神殿の中庭に従姉の姿を見つける 駆け寄って昔のように甘えたい衝動に駆られるが…それでは指導してくれたことが無駄になって居ると言っているようなもの なのでぐっと我慢して、歩み寄る。 彼女は私の憧れなのだから…少しでも近づいて行けるよう振舞いたい、それが私の小さな願い 【ネノア】「シルフィ姉様」それでも身近なものが聞けば嬉しそうな声で従姉の名前を呼び 【シルフィ】「……?」その声に、読んでいた書物から目を上げる。視界に入ってきたのは従妹の姿――「メノア、どうしました?」優しげな微笑を彼女へ返しながら…声をかけて 読んでいた書物を閉じて、僅かに身体の姿勢を正す。今は従妹という関係よりは…教えるものと教えられるものという関係――それだけは遵守しなくてはと自分を律して。 【メノア】「聖句の授業が終わって休もうと思ってたらシルフィ姉様をお見かけしたから……ご迷惑でしたか?」座るシルフィを覗き込むように見て 【シルフィ】「そういえば……もうそんな時間でしたね。お疲れ様、メノア」覗き込むように見つめてくる視線と自らの視線を交差させて…「いいえ、そんなことはありませんよ。隣にどうぞ?」僅かに身体を動かし、座れるスペースを彼女のために空けて 【メノア】「はいっ!」と嬉しそうに返事をするも今の従姉と自分の関係を思い出し「有り難うございます、シルフィ姉様…今日はどんな本を読んでるんですか?」そう言いながら静かに横に座る 【シルフィ】「……ふふ」忠実に神殿の教えを護ろうとしてる彼女に、僅かに笑いかけ…「今は私も貴女も休憩中だから…もっと気を抜いて平気ですよ、メノア。神殿に居るときいつもそういう風にしていては…疲れてしまいますし」 従妹のほうに僅かに姿勢を直して、微笑む。 【シルフィ】「簡単な魔術書ですよ。お母様は魔術も使える人ですし…私にもその力は告がれてるはずだと言われて少し――」閉じて、膝に抱えた本をメノアに見せる 【メノア】「そうなんですか?私は神官の術は神官の知識だけで使えって思ってました、シルフィ姉様は勉強家ですわね」まだ一を習い始めた少女に全てを知れというのは無理な事、その言に少し尊敬の念が混じり 【シルフィ】「ええ、魔術の原理を理解すれば……癒しの術を広げることも出来るみたいで。神殿からの知識だけで無く…違う方向からの知識もと私も思いますから」嬉しそうに話すメノアを優しく見つめて「筋が良いのはいいことです、よかった」少し失礼かなと思いつつ…そっと彼女の髪に触れ、頭を撫でる 【メノア】「そうなんですか?私は神官の術は神官の知識だけで使えって思ってました、シルフィ姉様は勉強家ですわね」まだ一を習い始めた少女に全てを知れというのは無理な事、その言に少し尊敬の念が混じり 【メノア】「ええ、きっと姉様の指導がよかったんです。一杯教えてもらいましたもの」撫でられて嬉しそうに笑うそれは神殿に入る前と変わらぬ表情で 【シルフィ】「私の考えはまだお母様の受け売りですし――本を読むのは好きだもの。メノアはまだこれからたくさん伸びますよ、頑張りましょう?」正面から彼女のことを見て、笑いかける。指導がよかったと言う言葉を受け、少し苦笑して…「貴女にもちゃんとした才能があるからだと思いますよ。私は教わったとおりにしか教えられていませんから」 【メノア】「ええ、姉様もちろんです。頑張らないなら神殿に入ったりしません」と言って少し視線上に見るシルフィの苦笑に気が付いて「でも姉様、どんなに才能豊かな人でも才能を磨いてくれる機会が無いとその才能は無いと変わらないって本に書いてましたもの、だからきっと姉様にも人を教える才能が有るんですよ」 【シルフィ】「そうだと良いのですけど――私は、自分の目指す神官としての図と…神殿で過ごしている神官としての図が…少しずれてきてしまっているの――」空を見上げ、僅かに目を細めて…小さなため息と共に吐き出す。「…私が教えられてるのは、メノアだからですよ。貴女だから、私も教えるのに頑張れるんです」にっこりと笑って 【メノア】「神官としての図……ですか?」