昼下がり。 仕事無し。 気温良好。 湿度良好。 さらには室内の清掃は完璧であり、程よい高級感と温かみのある色調で纏められた調度品もいい味を出していた。 そんな、完全無欠のAAAというギルドにおける今日という日と、リビングの様子であった。  …しかし。  そんな完全無欠の環境にも多大なる欠点が存在していた。 リビングでソファに腰掛け、お気に入りのウサギの縫いぐるみを傍らに読書に勤しむ少女、リア。 …読んでいた本から視線を外すと、不満げに息を一つ漏らして、呟いた。 【 リア 】「……んー…あ、こんな時間。 ……ご飯、食べ損ねちゃった。」 さりとて、自分で動く気にもならず。 言葉にだけ表してみてから、そういう事をしてくれそうな人物はいないかと、部屋を見回し…   【リンネ】「―――あら、リアじゃない? どーしたの、って、本読んでるの? 昼も食べずに、飽きないわねー」       足音を響かせながら、リビングに現われたのは。特徴的な和服姿を纏った黒髪の少女、リンネ。丁度、視線を彷徨わせていたリアと目が合ったらしく、軽く手を振りながら近寄っていく。 【 リア 】「あら、リンネ。 おはようかしら。 中々いいわよ、こういう本も。 リア、夢のあるお話って好きだもの。」       読んでいるのは、大衆向けの娯楽小説といったところ。 リンネに向けてぶんぶんと表紙を振ってみせて。 【リンネ】「まあ、今日顔合わせたのははじめてだけど。もうお早う、って時間でもないわねー。 へぇ、小説、ね。ま、物語の中くらい、夢と希望に満ち溢れていたってバチは当たらないわね」       振られている表紙のタイトルを見て取り、ああ、彼女らしいと納得するように頷き。      「でも、夢もいいけど現実も見ておくべきだったわね。もうご飯、米粒の一つも残ってないわよ?」 【 リア 】「あら、本当?  現実は中々厳しいのね。 リア、困っちゃったわ。」        ころころと笑いながら。 困ったといっている割には、全く困ったような表情をしておらず、リンネのその容貌をじっと眺めて。      「でもリアはもうちょっと夢に浸りたくはあるわね。 心優しい誰かがそっと同じく心優しい女の子にプレゼントをしてくれるの。」  【リンネ】「シビアで容赦がないから現実、って言うのよ。一つ賢くなったわね」けらけらと軽い笑いを浮かべながら、リアの隣に腰を下ろし。       ドサリ、と、手にしていた袋をテーブルに置きながら。感じた視線に、真正面から向き直り。      「あら、そんな都合の良い物語みたいな夢はそうそう起きないものよ? そうねー、ま、現実的に考えるなら…誰かと約束していた、とか。その辺じゃない?」 【 リア 】「あら、リンネったら酷い。 まだ夢を見ていたい年頃の女の子にそんな事を言うなんて。 リアとっても悲しいわ。 うふふふふ。」       リンネが隣に座ったのを機に、読んでいた本を傍らに置いてリンネと向かい合い。      「でもそうね、リア、冒険者ですものね。 ちゃーんと交渉、しないといけないわね?」 傍らの袋に、ちらりと視線をやってから、意味ありげにリンネに向けてくすくすと笑ってみせる。 【リンネ】「あらあら、それは申し訳なかったわねー。でも夢を見続けるのは個人の自由だし。ついでに、見るだけじゃなくて夢を追い続けるのもいいんじゃない?」       片目を瞑り、肩を竦めつつリアを見て、そう言い。「交渉、ね?それはあたしと交渉しよう、ってのかしら?」       リアの視線の先、紙袋へと同じく一瞬視線を向けて。その中には、ごっそりと買い込んできた東方の食材、調味料の数々が眠っている訳だが……       まあ、恐らくリアは漠然とだが感付いているのだろうなと思いつつ。先を促すように、つい、と流し目をくれて 【 リア 】「ねえリンネ、意外と人間って、軽く交わしただけの言葉をよーく覚えていたりする事はないかしら? ほんのちょっとした、特に重大なシーンでもないけれど、なんとなく頭の隅に残っているような、そんな言葉。」       