そそり立つ岩、灰色の道 所々に、へばりつくように生える草の他は、色など無く。 用がある者以外は、獣すらあまり立ち入らぬ大地 だが、そちらへと向かう一団があった 呼気の代わりに、蒸気の嘶きをあげる馬 その背には、それなりの荷物と、人の姿 あとに続く、何頭かの。これは普通の馬の背にも、荷物が結わえられ、人が乗っている。 【リーシュ】「ここまで、何も無しに来れましたか。荷が多かったので不安でしたが」と、人外の住まう庵へ続く、洞穴を見上げて 【フェリィ】「そう、だね。襲撃は警戒してたけど…何事もなくってよかった」ほぅ、と安堵のため息を。 【リーシュ】「そう、貴重な物ではありませんけれど。何かあると傷みますしね」馬の背の袋からは、土の匂いと、海の匂いが微かに漏れ出でていて 【フェリィ】「うん――助けてもらったから。お礼、だよね。ちゃんと届けられそうでよかったよ」少しだけ後ろを振り返り、荷物を確認しながら 【リーシュ】「ええ。皆さんも、もう少しですから、頑張ってくださいね」フェリィに頷きを返して。後方の、手伝ってくれているギルドメンバー達に声を掛け なだらかではない、庵への道を。気をつけながら馬を進ませる 姉の言葉に同じ様に頷いて…皆に指示を飛ばしながら。 【リーシュ】「ごめんください、天孤九尾様は居られますかしら?」そして、1つの洞窟の前に止まり。中へと、声を掛ける 【フェリィ】「こんにちは――いらっしゃいます、か?」同じ様に、声を上げて―― 【天狐】「なんや姉さん等か、どないしたん?」ふぁと欠伸一つし洞窟から出てくる狐耳 【天狐】「留守にしとっても近場の温泉か、馬んとこやなぁ、最近姉さんこーへんし」ころころと鈴の様に笑いながら 【リーシュ】「こんにちは。求められた対価は支払いましたけれど、お礼に、と。奥の座敷も、随分滅茶苦茶にしてしまいましたしね」と、苦笑しつつ、馬を下りて 【フェリィ】「色々と、お礼…かな。お世話になったし、部屋のこともあるし…荷物、運んでもいいかな?」と、天狐に声をかけて 【天狐】「気にせんでもええんやけどなぁ。ええよ入っておいで、その方が気は済むんやろ」笑いながら足音もなく洞の中に戻って行き 【フェリィ】「それじゃ…えっと、お邪魔します。皆、こっちに荷物を運んで――9人までしか入れないから、力のある人についてきて欲しい」と、指示を飛ばしながら。 【リーシュ】「あんな御題を出しておいて、それも無いでしょう。他にも、独自で動いている仲間も居るようですし」馬の背から、荷物を下ろし。胸の前に抱えて、後について 【天狐】「うん?姉さんらを知るんにはええ質問やったと思うけど」振り返って 【リーシュ】「確かに。興味深い答も幾つかありましたけれどね」くすりと、小さく笑い 【フェリィ】「…でも、最初はどう答えようか本当に迷ったよ…? 凄く悩んだんだから…」同じ様に小さく笑って 【天狐】「迷う子やから手を差し伸べる価値があるんやとうちは思うけどなぁ、あそこでええかっこだけの答えやったらつまらんやろ」 【フェリィ】「…それも、そっか…。でも、リボン…渡さなくって本当によかった――」自分の髪に結ばれた赤いリボンに触れて 【リーシュ】「あらあら、それでは確かに。迷わない私の答は面白くなかったでしょうね」フェリィがリボンに触れるのを見て。自分もそっと、蒼いリボンに、大事そうに手を這わせて 【天狐】「お金で価値を図るんでしたら賊さんと変わりャしませんしなぁ。