孤島、そのベースキャンプには、大勢の者が暮らしている。 初期の調査団の一員として島へとやってきた者たちもいれば、その後、様々な理由で島へと打ち揚げられた者も居る。 とかく、今では大勢の者達が、仲間として共に生活している訳なのだが。 ……さて、ここで一つ。問題、のような点が一つ、存在する。 ―このベース内、何故かは不明なのだが、男女比率に少々、開きが存在する。 現在、どちらが多いのかと言えば――戦うことのできる、ギルドに所属する者達で括れば、明らかに女性が多い。 男性諸兄の中には、少々肩身狭い者も、ひょっとしたら居るかも知れない――ああ、一部、果報者は除くとして。 そして、ここにも少々、肩身狭い思いをしている男性が一人、ベースの片隅で黙々と、武器を振るって訓練に励んでいるのですが―――     【 アベル 】「――ふっ!…ハッ……ッ!」呼気鋭く、踏み込みは力を込めて一瞬。手にした刃を、模擬戦用の人型へと叩き付けて。       天高くから照りつける日差しは、じわじわと身体に降り注ぎ。汗ばむ手の感触に、再度振り上げた剣をゆっくりと下ろす。        時刻は、恐らく昼を少々、回った頃だろうか。 【リネット】「えーっと…あっと、いたいた」ベースの中を何箇所か探し回り、ようやく剣を振るう少年を見つけ、一直線にそちらへと歩いていく       「こんな場所にいたの?」腰に手をあて、少し不機嫌そうな視線を向け 【 アベル 】「ふぅ……ちっと休憩するかな」滴りそうな汗を拭いながら、腰を下ろそうかとした矢先。聞こえてきた声に、ほぼ反射的に振り向く。       「…って、り、リネット!?な、ななな、何で此処にお前が居るんだよ…」 【リネット】「探してたからに決まってるでしょ?もう、随分探し回ったんだから」赤い髪を風に靡かせながら、やれやれと肩をすくめ 【 アベル 】「あー、なるほど、それは分かった。だがその、だな?何でわざわざ俺を探し回ったりしてたんだ?」       何度か行動を共にした相手、普通に受け答えくらいなら…と、思うのだが。極端に女性に対して身構えてしまうのは、やはり止められないらしい。       じり、と、間合を取るように若干、後ずさっている身体。 【リネット】「ちょっと荷物運んで欲しいのよ。いいわよね?」じっとアベルを見つめ、しかし、一定以上距離は詰めようとせず 【 アベル 】「荷物、か?あぁ、力仕事なら確かに、お前向きじゃないだろうしな」その視線に少々、身体が硬くなるが。       だが、そういう理由で自分を頼ってきたと言うのであれば。むしろ視線を逸らす、などという失礼な真似はできない。       それでも、肯定の意思を込めて振った首の動きが、ぎくしゃくしていたのはご愛嬌だろう。 【リネット】「女の子の頼みを断らないのは好感が持てるわよ。じゃ、とりあえず、着いて来て」肯定の意志を受け取ると、くるりと踵を返し、てくてく歩いていく 【 アベル 】「ああ、分かった」一つ頷き、抜き身の剣を鞘に収め。一定以上の距離を保ちながら、リネットの後ろについて歩いていく。       「で、先に聞いておきたいんだが。荷物って、一体何を運べばいいんだ?」 【リネット】「テーブルよ、テーブル」振り向かず答えながら歩き続け、昼の時間も過ぎ人も疎らな食堂       「じゃ、そのテーブルと…そっちの椅子2つお願いね。あたしもうちょっと持っていく物あるから、先に東の木陰に持って行っておいて」       そう告げると、さっさと食堂の奥へと引っ込んでいく 【 アベル 】「テーブルに、椅子…っと、こいつと、こいつだな」指示されたそれらを、軽々と担ぎ、或いは手に引っ掛けて。       「ああ、木陰に並べとけば良いんだな、分かった」奥へと引っ込んでいく背中に声を掛け。大荷物を苦もなく、目的の木陰へと運び、テーブルと椅子を並べて。 【 アベル 】「ま、こんなトコか……しかし、なんだってわざわざ運び出す必要があったんだ?飯なら普通に食堂で食べれば良いだろうに……」       リネットの意図が分からず、首を傾げ。とりあえず、椅子にかけて待つことにする。 【リネット】アベルが一式並べ終わった頃、トレイをひとつ持って指定の場所へと現れ 【リネット】「ん、なかなかいい感じね」トレイの上にはカップが2つと紅茶セット、それに小さな籠に盛ったクッキー。       