対ですよ」とその言葉に慌てて戻ると可愛らしい便箋をジニーに差出し「そんな消えちゃいそうな事言わなくても良いじゃないですか」と答え 【ジニー】「気が変わったとか言っては嫌だと言ったのはシノノメさんでしょう? それじゃあ、確かに受け取りました」便箋を受け取り、ベルトポーチにしまいこんで 【アズマ】「そうですけど、気が変わったで幽霊や蜃気楼を持ち出すなんて一寸変わった言い方かな・・・て思ったんですよ。あのそれでジニーさん、今日はこれから如何するんですか?えっと、もしお暇だったら…」と言いながら便箋の仕舞われて行く様子を見て 【ジニー】「ここまで来て、そんな事を言い出すのなら。黙って居なくなっちゃうかな、と。今日は暇だったんですけれど、リ アさんに振り回されて、それほど暇じゃなくなっちゃいました」窓の外、影の様子を見て、時を測り 【アズマ】「そうですか…はふ、もう一寸早く気が付いたら良かった」とジニーと同じ様に外を見る、昨日明け方まで起きていた自分が恨めしい 【ジニー】「それはそれで、時間の使いように困ってたんじゃありませんか? それじゃあ、また」小さく手を振って、背を向けて 【アズマ】「あっはい。ジニーさんお気をつけて!今度来た時は、ええと・・・何でもないです。又会える日を楽しみにしてますっ」とジニーの背を見送りながら ジニーの受取った手紙、そこにはジニーの名前とアズマの名前以外には只一言の本文のみ 『好きです』