瞳を閉じて、歌うように、すまして言葉を紡ぐ。 少し、間をおいて。 瞳を開けば、傍らにおいてあった縫いぐるみを抱き、背の差のあるリンネの事を上目遣いで見上げる。      「そしてね、リア、そんな小さな事を覚えている人って、とっても素敵 【リンネ】「何気ない時、ふと呟かれた言葉を覚えてるかどうか、ね。 まあ、あたしもそういうの、覚えがないって訳じゃないわねぇ…」       リアの言葉に腕を組んで。置かれた間の時には既に、ふむ、とここ最近の記憶を掘り返し始め。       この場でああ言い出すからには、きっと自分が言った何かを、しかも言った当人がころっと忘れている何かをリアが覚えているという事なのだろう。      「軽く交わしただけのちょっとした言葉を覚えてる、ってのも意外とない……あ」       思わず、間の抜けた声が漏れる。 そういえば、以前の、依頼で確か―――「ごはん、つくってあげるって約束、してたっけ?」 【 リア 】「あら、そうね。 そんなことも言っていたわね。」 帰ってきた問いに、満足したように、嬉しそうに頷きながらうんうん、と、満足そうに首を動かす。        要求をしておいて、さも自分も今思い出したかのような、そんなポーズをとって見せる、そんな背伸び。視線をまた、ちらりと揺らす。      「ねえ、リンネ、その袋の中に入っているのは何かしら? こういう事を言うとレディらしくないんだけど、リア、なんだか気になっちゃって。」 【リンネ】「―――よく覚えてたわね、あたしなんてすっかり記憶の中に埋もれてた、ってのに。流石に、今はまだ夢より食い気のある現実がお好みなのかしら?」       からかうような言葉。しかし、実際はバツが悪そうに頬を掻く。言い出しておいて完全無欠に忘れていたというのは流石に悪い事をしたなとは思う。       が、幸いと言うかなんと言うか、本日朝早くからの買出し成果は、早速役に立ってくれそうで。      「はいはい、じゃあ可愛らしいレディにご説明してあげるわ。コレの中は、早朝から市へ繰り出して仕入れてきた、東方の食材、調味料の数々よ……こっちじゃ希少だから、値は張ったんだけどね」 【 リア 】「あら、レディにはそれに相応しい食事があるって言うだけの事よ。」からかうようなリンネの言葉に、若干頬を膨らませて答えながら。       直ぐに興味は袋の中に詰められたそれに移って、ちらちらと気になるように、目を流す。      「ね、リンネ、見ていいかしら? どんなものが入っているのか、ちょっと気になるの。」 袋の傍によりたそうに、足をぱたぱたと動かす様は、口で言うほどレディの条件を満たしてはいなかったが、瞳を輝かせて。 【リンネ】「はーいはい、あたしの手料理が、瀟洒なレディであるリアに相応しい食事だっていうなら光栄の極みね。身に余りすぎて涙が出そうだわ」       くつくつと喉奥で笑みを噛み殺しながら、リアの頭を撫でて。表情だけは面白そうにしていたが。       「ええ、いいわよ――はいはい、直見せてあげるから、そんな脚をバタバタさせないの、はしたないわよー?」リアの膝の上に、紙袋の一つ――軽い方を乗せ、袋の口を開いてみせる。       中に詰まっているのは、昆布、椎茸、鰹節、山葵、山椒、そして数種類の茸などが、かなりの数量詰め込まれている。 【 リア 】「……ふぅん……本当に見たことないものばかり。」 興味深そうに昆布や椎茸を手にとり、観察して目をしばたかせる。       「ううん? こんな硬そうなもの、食べられるの? でも、香りは悪くないかも。」 こんこん、と、鰹節を拳の裏で叩きながら、不思議そうに、だが楽しそうに袋の中と戯れる。 【リンネ】「まぁ、東方の食文化って、コッチと違って独特だしね。向こうはどことなく獣肉を避ける食習慣があるから、自然と野菜やら海産物やらが主体の食事になるのよ。       