【トロイデ 】「ふむ、ここか?」         同じような扉が立ち並ぶ、ギルドハウスの一般区画         教えられた地図を確認しながら、トロイデはひとつの扉の前で足を止めた         ネームプレートを確認し、コンコンと、2度のノック 【トロイデ 】「エルオーネは在るか? 我はトロイデ、話しがあって参った」         そう、扉越しに、声をかける 【エルオーネ】「…やっ、ほっ、はっ、はっ…。」  部屋の中で体操などしながら時間の開いた夜を過ごす。          孤島での仕事は色々と激務続きだけれど、こういった地道な事もやっぱり必要だと思っている。 【エルオーネ】「キレイのために頑張れ私ー…っと、うん?」         シャツにハーフパンツとラフな格好。 額の汗をぬぐいながら、ノック音があったほうに視線を向ける。 【エルオーネ】「んー? トロイデちゃん? 空いてるよー、入って入ってー。」         いい暇つぶしの相手が出来た、などと思いながら、そう返し。 【トロイデ 】「うむ、では邪魔するぞ」ドアノブに手を掛け、軽く、引いて         今日は珍しく一人。供も連れず、部屋の中へと、歩を進めて 【エルオーネ】「やほー。 いい夜だねー…ってゆか、最近蒸すよねー。」         部屋の床に座りながら、片手をしゅたとあげて、来客を笑顔で迎える。 【トロイデ 】「うむ、おかげで二度、風呂に入る事も多いのぅ。海沿いであるから、仕方ないと言えば、仕方ないのじゃがな」         仕草を真似、片手を上げて礼とし         もっとも、二度湯浴みをする時は。身体に付いた精を落とす、という目的もあるのだが 【エルオーネ】「でも、ちゃんとお風呂もある遭難生活って想像してなかったよ。         正直もっとこー、漂流記みたいな生活になると最初は覚悟してたね。」         この島に流れ着いた時の事を思い出しながら、一つ、身震い。         とはいえ、ここでの暮らしは…普通にしている分には、悪くない。         危険が多すぎるのは、中々辛いところだけれど。 【トロイデ 】「我も、漂流するのは初めてじゃが、やはりそういう物なのじゃろうな。そういう意味では、恵まれておると言って良いの」         入り口傍に立ったまま、薄い胸の前で腕を組み頷き         今日も、優秀な従者が揃えたのであろう。布飾りをふんだんにあしらった、ドレスと見紛うようなローブに、身を包んで 【エルオーネ】「あ、座って座って。 むさくるしい部屋ですがどうぞどうぞ。ずずいと、ずずいーーーっと。」          何処かの誰かの口調をおどけて物真似などしてみながら。         そういいつつも、部屋はしっかりと整頓されている。          余裕がない中で彩を…と言うことで、花が飾られていたり、手製の色彩豊かな布がテーブルにかけられていたりと。         そんな部屋であった。 【トロイデ 】「うむ、失礼するぞ」テーブルの傍までチョコチョコと歩み寄り。椅子を引いて、どっかと座り 【エルオーネ】「うん、トロイデちゃんは今日もかわいー感じ。てゆか、いいなあ、そういう服。         いや、あたしは着ないだろうけど、うん、萌える。」         椅子に座ったトロイデを改めて眺め、頬を緩める。         やはりかわいらしいオンナノコは世界の宝だ。目で声で楽しませてくれる最高の宝石だ。         そんな風に一人頷きながら。 【トロイデ 】「なかなか、良い部屋じゃな。シュヴァルペも苦労しておるようじゃが……この服か?         これもあやつの見立てよ。動き難いのは、あまり好きではないのじゃがな」         両腕を広げ、椅子の上で腰をひねり。どう、動き難いかを、懸命にアピールして 【エルオーネ】「んーそりゃそうかもねー。 でも、あたしとしちゃばっちオッケー。かわいいは正義。         いい仕事してます、シュヴァルペさん。」          ぐっ、と、ここにはいない彼女の従者に向けて、親指を立てて見せたりしながら、笑う。 