ばさり 紙をめくる音が、大きく響く 【アーヴィニ】「ふむ、これだけか。新聞にも何がしかの手が入っていると見た方が良いかな?」 ラインタイムスを捲りながら、1人ごちる 暖炉に、赤々と火が燃え。素焼きの仮面に赤い影を躍らせる これほど広いリビングなのに、人が居ないのは。時間帯のせいか、ソファの一角を占領する、異様な風体の人物のせいなのか…… 【シュヴェルト】「へろー・・・ってなんや嬢ちゃんだけか?他の子は誰も居らへんの?」酒瓶を片手ぷらぷらさせながら部屋を見回し「んなら、お邪魔してええか?」 【アーヴィニ】「シュヴェルトだったな。別に拒否をする理由は無い、好きにするといい。ここは私に宛がわれた部屋というわけでは無いしね」新聞の端。仮面の奥から、その姿を確認し 【シュヴェルト】「おう、名前覚えてくれとるとは嬉しいわぁ。・・・・しっかしこんな遅うまで何やっとん?嬢ちゃん今日は非番やったんやなかったっけ?」ソファーに座ってひょいと新聞を覗き込み 【アーヴィニ】「これだけ所帯が大きくなると、誰がギルドメンバーか把握していなくては異物が入り込み放題になるからな。やっていた事はそうだね、評価の分析と言った所か」読みたいならどうぞとばかりに、ラインタイムスを折り畳み突きつけながら、スポーツラインを手にとって 【シュヴェルト】「うな?どれどれ・・・・・・」折り畳まれたそれを手にとって広げ そこには、病魔の記事が掲載されている。どれだけの被害を出し、どのような悲劇が起こったのか書き綴られている そして、それが冒険者の手により討伐されたと、締めくくられている 【アーヴィニ】「大きな事件に、我々は幾度と無く相対してきた。君も、これから望むと望まざるとに関わらずそうなっていくだろう」 膝の上で、指を組み。上体が短いのか、シュヴェルトを少し見上げる格好で 【シュヴェルト】「・・・・・・・・ほうほう、んーんー大事件のオンパレードやねぇ、儂はまあ、喰うていけたら別に構わんのやけどなぁ」記事から眼を上げ仮面に目を向け「嬢ちゃん嬢ちゃん、前から聞こう思っとたんやけど……」ふむと真面目な顔で 【シュヴェルト】「その仮面やらなんやらは何ぞ理由があるん?生まれたときから付けとって外すとヤバいとか?」んー観察しつつ 【アーヴィニ】「ふむ、何かね?」その問いの内容は想像がついていたようで、気分を害した様子も無く「これか、外すと危険というわけではないが、流派の風習でね。己を見せるな、知られるな、とね」指の腹で、形見でもある仮面をすぅと撫でて 【シュヴェルト】「そいつは花のかんばせが見えんで残念なこっちゃなあ、声からすると結構可愛げやのに」と言いながら酒瓶からとぷとぷとグラスに注ぐと「嬢ちゃんもどない…てその仮面やったら無理か」 【アーヴィニ】「そうだね。折角だがお断りさせて頂こう。理由が無い事では無いのだがね。流派の本分は、呪いでね。呪いを掛けるのに必要なものと言えば、何を連想するかね?」小さく首を振って、好意を遮断しつつ。答えの続きを紡ぎ 【シュヴェルト】「怖いなぁ呪ったりせえへんとってよ」本気では無いという笑みを浮かべて答え「まあ呪い事はあんま詳しゅう無いんやけど先ず名前っちゅうなぁ他にも生まれた土地やら、月やら占いと紙一重な所があるようやけど」顎を摩りながら答えると 【アーヴィニ】「そう。名前を初めとする、相手を特定するための情報が必要なのだよ。故に、我らは仮面を着ける」言葉に合わせて、仮面を被る仕草をし「呪殺に関しては心配せずとも良かろう。私が呪いを扱う事は、秘密でも何でもないのだから。もっともその前に、君が私やシャーマンに呪われるに足る行為をしなければ、動機の線で詰まるがね」くつくつと、仮面の奥から哂いを響かせ 【シュヴェルト】「そりゃ自分では解らんなぁ、人が如何見るかは人の物差しや、自分の物差しちゃうしなぁ、そない脅さんでも取って喰ったりせーへんよ」からからと哂いながら酒に口を付け・・・「んー、今年の新酒はちょい寝かさんと味が硬とうていかんなぁ、嬢ちゃん見たいやねぇ」 【アーヴィニ】「新酒という物は、概してそういう物だろう。