血に汚れた服を着替え、予備の服に袖を通す。流石にここまで血に汚れてしまっては、次の服を頼むしかないかなと思って。 同時に、微かに身体がふら付く。ベッドに腰を下ろし、顎に貫かれた身体の各所を確認しつつ…。傷跡は姉の治癒によって癒えた。が、流れた血がすぐ戻るわけでもなく。 【フェリィ】「ん…」ぽふ、と柔らかなマットの上に寝転がる。身体も疲労し、精神的にも疲弊はしていて。少し休んだ方がいいかな、と思いながらも、今ここに居ない姉を待って。 【リーシュ】「お風呂の方、空きましたよ……フェリィ?」浴場の扉を開け、タオルを長い髪にあてて。妹の薦めに従い、先に湯をつかったが。少し、心配で、いつもより短く、出てきてしまい「今回も、お疲れ様でした。無事に、帰ってきてくれて、嬉しいですよ」妹の姿を、ベッドの上に確認し。そっと、ふちに腰掛けて 【フェリィ】「あ、うん。分かった――」身体を起こし、姉の方を見る。髪を濡らした姉が、いつもより綺麗に見えた。「…ううん、試練が無事に終わって――よかった。これで2つ終わって、後4つ…だよね」自分が今度は浴場へ向かおうと、立ち上がり…力が、がくりと抜ける。ふら付き、そのまま膝を着いてしまって。 【リーシュ】「フェリィ!? 何が……」慌てて、駆け寄り、体を、見る。外傷は……無い。或いは、病気か? とりあえず、休ませるためと、様子を診るために、寝かせて、脈を取り、額に手を当てて。幾つもの、悪い予想が、頭を駆け巡る。 この子を、家族を、愛する人を失ったらと考えるだけで、気が遠くなりそうだ…ましてや、フェリィは。その、全てなのだから。 【フェリィ】「あ…姉様――大丈夫…少し、頭がふら付くだけだから」寝かされた身体を起こし、姉に笑いかける。疲弊の色が濃く出てはいるものの、何時も通りに笑い。「ちゃんと休めば大丈夫だと思う――血がなくなると、こんなに身体って重く感じるんだね…」ほぅ、と息を吐く。 【リーシュ】「そればかりは、どうしようもありませんからね。とはいえ、その状態ではお風呂も危険ですから。今日はこのまま、休んでいるといいですよ」ほっとしたような、笑みを向け。それでも、無理をしないようにと、余計かも知れぬ一言を付け加え「気分が戻らなければ、私の血を、分けてあげますから」自分の胸、心臓の上に、右手を添えて 【フェリィ】「…うん――姉様、ごめんなさい…心配、させちゃって――ううん、大丈夫。そんなことしたら、姉様が今度こんな風になっちゃうじゃない」姉の手を取り、自分の胸に当てる。鼓動は何時もと違って、ほんの少しだけ…弱い。しばらくした後、その手をきゅ、と自分の両手で包み。「…じゃあ、1つだけお願い。一緒に、すぐ傍で…眠って欲しいな、姉様…」 【リーシュ】「私は、フェリィのおかげで傷のひとつもありませんもの。ですから、フェリィが元気になってくれるのなら、何だって、してあげたいのですよ。そんな事で、あなたの力になれるのなら、喜んで」微かな鼓動に、こばわりそうになる表情を、抑え。小さ過ぎるその望みを、笑顔で快諾し。 私のために、傷ついていくフェリィ。助ける事ができるのなら、この心臓を捧げても、構わないのに。それなのに、望みはとてもささやかで。いとおしいと同時に、もどかしくもある。そんな事を感じるのは、自分のわがまま、なのだけれど 【フェリィ】「うん…姉様が一緒に寝てくれて。傍に居てくれれば…すぐに元気になる――」起こした身体をゆっくりと姉の方へ近づけ、寄り添う。頭を姉の肩に乗せ、嬉しそうに身体を少し揺らす。「…ん、こうしてるのが、落ち着く…」姉の腰に手を回し、目を閉じて…姉の体温を身体全体で感じ取ろうとして 【リーシュ】「あらあら役得ですこと。これなら、すぐに元気にならないで居てくれた方が嬉しいかも知れませんね」ころころと笑いながら、すぐそばの頬に口づける。