【トロイデ 】「その、仕事の事で相談なのじゃが。エルオーネよ、我に雇われる気は無いか?」         まっすぐに、エルオーネの目を見上げ。単刀直入に、切り出し 【エルオーネ】「…うにょ?」 あまりに突然の申し出。 思わず首をかしげ、間の抜けた声が漏れる。 【エルオーネ】「えーとあれ、ごめん。 も、もー一回、いいかな?」 【トロイデ 】「エルオーネ=ラディオス。おぬしを雇いたいと言ったのじゃ」         冗談も、嘘も何も無く。きっぱりと、言い切り 【エルオーネ】「おーけーおーけー。 今度はちゃんと聞こえたよ。 でもまた、急だね?」         現在の自分はベースキャンプ全体の雑用などを手伝う事にしている。メイドとして働く事ができるだけの技量はあるのだ。         そういった修練もしてきた。         いわば今の自分は、調査隊に仕えていると言った所か。         とはいえ、こういった仕事は本来誰かの下についてする仕事ではある。         正直、生きていければそこら辺のポリシーはどうでもいいのだけれど…。         何故急に彼女が自分を雇うといったのか。 それは、気になった。 【トロイデ 】「うむ、シュヴァルペ一人では手が回らなくなってな。それで、追加の人員を考えておったのじゃ。         そこで、最初に会うた時の、おぬしの言葉を思い出しての。最初に、声を掛けさせて貰った次第じゃ」 【トロイデ 】「禄は、そうさな。とりあえず1万出そう。期間は、お互い、いつ死ぬか分からぬので縛らぬ。         金額分働いたと思うた時にまた、請求するなり考え直すなりしてくれたので良い」 【トロイデ 】「無論、今まで通り。キャンプの仕事があれば、そちらの方が優先じゃ。他に、何か質問はあるか?」         考えを纏めつつ、エルオーネの返答を待ち 【エルオーネ】「んー。 なるほどなるほど。 いい報酬だよね。 むしろな中々高待遇、って言ってもいいかな。」         ふんふんと、トロイデの言葉に一つづつ頷きながら、噛み締め。 頭の中で咀嚼していく。 【エルオーネ】「そだね…構わないよ。 私で役に立つんなら、私のメイド検定1級の実力、存分に発揮させてもらおうかな。」         考える。基本は今までどおり。報酬は妥当というよりは破格の部類に入る。         新しい主人はかわいい女の子。お世話自体は楽しいし、好きだ。         頷いた。 【トロイデ 】「ふむ、ではこれで契約成立じゃな。いつから、働ける?」         流石に、こういった交渉は初めてだったからか。嬉しそうに、胸を撫で下ろして 【エルオーネ】「んー、明日からでも、かな。必要なら今からだっていいけれど。         あ、仕事っていうならシュヴァルペさんとも打ち合わせしてお互いの担当決めないとなー。         手が足りないって言うから忙しいんだろうけれど、具体的にはどんな感じで忙しいの?」         これから増える仕事はなんだろう、とりあえずは、先任のシュヴァルペにも色々聞いておかなければなー、などと。         そんな事を考えながら、こたえる。 【トロイデ 】「どんな感じ……のぅ。しもうた、仕事の名前を聞いておらなんだわ。じゃが、厳しいらしいぞ?         我は良く分からぬが、あやつが、2日置きにしてくれと、初めて言ったくらいじゃからの」         初めて、性行為自体の呼び方を聞いていなかった事に気付き。己の不首尾に渋い顔をして 【エルオーネ】「うわう。 意外とトロイデちゃん、暴君なんだねえ。」         頭に浮かんだのは、トロイデが色々とやんちゃをしては、シュヴァルペを困らせているような、平和な光景。 【トロイデ 】「呼び名が分からぬ故、実演で良いか?」         僅かに、済まなさそうに。そして、少女らしからぬ欲望の混じった視線を、エルオーネの身体に向けて 【エルオーネ】「でもま、 そういうのも楽しそう。っと、言葉遣いはこのままじゃ拙いかな、ご主人様、っていう風に直したほうがいい?」         