日陰丸は、犬族の領主たる父・杉平安元の治める四河への帰路についていた。  供は目付け役の保田忠正ただ一人。あまりに無用心、と傍から見えば思えよう。しかし、 当然、これには訳がある。  日陰丸は杉平家の次男である。齢十二を数えていながら未だ幼名を名乗っている事から 分かるように、日陰丸は元服を済ませていない。しかし、これにも当然、訳がある。  日陰丸は数え年三歳の折に、ヒト族領主・先河義友の元に人質に出された。西よりの虎 族の攻勢にさらされていた犬族の苦肉の策として、父・安元が進んだ技術を持ったヒト族 の援助を求めたためである。ヒト族は犬族に二つの条件を出した上で、援助を認めた。 ・ひとつ、犬族がヒト族の家臣として宗主権条約を結ぶ事。 ・ひとつ、人質として安元の実子を十年の間、差し出す事。  断れるはずがなかった。安元は条件を飲んだ。  安元には二男一女がいた。この時代、女は子として数えられない。従って人質として差 し出されるのは、当然ながら長男の十五となる安春か、漸く三つになったばかりの日陰丸 のいずれかとなる。安元は当然の様に日陰丸を差し出した。安元とて日陰丸が憎かろうは ずはない。だが、家督を継ぐべき長子を手元より離すなど論外である。その選択を誰が責 められようか。忠臣として知られる保田を日陰丸の目付けとして付けたというだけでもそ の心は察せられよう。  だが、物心ついた時より異邦の地、異種族の中で育つ事となった日陰丸にとって、父と は、自分を政略のため切り捨てた怨敵としか思えなかった。  実際、ヒト族の下での生活はただひたすら苦難を伴うものであった。  犬コロと呼ばれ、蔑まれた。  毛皮が物珍しいと、ヒト族の子どもらに引き回された事も二度や三度ではなかった。  この様なこともあった。日陰丸が十を越えた頃のある宴の席、一人の酔客が日陰丸の膳 の前に食い残しの肉を放り投げて、言った。 「犬畜生、恵んでやるゆえ、喜んで食らうがいいわ」 日陰丸はあわや抜刀しかけた。それを事前に察して止めたのは日陰丸を幼少の頃より蔭に 日向に守り育ててきた保田であった。保田は諭した。 「若、ここで堪忍を忘れればこれまで辛酸に耐えつづけて来た事が夢幻と散りましょうぞ」  ――結局、日陰丸にとってヒト族の下での十年の生活の中、信頼できたのは保田のみで あった。  無事、人質としての期限を終え、犬族の下への帰参を許された折、ヒト族より護衛の申 し出はあった。だが、日陰丸は固辞した。否、固辞というのは表現が正確ではない。日陰 丸は拒絶したのである。日陰丸にとってヒト族の護衛など、起こるかどうかも定かならぬ 賊の襲撃などより余程腹に据えかねるものであった。むしろ、信頼する保田一人を従えた ほうがどれほど気が楽である事か。  こうして、日陰丸はほとんど記憶にもない故郷への帰路についたのだ。  国境を南に越え、四河に入る。旅は無事にして平穏なものであった。日陰丸は生まれて はじめての自由を満喫していた。正直なところを云えば、この旅が終わらない事すら望ん でいた。四河の城に入ったところで一体何になろうか。日陰丸は考えていた。自分は物心 つくより前からヒト族の下で暮らしてきた。逆を言わば……自分は杉元家にとっては、実 は赤の他人同様なのである。その自分がいかにして主家の子として帰参する事が出来よう か。  保田はそのような日陰丸の内心を察していたのであろうか、旅路を急がなかった。むし ろ、一日に歩む路を短くし、雨風の折には宿に居を構え、そのまま一日を過ごすほどであ った。そして、日陰丸に折に触れ杉元家の人々に尽いて語った。  父、安元がいかに領民を思っているかを、未だ日陰丸が生まれる前に起こった飢饉を例 に語った。  今は亡き母、北の方がいかに器量よしであったか、その面影が日陰丸の純白の毛並みに 偲ばれる事を諭した。  兄、安春が聡明で思慮深い事を、幼少の折に安春が寺子屋で教師を論破してしまった逸 話を交えて談じた。  姉、楓姫が幼少の頃いかにお転婆であったかと、町娘に扮して城を抜け出しては下々と 交わっていたという笑い話をした。  日陰丸は保田の話に聞き入った。日陰丸は心底幸せであった。  だが、旅には終わりが来る。必ず来る。いつしか二人は四河城まで五里ほどの街道につ いていた。夢の終わりは指呼の間にまで迫っていた。  遠くで鐘が四つ鳴るのが聞こえた。時は巳之刻(午前10時前後)、正午まで一刻ほど。二 人は茶店をみつけ、団子と柚子茶を求めると、しばし腰を下ろすこととした。  沈黙が二人の間に下りていた。  最初に沈黙を破ったのは保田だった。 「若、良い景色にござりますな」  日陰丸は云われてはじめて景色に心を向けた。それまで、日陰丸の心の中はただ四河城 に入場する事への糢糊漠然とした不安に占められていたのだから。  街道は海沿いにあった。峻然とした険しい岸壁とそれを覆い包むような萌え出る緑の 山々。