その言葉とその態度に少しだけ不安を感じる…目の前に居る筈なのに何故だかとても遠くに居るように感じられてドキリとし「なら私はシルフィ姉様の良い生徒という事ですね、お褒めいただき光栄です姉様」その不安を打ち消すように軽く笑みを交えて振る舞い 【シルフィ】「……お父様に言われて、神殿に仕える神官として学んできて――お母様から冒険者としての神官の話を聞いていて…私の目指す神官はどちらなんだろう、と少し迷っているの」メノアに優しく微笑みながら…言葉を紡ぐ「メノアは…どんな神官を目指したいのですか?」 【メノア】「それは…」シルフィ姉様のようなと…は面と向って言うには気恥ずかしくさりとて嘘をつく自分は許せずに「あの怒らないで聞いてくれますか姉様?私は…この神殿にとても憧れてる人が居るんです、それでその人みたいになりたくて。ええと…姉様から見たら不純な動機かもしれませんけど…」と憧れる従姉の顔を窺う 【シルフィ】「……」メノアの告白を聞いて、その言葉の内容を反芻する。じっと彼女のことを見つめ返して――「不純なんてことは全然無いですよ。憧れてる人に追いつけるよう…いいえ。憧れている人に並んで、追い抜いていけるように…頑張るのよ?」にっこりと笑いかける、教えるものとしての顔で無く…優しい従姉としての笑顔で 【メノア】「はい、姉様。シルフィ姉様が応援してくれるなら私絶対頑張れる気がします」その笑みに返すのは純粋で直向な、やはり従妹としての笑み 【メノア】「ですから姉様も姉様のなりたい神官を目指してください。叔父様や叔母様が反対されても私も姉様を応援してますから」ぎゅっとシルフィの手を取って 【シルフィ】「ありがとう、メノア――」彼女の言葉に、目を閉じる。きゅ…とその手を握り返して「…頑張ってみるね、私も」彼女の前で、弱音を吐いたのはこれが初めてで。 【メノア】「はい…でもシルフィ姉様がそんな事を考えてたなんて思いませんでした」そのシルフィの言葉に少しだけ驚き少しだけ嬉しく 【シルフィ】「…私も、悩みはたくさんありますよ。解決できない悩みもいっぱい…」メノアの手をそっと、自分の胸元へと運ぶ。そこは緊張のせいか随分と鼓動が早く。 【メノア】「でもシルフィ姉様ならきっと……」当てた手から伝わる鼓動を逃すまいと目を閉じて「……どくん、どくんって…姉様…まるで緊張されてる見たいです」私のようにと言う言葉の代わりにシルフィの手を同じ様に自分の胸に当て 【シルフィ】「……本当は、メノアに言うかどうか…迷っていたんです。私らしくないって――言われてしまうかと思って」彼女の鼓動も感じて…ふわりと笑う。 【メノア】「そんな事有りません。どんなことを言われてもシルフィ姉様は姉様です」先ほど感じた距離が少し近づいた気がするのが嬉しくて「とても優しくて綺麗で、私の大事な姉様です」それは子供の頃より描き続けたと憧憬 【シルフィ】「…ありがとう、メノア。貴女も…私の大切な妹ですよ――」優しくメノアの身体を引き寄せ、抱きしめて。頭を撫でる 【メノア】「ふわ…姉様…お日様のような匂いがします」抱きしめられて子供の頃こうして頭を撫でられるのが大好きで時にせがんでいたことを思い出し 【シルフィ】「そうですか……? メノア、それじゃ…もう少し、こうしていますか?」小さく笑って…抱擁を続け 【メノア】「ええ、でもあの…子供っぽくないですか?」その言葉に頬を染めて抱きしめられたままシルフィの顔を見上げて 【シルフィ】「誰も居ませんし……子供っぽいとは思いませんよ。私だってこうしたいときくらいはありますもの――」間近で視線を交差させ、ふわりともう一度笑って 【メノア】「じゃあ少しだけ…だってこうやってるととても暖かくて落ち着くんですもの」信頼しきった笑みを零して「きっとシルフィ姉様の気持ちが伝わってきてるんですね」ぎゅーっと自分の暖かさも伝えようと抱きしめ返し 【シルフィ】「そう――ですね、ありがとう…メノア」抱き締めあいながら、そんな会話を繰り返す。 それは揺りかごで揺られる様に暖かくそれでいてなんでもない出来事… 姉と言って慕う少女と、妹と答え慈しむ少女、その二人がまだ神殿に居た頃の話 そして 何れ再会する時までの暫しの夢…