孤島での生活、そんな風に、いろいろな人と戯れてみるのも、まあ面白かろう。         きれいな子もきれいな女の人もいる。 うむ、考えようによっては夢の職場だ。 【トロイデ 】「我は気にせぬ。好きに呼ぶが良い」鷹揚に頷いて。         魔を滅す事と、欲望の開放。この2つの充足感の前には、他の事など取るに足らぬと 【エルオーネ】「んじゃあ、お許しも出たところで、このままでいっちゃうね。 ありがと、トロイデちゃん。」          言葉を交わしながらも、なんとなく感じた違和感。         …なんだろう、トロイデが自分を見る視線は。 今までとは、何かが違うような…?         僅かに首を傾げるが、直ぐに気にするのを止めて。 【トロイデ 】「我が暴君かは知らぬが、それをするよう教えたのはシュヴァルペじゃぞ?         もっとも、それより半月ほど、求め続けたのは堪えたようじゃが」         3日に1日となってしまったのは、そのせいもあろうと。今度は無理をせずに済ませられるよう、数を揃える事にした 【エルオーネ】「ん、実演ー、って、今ここでかな? ま、うん。お相手するのも臣下の勤め、受けてたつよ。」          なんとなく、頭の中で描く光景。         シュヴァルペがトロイデにボードゲームやカードとか、何かの遊びを教えて、楽しそうに遊ぶけれど。         何ゲームも相手をして疲れに疲れたシュヴァルペの姿が見えて。 【トロイデ 】「うむ、衆に知れるのは恥ずかしい事、らしいからの」         あまり、良く分かっていなさそうに答えると、椅子を引いて、エルオーネの横に歩み寄り         いつもなら、背伸びしても、届かない身長差。でも、今は並ぶか、少し低い位置。これなら失敗しないと、嬉しそうに笑いかけ 【エルオーネ】「ん、でも皆で遊ぶのも楽しいんじゃないかなーって思うよ、とりあえず、道具は要らないの? ルールは?」         何が始まるんだろう、と、近寄ったトロイデを見つめ。 笑いかけられれば、笑い返す。         うん、いい笑顔だ。そんな事を、考えながら。 【トロイデ 】「道具は、この間初めて使われたのぅ。あまり、気持ちの良い物ではなかったが。ルールは、我が満足するまでじゃ」         エルオーネの、桜色の柔らかそうな唇に。自分のそれを近づけて 【エルオーネ】「んー…?」 少し、考え込んで、視線を天井に移して。         ゲームのルールとしての説明にはまるでなっていないその言葉の意味を考えながら。 【エルオーネ】「んー…」 意識が別の方向に向いて、自らに近づいてくるそれには、気付かない。         避けぬ様を、同意と見違えて。安心したように、甘い果実を貪る。         逃さぬよう、心行くまで味わえるよう。両肩に、更に手を伸ばして 【トロイデ 】「ん……ちゅ……」         じっくりと、貪るように、奪うように。それは、どう見ても、親愛のキスではなく 【エルオーネ】「ん…ふ…ン…っ!?」  完全に、予想外。 触れる唇。 情熱的な、それ。          何故だとか、如何してかとか、答えは一切でずに、目を白黒させて、頭を混乱させて。 【トロイデ 】「はぁっ……エルオーネの唇も、甘いのぅ。もっとも、差し入れて来ぬのが、ちと不満じゃが。あまり、キスは得意ではないのか?」         唾液の橋を壊しながら、ようやく、唇を放し。間近から、エルオーネの瞳を見つめ 【エルオーネ】「あっ…はう…ん…っ…え…あー…トロイデ…ちゃん…ど、どして…?」         まだ、頭がぼうっとしている。 目の前の少女の行動が、突飛なものに感じられて。 それでも、それは現実で。         荒い息をつきながら、トロイデを見つめ返す。 【トロイデ 】「この先の行為を、どう呼ぶか分からぬのでな。故に実演すると、言ったであろう?」         今度は、首筋に顔を埋めながら。片方の肩を放し。服の上から、形の良い胸を緩く握り         それはまるで、着飾らされた、小さな肉食獣のように 【エルオーネ】「…あー……えー…。」          