ブラウズヘイムギルド立図書館   人と、獣を分かつもの。それは即ち、文字である 知識を蓄積し、文章と為し。それを後代に残す。これは、人間と、それより発祥した妖魔のみの文化と言える 開拓団の持ち込んだ書物も。多くは、船と共に海の藻屑となった だが、それでも。ここに、知識の集積場は在った……     【 トロイデ 】「……シュヴァルペ、これでもう素材は終わりかの?」低レベル素材を、青石の力で魔道書へと変え。手元を探り……もう、素材が無い事に気付いて 【シュヴァルぺ】「はいお嬢様、最近はブラウズヘイムグループの活動が活発化しておりますので、現状若干素材が不足している模様です」 【シュヴァルペ】 トロイデの声に一礼して返答する 【シュヴァルぺ】「ですから、此処の整備は今の一冊で完了となります。お疲れ様でございました」 【 トロイデ 】「そうか。まぁ、技を振るうより面倒じゃが。復習と思えば悪くは無いの」ぱらぱらと、生成したばかりの本を捲る。少し前に使った教本だが、生成するとなると、少し、記憶を掘り起こす必要がある 【 トロイデ 】 若干、記述が変わっているような気もするが、要は内容が間違っていなければ良いのだ、と。軽く、目を通して、誤りが無いかを探し 【シュヴァルぺ】「お茶の用意などをさせて頂きたく思いますが……懐かしゅうございますね、そのタイトルの本の教練には随分手間取っておられましたが…」無論術者ではない私には解りかねる事ですがと付け加え 【 トロイデ 】「属性が違うからの。それでも、弱点を削るためには必要な事よ。水の魔法は、とうとう物にはならなんだがな」ぱたりと、表紙を閉じて 【 トロイデ 】 自らの火・地の属性との対立属性は、水と風。火を育む風の力は、僅かなりとも手に入れたが。水の力は、とうとう手に入らずじまいで 【シュヴァルぺ】「此処には大勢の方が居られますから、一人で全てを賄う必要も無い事と思いますが……」木苺を載せたタルトを切り分けてトロイデの前に置く 【 トロイデ 】「ふむ、今日はタルトか。とは言え、火も水も持ち込めぬのは厳しいがの」と、フォークを手に取り。ぐるりと、収まりにばらつきのある周囲の書架を見渡し 【 マリーシア 】「――おや?お二方とも、このような所でティータイムでしょうか?」一仕事を終えて寛ぐ二人の前に、ゆったりとしたドレスのような私服姿で現われる。穏やかな微笑を浮かべながら、こんにちは、と挨拶をしながら近寄って 【シュヴァルぺ】「はい、仕事も一段落しましたので今日のお嬢様の御褒美にと…」一礼してマリーシアを迎える 【 トロイデ 】「マリーシアか、こんにちは、じゃな。あいにく、茶は出ぬぞ、湿気は本を傷めるゆえな」一口、タルトを口に運びながら 【シュヴァルぺ】「マリーシア様もお一つ如何でございますか?」 【 マリーシア 】「そうでしたか――ここの書物も、少しずつですが数が増えてきて。一利用者としては嬉しい限りです――お疲れ様でしたね、トロイデ殿、シュヴァルペ殿」感謝を込めた、ねぎらいの言葉を投げかけて「ええ、でしたらご相伴に預からせていただきます」シュヴァルペの言葉にそう答え 【 トロイデ 】「うむ、こちらが空いておるぞ」と、自分の右の椅子を、指し示し「それで、どのような本を読みに来たのじゃ?」 【シュヴァルぺ】「それではどうぞご賞味下さいませ」空いた皿に載せたタルトをマリーシアの前に置き 【 マリーシア 】「ああ、これはご丁寧に。ではお邪魔します」トロイデに一つ頭を下げ、隣に腰をかけて「ああ、これは美味しそうですね……今日は、少し絵本を読みにきた次第です」シュヴァルペに軽く感謝の意を示しながら答えて 【 トロイデ 】「絵本、とは何ぞや?」と、首を傾げ。マリーシアに問い返し 【シュヴァルぺ】「お口に合えばよろしいのですが」と静かに答え 【 マリーシア 】「そうですね…絵本というのは、主に絵と、簡単な文章で綴られた、子供向けの書物ですね。ご覧になったことはありませんか?」