今日、その日。天気は実に快晴だった 雲一つ無い、澄み切った青空。燦々と降り注ぐ陽射しは眩しく、暖かな日溜りを作り出す 誰もが心穏やかに過ごす、そんな長閑で平穏な一時。 普段は依頼だ何だと忙しなくもあるAAAのギルドハウスも、本日は静かなもの。 何事も無く、今日という日は過ぎていく――かに、思われたのだが。 「――失礼、柳乃月奈女史は、お見えかな?」 ――来訪者の訪れと共に、とりあえず月奈嬢の長閑な休日が、どこかに消えていきそうになったのは、間違いないようである―――     【 月奈 】「ええ、ここに。  依頼、でしょうか?  先ずはご用件を伺いましょう。」 来訪者を視界に納め、目を通していた資料をテーブルに置く。 【アロンダイト】「いや、依頼できた訳ではないのだよ……しかし、成る程。《月下美人》の呼び名も褪せる美しさ、噂以上のようだね」燻らせていた紫煙をゆっくりと吐き。         朗らかに笑いながらゆっくりと歩を進める。         「さて、とりあえず。僕はアロンダイト・ブランド。《アルカナ》の件で、AAAのギルドマスターである貴女と、話をするためにここへやってきた」 【 月奈 】「あなたが…そうですか。 噂に名高い《妖精騎士》アロンダイト・ブランドでしたか。 お噂は、かねがね。」 一礼しつつ、手で椅子を勧める。          改めて観察してみれば、なるほど。 隙のない挙動をしていた。      「中々、多方面に詳しいようですね。 そろそろ、そんな名前も風化してきたかと思っていたのですけれど。」 自らを褒める彼の言葉に、苦い笑いを浮かべながら。 【アロンダイト】「はは、まぁ僕に関する噂こそ、諸説色々あるようだけれど…妙な尾鰭が付いて広まらない事を祈るばかりだね」         受け答えはあくまで軽く、その挙動もまた、実に自然体そのもの――それでも、足運び、身体運びは、一切の無駄も隙も有しては居ない。 「人の美しさを賛美、或いは嫉む声はなかなか風化しきらないものだよ。それが真実であれば尚の事に、ね」         人好きのしそうな柔らかな笑顔を浮かべながら、椅子に腰掛。煙草を携帯灰皿に放り込み、さて、と一息を付いて。 【アロンダイト】「軽い社交辞令はこの辺りにしておいて――本題に入りたいのが、構わないかな?」ミニグラスの奥の、その瞳を細め。膝上で両の指を絡めながら、そう問い掛ける。 【 月奈 】「中々お上手な方ですね。」 返された言葉に、ふふ、と笑って答えながら。         「…ええ、そうですね。  此方としても、聞いておきたいことはけして少なくはありません。 あなたが自ら出向いてきてくれたこの機会、生かさせてもらうことにしましょう。」    椅子に、深く腰掛けて。 相手の瞳を、その奥を見るようにじっと見据える。 【アロンダイト】「これはこれは、お手柔らかに願いたいものだね……正直な話、私にも分かっていることは然程、多くは無いという実情そのものは、あまり変化はないものでね。          ここに来たのは、私自身の口からの事情説明と、現在の経過の確認――そして、私自身が確認できた、他の《アルカナ》に関する情報。大まかにすれば、このくらいのものだよ」         肩を竦めながら、静かに月奈を見やる。さて、何から語ったものかと、脳内で思案しつつ。 【 月奈 】「そうですね……先ずは、もっとも基本的なことから尋ねさせて貰ってもいいでしょうか?」          此方も、何を聞こうかと脳内で様々な疑問をぶつけ合う、が、最も先に出たのは、単純なそれ。         「そもそもに、《アルカナ》とはどういった存在なのでしょうか?」 【アロンダイト】「ふむ、先ずは基本的な確認事項、といったところか……《アルカナ》とは、このエリンディル世界の外より来た、異邦の賢者が生み出した代物。          一枚一枚に意味や何らかの力が存在する事までは確認されているが、それが何であるのか、という事になると。未だ不明な事だらけである、としか言えない。          実際に、手にしてみるしか解らないと言うわけだ」 【 月奈 】「異邦の賢者…。 ヴェスティアに居を構え、あの地に文化を為した人物、ですか。」ギルド員からの報告書を思い出しながら、言葉を紡いでいく。         「…しかし、エリンディルの他にも世界があるとは、どうにも要領を得ない話ですね。 実際にそういった存在がある以上、信じるしかないのでしょうけれど。」 【アロンダイト】「そうだね、僕自身もまた、エリンディル以外の世界、と言われてもピンと来ないのは同じだよ。