うららかな午後の日差しの中、目を覚ます 傍らに眠る妹の姿。試練が終わり取り戻した、安らかな寝顔 否、それはまだ終わってはいない。聖血は今だこの手に在るのだから この、在るべき日常を失わせうるそれを。早々に始末しなければならない この連休の間に 【リーシュ】「行ってきますね」眠る妹の頬に、小さく口付けて 【フェリィ】「…ん――」ぴく、と身体が動き…うっすらと眼を開ける。姉の言葉が聞こえたのか、どこ、へ? と…まだ眠気の残る声で返し 【リーシュ】「あら、起こしてしまいましたか。もっと、ゆっくりしていていいのですよ」布団を掛け直しながら「ちょっと、ネメシアさんの所まで」と、大した事は無いという口ぶりで 【フェリィ】「ネメシアのところ…聖血のこと?」意識を覚醒させながら、姉に問い返す。今彼女の元へ行く場合、尋ねることでまず出てくるのはそれだと思うから。 【リーシュ】「ええ、いつまでも持っているべき物ではないですしね。御相談に」流石に勘がいいというべきか。それとも触れ合う時間が長く、理解されていると思うべきか。内心少し悩みながら答え 【フェリィ】「それなら、私も行く――聞きたいことと、お願いしたいことが1つずつあるから」布団をまとめ、身体を起こす。 【リーシュ】「分かりました、急ぎませんから慌てずにね」櫛を取り、妹の身支度を手伝う意思を示しながら。頷いて 【リティーシャ】「……ふぁう?」二人の声に目を覚ましきょろきょろと見て 【フェリィ】「ん…でも少しは急がないと。ネメシア…いつもは何処に居たっけ…」髪を姉に整えられつつ、服を着替え 【リーシュ】「こんにちは、リティーシャさん」妹の髪を、甲斐甲斐しく梳りながら、足元を見て 【リティーシャ】「わうっ!!」二人に挨拶するように吠えて 【フェリィ】「おはよう、リティーシャ」流石に後ろを向けず、声だけを返して 【リーシュ】「そうですね……関係の無い話でもありませんし、リティーシャさんも来られますか?」櫛を納め、足元に腕を伸ばして 【リティーシャ】「きゅふっ、わうっ!!」一度フェリィの足元にも擦り寄ると頷くように声を上げて 【フェリィ】「そうだね…リティーシャも連れて行こう。ネメシアは何処に居るんだっけ…?」記憶を手繰り寄せながら、服を調え 【リーシュ】「では、最初の任務です。ネメシアさんを、一緒に探してくださいな」ふわふわの頭を撫で、首をかきながら声を掛け 【リティーシャ】「わんっ!」尻尾を振るとドアを前足で叩いて 開かないのでその場でくるくる回りだす 【フェリィ】「じゃあ、案内してもらおっか」その光景に笑みを漏らしつつ 【リーシュ】「終わりましたか。では、参りましょう」ドアノブに手をかけ、そっと扉を開いて 【リティーシャ】「わうっ!!」開いた隙間からとてとてと部屋外に飛び出して…暫く進むと二人を待つように振り返り「ふぁぅ…」ごろごろと喉を鳴らしながらちょこんと待ち 【リーシュ】「いい子です」扉の外に出て、鍵を懐中から取り出しながら。双方を見て微笑みかけ 【フェリィ】「…?」どうして自分のほうを見たのかな、と少しきょとんとした表情を見せるも。リティーシャのほうへ歩いていき… 【リーシュ】「では、お願いしますね」火元と戸締りを確認して、2人の後について歩き 【リティーシャ】「わうわう」二人の足元を一回りするとまたとてとてと歩き出す今度は先程よりゆっくりとした歩調で、そして暫く進むと有る一室のドアを前足で開こうと叩き「うーわうっ!!」二人を振り返って吠える その扉には図書室と簡潔な文字が金属製のプレートに書かれていて 【リーシュ】「あら、ここは……?」部屋に掛けられた、プレートを見て 【フェリィ】「…ここなのかな?」振り返って吠えるリティーシャを抱き上げ、扉を見る。そこに書いてある文字を見て…「ああ、そういえば…ネメシアは何も無ければここかシフォンの部屋にいるって言ってた記憶もあるような…?」彼女のことを撫でつつ、言葉を返し 【リーシュ】「そうなのですか。とりあえず、居られるか確認してみましょう?」と、木の扉を押し開いて 【フェリィ】「うん」頷いて、姉の後に続いて部屋の中へと入る。 【リティーシャ】「ふぁう……わうっ!」