その硬いのは鰹節。こっちの昆布や椎茸と一緒に、出汁をとるのによく使われるわね」 リアが興味を示すもの、一つ一つに丁寧に答えながら。      「で、まあ。これらを使って東方の料理を作ってみよう、って訳。いやー、早速役に立つとは思ってなかったけど」 【 リア 】「ふうん、これはそういう風に使うのね。」 一つ一つの説明に、こくこくと頷いて答えながら。      「リア、お野菜は好きだから東方の料理も問題なく食べられそうね。」 どんなものが出来るかはまだわからないが、唇に人差し指を当てて考え込んで、そう結論をつけて。       「そういえば、リンネは、どんなものを作ろうと思っていたの?」 【リンネ】「乾物だけじゃなくて、魚も買い込んであるわよ――コッチは流石に痛むの速いから、氷室の中に放り込んであるけど。後は、これがないと欠かせない、醤油もね」       此方の説明に、頷き通しのリアの前に、たっぷりと醤油が詰まった一升瓶をどん、と置いて見せて。      「そうね、白米のご飯にお吸い物、お刺身に茸と山菜を使った料理を、って考えてたんだけど」 【 リア 】「あ、お刺身ならリアもわかるわ。この前いった温泉で出てきたの。 生のお魚の切り身よね? あれ、美味しかった。       お刺身って、東方の方にある料理だったのね。 うふふ、リンネを捕まえたかいがあったわ。 それ、お醤油?」       メニューを聞いて行くうちに、目を輝かせて。 出てくるものが判れば、今ここにあるものがどのような料理に変わるのかと、想像を走らせる。 【リンネ】「ああ、あの福引であたったとか言う……慰安先でも厄介事抱え込んできたらしいけど、それはそれとしてしっかり堪能することは堪能してきたって訳ね。       そうよ、海魚を捌いて、生のままで食べるの。モノによっては軽く熱を通す事もあるけど。そして、その刺身に欠かせないのがこの醤油ね。       こっちは大豆醤油、こっちは魚醤。どっちも東方料理には欠かせない調味料なの」もう一つ、紙袋から醤油瓶を取り出して見せて。       「リアもご飯食べ損ねでお腹空いてるでしょうし、そろそろ作りに行くわよ?」 【 リア 】「あ、うん。 リア、ここで待っていればいいかしら?」 食材とリンネとを見比べて。 食堂と厨房の光景を思い描く。       ……確かに刃物の扱いには長けていそうなリンネだが、もしかしたら色々と面白いものが見られるかもしれない、などと、そんな事を思う。       「ね、リアも後ろで見ていていいかしら?」 【リンネ】「そうね、折角だし、作る所から見てみれば? ただ、調理中はなるべく大人しくしててもらうけど。あたしも他の事に気を割きながらできるほど手馴れてないから」       興味旺盛なリアのことだから、と思いそう言ってみたが、果たしてそれより先に予想通りの発言。それに言葉を返しながら、テーブルに広げた材料を紙袋に仕舞い、それらを抱えて      「さ、それじゃ厨房をちょいと借りるとしましょうか」リアを促しながら、自らも歩を進め出して。 【 リア 】「大丈夫よ、リア、自分も食べるご飯を作っている人に対して悪戯なんてしないもの。」 リンネの後ろにつき、後ろに手を組んでひょこひょこと歩きながら。      「ご飯もたまには食べそびれてみるものね、期待しちゃうんだから、リンネ?」 【リンネ】「それは自分が食べるご飯じゃなければ悪戯するかも知れない、って事かしらー?」肩越しに後ろを振り返り、片目を瞑ったままの、からかう様な表情、からかうような口調。       廊下に話し声と足音を二人分、響かせながら。厨房への入り口を潜り。      「毎回アテにされても困るわよ、次はちゃんと食べなさいよ? 腕の方は、出来栄えを御覧あれ、って事で一つ」 【 リア 】「あら、言葉が悪かったかしら、悪戯なんてレディらしくないわね。 そうね、スキンシップ。