だがしかし、あの《アルカナ》に秘められている力といい、          彼が綴った書物に記されていた言葉といい、どれもエリンディルの常識や知識からは逸脱しているものが多すぎる。一つ二つなら偶然、で片が付いても、其れが続けば必然だ。」         ふぅ、と息を一つ吐いて。自らが破り取り、そしてこのギルドの者に託した、あの賢者の日記の一部を思い出す。          妖精郷において、少なからぬ知識を得ていた自分ですら、読み解けなかった文字。あれこそ、異世界の文字だったのだろうと。 【 月奈 】「そうですね。 自実は覆せない。 あるものは、あるものとして考えなくてはいけません。 確かにその通りです。」 瞳を閉じ、静かに頷きながら彼の言葉に同意する。         「それでは、次の疑問点に移りましょうか。 …現在の、《アルカナ》を取り巻く状況。 それを、あなたの知る限り答えてもらえますか?」 【アロンダイト】「目の前にある現実全てを肯定するのは、中々に勇気の要る事ではあるのだがね…それを為さねばならぬ苦労を押し付けたこと、申し訳なく思うよ」         とんだ厄介事を押し付けてしまった自らの不明を自嘲するように呟き。そして、次点の問題に答えるべく再度口を開く。         「現在、君達AAAは、《アルカナ》2つを手にしている。一つは、ヴェスティアで僕が託した《愚者》、もう一つは、先日の依頼で手にした《魔術師》。          残りは20枚となる訳だが――まず問題は、その残り20枚の所在に関して、だろうな」 【 月奈 】「一つは……たしか、《戦車》でしたね。 …それは、既に封印を破られた、という事だけは聞いています。」         沈痛な表情。 それは、自分達だけがアルカナに関わっているわけではない、という事実を示す何よりのことなのだから。 【アロンダイト】「その、《戦車》の封印場所も、発見して見ては来たのだが――恐ろしいものだよ。二重に施された封印、其れを全て強引と呼ぶのもおこがましいほどの暴虐な力で破壊し尽くしていったようだ。          ……内部は、まるで天災でも巻き起こったかのような、無残な有様だったよ」         溜息が零れるのを止められない。発見した封印の地は、見るも無残に破壊しつくされた廃墟と化していた。         あそこまでの事をしでかし、其れを成すだけの力を持つ存在が、アルカナを奪っていった等と。想像するだけでも頭が痛くなる事。 【 月奈 】「……恐ろしいまでの力業、ですね。 ……まさか、とは思いますが…。」         そこまでの力を持つ存在。 全てをそれに関連付けて考える事はけして正しいやり方ではないが、連想せずにはいられない。         そして、その連想が事実だった場合、取り返しのつかないことにもなりえる。         「…それだけの事をやりかねない一段になら、思い当たりはありますが…。」 【アロンダイト】「……《始祖の庭園》かね?」思い当たる一団、というその言葉に先んじるように、その名を口にする。         ――《始祖の庭園》。長きに渡りエリンディルを放浪し、種々多彩な情報網を有する自分でさえ、その全容を把握する事の出来ない組織。         解っているのは、彼等が《魔器》と《病魔》を求めている事、そして、属する者達は、一騎当千という事場すら生温いほどの技量を持つ者たちであるという事。 【アロンダイト】「もし、彼等が《アルカナ》を手にしたのだとしたら……どう考えても、いずれ君達の前に立ちはだかる事になるのは明白だろう。          まあ、こちらに《愚者》がある以上、それ自体は遅かれ早かれ、の問題ではあるのだが…」 【 月奈 】「…ご存知でしたか。 流石に、放浪の妖精騎士と呼ばれるだけはありますね。」 その言葉に、小さく頷き。          「ええ。 私たちと同じく、《魔器》を求め、《病魔》を討つ、と。 そう、目的を掲げ動いている組織です。          …最も、その真意が何処にあるのかはわかりませんし、私たちとは完全に敵対しています。」 【アロンダイト】「噂によれば、このギルドの創設者自身、彼等と敵対する事を最初から想定していたとも聞き及んではいるが――          まあ、願わくば、彼等の手中に落ちていないことを祈るばかりだ。それは、これから先も、ではあるが」 【 月奈 】「…本当に、深く認識されているようですね。」 ルヴィの事まで知っている、この男の情報網の広さに、内心で舌を巻きながら。         「そうですね。 …今は、祈る事しか対処法がないのが現実ですか。 話を戻しましょう。 他に、所在の明らかになっている《アルカナ》についてです。」 【アロンダイト】「長く生きてあちこちを渡り歩いていると、自然と様々な情報が入ってくるものだよ」         ふ、と。いつもの飄々とした笑顔を浮かべる。重く澱みかけた空気を払拭するように、軽い仕草で相槌を打つ。         「そうだね…まず、残り19枚の《アルカナ》の中で、今尚封印されているらしい《アルカナ》は全部で12。          《女帝》《皇帝》《法王》《正義》《隠者》《剛毅》《刑死者》《節制》《塔》《星》《月》《太陽》となる」 【 月奈 】「…全てが封印されているわけではない、ということですか?」         封印が解かれているのは、《戦車》だけかと認識していた。 だが、実際にはそれを遥かに上回る数の封印が、既にない。         封印を解かれたか、それともはじめからないのかはわからないが、所在がつかめないのは、痛手だ、と、感じた。 【アロンダイト】「問題はそこだ……賢者が、エリンディルの各地に《アルカナ》を封じて既に200年近い歳月が流れている。          その間に、何らかの原因で封印が破れた、またはそれを突破されたものが幾つか……そして、今現在、文献にすら封印した、と記述されていないものが幾つか、存在している」 【アロンダイト】「何らかの要因で封印が突破されたもの…これは、私自身が足を運んで確認した限りで、だが……          《女教皇》《恋愛》《運命》《死神》《悪魔》。これらは、既に封印場所には存在していなかった。そして……《審判》《世界》。この2つに関しては、一切が不明のままだ」 【 月奈 】「………既に枷を外れたアルカナと、一切が不明のアルカナ、ですか。」  【アロンダイト】「前者に関しては、恐らくは封印状態のまま人手に渡った、と考えられる。破られたのも突破されたのも、一番新しいもので既に50年以上の歳月が経過しているからね……          だが、《愚者》の目覚めに呼応して、全てのアルカナが覚醒している筈。恐らくは、何か動きがあるだろう」         言葉の裏で、恐らくは何らかの騒動として、このギルドに持ち込まれてくるのだろうな、と思う。が、あえて今は、それは言わずにおいて。 【 月奈 】「……アルカナは、それ自体が明確な目的を持っているものなのですか?          先日、AAAが回収した《魔術師》のアルカナは、限りなく人に近い思考パターンを持っていたようではあります。 かと思えば《愚者》のアルカナは…。」 【 月奈 】「最初に出会ったときは、魔物であり、今は少女の姿でこのギルドに存在しています。 …もっとも、人間らしさが希薄…と言う意味では、共通しているのかもしれませんが。」 【アロンダイト】「なん、だと……《愚者》が、人の姿に?」全くもって、寝耳に水の話。まさか、アレが人の姿を取るなどと、想像だにしなかった。         「…《アルカナ》は、一つの目的の元に創られた物である、という記述を、新たに発見した。          恐らく、《アルカナ》に共通した目的意識があるのなら、それに関連している事なのやも知れないな…」 【 月奈 】「此方としても、どう対応するのが正しいのか考えあぐねていたところですが…流石のあなたでも、予想外の出来事…のようですね。」頭を抑え、軽く息をつく。         「…一つの、目的…ですか。」 【アロンダイト】「僕とて、《アルカナ》に関する全てを知っている訳ではないからね……全てを理解するものがいるとすれば、創り出した異邦の賢者のみだろう。          とうに、エリンディルの大地で眠っているがね」         コツコツ、と、踵で床を叩き、その下の大地を示すように軽く音を立て。         「その目的が何なのかは不明だが…目覚めた《アルカナ》は、その一つの目的を達成する為、《愚者》を、その所持者を導いていく、と……          ようやく解読できた部分はここまでだが、そう記されていたよ」 【 月奈 】「愚者…アルカナの番号は、0…もしくはなし。 自由や、型にはまらないこと。 または、軽率や落ち零れ…を示すカード、でしたね。」         書物で読んだ知識を引きずり出しながら、愚者というカードの意味を思い出し。         「…《愚者》の所有者は、私たち、という扱いになるのでしょうね、この場合。」 【アロンダイト】「そうだね。0、それは無を意味し、同時に――無限の可能性、始まり、を意味するものでもある。