擽ったそうに撫でられてから主に頷くように鳴くと二人の後を追うように部屋に入り 【リーシュ】「他の方も居られるかもしれませんから、お静かにお願いしますね」微笑して、中の様子を見渡し その部屋は人影は見えなかった ただ一つのテーブルの上には高く本が積み上げられていて…それがそこに居るであろう人物の姿を隠し そこから時折紙を捲る音だけが静かな室内に響く その音は二人と一匹の乱入者にも気が付かずに規則正しく続く 【フェリィ】「…ネメシア、居る…かな?」少しずつ、その音の元へ歩く。場所のこともあり、足音を気にしながらゆっくりと。 【リーシュ】「さて、どうでしょう?」その音の元を確認しようと、本の山を迂回して 【ネメシア】「ん…フェリィ?」その声に紙を捲る音は止まり本の影からネメシアが頭を覗かせて「それにリーシュ貴君等か…連れ立って探して居ると言う事は何か私に用件か?」 【フェリィ】「うん、私よりも…むしろ姉様かな? 私も用事はあるんだけどね」微笑を浮かべながら、姉が前に出られるように下がって 【リーシュ】「ええ、聖血の使い方について少し。なにぶん、文献などもあまりありませんので」流れ着いたのだから、当然とは言え 【ネメシア】「そうか…うむ。使い方は簡単だぞ、ただ願えば良い…しかしリーシュ」少しだけ不審そうな視線を送り「貴君の答えからは使い方を気にするな必要性は感じなかったのだが?」 【リーシュ】「この子も、こうなりたくてなったわけではありませんし。道も、道になりたかったわけでも無いでしょう。適切な手段があれば、それに越した事も無いでしょう」椅子に腰掛け。リティーシャを膝に乗せてあやしながら 【ネメシア】「ん…ふむ。しかし聖血が願いを叶える以上適切な手段というのは所有者に拠る、それは理解しているな?故に貴君にとっての適切は貴君にしか行えないと思うのだが」 【ネメシア】「道は道に為りたくてなったわけではない、確かにそれはその通りだ。道はその願い事の重さゆえ道になったのだからな」 【フェリィ】「適切な手段が、姉様が願うこと……聖血って、二人で分けて持つとか――出来たりしないのかなぁ」ぽつ、と言葉を呟く。 【リーシュ】「つまり、どのように願うかよりも。どのような結果になるか、その為に必要となる力によって結果が変わると」顎に手をやり、暫し考え 【ネメシア】「うむ、そうで有るな。代償なき願いは敵わぬ」そしてフェリィに向けて「フェリィ聖血を分けると言うその考えは貴君がその身を引き裂く事を良しと思うようなものであろうな」 【ネメシア】「既にそれは王より分かれた最小なる一つとなって居るが故に」 【フェリィ】「…そっか、そうだよね――聖血を分けられれば、2人の願いが合わさらない限り。それが発動しないようになるんじゃないかな…とか、思ったんだけど」はふ、とため息をついて。 【ネメシア】「うむ…だがフェリィは姉思いであるな。可能ならその身に背負う心算であったのだろう?」その溜息に頷き答え 【リーシュ】「ならば、それを願えば良いのですよ。願いは、期間や範囲等を限定すれば、小さい事にはなりますか?」フェリィの言葉を引いて、それに質問を重ね 【フェリィ】「…うん」ネメシアの言葉には、素直に頷く「負担を姉様だけに押し付けているのは嫌だから――私だって、聖血に関わってたし…それに、姉妹だし」 【ネメシア】「ふむ…血願うのでは有れば可能では有ろうな」考えるように目を閉じて「しかしその者の生死を問わぬので有ればと限定するがな。それは貴君等の本意にはなるまい?」リティーシャに目を向け 【リーシュ】「あら。負担なら、分かち合ったじゃないですか。試練という形で」だから、押し付けられてなんていないと、笑い 【リティーシャ】「わう?」自分のことを話して居るとも知らず三人を交互に見て 【リーシュ】「失礼、誤解させてしまいましたね。私の言葉が掛かるのは、願いが発動しないように、の方です」ネメシアの返答に苦笑して 【ネメシア】「良い、理解した。鍵をかけるのだな」リーシュの答えに 【フェリィ】「……それは――うん、出来ないよ」足元にいるリティーシャを抱き上げて、優しく抱きしめながら「…」二人の会話にじっと耳を傾けて 【ネメシア】「それならば可能であろう。本来出来ない事を出来なくするだけであるのだから、代償自体も差ほどでは無いと予測される」 【フェリィ】「それでも、代償はあるんだ…」 【ネメシア】「うむ。血に願う以上は、それは誰にも変えられぬぞ」短くフェリィに頷くと 【フェリィ】「…代償が、姉様をどんな風に苦しめるのか――」俯いて、リティーシャを抱いた腕に微かに力を込める 【リティーシャ】「ひゃう?」