スキンシップっていい言葉よね、こういう風に読み替えておいて?」       昼時は過ぎ、午後の廊下を二人で歩みながら言葉を交わし、笑いあう。 【リンネ】「物は言い様、っていうのよ、それは。全く、とんだ小悪魔なレディだわね」けらり、と笑う。       なんのかんのでもう時間も時間。この小さなお客様の為に、腕によりをかけて料理を作って見せますか――人知れずこっそりと気合を入れなおし、着ていた振袖の袖を大きく捲くり。       身につけるのはエプロンではなく、割烹着。 【 リア 】「あら。……なんだかそれをきたリンネって、5か6つくらい、歳が上になってみえるかも。 不思議ね、ちょっと服が変わっただけなのに、なんだか雰囲気が違う気がする。」       壁に寄り添い、リンネのほうをぼうと見つめながら。 ぽつりと、上から下まで眺めて、そんな事を告げる。 【リンネ】「割烹着っていってね、東方の…そうね、エプロンみたいなものだと思えば良いわ。        これは家庭の台所を預かる奥さんなんかが着るものだから、なんとなくそう見えるんじゃない?こういうのも衣装効果、って言うんでしょうねー」       リアの言葉に受け答えをしながらも、テキパキと準備を進めていく。水を張った鍋を火にかけ、材料を取り出し水洗い、氷室からは刺身用に買い求めた鮮魚を取り出して       ――実に自然に、澱みなく動いて調理を進めていく。 【 リア 】「ふうん。 リアも大きくなって、そういう服を着ることがあるのかしら? …あんまり、想像できないわね。」       包丁とまな板の音。 調理の音に耳を澄ましながら、その後姿を眺めて。 真剣に見つめているわけではないが、片時も目を放すことはなく、なにかをかんがえるように、ただ、じっと。 【リンネ】「さあ、リアは割烹着よかエプロン……ああ、エプロンドレスなんて良く似合うんじゃない? 流石にそれで台所には立てないけど。        何にしても、大人になってからの未来なんて、今難しく考える事ないわよ。アンタにはまだこれからの未来が、いくらだってあるんだし。       今はただ、精一杯今を楽しんで生きれば良いじゃない」軽快に包丁が俎板を叩く音。お玉が鍋を掻き回す音。食器同士が擦れ合う音。       色んな音を響かせながら、リンネの手の中で、数多の食材がその形を変え、料理へと作られていく――とはいえ、決して慣れている手つきだという訳ではないのは、ご愛嬌か。 【 リア 】「そうね。 精一杯楽しむ事にするわ。 リアね、…凄く楽しみにしていることがあるの。 先ずはそれを目標にしようかしら。」       くすくすと、リンネの言葉を受けて笑いながら瞳を閉じて、その部屋の音と、彼女の声だけに耳を傾けて、尋ねる。      「ねえ、リンネ。 料理をしたりしている今のこの時間、楽しい?」  【リンネ】「へぇ、アンタの楽しみにしてる事、ねぇ……何かしら? まだ知らない事を知る事?それとも、夢のような現実を追い求める事かしら?」       調理に集中する、その合間に聞こえてきた言葉。手を止める事無く、その言葉に答えを返すが。       「そうね、楽しいわ。料理している時だけじゃない、あたしが今生きている、この時間、この世界が、何よりも楽しいわ……あたしにとって生きるって事は、そう言う事だから」       気付けば、調理の手も止めて。瞑目したまま、くす、と笑みすら浮かべ、静かに答えている自分。 【 リア 】「うふふ、それは内緒。 でも、とっても楽しい事だから、リンネにもその時は教えてあげるわね。」 くすくすと、表情に自然に浮かぶ笑み。      「……ふぅ、ん。」 リンネの、静かな答えが聞こえてくる。 その答えの意味は、実はよくわからない。        だけれど…不意に、その答えがうらやましく思えて、溜息のような吐息と共に、返す。 【リンネ】「へー、それはそれは。そこまで言うからには、さぞや面白おかしくて楽しい事なんでしょうねー。