《愚者》が《鍵》であるというのには、その辺りの事も関係するのだろう」         月奈の言葉に注釈を加えながら、己の知る限りの事を伝えていく。         「そうなるだろう。AAA、というギルドそのものが所有者という扱いだろうな」 【 月奈 】「…と、言う事は。 賢者が設定した目的、に、一歩ずつ歩き出した…ということになるのですね。          《アルカナ》について関わるのはもう、ギルド全体で納得した事です。 …しかし、その目的が何か、というのが気になりますね。          …何も知らないで集めるのには、リスクが大きすぎる。」 【アロンダイト】「賢者は、この地に流れ着いて、アルカナを創り出し――そして、それを後悔したが故に、各地に封じて回ったらしい。           賢者が創り出した事を後悔する程の何かを、《アルカナ》は秘めているという事になる。そしてそれこそが、その《目的》に深く関係しているのだと、僕は睨んでる。          ――私的な推測だが、全ては《愚者》と《世界》……全ての始まりと、その終わりが、答えを握っているのかも知れないな」 【 月奈 】「…。」 ふう、と、思わず、一つの嘆息が零れる。         「…現時点で判断するなら、何ともいえませんね。 …しかし、後戻りが出来ないというのも事実です。 まだ、私たちは2つのアルカナとしかであってはいない。          結論を急ぐのは…早計なのかもしれません。」 【アロンダイト】「結局の所、情報不足、という事になるのだろうな……せめて、賢者の日記の解読が難航せず進んでくれればまだ明るい兆しも見えるのかもしれないが…          あちらも当面、時間が掛かりそうだ。まぁ、情報の整理は一先ずこの辺りにして。 もう一つ、伝えておく事が在る」 【 月奈 】「…もう一つ?  …今度は、先行きの明るい、素敵なお話である事を期待したいところですが、そうも行かないのでしょうね。 …お願いします」         少し、軽口を叩いてみせてから、再び表情を引き締め、次の話へと意識を映す。 【アロンダイト】「さて、次は君達に多少なりとも有利な事ではあると思うが……《アルカナ》にはどうやら、それぞれ特殊な《能力》を保有しているようだ。          《アルカナ》本来の目的とは関連のない二次的な代物、言ってみれば副産物のようなものらしいが。 《アルカナ》を所有する者は、その能力を一時的に、顕現させる事が可能らしい」 【 月奈 】「つまり、《アルカナ》から、それぞれの寓意に即した力を得ることが出来る……と、言う事ですか。」アロンダイトの言葉を噛み砕いて、繰り返し。         「…なるほど、その力の形質にもよりますが…先ほどまでの話に比べれば、幾分か明るい話題のようですね。」 【アロンダイト】「そういう事だな。例えば《愚者》のアルカナの場合だが。これは一度、フィア君たちが身をもって体験している力、簡単に言えば、『全ての力の半減』という能力だ。          効果時間はごく短いものだろうが、使いどころによっては大きな助けになる事も在るだろう」 【 月奈 】「それは、どのようにすれば使えるものなのでしょう? …使える事を意識さえすれば、使えるものなのでしょうか。」 【アロンダイト】「君達は既に、《愚者》の所有者となっている。ならば、その力を使用したいと明確に意識すれば、直ちに効果を発揮する筈だよ。 ただし、その分ギルドとしての能力枠を確保する必要はあるがね」 【つまり、《愚者》のアルカナは、《ギルドスキル》としての扱いとなります(予定)】 【 月奈 】「意識と認識が必要、というわけですか。 所有者がこのギルド、という事であれば、このギルドのもつ加護の力を利用して顕現する、と。」 改めて口にしながら、言葉を理解して。  【アロンダイト】「理解が早くて助かる。今現在であれば、《愚者》と《魔術師》の能力が使用できる筈だ。           それと、全てが戦闘に関連する能力ばかり、という訳でもないようだ。実際にどんな能力になるのかは、やはり手にしなければ解らない」 【 月奈 】「これもやはり、アルカナを入手していく段階で試していかなければわからない事のようですね…。  取り合えず、《愚者》、《魔術師》の力に関しては、後でこちらで実験してみる事にします。」         そこで言葉を区切り、実験のための人員やプランを立て始める。         「ウェン辺りでいいかしら…目減りしないし…」 小さく呟き。  【アロンダイト】「最も、他のアルカナの入手も、決して容易ではないだろう。