自分なりになるべく分かりやすく説明しながら、言葉を切ってタルトを口に運び「――ん、美味しいですよ、見事な腕です」 【 トロイデ 】「うむ、無いのう。我が読んだ事のある物は、魔術書と戦術書。歴史書と、あとは基本的な教科書、じゃな。どこにあるのじゃ?」と、自分が知らぬ棚に、目を向けて 【シュヴァルぺ】「過分なお褒めの言葉感謝いたします」とトロイデの皿を見て「お嬢様御代わり如何致しますか?」 【 トロイデ 】「うぅむ……頭の働きがしばらく鈍るゆえ良い。それよりは見知らぬ書、じゃ」暫し悩んだ挙句に、そう結論付け 【 マリーシア 】「そうですね、ここの絵本は――」立ち上がり、一つの書架へ足を向ける。未だ僅かな数が収められているだけのそこから、数冊の書を抜き取り、再度トロイデの元へ戻って「これが、絵本というものです。ここには余り数がありませんが…姫君に忠義を尽くす騎士の物語に、勇敢に敵に立ち向かう、冒険者の物語、ですね」 【 マリーシア 】 そう言って、机の上に並べられた二冊の本。表紙には子供向けのイラストが描かれ、大きな文字でタイトルが描かれている。 【 トロイデ 】「済まぬな。これが絵本か」高揚した表情で、それを手に取り 【シュヴァルぺ】「承知致しましたお嬢様……」その絵本を見て少しだけ眉を顰め 【 マリーシア 】「まあ、あくまで子供向けの簡単な内容のお話ですから……成長してから見ると、矛盾や綻びはいくつも目に付きますけれどね。どうしてか、小さな頃は目を輝かせて読み耽ったものです」トロイデの様子にくす、と小さく笑んで。自らの懐からも、一冊の絵本――すりきれたそれを取り出して 【 トロイデ 】「ふむ……」短く簡潔な文字を目でなぞり、素早くページを捲る。表情は、高揚から、徐々に詰まらなそうになり「それでは、この本からは、何を学べば良いのじゃ?」何故、子供が目を輝かせるのか、どうにも理解し難いように繭を歪め 【 マリーシア 】「さて、学ぶ、というより、これは楽しむもの、ですから。囚われの姫君を助ける為に敢然と立ち向かう騎士の姿、絶望的な状況でも諦めず戦う冒険者の姿。そういった光景を想像して、楽しむ為のものです…話の内容も稚拙で、陳腐なモノかも知れませんが。こういうモノを、面白いと思い、その絵本の騎士や冒険者に憧れた頃が、確かにあったのですよ」トロイデの言葉に、昔を懐かしむように言葉を紡いで 【 マリーシア 】「――シュヴァルペ殿、どうかなさいましたか?」眉を顰めたその表情を見て、問いかけ 【 トロイデ 】「ふむ、そういう物か。生憎、我はその頃ではなかったようじゃが。済まぬがシュヴァルペ、代わりを貰おうか……どうした?」と、シュヴァルペの顔を見上げ 【シュヴァルぺ】「あっいえ何でもございません。昔その本が好きな子供を知ってましたので、懐かしく思いまして…」少しだけ慌てて言葉を紡ぎ「はい、お嬢様、先程と同じ大きさでお宜しいですか?」 【 マリーシア 】「そうでしたか……この絵本は、大体エリンディルのどこにでも流通していますからね」納得したように頷きながらも、どこかにその表情が引っ掛かって残り…とりあえず思考を切り替えようと、手にしていた古びた絵本のページを、ゆっくりと捲っていく 【 トロイデ 】「ふむ、そうか。シュヴァルペは、子供の知り合いが多いのじゃのぅ」サイズの確認に頷きを返しながら。今まで出てきた全ての子供が、一人だとは知らず 【シュヴァルぺ】「さようで御座いますね、寒村にも有る位でしたから。」 【 マリーシア 】「私が、はじめて読んだのは孤児院の図書室でして……あの頃は、いつも何事かあるとこの絵本を読んで。立派な騎士や勇敢な戦士の姿に。きらびやかに着飾る姫君の姿に。それを想像して、憧れて――気取って、真似をしたりしたものです」 【シュヴァルぺ】「多いと申しますか……そうでございますね。ですがその子が居なければお嬢様とお会いする事がありませんでしたので」少しだけ困ったような顔でトロイデの問いに答えながら御代わりを装い 【 トロイデ 】「我は、毎回浚われる姫、などにはなりたくないがのぅ」と、残りの絵本を流し読んで 【 トロイデ 】「ふむ、なれば。