【リーシュ】「ふぅ、これでいいかしら?」最後にベッドを整え、部屋を見渡す。 【リーシュ】ギルドの仕事が、早く終わったため。フェリィを綺麗な部屋で迎えたくて、少し、部屋を片付けた。 【リーシュ】もしかしたら、早く帰らされた、のかも知れないが。その辺りは、気付かない振りをする 【リーシュ】その方が、きっと誰にとっても平穏だろう。そんな計算を、いつものように自然に立てて 【リーシュ】「でも……最後にベッドって。やっぱり、そういう事かしら?」ベッドの上に、身を乗せ。フェリィの代わりに、枕を抱えて。少し頬を染める 【リーシュ】計算できない、制御できないことは、フェリィの事だけ。こんな時でさえ、フェリィに抱かれる事を、抱く事を夢見ている 【リーシュ】いや、それとも。寿命が無いと知ったが故に。次代を残したいという、本能的な部分、だろうか? 【リーシュ】フェリィが護ってくれると、信じている筈なのに。計算機の自分は、二重、三重の安全を求めて、フェリィの努力と想いを無視する 【リーシュ】フェリィと共に、試練を乗り越えられなかった場合のパターンが。既に幾つも、脳内のノートにストックされている 【リーシュ】或いはそれは。リティーシャを助けてしまったために。より、フェリィを苦しませた事。への反動なのかも知れない 【リーシュ】今度こそは護り通す、幾度も空転した誓い。そして今も、フェリィに護ってもらう事を計算に入れ。自己の選択のつけを、支払わせている 【リーシュ】じっと、考える。枕を抱いた置物のように。表情を作ることすら、無駄と排除して。自己の罪と、それを贖う手段を考える、考える 【フェリィ】考えるリーシュの元にかけられる、姉を呼ぶ声。その声と共に、扉が開く。 【フェリィ】姿を見せた少女は、姉が元へゆっくりと歩んでくる。こちらも、早く帰らされたのか…不安の色を少し、見せていて。 【フェリィ】考え込む姉の傍に座り、触れようとして…その指を止め…「姉様…?」と声をかける。 【フェリィ】姉の命が、失われてしまうかもしれない。護りたいと思っても、護りきれないのか、と。 【フェリィ】護りたいと、どれだけ願っても…自分の力じゃもうどうしようもないのかと…。そんな、悔しさ、焦り。 【フェリィ】今こうしている間にも、姉の命が削れているんじゃないかと。思ってしまって。 【フェリィ】それが、思考の渦となって自分を取り巻く。不安からか…ここ数日はろくに眠ることすらできていなかった。 【リーシュ】「お帰りなさい、フェリィ。今日は、少し早いのですね」笑顔を作り、顔を上げる。思考に没入していたため、気付くのが遅れた。       あの顔を見られていないかという不安を、隅に追いやり 【フェリィ】「うん…今日は仕事、少なめだったから――早く終わった」本当は、嘘。仕事など手についていなかったのを…心配され、休むように言われただけ。       それくらい、自分の身体が疲弊していても…やはり、姉のことを想ってしまう。       「姉様……だい、じょうぶ…?」表情の消えた顔…姉の表情に、つい…そういう言葉をかけてしまった。 【リーシュ】「ええ、大丈夫ですよ。仕事を時間前に終わらせた上に、部屋の片づけができる程度には。       その上、フェリィといつもより長く一緒に居られるのですから、調子の悪いはずも無いじゃないですか」と、自分からフェリィに抱きついて 【フェリィ】「っ…姉様――」普段、とは逆。いきなり抱きつかれ…微かに驚いた声を上げる。いつもと違うその行動、が逆に不安という名の警鐘を自分に響かせて。       「…姉様、いきなり――どうしたの?」自分も姉の背に腕を回しながら 【リーシュ】いつもは、もっと距離を測る。身体の、では無い、心と、感情の。でも、今は、元気だと見せる事が、必要だと思う。その割には、成果は上がってはいないのだが 【フェリィ】いつものように、姉に話しかけることが出来ない。自分から、行動を起こせない――姉への不安が、喪失への不安が…彼女を縛り付けていて。 【リーシュ】「だって、最近。フェリィが抱きついてくれないのですもの。でしたら、自分から抱きつくしかないじゃないですか」忙しい恋人にほったらかされた娘のように、少し不満げな表情を見せて 【リーシュ】「あ、でも。最近疲れてるみたいですから、無理しなくてもいいですからね? フェリィのやりたいように、が一番ですから」そんな表情を見せた事が失敗だったように、慌てて表情を取り繕う……振りをする 【フェリィ】「それは……うん――姉様、怖く。