そのトレイをテーブルに置くと、自分も空いた椅子へと座り「お疲れ様、助かったわ」にっこりと微笑みを浮かべると、紅茶セットを手際よく準備していく 【 アベル 】「良い感じも何も、テーブル下ろして椅子並べるだけだからな……って、何持って来たんだ?」       テーブルの上に置かれたトレイ、それに載せられてきた品物を見て。そして、ティーセットを用意するリネットを見て……思わず、本音が漏れた。       「…お前、お茶なんて淹れられたのか? ものすごく意外なんだが」 【リネット】「…アンタあたしを一体どういう目で見てるの?」がしゃんとカップが音を立て。アベルへとじとーと半眼を向け「ちなみにこれもあたしが焼いたんだけど?」       籠に盛られたクッキーを指差し「毒とか言ったらコロスから」にっこりと満面の笑顔を向けると、紅茶を注いだカップをアベルの前に差し出す 【 アベル 】「あー、いや、そのだな。別段、深い意味があったわけじゃないんだがー……」半眼で此方を見やるリネットは、明らかに機嫌を損ねているようで。       思わず乾いた笑いをあげながら、クッキーに視線を向けて。「幾らなんでも毒は盛らないだろう…毒に匹敵する物体ではあるかもしれないが…」       差し出されたカップを、ぎこちない仕草で受け取りながら……またも、余計な言葉が口を付いて出た。 【リネット】「ケンカ売ってる?もしかしてあたしには家事なんて出来ないとか思ってる?」笑顔のまま、こめかみにピシッと#マークを浮かべ       「まあ、とりあえず食べなさい」クッキーの籠をアベルのほうへと押し出す 【 アベル 】「いや、決してそういう訳じゃないぞ。なんというか、これは相互理解努力が必要なだけであってだな……あー、その、何だ……すまん」       迫力負けした訳ではなく、これは自分の物言いに非があったから――と、心に言い聞かせつつ頭を下げて。       「あ、ああ…それじゃ、一ついただくか…」一つ、摘んで、そのまま口の中へと放り込んで。 【リネット】「そう、それよ。相互理解努力、それが大事なのよ。わかってるじゃない」アベルがクッキーを食べる様子を見ながら、びしっと指をつきつけ 【 アベル 】「―――……うん、悪くないな。あんまり、菓子とかは食べたことないけど、結構美味いと思うぞ」何度か咀嚼して飲み下しつつ。       真剣な表情で、味に対する評価を述べ。 【リネット】「ありがとう」ふわりと微笑み、素直に褒められたお礼を述べる 【 アベル 】「あ、いや…まあ、そう思ったから、正直に言っただけだ。別にお礼なんて必要ないさ。        むしろ、これを食わせてもらってる俺の方が礼を言わなきゃいけないだろ――ありがとな、リネット」       その笑みに、何となくそっぽを向きながら。それでも感謝の言葉を口にする。何となく頬が赤くなっているのを自覚し、誤魔化すようにぽりぽりと頬を掻いて。 【リネット】「どういたしまして」瞳に涼しげな色を浮かべ、アベルのカップに紅茶を注ぎ足し「何だ、ちゃんとコミュニケーション取れるじゃない」       ことん、とポットを置くと自分のカップを手に取り、一口、口に含む 【 アベル 】「ああ、まあ……一応、ある程度距離もあるし、それに、お前とは何度か一緒してるからな……多少くらいは、慣れた、ってのもあるんじゃないか?」       カップを手に取り、注がれた紅茶を口に含む。 ふわりと立ち昇る艶やかな香りに、感嘆の溜息を漏らして。       「――紅茶の淹れ方も、本当に巧いんだな。案外、いい嫁になれるんじゃないか?」そんな事を、何の気なしに口にして。 【リネット】「まだ他の娘は苦手?」カップを置くと、真っ直ぐ視線を向け「あ、これでも紅茶の淹れ方には自信あるのよ」紅茶を褒められ、嬉しさを隠しきれず少し目元を細め       「あ、あたしのことはいいのよ、あたしのことは!で、アンタこのままじゃずっと一人でいるつもりじゃないんでしょ?」       少し頬を染め、ごまかすよう八重歯を見せながら怒鳴る 【 アベル 】「他の、っていうかな…まぁ、まだ女性そのものに対しての苦手意識が払拭できてないから、何とも言えないな……        お前とだって、割とこれでも緊張してるんだが」言葉を切って、再び紅茶を口に含み。カチャ、と微かな音を立ててカップを置いて。       