その子供は我の恩人じゃな。でなければ、我も今頃は魚の餌であったろうしの」と、笑って。タルトを口に運び 【シュヴァルぺ】「子供であれば一度ぐらいは話遠くに聞く姫君にあこがれるものでございますから、そのお気持は理解できます」とマリーシアの言葉に頷き 【 マリーシア 】「シュヴァルペ殿と、トロイデ殿の縁を繋いだ、という事でしょうか…成る程」シュヴァルペの言葉に頷きながら、絵本を静かに閉ざして 【 マリーシア 】「まあ、本来ここにはあまり必要がないのかもしれませんが……私的に、実はコツコツ増やしてきた訳です。殆ど、私くらいしか読みませんけれどね」小さな苦笑を漏らし、次の絵本を手に取る。その表情は何時もとは違い、まるであどけない童女のように、瞳を輝かせていて 【 トロイデ 】「ふむ、シュヴァルペもか。シュヴァルペは、何に憧れたのじゃ?」タルトを切り崩しつつ、ふと思いついたように 【 トロイデ 】「必要無い事は無かろう。人が集えば、子は増える。結界を破り、外に出られぬ限り、の」 【シュヴァルぺ】「それは……在り来たりでしたが姫君でございます」と言いながら無意識にトロイデの頭を撫で 【 マリーシア 】「そうですね、この絵本たちもきっと、また子供達に色んな夢を魅せる時が、来るのかもしれません――私が、色んなものに、憧れたみたいに…きっと……」 【 トロイデ 】「何じゃ、おぬしも姫か。我は1番、なりたくないと思ったがのぅ。力無く、助けられるばかりではないか」自分が、現在キャンプで2番目に、姫君に近い状態とは思いもせずに 【シュヴァルぺ】「それが心のゆとりであるならば、必要ではございましょう。あるならば昔を懐かしみ読まれる方も居られるかとも思われますし、思い出し懐かしむ事も時には必要でございますから」 【シュヴァルぺ】「一度だけ力強い騎士役であればと思った事はございますが」 【 トロイデ 】「ほう、マリーシアのようにか?」撫でられながら、手の下からその顔を窺い 【 マリーシア 】「まあ、女の子であれば一度は、姫君に憧れる子は多いでしょうから。必ず、とは言いませんけれどね……でも、私も暫くしたら、騎士や、冒険者、英雄といった存在に憧れる様になりました」 【 マリーシア 】「想い出はその人の過去であり、根幹を成すモノ……時折、昔懐かしみ懐古の情に浸るのも、良いものですしね」 【シュヴァルぺ】「さあ如何でございましょうか?何分昔の事でありますからその時の気持は無くしてしまったのかも知れませんが」その表情からはは内心は伺いがたく 【 トロイデ 】「あまり、懐かしんで面白い物ではないのぅ」ただひたすらに、知識を詰め込み、術を磨き、妖魔と戦う。或いは、土地を追われ、次の土地まで旅をする。記憶と言えば、それだけしか無くて 【シュヴァルぺ】「お嬢様はまだ子供でございますから、今から懐かしめる思いでをお作りになれば宜しいかと」 【 マリーシア 】「人の過去は人によって様々ですから……それに、想い出は過去ばかりにあるのではなく、今から作ることも可能ですから」 【 トロイデ 】「忘れてしまったのか、ただ一度の事と言うから、どのような物語が人を動かしたのか、興味はあったのじゃがな」そう言いながら、皿の上をきれいに平らげ、フォークを置いて 【シュヴァルぺ】「ええ、マリーシア様の勇敢な戦いぶりは先日拝見致しましたし…子供の時の憧れをそのまま押し通したのでございましょうか?」 【 マリーシア 】「憧れを押し通した……――そう、だと良いのですが。あの時憧れた、私にとっての理想の姿を…この身に、纏えているならば…嬉しいことです」瞑目しながらその言葉に答える 【 トロイデ 】「思い出よりも、今が良いのぅ。船から落ちてからの方が、楽しみは多いような気がするしの」皆との食事。生死の境と、結社の子供達以外に支えられた戦い。今まで習い覚えたものが形になってゆく高位魔法。