ないの…? 私、怖くてしょうがない…よ」そんな、普段通りを取り繕うような…そんな、姉の姿に我慢が出来なくて。       自分の不安は、姉も感じているのだろうかと…想ってしまう。「姉様の命が、消えてしまう…姉様が、私の傍から…居なくなっちゃう――そんなの…」ポツリ、ポツリと微かな声で… 【リーシュ】「そうですね、あの時は怖くありませんでしたが、今は少し怖いです」と、フェリィの手をとり「私を護ってくれる王子様が、私より先に倒れてしまいそうで」その甲に、口付けて 【リーシュ】「それ以外は、怖くはありません。フェリィと一緒なら、試練も乗り越えられるって、知っていますから」と、微笑を向ける。心の中で、護れなかった時の事を計算済みの自分に、毒づきながら 【フェリィ】「……だって、だって…眠ろうとしても、朝起きて姉様が…私の傍で動かなくなってたら、どうしようって――そう考えると、怖いの…乗り越えられなかったら、どうしようって…不安に、考えちゃう…」       口付けられ、微笑まれる。そんな姉の前で、不安を曝け出してしまう自分に…嫌気がさす。それでも――一度溢れてしまった不安は堰きとめられずに、流れ出す。 【リーシュ】「そんな事を心配していたんですか。まったく……それなら、もっと早くに相談してくれれば良かったのに。そもそも、間に合わないのなら、彼女達は、私を呼び出す必要は無いのですから。       つまり、それだけの余裕は、あるという事です」指を折り、大丈夫、の根拠を数えて見せて 【リーシュ】「つまり、呼び出された事。そして、選択の機会があった事。寿命に対してなんら言及をしなかった事。この3点で、現在のペースで、不安が無いと、向こうが思っているという証明になります」 【フェリィ】「…そんなこと、じゃないよ――姉様の命、なのに…余裕があるっていっても…怖いよ。凄く…姉さまが居なくなっちゃったら、私――」       大丈夫、という言葉を聴くたび…大丈夫なはずなのに、不安が大きくなる。何でだろう、わからないけど…ただ、不安だけが募る。姉の言葉が…姉自身に向けられているような…そんな錯覚を覚えて。       「…姉様――」力を込めて、抱きしめる。「姉様…姉様は、怖く…ない、の…?」潤んだ瞳で、姉のことを見つめる。こんなに怯えているのは、自分だけなんだろうかと思って。 【リーシュ】「私が怖いのは、フェリィを失ってしまう事、だけですもの。そのフェリィが、護ってくれると言ってくれたのですから。この世に、怖い物なんて何もありません」迷い無く、目を見つめ返し。妹の目尻に、親指をそっと乗せ 【リーシュ】「やっぱりやめた、なんて言わないでくださいね? できれば、ですけれど。その時は、多分、凄く怖くなってしまいますから」親指で、滴を払い。その先端を、口に含んで 【フェリィ】「…本当に…? 姉様、本当にそれだけ…? 私、違うんじゃないかって――思う」双子、だからというのはまた違う。ずっと一緒に過ごしてきたから感じる違和感。       「…自分に言い聞かせてる、みたいな…感じがする、姉様…」姉のしぐさに、温かさを感じる。心配してくれてるんだと思っても…心のしこりは、あって。 【リーシュ】「怖いのは、本当にそれだけですよ。言い聞かせてる事は、確かに別に、あるのですけれど、ね。あんまり、聞いていて楽しい物ではないと思いますけれど」       表情を曇らせ、躊躇するように。問われれば答えてしまうから、問われない事を願いながら 【フェリィ】「…何、を? 言い聞かせてるの…? 姉様がいいなら、教えて。私…姉様と一緒に居たい。姉様と、いろんなことを共有したいから――ダメ…?」ぎゅ、と姉の服を掴む。       曇った表情の原因を…なくしてあげたいと思う。姉と一緒に…笑いあいながら過ごしたいから、隠し事なんて…と想ってしまう自分は我侭なんだろうなと思う。でも、やっぱり…と。 【リーシュ】「考えないように、ですよ。失敗した時点で、まだ3番目以外の選択肢は残っている事。リティーシャさんを殺せば、守護者さんやアラクネさんの不況は買うでしょうけれど、寿命は元に戻るであろうろう事。       その他幾つもの、失敗した時の手段。フェリィと、試練を潜り抜けられれば考えなくていいであろう、諸々の事を」 【リーシュ】目を伏せ、答える。それは、信頼とは真逆の事。全て上手く行くと嘯きながら、上手く行かなくても、いいのだ。