「いや、俺は男だし、別に身を固めようとかは大して思わないんだが…女性ってのは割りと、恋とか結婚とかに憧れるものなんじゃないのか?」       リネットの様子に首を傾げながら 【リネット】「そりゃ…」頬に人差し指を当て、少し考え「あたしだって憧れないことはないけど…って、だから、あたしのことはいいの!」       カァと頬を染めると再び八重歯を見せ「男だからこそ、身を固めなきゃいけないんでしょ?……わかった、決めたわ」腕を組み、一つ大仰に頷く 【 アベル 】「へぇ、やっぱりか。だったら、リネットなんて割と、男なら放って置かないんじゃないか?        料理も上手いし、気遣いだってできるし…まあ、行動力のあるところも、うん。悪くないと思うぞ?」腕を組んでうんうん、と一人納得するように頷く。       「いや、男だから、って言われてもだな…そもそも、俺はそういう話し以前の問題で――って、何だ、何を決めたんだ?」 【リネット】「…アンタ本島に女の子苦手?」褒め殺され、思わず頬を染め、じとーと半眼でアベルを見つめ「ま、まあいいわ…こほん」       仕切りなおすよう咳払いをひとつすると、アベルへと人差し指を突きつけ「アンタの女の子に対する苦手意識はあたしが責任持って治したげるわ!」 【 アベル 】「苦手じゃなかったら、あんな風にこそこそベースの隅っこで練習なんぞする訳ないだろう……女性陣の中にも、手合わせしてみたいヤツはいるからな」       は、と、困ったような溜息。がしがしと頭を掻きながら、咳払いをしたりネットに何事かと視線を向けて       「――ああ、リネット?お前、いきなり何を言い出すんだ?」その、突然の言葉に困惑するのを隠せない。 【リネット】「手合わせとかそういうんじゃなくて…まあ、いいわ」アベルの様子にやれやれと肩をすくめ       「いきなりじゃないわよ?今日は最初からそのつもりだったんだから」しれっと告げる 【 アベル 】「ん、そういうのでなければ何なんだ…?」肩を竦める様子に、訳が分からず何度も首を捻って考えるが。やはり分からず。       「…つまり、俺はあれか。見事に嵌められたという事か……」悪びれもせずに告げられた言葉に、思わず半眼で呻き。 【リネット】「恋人とか、わかるでしょ?!大体結婚もせずにひとりで一生終えるなんて神への反逆よ?グランアインの神官としてとても見過ごせないわ」       テーブルに両手を突いて身を乗り出すようにしながら       「嵌めただなんて人聞きが悪いわね。あたしはアンタがここで孤立するよう状況なんて見たくないから誘ったのよ」じっと真剣な瞳でアベルの瞳を見つめ 【 アベル 】「こ、恋人ってお前……そんなもん、ポンポンとできるようなものじゃないだろうに……後、グランアインは別に恋愛とも結婚とも関わり無かったと思うんだが…」       異様なまでに意気込む様子のリネットに、少々気圧されながら。それでもしっかり疑問は口にする。       「んー……まぁ、孤立、ってのは大袈裟なんじゃないかと思うんだが……とはいえ、その心遣いは、有り難く受け取っておくさ」       返す言葉は軽いが、それでも。リネットなりに自分を案じてくれているのは分かる。だからこそ、こちらも真っ直ぐにリネットを見据えて。 【リネット】「人生は戦いよ?それに恋愛も結婚も切り離せるものじゃないわ」さらにずい、と身を乗り出し       「人類の半分は女なのよ?しかも、この島には女のほうが多いんだから、女の子と関わり断ってたら絶対孤立するわ」独自の理論を自信満々に告げ       「…別に女の子がキライってわけじゃないんでしょ?」じっと見つめたまま、そっとアベルの手に自分の掌を重ねる 【 アベル 】「な、何だその物凄く強引な理論は……いや、強引なんだが妙な説得力が…流石神官、って言うべきところか、ここは」       身を乗り出したリネットから身を逸らして微妙に距離を広げ。       「いや、そんな事はないぞ。確かに女性と接するのは苦手だけど、女性に興味がない、わけ…じゃ……!?」言い募り…ふと、掌に重なる温もり。       視線を下げれば、そこにはリネットの掌…一瞬にして、硬化する 【リネット】「褒め言葉として受け取っておくわ。で、キライじゃないんでしょ?だったら、ちゃんと接せるようにならないと。        