今まで、行き場の分からなかった熱の冷まし方 【シュヴァルぺ】「話ぐらいなら覚えてございますが、妖魔に襲われた村で助けを待つ少女のお話です、お嬢様」少しだけ昔を懐かしむように答え「そう思えるなら之からも押し通されるべきかと理想を求め進む道を選べると言うのは少し羨ましくおもいますが」 【 マリーシア 】「今は過ぎ去れば、それが想い出になります。今の瞬間と、そしてこれから来る時を楽しむことが出来たなら、それが、トロイデ殿の良き想い出となるのでしょう」 【 トロイデ 】「我も、理想にはまだまだじゃしな。とは言え、ようやく、その階には届いた。マリーシアも、努力し、研鑽を積めば、いつか届く事もあろうて」からからと笑い 【 トロイデ 】「今のおぬしなら、さしずめ独り潜入し、少女を助け出すといったところかの。我が、ついでに妖魔どもを薙ぎ払えば、丁度良かろう」条件を与えられれば、戦術を脳が編み始め 【 マリーシア 】「理想は、追い求めなくては届くことはありませんからね――それを形にするのは、並大抵のことではありませんが。それでも、諦めなければトロイデ殿の言葉通り、いつかは手が届く時も来るでしょう」 【シュヴァルぺ】「その様に考えられなくてもい良いのでございますよ、お嬢様。所詮はお話の中の事で御座いますから」 【シュヴァルペ】 薙ぎ払うと言う言葉に少しだけ震え 【 マリーシア 】「シュヴァルペ殿……?」震えた姿に、小首を傾げて 【 トロイデ 】「諦めては居らぬのじゃろう? ならば、今が思い出と出来るように、まずは、海賊どもの殲滅じゃな。未来を得るには、障害は除くに越した事は無い」女を知るまでは、ただひとつの歓びであった。戦いの愉悦 【 トロイデ 】 潰し、焼き、蹂躙する。未来を、勝ち取るたった一つの手段。邪神の眷族を滅ぼし尽くし、エリンディルに安寧を。その為にこの身は、この業は在るのだから 【シュヴァルぺ】「理想とは夜空の星で御座いましょう?追いつかずとも見上げ続けれるならばその光は何時までも目に映りますから。描く理想には等しく意味が御座いましょう」 【シュヴァルぺ】「何で御座いましょうマリーシア様?」マリーシアの言葉に震えを止め聞き返す 【 マリーシア 】「まあ、海賊達とは何れ雌雄を決す必要はあるでしょうが――とりあえず、今はこの静かな一時を楽しみましょう――刃は、抜くべき時にのみ抜けばよいのですから」そんなトロイデの頭を、ぽんぽん、と軽く撫でながら 【シュヴァルぺ】「はいお嬢様、それがお嬢様のお望みで御座いましたら。シュヴァルぺは傍に控えておりますので」 【 マリーシア 】「いえ……少々、シュヴァルペ殿が何か、思うところあるように見えましたので。気のせいならば、失礼を」その様子に、それ以上の踏み込みは避け。シュヴァルペに小さく頭を振ってみせて 【 トロイデ 】「やれ、つれないのぅ」ぽふんと、椅子に座り直し。マリーシアを見上げ「我とて、独りで立ち向かおうとは思わぬわ。勝ち取るべきは、我の未来だけではないしな」 【シュヴァルぺ】「いえ、子供心に妖魔とは恐ろしいものだと思いましたので…その時ハそれと戦う事を常にするとは思っても見ませんでしたが」 【 トロイデ 】「そのように怯える子供が、一人でも減るようにせねばな。それこそ、妖魔の存在を、老爺の思い出語りにできるようにな」 【 マリーシア 】「ええ、志を同じくする者、皆で勝ち取るべき未来ですから。共に手を携えて」ふ、と優しい笑みを浮かべ「――最も、戦わずに済むならば……ソレに越したことは、ありませんけれどね」小さく呟かれた言葉。微かに、ほんの微かに、身体が震える。恐れ戦く様に 【 トロイデ 】「それに、ついて来ると言うのならば。それこそ妖魔との戦いの日々となろう……どうしたのじゃ、マリーシア、風邪でも引いたか?」震えを見咎め、眉を八の字に曲げ 【 マリーシア 】「は?震え、ですか……?」困惑した表情。まるで、自分が震えていた事など、まるで理解していない、認識していないかのように。