なら、その時を期待させてもらうわ」       何時になるんだか分からないが、その時を楽しみに待つのも悪くない。にんまりと笑みを浮かべながら、再び調理の手を動かし。       卵豆腐、茶碗蒸しなど、手の掛かる卵料理を次々と作り上げていく。 「…ん、何、どうしたのリア?溜息なんて付いちゃって」 【 リア 】「ん? おかしなリンネ。 リア、溜息なんてついていた?」 その言葉と共に立ち上がって、手にしたウサギの縫いぐるみをふにふにと触って弄びながら。       先ほどの言葉の調子など何もなかったかのように。       「いいにおい。 おなかがすいてきちゃうわね。」 胸に厨房の空気を吸い込んで、うっとりと催促する。 【リンネ】「…そうね、あたしの聞き間違いかも。てっきり、料理が出来るのが待ち遠しくて溜息を付いてるのかと思ったわ」       確かに、何かの思いが込められた、溜息のようなものは聞こえた。が、きっとそ知らぬフリをすべきなのだろう。       だからこそ、なんでもない風におどけた言葉を返し。      「ふふ、まぁまぁ…折角だから、とっておきの松茸で、松茸ご飯とお吸い物と土瓶蒸しもつくってるから。 もう直出来上がるし、大人しくしてなさいね?」 【 リア 】「はーい。」 ころころと笑いながら答えて。 「東方料理、リンネの腕前がもう直ぐ明らかになるんで楽しみだわ。 他の皆がお昼ごはんを食べちゃったのを後悔するくらいに素敵なものだと、リアとってもうれしいわね。」        テーブルに肘をつきながら、リンネの後姿に視線を向けて。 唯待つ。 待っている姿は、本当に影のない、少し生意気な子供。 何時もの姿。 【リンネ】「全く、中々にプレッシャーを掛けてくれるわねー。 精々、舌鼓の5つ6つくらい打たさせてあげるわ。ほっぺが落ちないように覚悟しておきなさい、っての」       料理ももう終盤、残るは盛り付けのみとなって。予め用意してあった様々な器に、なるべく見目良くなるよう気を払いながら料理を盛り付け……       できあがったそれを、リアの待つテーブルへ運び、決して狭くはないテーブルの上を、所狭しと並べていく。 【 リア 】「わあ。 こんなに沢山。 リンネって、本当、器用なのね?  でも、こんなに食べられるかしら?」       並べられていくその一つ一つを、じっくりと観察して。 その彩や、匂いなど、目と鼻で、先ずは料理を先んじて楽しむ。      「でも、東方の料理って、なんだか綺麗よね。 なんとなくリア、そんな風に思うわ。」 【リンネ】「刃物の扱いにはそれなりに慣れてるけど、だからって料理が上手って訳でなし。器用にこなせるようになるのに、かなり練習したものよ。       量に関しては、あたしも食べるんだから問題ないない」       全ての料理を並べ終え――テーブルの上には、色とりどりの東方料理が、咲き綻ぶ華の様に。      「東方の料理は、素材そのものの味を引き出すように、そして見目も重視して洗練された料理なのよね…まあ、今回は相当に気合入れて作ったからこんな豪華だけど」 【 リア 】「でも、リンネ。 リアが言わなかったらこれだけの量を、一人で食べるつもりだったのかしら? リンネって、意外とおおぐらいさんなのね。」       目の前に並ぶそれに感嘆しながらも、料理を終え、配膳を終えたリンネに何時もの調子で茶々を入れるのも忘れない。 【リンネ】「まさか、リアがいるからこれだけ作っただけ。あたし一人だったら、こんな大量に作ったりしないわよ、何せちょっとずつ味わって食べるのがいいんだし。       とはいえ、これで買い込んできた材料、半分近くは使ったんだけど」       そんな茶々交じりの言葉に笑いながら、リアの向かいに座り。      「ま、熱いうちに食べて欲しいのもあるし、遠慮なく召し上がれ。 ああ、箸は使えるわよね?」 【 リア 】「ええ、かんながたまに使っていたからわかっているわ。  