つぎはもーちょい気の聞いた答えで頼みますんよ」 【リーシュ】「あちらはむしろ、代価を支払わずに襲い掛かって来そうな気はしますけれど」今はもう無い、妖精の村の方を見やって 【フェリィ】「…姉様らしい答えではあるけど、ちょっと不安だったよ」姉の方を見、笑みを見せて…「海賊たちなら…何でも、してきそうな気はするから…」目を伏せ、色んなことを思い出しつつ 【天狐】「それは身の丈に合わん答えとして丁重に葬らせて貰いますけどなぁ」 【リーシュ】「むしろ葬ってくださった方が、色々安心はできるとは思うのですけれど。彼らの力も、貴方の力もよくは存じませんから、油断召されぬよう、とだけ」 【フェリィ】「…色々と運ぶものが多いけど――えっと、部屋の入り口に邪魔にならないように置いておけばいいかな?」 【天狐】「部屋ん中やったら何処でもかまいやしませんねぇ。そういや何を持ってきたん?」 ぴくぴくと耳が興味を引いたように揺れて 【リーシュ】「畑や、海の収穫ですね。あとは、砂糖など……」袋を開くと、とうもろこしのひげが覗いて 【天狐】「無闇にはやりゃしせん、喧嘩売ってくるんなら買うてはあげますけどな」 【フェリィ】「色々と、ベース付近での収穫だね。お礼として持っていくなら…たくさんの方がいいかなと思って」別の袋を開くと、顔を見せるのは干した魚 ここが山中だから、と。魚は干物を中心に。畑の作物も、この島ではあまり見掛けない物を選んで 【天狐】「酒のアテには丁度ええなぁ。賄いさんと飲むんの付き合いも居ったらなお宜しいねぇ」 【リーシュ】「流石に、こちらに固定で人員を派遣するのはちょっと。試練自体も、私の私事ですし。時折、料理に来るくらいは構いませんけれども。立場がありますので、少し五月蝿くなりますね」 【フェリィ】「残念だけど、私はお酒はあんまりかな……何か料理作るとかそれくらいなら出来るけど」その言葉に苦笑を浮かべて 洞窟の外に残してきた、仲間を見やって 【フェリィ】「あー。あんまり勝手には動けないもんね…私たち。今日少しくらいなら、何か手伝える…のかな」 うーん、と首を傾げ…考えながら 【リーシュ】「すっかり、要人になってしまいましたからね。ただの、商家の娘でしかないのですけれど」 【天狐】「それは期待せんと待っときますな。そやねぇ羽でも伸ばしたらよろしいで、姉さんの方は一寸はいける口らしいですしなぁ」 思いもかけない、今の状況。妹が巻き込まれていなければ、少しは気が楽だったかもしれないけれど 【フェリィ】「まぁ…えっと、それはもうどうしようもないから…頑張ろう、ってだけかな。お酒は…私もちょっと飲めるようになるべき?」と、天狐に尋ねつつ 【リーシュ】「多少は。修道院の方に、悪い先輩が居りまして」もう、遠い出来事。フェリィと結ばれた今では、封印したくなるような記憶も多々あって 【天狐】「アラクネの姉さんも好きですしなぁ、飲めるっちゅうんは交渉の幅がひろまりゃしますんよ。まあ無理に飲んでもたのしゅうは無いですし妹さんは好きにしたらええと思いますんよ」 【リーシュ】「強いに越した事はありませんけれど、呑めなければいけない、という事はありませんよ。加減を誤ると、そのまま死んでしまう事もありますしね」 【フェリィ】「……うん。余裕が出来たらちょっとずつかな――飲めないって言うのも、ちょっと何とかしたいかなって思うし」二人に対して、笑い返しながら 【リーシュ】「こればかりは、体質もありますからね。鍛えたいのでしたら、何本かは確保しますけれど。癖にならないように、気をつけてくださいね?」 【天狐】「最初は葡萄酒でも水で薄めてのんだらよろしいねぇ」 【フェリィ】「うん。姉様は結構強いから……私も平気だと思うの。葡萄酒を水で…、ね? 覚えておく」頭の中に、その言葉を刻んで 【リーシュ】「葡萄酒ですか。