平然とした表情で問い返し 【シュヴァルぺ】「……戦わずに済ませると言う事はなかなかに難しい事で御座いますから……マリーシア様?」その様子を不審に思い 【 トロイデ 】「我は、震え、などと言うておらぬぞ。まぁ、大した事が無いのなら良いのじゃが」椅子を降りると背伸びして、手のひらをマリーの額に当てようと伸ばし 【 マリーシア 】「戦わず、和解できれば理想でしょうが。すでにそんな穏当な手段を選択できる段階は通り越していますから。最初から存在しなかった、とも言えるのでしょうが…」シュヴァルペがこちらを訝しげにする意味がワカラナイ。だから、ただ自分の言葉を紡いで 【 マリーシア 】「そう、ですね……何故震えだと思ったのでしょう…?」自分の言葉なのに、何故かが分からない。額に感じる、トロイデの掌の感触。それに、どこかへ沈みかけた意識を引き戻されて「ああ、大丈夫。好見えて無駄に頑丈ですから。そうそう体調は崩しません」 【シュヴァルぺ】「本当に大丈夫で御座いますか?」差し出そうとした手…しかし僅かに早く動いた主を見てその手を止めて任せ 【 トロイデ 】「海賊は、人であるから。我からすれば、積極的に狩る対象ではないがの。熱も無いようじゃし、疲れでも溜まっておるのかのぅ」腑に落ちぬ答えに、腕を組んでう〜んと唸り 【 マリーシア 】「ええ、本当に問題ありません――まあ、無自覚のうちに疲労している、というのはあるかもしれませんが……しかし、ここ数日は睡眠も――……ああ、ええ。確りとっていますし」心配する二人に、微苦笑しながら言うものの。最後の方で、急に視線が真横に逸れて 【 トロイデ 】「病気は、突然来ることが多いしの。何か他の兆候を感じたら、アコライトでも相談するが良い。これ以上は言わぬが、心配させるでないぞ」視線の逸れた意味には気付かず、そう締めくくり 【 マリーシア 】「ええ、有り難う御座います……相談できる内容なら、相談しているんですが……まあ、ご心配をおかけして申し訳ありません」若干、紅くなった顔を誤魔化すように。トロイデとシュヴァルペに頭を下げ 【シュヴァルぺ】「お嬢様の言うとおりで御座いますね。無理をなされては心配……?」マリーシアの変化に小首を傾げ 【 トロイデ 】「ふむ、悩み事か。それでは、あまり我では相談には乗れぬな。アコライトに相談し難いようなら、シュヴァルペに持ちかけてみるのも良いやも知れぬぞ。口は、堅いでな」合点がいったように頷いて 【 マリーシア 】「ああ、いえ。悩み事という訳でもないのですが……いえ、悩んではいますが、人に相談するのは少々、憚られまして……そ、それより。タルトをもう一つ、ありましたらいただけませんか?」微妙に引き攣った顔で、話題を掻き消すようにシュヴァルペに頼み 【シュヴァルぺ】「はい私でよろしければ…ええ、お気に召したのでしたら、お待ち下さいませ」妙に心に引っ掛かるがそれを止め新しいタルトをマリーシアの皿に乗せ 【 マリーシア 】「有り難う御座います――ああ、やはり美味しいものを食べると、落ち着きますね……」乗せられたタルトを早速頬張りながら 【 トロイデ 】「うむ、シュヴァルペの作る菓子は美味いからのぅ。ここは、砂糖が潤沢に在るで、作る頻度も上がって嬉しい限りじゃ」心配していた事もはや忘れたか。ホクホク笑い 【シュヴァルぺ】「お褒めに預かり嬉しく思います、作る者にとってはその言葉が励みになりますから」 【シュヴァルペ】 その様子にクスと少しだけ笑い 【 マリーシア 】「ふふ…ああ、本当に。今、この時は…とても、平穏です」瞳を細めて、今のこの、穏やかな光景に身を浸すように 書架と書物に囲まれた空間で、その時間は穏やかに、緩やかに過ぎていく。 敵対者のいる現状は、決して安穏としていられるものではない。それでも、今この一時だけは確かに、この空間は安らぎに満たされている だから、今この一時だけは。齎された平穏を享受し、過ぎ行く時を楽しもう ―――深く深く身を沈めて、恐れも震えも、掻き消してしまう程にまで