それじゃあ、リンネの努力の結晶、頂こうかしら。」        ゆっくりと手を合わせて。 「いただきます。」 …リンネの方に表情を向けて、にやりと唇をゆがめる。      「こんな感じの挨拶で、いいんだったわよね?」 【リンネ】「かんな…ああ、夕凪かんな。あの暴風のように突然現われて、あたしらを散々ひっぱりまわしてくれた…そういえば、リアの事、気に掛けてたみたいだったわね」       先日初めて遭遇した、女傑、と言って良いのだろうか、豪放磊落を絵に掻いたような女性の姿を思い出しながら。        ふと視線を動かせば、なかなかに様になった仕草で手を合わせているリアの姿。      「へー、意外に様になってるわねぇ。そんな感じで結構よ…じゃああたしも、いただきます、ってね」 【 リア 】「ま、一応はリアの元保護者ですもの。 今は今で、元気にやっているみたいだけれど。」 そういいながら、茶碗蒸しに箸をつけて。       「…あ、美味しい。 リンネ、上手じゃない。 ヴェスティアで食べたのと同じくらい美味しいかも。」       はぐはぐと、一口食べれば空腹も手伝ってか、何時ものリアよりも早いペースではしをすすめる。 嬉しそうに、掘り出し物を見つけたような表情で、リンネに向き直り。 【リンネ】「元気元気、散々人様の財布の中身を脅かすだけ脅かしてくれたし…まあ、色々と懸念してる事はあるみたいだったけどね」        ふと、あの時、彼女が残した言葉の数々を思い出しそうになり。頭を振ってそれを追い払う。食事時くらい、辛気臭い考えはやめておくか、と。 【リンネ】「それはまた、お金とって商売してるようなトコと同レベル、ってのは多分にお世辞が入りすぎだわね。 言われて悪い気はしないけど、少なくともお口に合ったのなら良かったわ」       随分と褒めてくれるリアの言葉に、頷きながら自らの作った料理に箸を伸ばす――少なくとも、味は決して悪いものではないなと、思いながら。 【 リア 】「でも、約束はしておくものね。 うふふ、リンネにはお礼を言わないと。」 そういいながら、刺身に舌鼓をうって。      「…でも、今こんなに食べちゃったら、夕ご飯食べられなくなっちゃうかも。 うふふ、二人で食後のお昼寝でもしている?」        まだ明るいが、昼ごはん、というには遅すぎる今の時間を改めて確認しつつ。 【リンネ】「言いだしっぺとして、きちんと約束を履行できて良かったわよ。忘れたままが続いてたら、流石にねぇ」       バツが悪いどころの話ではない。しかし、今回こうしてリアが喜んでくれたのであれば、腕を振るった甲斐は十二分にあったというものだろう。      「お昼寝、ねぇ。なかなか魅力的な提案だけど、食べて直寝ると太るらしいわよ?いいのかしら、リアは?」       もしかすると横にぷっくり大きくなるかもよ?などとからかいながら、楽しい食事の時間を過ごしていく。 【 リア 】「あら、リアはちゃんと気をつけているもの。その辺りは、抜かりはないわ。 リンネこそ平気なの? そのお胸みたいにおなかも膨らんじゃうかもしれないわよ? うふふふ。」  軽口に、軽口で返しながら。 団欒の時を過ごす。 表情には、笑みばかり浮かぶ。 そんな時間が、静かに穏やかに流れていく。 厨房の中、絢爛な料理を前にして、二人。笑いながら、穏やかな時を過ごしていく。 世界は今日も、何も変わらない。同じ様に日が昇り、そして同じ様に陽が沈み、やがて静寂の夜が訪れ、一日が終わる。 そんな、代わり映えのしない巡る日々の中で。こうして、穏やかに、そして楽しい時を過ごす事が出来るのは、きっと幸せな事なのだろうと思う。 中天を過ぎた陽は緩やかに傾き、柔らかい陽射しを地に降り注がせる。 そんな、ゆったりとした午後の時間。夕食までの間、中庭の木陰で仲良く、眠りこける二人がいたかどうかは。 余人の想像に、お任せするとしよう―――