押し付けた形になった上で言うのは厚かましくはあるが――油断せず、慎重かつ迅速に、回収作業に当たってもらいたい」         真摯な表情で告げる、のだが。         「あー……その、何だ。ウェンという人物、何かと使い走りにされているらしいが、もう少し労わってあげてはどうかな?」         流石に、アルカナの能力を試す実験台にされるとあっては、同情を禁じえなかった。 【 月奈 】「え? あ、あらいやだ、聞こえていたんですか?」少しばつが悪そうに口元を押さえて恥らいつつ。 …一つの咳払いの後に、表情を真摯なものに戻して。 【アロンダイト】「やれやれ…月下美人には、隠された鋭い棘があったようだ。いや、それもまた魅力の一つだとは思うけれどね」く、と小さく笑いを零しながらも、真っ直ぐに視線を月奈へと向ける 【 月奈 】「ええ…正直、厄介ごとがこれ以上増えるのは敬遠したくもありますが…現場に居合わせたメンバーが、それを脅威と判断し関わる事を決めた以上、          これはスリーエースがやり遂げるべきものでもあります。 もはや、私たちの問題でもあるのです。 そこまで、気に病んでいただかなくても結構ですよ。」 【 月奈 】「あら、魅力だなんて。 素面の人にそういう事を言われたのは、実に久しぶりの事ですよ。」 こちらも、小さな笑みで返しつつ。 【アロンダイト】「そうか…そう言ってもらえると、少しは楽になるよ。ありがとう」静かに笑い、頷いて。「僕はあくまで、率直な感想を包み隠さず述べたまでだよ。          美辞麗句で彩られるより、素のままの言葉の方が、君という美しさを語るには丁度良かろうからね」割と歯の浮きそうなセリフをさらりと述べて。 【 月奈 】「……意外といないんですよね、あなたみたいなタイプの人って。」自分の周りの男性を思い浮かべる。 臆面もなくこういう台詞をはきそうな人間は、少し思い当たらなかった。         「応用の効く性格で、うらやましいですよ。」 と、軽く笑いながら、立ち上がる。         「そういえば、無作法でしたね。 折角きていただいたのにお茶の一つも出さなくて。」 【アロンダイト】「はっはっは、これは中々手強いようだ…まあ、賛辞として受け取っておくとするよ」からからと笑いながら、立ち上がる月奈に軽く頭を下げ。         「いや、事前の約定もなく突然押しかけたのだ、そこまで気を使うこともない…と、言いたい所だが。君手ずからのお茶と言うのなら、是非にともご馳走になりたいところだよ」 【 月奈 】「それでは、順序としては逆なのでしょうが、軽くもてなさせていただきましょうか。 見ての通り、スポンサーの資金回りはそれほど悪くないので…          世界を回る《妖精騎士》さん、にも、それなりの味を楽しめるものが出せるとは思いますよ。」          最後は、いろいろな意味で自分の上司への皮肉なのか、小さく笑いながらアロンダイトを振り返り、彼を茶室の方へと案内していく。 【アロンダイト】「いや、君のような美しい女性と一時を過ごせるのであれば、喜んで。 味への期待もさることながら、何よりも其れに期待させてもらうとするよ」         なかなかに気苦労が多そうな彼女の、まあ、愚痴聞き役にくらいはなっておくかと。言葉とは裏腹に思いながら、席を立つ――その先の道は、割とナチュラルに地獄へ続いているかも知れないが。 【 月奈 】「ほぼ初見の私にそこまでいえるというのは、中々出来ることではありませんね。 私も人間ですから、世辞で褒められて悪い気はしませんけれど。」         少し、表情を緩めながら、昼下がりのギルドハウスをゆっくりと歩く。 後ろには、美貌の妖精騎士。          …まあ、悪くない絵面ではあった。 きっと、彼らはこの後、たわいもない雑談を交えながら、しばしの親交を得るのだろう。 【 月奈 】「…ああそうだ。 今日は、仕事がなかったので、ケーキを焼いておいたのでした。 お茶も、それにあわせたものを用意しますね。」 …何気ない、会話。  …ああ、部外者って恐ろしい。 ……この言葉に、危機感を覚える事なんて丸でないんだから。  前言は、撤回しよう。   …きっと、たわいもない雑談は、途中で中断されるであろう。 願わくば、妖精騎士の胃腸が人よりも丈夫であらん事を。  ……病魔、魔器、始祖の庭園。 …それらと向き合うスリーエース。 …更に、彼らと向き合うことになった、アルカナという存在。 その導き手とでも言うアロンダイト=ブランドと柳乃月奈の会合は、おおよそ…こんなものである。