行為をされながら、先程からの言葉を繋ぎ合わせていく。 今されている行為、受けている愛撫。         ああなるほど、そういうことか…と、納得した時には、距離は、近づきすぎていて。 【トロイデ 】「嫌いではなかろう? 最初会うた時も、抱きたいと申しておったしの。我はどちらでも良いぞ? 抱くのも、抱かれるのも」         くぐもった声で囁きながら。両の手は、弱点を探るように、服の上を這って 【エルオーネ】「いやその、それはそこまでそういうんじゃなく…てっ…。」 なんて返したらいいのか。 判らない。         流石に、歳がこうまで離れたように見える少女に、こんな風に責められるなんて、想定外だった。         そりゃ、自分とて、経験がないわけではない。         人並みに男性と付き合ったこともある。…気に食わない相手だったので振ったけど。         かわいい女の子は好きだ。 好きだ好きだ、といっている割には、悪戯をしたことはないけれど。          それでも、女の子をかわいいとを褒めるのも、それでおどけるのも、楽しいのだ。そんな風にからかって遊んできた。 【エルオーネ】「ん…く…ん…」         だというのに、久しぶりの刺激に、僅かながらに、くもぐった声が漏れて。 【トロイデ 】「ふむ、そちらは我の思い違いであったか。済まぬな」言いながらも。不器用な小さな手は、弱点を敏感に察知し。         上手くは無いが、執拗に、声を上げさせた場所を記憶して。         艶っぽい声が上がるたびに、少女のか細く甘い吐息を、男のように荒がせて 【エルオーネ】「仕事って…こーゆー…の…?」 少女の技巧は巧みで、短い喘ぎを断続的に漏らしながら、切れ切れに、尋ねる。 【トロイデ 】「主には、な。もっとも、1番辛い仕事だけを押し付けるわけにも行かぬゆえ。         シュヴァルペにも、幾分か譲ってもらおうかと考えておるが。他に、希望はあるか?」         仕事の話となったので、間を置いて。メモを懐から出すついでに、自らの服に手をかけて 【エルオーネ】「やー…なんか、すっごい、想定外で…どーしたものか、と、今考えてる…。」         心臓は、何時もの倍ぐらいの速度で動いているような気がする。状況が整理できない。いや、わかっているのだが…といった所か。         希望といわれても、言葉が浮かんでこない         ふぁさり、と柔らかい布の落ちる音。         細い肩と、薄い胸を滑り。ローブを、床に落とすと。現れるのは、子供らしい瑞々しさを持った肌と。幾十、幾百もの傷跡         大きな物もあれば、小さな物もある。古い物があれば、新しい物もある。切り傷、刺し傷、火傷、爪痕         視線を、トロイデの方に移す。 【エルオーネ】「……ッ!?」         思わず、息を呑んだ。         刺激と、困惑に流されていた思考が、別方面からもたらされた衝撃に、少しずつ、冷えていく。 【エルオーネ】「……そ、れ…。」 どんな、道を辿ってきたのだろう、逸れは判らないけれど…けして、平坦なものには見えなくて。 【トロイデ 】「ふむ、想定外じゃったか? それは済まぬな。なにぶん、一月前に、トマトに襲われかけてから始まった仕事じゃしの。うん?」         エルオーネの、今までと違う反応に、その視線を追う。それは、肌の上を走る古傷に注がれていて 【トロイデ 】「傷が、どうかしたか? さして、珍しい物ではなかろうに」         シュヴァルペの肌は傷ひとつ無く滑らかではあったが、あれは元々従者であって、戦場に出るものではない。         戦場に出れば、傷が付くなど当たり前であろうに、何を驚いているのだろう、と 【エルオーネ】「え、いや…でもだって。」 冒険者であれば、傷つくことだって在るだろう。 傷なんて、珍しいものではないはずだ。         …あくまでも、普通の冒険者であれば。 …だが、目の前の少女は、自分よりはるかに幼く見えて。         