これからが季節ですし、作ってみるのも手かもしれませんね。お酒になるのは、暫く先になりますけれど」葡萄の群生地帯を、地図からピックアップして 【天狐】「それでどないしますん姉さん?試す気あるんやったら二、三本土産にしてあげましょかねぇ」 【フェリィ】「ん……今度、弱めのお酒をもらえたらもらってみる。部屋でちょっと飲んでみて――慣れようかな」 【リーシュ】「それでは……そうですね、頂きましょうか」暫し、逡巡し掛けるも。フェリィの言葉を聞いて、即座に答え 【フェリィ】「姉様と一緒にお酒楽しめるなら楽しみたいし、他の人ともそう出来るなら…嬉しいから」にこりと笑い 【天狐】「ほいほい、んな決まりやなぁ、馬は酒弱いから相手に為らんでなぁ」にまぁっと嬉しそうに笑って 【リーシュ】「あらあら、酒飲み仲間に釣られてしまいました?」冗談めかした微苦笑を向けて 【フェリィ】「ん…ほら、お酒私飲んだことなんてほとんどないし――これから必要かなって思って」 【リーシュ】「鱗の民との折衝などには、必要かも知れませんね。ですけれど、ギルドの方としては、どうでしょうね。フェリィの治め方ならば、一緒に呑めた方が、連帯感は強まるかもしれませんね」 利点、欠点を、状況を想像しつつ考察し 【フェリィ】「…んー。考えるよりは少しやってみてからのほうが――私はいいかな」くすくすと笑いながら、詰まれている荷物の確認を始めて。 【リーシュ】「ただ、加減は見誤りませんように。アランさんとファルシアさんの試練の発端も、深酒ですし。責任者がそれをやると、目も当てられませんから」くすりと、笑いながら釘を刺して 【天狐】「ほな、軽めの酒用意しましょかねぇ……姉さんらを酒のアテにしてもよろしそうですなぁ」にまにまと笑って 【リーシュ】「私たちを、ですか? どういう意味でしょう?」小首をかしげ 【フェリィ】「うん、その辺りは気をつけるよ――え、私たち?」同じ様に、首をかしげ 鏡のように、左右対称に 【天狐】「よー知らん相手は見てて楽しいですやん?」ククククと笑って 【フェリィ】「…えっと、どういう意味だろう?」きょと、とした表情 【リーシュ】「質問もそうでしたけれど、少し趣味が悪くありません? その程度でしたら、私は構いませんけれど」少し困ったように小さく笑い 【天狐】「お二人さんのお話が楽しいってことですんよ、深う気にしたらあきません」 【フェリィ】「ん…別に話を聞いてるくらいなら――ね」と、姉に顔を向けて。 【リーシュ】「ええ、こちらも。代わりに多少の話でも聞かせていただければ」と、妹に顔を向けて。 【天狐】「ええですよ何が聞きたいんかじっくり聞かせてもらいましょか。それじゃ場所変えて座敷にいこか。」 【フェリィ】「うん、えっと…何を話せばいいんだろう、そういわれるとちょっと困るかも」少しだけ困ったような表情を浮かべ… 【リーシュ】「それではお邪魔させてもらいますね。そこまで気負わなくてもいいと思いますけれど」荷物を下ろし、居住まいを正して 【フェリィ】「お邪魔します、改めて…かな?」首をかしげながら 【リーシュ】「聞きたい事は、彼女の方が水を向けてくれるでしょう。それに、私も一緒に居ますしね」 【天狐】「ほなこっちや、付いといでー」新しい飲み仲間が出来たのが事の外嬉しいのか上機嫌に そして、襖の奥に消えた3人が、一体どんな話をしたのか それは、誰にも分からない ただ、少し紅く頬を染めたギルドマスター二人が、来た時よりも上機嫌であったと。同行したギルドメンバー達は証言している なお、忘れ物をしたギルドメンバーが庵を訪れた折。積んであったお礼は跡形も無かったそうだ