篭った力にフェリィの顔を心配そうに見上げ 【リーシュ】「願いを叶える澱の量次第でしょうね。六道を下し、空けた隙間は、溢れた量と等価とも思えませんし。隙間に入る程度でしたら、大きな災いにはならないかと」 【フェリィ】「……そうなのかな――また、あんな風になるかもって思うと少し怖い…」リティーシャの声に慌てて腕の力を緩める。ごめんね、と小さく返しながら 【ネメシア】「人の生死を願い、その宿業を負う訳ではない故な。フェリィ、貴君の心配する事態には為らぬよ。それも多々と積み重なれば危険では有るがな。」 【フェリィ】「…積み重なれば危険なら、その礎すらも作りたいと思わないよ――心配だから」 【リーシュ】「ふむ……」2人の会話を聞き、考える。最低限叶えるべき願いはとうに決まっている。問題は、それに別の願いを載せるべきか否か 【ネメシア】「だが、今の願いはその礎を作らぬ為の願いであろうに…難しい物だな」 載せた場合、確実に代償は重くなる。それによって望みが叶ったとしても、それ以上に心配を大きくしては意味が無い 【フェリィ】「だから、それ以外はいらない――例え、叶えたい願いがあったとしても…自分の中にしまっておく」目を閉じて、小さく返す。 【リーシュ】「では、難しくないよう、結果を出してしまいましょうか」頷いて、静かに謳うように「聖血に請い願う。私の生きている間、私と、私の愛する者の気に掛ける者が、あなたに運命を狂わされる事の無きよう。願いの届かぬよう、余人の願わぬよう、その存在を隠せ」 静かに、言葉が。紙の匂いに包まれた静寂に消えていく これで、願いは叶うのだろうか? あまりにも、あっけない。願いとしても、そう強い物ではない。 ただ、強き想い。フェリィの幸せを増やしたい。フェリィの苦しみを減らしたい。その、小さな枝 【ネメシア】「リーシュヴァル=ファーゼンバーグ、貴君の願いは好意に値する…故に我が身に残る聖血との繋がりを使い貴君の淀を分け受取ることを此処に願い約束する」 リーシュの願い事を聞きそう宣言するとリティーシャの頭を撫でるように手をやり 世界は、変わらない。聖血にとって世界の改変とはその本来の特質なのだから。故に、在るがままに世界は変容する 何の、力も感じられない。何の異常も、感じ取れない。何故なら、それが願いの一端なのだから。誰にもそれは、気付かれる事は無い ただ、その痕跡が、そこに在った。聖血の器、王の眷属 それが在っては隠れる事はできない。隠れても、尻尾を残すようなもの。故に、擬態する。擬態させる。ここに在ってもおかしくない者。つまり、人へと 【フェリィ】「……」ただ、何が起きるのかを黙して待つのみ。 フェリィの腕の中で、その身がもぞりと動く。重さが、増えてゆく 【フェリィ】「…」その変化に気付き、彼女を地面へと 体毛が、徐々に薄くなり、その下の地肌が見え始める。 肩が広がり、脚がゆっくりと、伸びてゆく びっくりしたような瞳も、虹彩が円に近くなり まるで、進化の過程を見るように。四足から二足へ、獣から人へ。 ただ、名残のように。その頭には獣の耳が生えていたけれど。 そこに居たのは、忘れられない面影を宿す。でも、彼女のような陰を持たない。4〜5歳ほどの、一人の少女だった 【リティーシャ】「あっ・・・あっ・・・ふぇぁ?」視界が急に高くなったのに戸惑い 【リティーシャ】「あうっ」何時もの様にリーシュの頭に攀じ登ろうとして上手く行かずてんと転がりそれを何度か繰り返す 【フェリィ】「…っ…」忘れられない記憶。護れなかったという記憶――じわり、と瞳に涙が溜まっていく。記憶も知識も失ってしまっても、彼女なんだと… 【リーシュ】「これで、どうでしょうか?」やんわりと微笑み、その両足を肩に跨らせてその手をとって 【フェリィ】「今度は……護るから――」俯き…小さく、誓う。手の届く範囲にある人を護り続けようという、自分への―― 【リティーシャ】「ふえっ・・・ふゃ?」きゃっきゃっと喜びながらフェリィを見て「ふっあっ・・・う、ねーちゃ?」その表情に不思議そうに声を出して 【ネメシア】「んっ……此度は道を違えぬようにな」ばたりと疲れた様に椅子に座り 【リーシュ】「あら。いつの間にか、お姉ちゃんになってしまいましたね」ふふっと、笑いかけ 【フェリィ】「…何でもない。何でもないよ…リティーシャ――」俯いたまま、言葉を返す――泣きそうなのを感じ取られたくなくて。