そんな少女に、ここまでの傷跡が残っている。 そんな事実が、にわかには…信じられなかった。 【トロイデ 】「5年も戦っておれば、この程度の傷は付こう? もっとも、我は術士ゆえ、戦場に出るのは遅かった方じゃが」         この島へ来て、もう数ヶ月。矢で、腹を貫かれた事もある。今までよりも、頻度は低くはなったが 【エルオーネ】「いや5年って。 ……ふぅ。」         その頃、自分はどうしていたろう。 よく覚えてもいないが、家事仕事に明け暮れていたように思う。         この島にきてから、昔から筋がある、とは褒められてきた魔術を使い、何度か戦ってもきた。 それが必要であるから。         なんだかんだいって、相当に怖い。 向いていないな、とは、実は感じている。 それでも…ここまでで、漸く思い至る。         目の前の少女は、自分が思い描く一般の少女像とは、明らかに異なるタイプなのであろうと。 【トロイデ 】「ひのふのみ……やはり、その程度じゃぞ?」指折り、数え。その歳月が間違っていない事を確認し         そこで、自分達結社が、普通でないから追われていた事に思い至る。         だが、早く戦場に立ち、早く世界の役に立つ事は、良い事ではないのだろうか? 【エルオーネ】「そっかー…。」 彼女の事は、深くは知らない。 それでも、自分にとって辛いであろう事をさも当たり前のように話す少女。         …どんな風にずれているのかはさておいても、何か助けになれればいいな、とは、思う。  【トロイデ 】「うむ。さて、想定外であったらしいが、契約はどうするかの?         我も、騙すような事は、したくないでな。このまま続けても良いし、保留でも良い。無論、流してもな」         足元に積もった布を、両腕で拾い上げ。         再度、機会を与え、問いを放つ 【エルオーネ】「んー。 トロイデちゃん。 身の回りのお世話はするよ。」         暫く、目を伏せて考えて…。 向き直る。 自分の思ったままを、先ず、口にした。 【エルオーネ】「ご飯作ったり、お洋服見繕ったり、お部屋の模様替えやその他もろもろ、シュヴァルペさんと協力して完璧にこなしましょ。」         頷きながら、言葉を続けていく。 【トロイデ 】「それだけならば、人手は足りておる。最も辛い仕事だけを、シュヴァルペに押し付けよと言うのか?」         訝しげに、値踏みをするように。傲然と、エルオーネを見上げ 【エルオーネ】「んー…私、純愛派なんだよね。 トロイデちゃんは…私を、抱くつもり…だったんだよね?」 【トロイデ 】「うむ、その通りじゃ。愛というものは良くは分からぬがの」         相手の口上を遮る非礼は知っている。だが、それでは、シュヴァルペの助けにならないではないか。それでは、意味が無い         好き、というのは好ましいという事だ。シュヴァルペの作るお菓子も好きだし、         シュヴァルペ本人や、恐らく、エルオーネも。大方の、キャンプの人間も、好きという部類に入るだろう 【エルオーネ】「ん…了解。 だから私を雇った、ってことでみて、いいわけだよね。」 何処まで感情をぶつけていいのかは、わからない。         だけれど、自分が思ったことは伝えていこう。  そんな風に、心の中で決めて。 【トロイデ 】「現在、留保するならば、雇おうとしたじゃな。女を抱かねば、落ち着くことができぬようになってしもうての」         だが、愛というものは、分からない。それを説明されても、自身の経験に合致する物が無い。         それでは、恐らく、エルオーネの出す条件は、満たせまい。 【エルオーネ】「でも、私はメイドだから、さ。 お金を渡されても、それはできないんだ。          私が提供するのは、自分の技術であって、身体じゃない、からね。」 【トロイデ 】「ふむ? シュヴァルペは、仕事だからやっておると思うたのじゃが。それはメイドの仕事ではないのか?」         初めて聞いた事実に、驚いて。では、メイドの仕事で無ければ。