つまりは、その努力は……より良い結果を求めるためには必要だが。大事な物を逆に、危険に晒している事 【リーシュ】リーシュにとって、大事なのはフェリィであり。リティーシャは、いつでも殺せる手段に上がっている。殺せないのは、大事な人がそれを嫌っているから、ただ、それだけの事。 【リーシュ】つまり、この結果は、誰の望みを叶えるために起こったのか。それを聞けば、きっとフェリィは、自分を責めずに居られないだろうから、言い出せなかった。言いたくなかった 【リーシュ】それそのものを行ったわけではないが。敏感な妹の事だ。その結論には、すぐにたどり着くだろうから。 【フェリィ】「…そっか、うん。試練の話を聞いたとき、ね。私――リティーシャに銃を向けようと思った。でも…でも、それをしたら、みんなが悲しむ。姉様も…きっと、悲しむと思った。私が、結果的に傷つくから…」       ぎゅぅ、っと姉の身体を抱きしめ。頭を肩に乗せる……いつもどおり、とは行かないものの。甘えるように、身体を寄せて       「…姉様。私、頑張るから――リティーシャを撃たなくても、殺さなくてもいいように…私、絶対に――姉様を護って、試練を成功させるから……」       新しく、刻む決意。大切なものを、手放したくはないから。ずっと…これからも一緒に歩みたいから、今はただそれだけを願う。 【リーシュ】「フェ……リィ?」少しだけ、驚いた。この子は、いつの間に、これだけの強さを手に入れたのだろう? それとも、自分の目が曇っていただけだろうか?       「まったく。まず、頑張らなくていけないのは、私ですのに。私に課せられた、試練なのですから」戻ってきた、しなやかさと柔らかさに、この数日で始めての、安堵の吐息を、その肩に吐いて 【リーシュ】全てを、護らないといけないと思っていた。傷の一筋も、つけさせるものかと。だから、フェリィの身体が、心が、傷つけられる度に。自分の心が、抉られるようだった。 【リーシュ】だが、それらの傷が。フェリィを、ここまで強くしたのだろうか? だとすれば、自分の今までやってきた事は。フェリィの成長を、逆に妨げていたのかも知れない。 【フェリィ】「……ん――」姉の身体にあった力が抜けたのがわかる、少しでも…姉の負担を取り除いてあげたい。そう、思う「…でも、まだ――身体が無理しちゃうかもしれない。そういう時、あったら…止めて、姉様」       ここ数日で、初めて…心からの笑顔を姉に向ける。       「…ここに来る前と比べて、少しは…強くなったかな、私――辛いことも、いっぱい体験したけど。姉様が傍に居てくれたから…乗り越えられた。だから、これからも一緒に居て…?」 【リーシュ】「私が思っていたよりずっと、ですね」自分で自分の事は見えない物だけれど、これで少しは、は無いだろうと苦笑をこぼし       「それではまずは、ゆっくり眠る事、からですね。起きるまでも、起きてからも、ずっと一緒に居ますから」ぽんぽんと、自分の横。メイクされたベッドを叩いて 【フェリィ】「…うん――眠れるかわからないけど。姉様が傍に居てくれれば、少し――眠れそう」身体の力を抜いて…それでも、姉の身体を抱きしめたまま――横に倒れる。       自分の腕の中にある温かさ…大切な人。失うもんか、と。絶対に護るんだと…心で誓う。しばらくしていると…意識が、まどろんでいく。不思議と、怖くはなかった―― 【リーシュ】「おやすみなさい、フェリィ。それと、心配してくれて……ありがとう」妹と共に横たわりながら、隣に在り、求められ続けている事に安堵する。 【リーシュ】そして、眠りに落ちる前に、感謝の口付けを。心配してくれた事に、求めてくれた事に。そして、受け容れてくれた事に、悩んでくれた事に。 【リーシュ】万感の、ありがとう、と共に 【フェリィ】「おやすみなさい、姉様……だって、姉様のこと――好き、だから…」眠りこける前、口付けにこちらも返し――そのまま、目を閉じる。 【リーシュ】私だって、愛しています。そんな子供じみた言い返しを、不足していた眠りを妨げぬようこらえながら。 【リーシュ】起きてきた時、どれだけ、利子をつけて囁こうかと、夢想したら。少し、楽しくなった。 【リーシュ】1秒でも、長く休んでいて欲しい。1秒でも、早く起きてきて欲しい。相反する思いを抱えながら、ずっとずっと、妹の寝顔を見ていた 【リーシュ】自分の掛けた心配の分。いや、倍以上の嬉しさを、与えられるように