シャルフィスやアランみたいになれとは言わないけど、せめて人並み程度には…聞いてる?」       アベルの大きくたくましい手に細い指を重ねたまま、じっとアベルの顔を覗き込む 【 アベル 】「……き、聞いてる、が。お、お前、手、手を離せ……!!」無骨で節くれ立った、戦うことだけに費やされてきた手に、リネットの手が重なる。       その感触に、そして、間近にあるリネットの姿に。ガチガチに強張った身体はひっくり返って椅子から転げそうで。 【リネット】「…はぁ、前途多難ね」ため息ひとつつくと手を離し「まあいいわ。あたしがじっくりと鍛えてあげるから、覚悟なさい」       椅子に座りなおし、すっかり冷めた紅茶に口をつける 【 アベル 】「――っ、はぁ……あのな、幾らなんでも性急過ぎるだろう…気持ちはありがたいんだが、やるんだったらせめて、もう少しゆっくりやってくれないか?」       無駄だとは思うが、そう言わずには居られない。溜息を付きながら、こちらも冷めてしまった紅茶に口をつけて「――ま、冷めてもそれなりに美味いもんだな」 【リネット】「アンタのペースに合わせてたらいつまで経っても進展しないでしょ?」冷めた紅茶に少し眉を顰め「後で淹れ直してあげるから、それは飲んじゃダメ」       代わりにクッキーの籠を押し出し「…それにしても」数々のアベルの言動を思い出し「アンタって天然系よね。絶対女の子泣かせちゃダメよ?」 【 アベル 】「ぐ……い、いや、そんな事はないぞ……多分」思わず、言葉に詰まりかける。       毅然と否定できない辺り、リネットには頭が上がらなくなりつつある自分がいるのに、内心で深く嘆息し。応、と一つ答えてクッキーを摘む。       「むぐむぐ……ん、何が天然なんだ?」 【リネット】「そんなことあるの」アベルの主張を一蹴「まったく…そうだから、天然だって言うのよ」ため息ひとつ突くと、クッキーを1枚摘み、一齧り 【 アベル 】「はぁ……分かったよ、どうせ何か言っても、聞き入れてくれたりはしないんだろう?」苦笑いを零し、肩を竦めながら。       「だったら、リネットが納得いくまで付き合うさ。まあ、リネットくらいの器量良しがわざわざ付き合ってくれるんだ、俺も俺なりに努力はしてみるさ」       摘んだクッキーをまた一つ頬張り。「ん…コイツもやっぱ美味いな、うん」 【リネット】「……アンタわざと言ってる?」ほんのり頬を染め、じとーっと半眼で 【 アベル 】「ん、何がだ……ってか、顔が赤いぞ、お前、具合でも悪いのか?」眉を顰めながら、リネットを心配そうに見やって。       全く、全然、これっぽっちも、言葉の意味は理解できていないらしい。 【リネット】「あー、もう!うるさい!あたしのことはいいの!」頬を染めたまま、うがーっと八重歯を見せて       「と、り、あ、え、ず!これから毎日ビシバシ鍛えるから、そのつもりで!」誤魔化すよう、クッキーをひとつ摘むとそれをアベルの口へと押し付ける 【 アベル 】「な、何でそこで怒るんだよ…全く、良く分からない奴だな」驚きながらも、元気の良さそうな姿にほっと安堵して。       リネットの身を割りと案じていた自分に、少しだけ意外さを感じながら       「お、おお……それでも頼むから、いきなりかっ飛ばした内容は勘弁してくれよ?」押し付けられたクッキーを齧りながら、やれやれ、といった風に、微苦笑を漏らして。 【リネット】「怒ってない!」アベルにクッキーを押し付けると、そのままてきぱきとテーブルの上を片付け始め       「アンタにはこれくらいがちょうどいいってわかったわ。ほら、食堂で紅茶淹れ直してあげるから、テーブルと椅子お願いね」       トレイを手に立ち上がり、染まった頬を隠すよう背中を向ける 【 アベル 】「まあ、それならそれでいいんだけどな」押し付けられたクッキーの籠を片手に、はいはい。と返答を返し。       来た時同様、椅子やテーブルを担ぎ、リネットに追従していく――いつもよりも、若干ながら、距離を詰める努力をしながら。 【リネット】「まったく…天然め。あたしも気を付けなきゃ」ぶつぶつ言いながら、アベルの前をずんずんと歩いていく。       もちろん、この後食堂で第二Rが開催されるわけだが。自然災害に巻き込まれたアベルに幸い在れ