シュヴァルペは何故、やっているのだろう?         そんな思いが、素直に、顔に出ていて 【エルオーネ】「どうかな。 えっちは、お互いが好きとか、大事じゃないと…出来ないと思うな。          私はそう思ってる。シュヴァルペさんは…、本当にトロイデちゃんのこと、好きなんだと思うよ。」         不思議そうな顔をしているトロイデ。  そんな表情と仕草がどこか、かわいく思えて…近寄って、髪を撫でる。 【トロイデ 】「好きかどうかと問われれば、おぬしもシュヴァルペも好きな部類に入るがの。         でなければ、そもそも身体を預けるような事に誘いはせぬし。仕事を楽にしてやろう、などとも思わぬわ」         ぶぅとむくれながらも、手を払いのけようとはせずに。エルオーネを見上げ 【エルオーネ】「だからうんと…なんていうのかな、困ったな。          トロイデちゃんが女の子を抱かなきゃ落ち着けなくて…だけどシュヴァルペさんに迷惑をかけきれないって言うんなら…         メイドとしてじゃなく。 友人として助けてあげたい、とは思うよ。」 目線を合わせ、微笑みながら。 【トロイデ 】「友人、じゃと?」戦友、ならば居た。従者、ならば今も一人だけ居る。ここに来て、対等の仲間、というものも理解した         だが、仲間の持っている。友人というのは、どうやって作る物かは知らなかった。 【トロイデ 】「あいにく、我は友人という物が良く分からぬのじゃ。故に、どうやっておぬしを友人にすれば良いかが分からぬ」         済まなさそうに、首を振って。意気消沈したように         これでは、シュヴァルペを助ける事はできない。どうやったら作れるのか、執拗に確かめておくのだったと、唇を噛んで 【エルオーネ】「そ。 友人、おともだち、ふれんず。 トロイデちゃんのことは、私は好きよ。 可愛いし、ちょっと変わってて面白いし。          あたしは…そのつもりだけど? 一緒にいて楽しい気分になったり、笑い合えたりしたら、もうそれでいいんじゃないかな。         …そんなもん、じゃない?         トロイデちゃんも、私のこと、別に嫌いじゃないでしょ?」         この孤島に流れ着いた時、初めて迎えてくれた2人のうちの一人が、彼女だった。         不思議な言動の少女だけど、なぜか存在感があって。いい子だな、と、思った。         言い聞かせるように、出来る限り優しく、告げる。 【トロイデ 】「無論、嫌いではない。先程、好きな部類であると言ったではないか。         じゃが……何の契約も、約定もしておらぬのに、既に友人であるのか?」         今に分かる、と、最初に問うた相手は言った。だが、今になっても、分からないまま。         理解すらしていないのに。他者にとって大事そうな物。友人になっても良いのだろうか? 【エルオーネ】「難しく考えるとこじゃないよ、そこは。         これからあたしとあなたは友達だ!! …なーんて形式ばって言うのも、中々ないでしょ。         私は友達だって思ってるよ。 トロイデちゃんもそうなら、割と嬉しいかも、ね。」 【トロイデ 】「シュヴァルペを助けるために、利用しようとしたぞ? それでも我は、エルオーネを、友人と呼んでも良いのか?」         そうすれば、助けられるのならば、友人となりたい。         だが、あの時、エルオーネの感情は、契約によって身体を得ようとした事を、快くは思っていなかった筈だ         そんな自分を友と呼び、身体を預けられる物なのか?         身体を預ける事は、彼女にとって、それほど軽い事ではないと。それは、理解していて 【エルオーネ】「んーでも。 あたしならいい、って思ったから、ここにきたんでしょ?          それは、トロイデちゃんの思考に、あたしって存在が混じってたから、だよね。 ちゃんと、どこかが繋がってるんだよ。          