長い年月を経た酒は、飲み口の柔らかさに油断をしていると、あっという間に足を掬われる」肩を竦めて 【シュヴェルト】「あはははは、掬われたら掬われた時や。んなもん気にしとったら楽しめるもんも楽しめんと思うで?」ふと考え「嬢ちゃん自分なんぞ個人的に好きなこと有るやろ?」 【アーヴィニ】「好きな事、ね。無いわけでもないが、優先度を高く設定する程好きというわけでもないな」暫し、考えて。そう答えを返し 【シュヴェルト】「そうそれや、優先順なんぞ付けよるんが硬いんや。こう言う席やったら好きな事は好きでええやん?」 【アーヴィニ】「硬くなければ「何この偽者」と言われるような気はするがね」仮面の奥からまた、笑いを漏らし 【シュヴェルト】「人は色んな面をもっとるんやから別にええと思うけどな、愛想のええ嬢ちゃんちゅうんも案外自分で思うより可愛らしいかも知れへんで?」 【アーヴィニ】「生憎と、今はかわいらしさには興味が無い。今の目的とは並立しないのでね。それを果たし終えたら、考えてもいいかも知れないが」にべも無く、首を振って 【シュヴェルト】「そりゃ随分と入れ込んどるなぁ、差し障り無いんやったら聞いてもええ?」 【アーヴィニ】「私の願いではないのだがね、亡き師の願いを叶える事だ。意外に、美談だろう」道化のように両手を拡げ 【シュヴェルト】「や、死んだ人間の残したもんやったら嬢ちゃんの言葉やないけど美談ちゅうよりそれこそ呪いやな。死人にゃ誰も逆らえへんもんなぁ」空になったグラスに酒を注ぎなおすと煽り「嬢ちゃん自身のやりたい事も見付かったらええなぁ」 【アーヴィニ】「託されたわけでも頼まれたわけでもない。自分が決めた事なのだから、やりたい事で間違いは無いのだがね」両手を、ローブの内に戻し。肩を竦め 【シュヴェルト】「そいつは悪い事言うたなぁ堪忍してや」同じ様に肩を竦めて「でもなんや、嬢ちゃん別に喋りに難い相手とちゃうなぁ、見た目もーちっとばっかり喋り難い相手やと思っとたんやけど」 【アーヴィニ】「それは意図して作っているよ。代行を兼任する事が多いが、生憎と私は、人望で人を纏めるには向いていないのでね。人を纏めた事があるのならば、分からない話ではなかろう?」 新聞を折り畳み。ブックレストに挟み込みながら 【シュヴェルト】「そうかい?そのまんまにしといても付いて来てくれる人は付いて来てくれる思うで?少なくても嬢ちゃんの発言は理論全としとったしなぁ、頭の悪い上司やったら困るやろう」 【アーヴィニ】「一部が従えば良いというわけでは無いからね。くれぐれも内密に頼むよ」見えない口元に、人差し指を立てて 【シュヴェルト】「へいへい、お兄さんこう見えても昔の職業柄口は堅いんよ安心しときぃ」と笑顔で答えてから「ああ、そや話に付き合うてくれた礼や、持って行きー」と開いてない方のワインの瓶をアーヴィニに差出し 【アーヴィニ】「軽い人間にはもとより話さぬよ」ワインの瓶を受け取り、立ち上がって 【シュヴェルト】「そりゃお眼鏡に適って光栄やねぇ。それがもうちょいマシな飲み頃になるんにゃニ、三年って所や、それまでに嬢ちやんが可愛いなったら今度は口説かせて貰うわ」とにこやかに笑って見送り 【アーヴィニ】「では、お先に失礼するよ。夜更かしは美容の大敵なのでね」カツカツと足音を響かせ、リビングを辞して 【シュヴェルト】「おう、お疲れさんええ夢を」残った酒を飲みながら挨拶を返して 【シュヴェルト】「んなら、儂も片付けて寝ようか」 人は仮面を被るもの… それが目に見えてかそうで無いかの差でしかないのだが 目に見えての分だけ…と思いながら夜は耽る… ありふれた一夜の出来事