必死に感情を押さえ込む 【リティーシャ】「うー?」ぺたぺたとフェリィの頬を撫でて 【リーシュ】「少し、リティーシャさんを見ていてもらえますか?」リティーシャの小さな身体を抱き上げ、フェリィに差し出して 【フェリィ】「ネメシア……ありがとう――」座り込んだ彼女に声をかけて…姉の言葉に頷く。少しだけ不安そうに姉を見やった後「…今度は、護るからね――」と、リティーシャをそっと抱きしめる。 【リーシュ】「それではお願いしますね」そう言って、椅子から立ち上がると、ネメシアの傍に歩み寄り 【リティーシャ】「あう・・・ねーちゃ?」その言葉に反応して不思議そうにフェリィを見上げるも長くは続かずに「うー。」と眠そうに目を擦り 【リーシュ】「分けると言うより、殆ど持って行ってしまったのではありませんか?」苦笑を浮かべ、小声で囁くと。拡大と、治癒の聖句を唇に乗せて。これが代償であるならば、気休めにしかならないのだろうけれど 【ネメシア】「うむ…良い。これは私の決断で有るからな。」フェリィの言葉にぎこちなく微笑み 【フェリィ】「……」そっと、優しく抱きしめ続ける。もう、あんな苦しみを彼女が負うことに無いように、と。顔を上げ…「だからこそ、ありがとうって…言うんだよ」 【リーシュ】「それでは、私の決断はどこに行くのでしょう?」軽く握った拳を、こんとネメシアの頭に当てて微笑んで 【ネメシア】「恐れず決を下すのは尊い事だぞ、リーシュ。私はそれに手を貸しただけに過ぎぬしな…もっとも此処に私が居るのはフェリィとシフォンの誘い故、その幸運を喜ぶと良い」 【ネメシア】「うむ、大分楽になった私も感謝の言葉を言わせて貰う。感謝をリーシュ」二人をこれ以上心配させぬように振る舞い 【リーシュ】「恐れたから、不意打ちのように勝手にしたのですよ」小さく息を吐いて「元々、私が受ける筈の物でしたから。私からも有難うと言わせてもらいますね。ですが……ネメシアさんも心配される身になったのですから。自分が背負えば全て済む、とは考えないように。身に傷を負うより、身に傷を負われる方が痛む人も居るのですから、あなたの様に」 【フェリィ】「そうだ、もう1つだけ私のお願い。いいかな」その姉の言葉に頷きながら、リティーシャを撫でて 【ネメシア】「ああうむ、貴君等のようにだな」とフェリィとリーシュを交互に見て「うん?」とフェリィの言葉小首を傾げて尋ね返し 【フェリィ】「…ん、と。今度とか…時間の会うときに訓練に付き合って欲しいな――」 場違いだけどね、こんな言葉。と苦笑を浮かべつつ 【ネメシア】「ああ…それは構わぬぞ、力を封印した身故鍛錬はせねば訛るしな。フェリィとならば良い訓練になりそうだ」真面目にそう承諾の意を返して 【フェリィ】「ありがとう。私のお願いはその2つ、だね――後は、私は何も無いよ」 【リーシュ】「こちらも、見ての通り用事は済みましたし。読書中に、お手数を掛けました。ところで、何を読んでらっしゃったのでしょう?」積み上がった本の背表紙を見つつ 【ネメシア】「うむ…戴した事は無いぞ?其処の棚に有るものを全てだ。」みれば棚の中段がごっそりと抜けて 【フェリィ】「うわぁ……」と、積まれた本の量に苦笑する。私じゃ無理だなーと思いつつ 【ネメシア】「特に帝国史と言うのは中々に面白くあったが…どうかしたかフェリィ?」 【リーシュ】「随分と読書家なのですね。史学に興味がおありで?」他にどのような本を読んでいたか確かめながら 【フェリィ】「ううん、それだけ読めるって凄いなと思って。私じゃまず途中で投げ出しそうだし――」 【ネメシア】「私とて身体を動かすほうが好きではあるが貴君等と生活をするためには必要だからな。・・・・しかし食事とは料理するものだったとは新たな発見であった」うむと頷き 【リーシュ】「暫く、当番は任せられそうもありませんね」大袈裟に額を押さえて見せて 【ネメシア】「むっ…何か問題が有る事を言ったであろうか?」リーシュの様子を見てフェリィに問い 【フェリィ】「ううん、そういうことはこれからシフォンが教えてくれるよ――。改めて、これからも宜しくね」と、笑いながら彼女に言葉をかける。 その笑顔はうららかな午後を締めるのに相応しい笑みで その二人の関係はとても素晴らしい物に思えた やはり力を貸して良かったと思う 双子とその腕に抱かれているリティーシャを静かに眺めながら ぎこちなく微笑む…何時か自然に笑えるようにと願い