それに、トロイデちゃんの性格上、『ぐへへこいつならヤっちまってもオッケーだぜ』         なーんていう風な感情で着たわけじゃ、絶対ないだろうしね。」          不安そうな表情を浮かべるトロイデ。それを、少しでも何時もの表情に戻そうと、髪を撫でて。ありったけの笑顔で、迎える。 【トロイデ 】「うむ……おぬしがそれで良いのならば、友と呼ばせてもらおうぞ。エルオーネ=ラディオス」         最後の逡巡。それを、無理やり振り切って、いつもの、毅然とした、まっすぐな瞳でエルオーネを見上げ、右手を差し出す。         その性は烈火。迷いも、戸惑いも、全て焼き捨て。         その性は大地。磐石に、友と、同胞を支えるために。         信頼する者の言葉を疑うことは、裏切りである。そして、信には、信を以って応えるべし 【エルオーネ】「んっ。 よろしくっ。」 こちらも、手を差し出して…握る。         それで、完了。 頑固な…いや、純真な彼女との、親愛の儀式。         彼女の性は、風。 様々なものを、気ままに、朗らかに運ぶ風。  火を舞い躍らせて、大地に変化をもたらす。 【トロイデ 】「我が初めての友人じゃ。光栄に思うが良い」嬉しそうに、誇らしげに、笑い 【エルオーネ】「んー、そうかな? 意外と、もう出来てるものだよ。 トロイデちゃんの周りには、沢山人、いるしね。」          同じように笑いあいながら。 ベースキャンプの人間達を思い浮かべて。 【トロイデ 】「やはり、我には良く分からぬな。教えてくれるか? 友達の事を」         傷だらけの身体に、ぐしゃぐしゃのローブをかぶりながら 【エルオーネ】「んー、もう。 もーちょっとちゃんと着ないと駄目だって…」 そんなトロイデの服装を甲斐甲斐しく整えながら。        「教えられはしないかな、でも、わかるようになっていくと思う。         …友達って、こういうものだ、って、ね。」 服装を整え終え、頬をつん、とつつき。 【トロイデ 】「やはり、妙な観念よの」教えられぬ事にむぅと唸りながら。着付けられ慣れしているように、エルの手に、衣装と身を任せて 【エルオーネ】「ま、うん。 これからも楽しいといいよね。 トロイデちゃんも、楽しくて困る事は、ないでしょ?」 【トロイデ 】「うむ。もっとも、楽しいときは機会が限られるのが何とも、のぅ。敵を倒しておる時か、女を抱いておる時か、くらいじゃからな」         生真面目に、物騒な答えを返して 【エルオーネ】「うおう、過激なかいとーう。」         その言葉に、やはり人とは違うものを感じる。 けれど…その言葉で好意が揺れる事はない。         不器用そうで…それでもちゃんと誰かを思いやれるこの少女は、間違いなく、自分の友人なのだから。         「んじゃ、今度カードゲームを教えてあげよう。 楽しいってのは、色んなバリエーションがあるんだからね。」 【トロイデ 】「カードゲーム。おぉ、酒場の隅で興じておるアレじゃな。         以前、探索中に一度だけ機会があったが、皆、負けて素材を取られておったの」         教わる事、戦う事。それだけが、昔の自分だった。         この島に来てから、随分と覚える事、やらなければならない事が増えたけれども。それは新鮮で、嫌ではなくて         今度は、カードゲームというものを教わるらしい。それと、楽しみのバリエーション。         一体これから、自分は幾つの事を教えられ、覚えていくのだろう? 【エルオーネ】「はっはっは、一度じゃあまだまだ入り口ね。 他にもトロイデちゃんとしてみたい遊びはいっぱい在るしー…」         楽しそうに語りながら、これからの未来を描く。  様々な人が、ここにはいる。 新たな情も、確認しあった。         そう、誰もが、それぞれの道を辿って、ここまで来た。 そして、交じり合った。         ならば…楽しんでいこう。 命の危機は、今までいた場所の比じゃないけれど…多分、ここにいる人達とだったら乗り切れる。         …蒸し暑いけれど、いい夜だ。 …そんな風に、思った。