失われた血が、そう、簡単に回復する筈も無い。それでも、少し回復すれば、フェリィはまた活発に動き出すだろう、自分を心配させないために…ならば、多少不謹慎な言葉でも、傍に引き止めたい。そんな思いを隠して、フェリィの腰に、自分からも腕をまわし 【フェリィ】「姉様、ちょっと意地悪――でも、元気にならなきゃ色んな人に心配かけちゃうもんね…」口付けられ、少しだけ朱に染まった顔を姉のほうへ向け…回される腕に、心地よさそうな表情を見せる。姉の頬にも一つ、口付けを落とし…そのまま、姉と自分の身体をベッドへと横たわらせ 【リーシュ】「元気にならなくちゃと。自分を追い込んでいると、なかなか元気にはなれませんよ? 元気になりたいと、願う事は大切ですけれど。心に、嘘はつけても。体は、嘘をついてくれませんからね」妹の瞳を覗き込みながら、最近、追い込みがちな心に釘をひとつ 【リーシュ】「無理は結局、元気を奪うんですから。何がしたいかを、きっちりと、頭に置いて。そのために、体調を整えるといいですよ。何がしたいか、は聞きませんけれど」滅び行く王に言った言葉。気にはなるけれども。それが、フェリィの目的となるならば、元気になる基となろうと 【フェリィ】「…あは、姉様――やっぱり、姉様にはばればれなのかな。でも、元気になりたいなって思うのは本当だよ――姉様にも心配かけるの嫌だし」ぎゅ、っと回した腕に力を込める。何がしたいか、なんて…決まっている。試練を超えて、姉にかけられた枷を外す。今は、ただ…それを願うのみ「……姉様。ずっと傍に居てね…」小さく、耳元で呟いて…そのまま、意識を眠りへと沈めていく。 【リーシュ】「私も、フェリィに心配をかけるのは嫌ですから」夢の中、フェリィを見殺した事に、ただ一人の為だけに在る心が軋む。でも、そうしなければ、フェリィは自分を心配しただろうから。「だから、ずっと、傍に居ますよ。いつまでも、いつまでも、ね」フェリィの髪を、優しく撫でる。ここまで思ってくれる人が居るのだ。どのような試練も、乗り越えられぬはずも無い。 ただ、その試練が妹を傷つけずに置かぬ事だけが、嫌だった。だから、早く、恙無く終わる事を、願い…目を、閉じる。少し元気になった妹に、おはようを言って。傍に居るのだと、安心させるために。どんな時でも、居なくならないと、日々、証すために 【フェリィ】「……試練、超えようね――私も、精一杯頑張る…私が、できる事は――道を開くことだから。姉様の代わりに…でも、姉様と一緒に歩く道を、拓くこと…」小さく、呟く。それは、銃を取ったときから思い続けたこと…姉の力になろうと決めたときから、思い続けていた意志。「…おやすみなさい、姉様…」まどろんでいく意識の中、決意をまた固め…感じる暖かな体温に、安らぎを得… 【リーシュ】「ええ、一緒に。試練を受ける私が、フェリィの背を護るだけ、と言うのが、少々情けないところではありますけれど」少し、気恥ずかしげに呟く。、それは、銃を取ったと聞いた時から歩み始めた道…妹を支え続けるために、選択した手段。「おやすみなさい、フェリィ」甘く柔らかい唇に、そっと自分の唇をのせる。感じる、いつもより冷たい身体に、自分の想いを吹き込むように…… 合わせ鏡の双子は眠る。寄り添いあい、求め合いながら、相手を護るのは自分だと、心密かに誓いを重ね。 合わせ鏡の双子は眠る。互いの存在が、また目覚めたとき傍にあることを願いつつ。 不安の大きさは、捧げる愛情の大きさ。愛深き故に、それを失うことを恐れ。 喪失への不安を、傍にあること…触れ合うことで補い続ける。それが逆に、最終的に不安を大きくしていることを理解していても。 比翼の鳥は、支え合い、絡まり合いながら。翼を畳みて、眠りに落ちた。大きすぎる感情に満ちた、卵を抱いて。