霞に靄る海向うには大小の島が浮かび、その間に横たわる海原はまばゆいほどにき らめいていた。季節が初夏である事を日陰丸は今更ながらに感じた。 「保田」と日陰丸は呼びつけた。 「最後の我侭だ。一刻で良い。独りにさせてもらえぬだろうか」 風が海の香りを運んでくる。日陰丸は再び城に閉じ込められる前、最後の外界の風景を心 に留めておきたかった。 「若?しかし……」保田は一時口篭もった。が、小さくため息をつくとかすかに首肯した。 「九つ(正午)までにはお戻り下さいませ」  日陰丸は、街道を離れ、海へ降る小路を歩いていた。街道の茶店からは気づかなかった が、林と林の間を縫うようにして民家が幾つか軒を連ねている。軒先に干魚が吊るされて いるという事は、ここは漁村であろうか。日陰丸は好奇心に駆られながら家々の間を歩い ていった。  そも、ヒト族の城の中に軟禁されてきた日陰丸にとって庶民の生活は用聴き商人などよ りの伝聞でしか知らぬものである。見る物全てが好奇の対象である。干し竿に打ち掛けら れている網、腸を抜かれた魚、裸で遊びまわる子ども達、松の木に繋がれた馬、それらを 日陰丸は一つ一つ胸に留めながら歩いていった。  唐突に松林がひらけたかと思うと、そこは一町半(144アール)ほどの砂浜となっていた。 数艘の木造の小さな漁船が海に向かって船首を向けている。船の下には何本もの丸太が敷 かれている。おそらくあれをコロにして船を海に出すのであろう。  日陰丸はそう思い、物珍しさから船の舳先に触れてみようとした。  と、目の前の船の影からひとつの人影が現れた。  女性である。  年の頃は十八、九。まだ少女といったところか。小柄ながら適度に肉付きのよい裸身に 白銀の毛並み。右手に銛を握り、腰には魚篭をさげ、長い髪を巻き布でまとめている。  これが海女か?と日陰丸は思った。美しい、とも思った。  と、  海女とおぼしき少女が振り返る。その視線が日陰丸と交錯した。  思わず日陰丸は顔を赤らめた。おそらくこの漁村では漁に出る者が裸身なのはありふれ た事なのであろう。が、ヒト族の城で上流階級の中、暮らして来た日陰丸にとって女性の 裸身など目にする機会など皆無であったし、ましてや同族の美女となればなおさらの事で ある。 「みかけない顔だけど」と、少女が不思議そうに語りかけてきた。 「君は……行商人の仔かな?」 「余……いや、僕は」日陰丸は言葉使いを庶民風に改めた。杉平家の者であると名乗るの もはばかられたし、この短い一時くらい身分を偽っても問題なかろうと思っての事である。 「なぜ、そな……お姉さんは僕を行商人だと?」  ――それは、と少女は言った。まずは、まとっている衣がしっかりしたつくりであるこ とから金持ちであろうと類推したという事。袴に脚半をつけ、旅装束である事。 「それに、君が腰にはいている剣」少女は笑いながら指摘した。 「反りのない、細身の剣など普通の犬族ははかないもの。ヒト族の町で長いこと暮らして いる証拠でしょう?」  日陰丸は恐れ入った。答えは間違ってはいるものの、その観察力はたいしたものである。 「ああ、ヒト族の町での暮らしが長くてね」日陰丸は言葉を選びながら、 「僕は……、ひ、日立という」  とっさに偽名を名乗った。 「ふぅん……」少女は面白そうに日陰丸を見つめた。 「それで、どうして日立君は街道を離れてこんな所まで来たのかな?」 「それは、」日陰丸は目線を少女からそらしながら言った。裸身をじろじろと見詰めるのは 不躾な気がしたからである。 「それは、海がきれいだったから」  と、ぱぁっと少女の顔が明るく輝いた。うれしそうに何度も首肯する。 「そうでしょ?この海って本当にきれいでしょ!?」 「うん」 「私も、ここの海が本当に大好きなの」 そして、日陰丸の両手を握り締めながらうれしそうに言った。 「日立君も、一緒に泳いでみない?とっても楽しいわよ!」 「いや、僕は」と日陰丸は断ろうとした。が、少女はそんな日陰丸にかまわず、彼の着物 の帯を解き、まとっている物をてきぱきと脱がし始めた。  そして、 「あ……」日陰丸の袴を下ろした直後、少女の手が止まった。  日陰丸の下腹、純白の毛並みの間から真っ赤な陰茎が屹立していた。 「これは、その……」日陰丸は慌てて上を向いてそそり立つ己自信を両手で隠した。実は、 少女の裸身を最初に見た時から日陰丸は袴の中で勃起する自分自信を感じていた。それだ から、泳ぎに誘われた時、彼はそれを断ろうとしたのだ。しかし、見られてしまっては仕 方がない。日陰丸はありのままを話す事にした。 「お姉さんの裸を見て、その……」  少女は驚愕から得心へと顔を変え、微笑んだ。 「発情しちゃった?」 日陰丸は、一瞬口篭もり、しかし、 「うん」と応えた。  少女はそんな日陰丸の頬を両の手で挟み込む様にして抱きかかえると、顔を触れんばか りに近づけて囁いた。 「それじゃ……」甘い吐息。 「お姉さんと交尾してみない?」――私も実は、今、発情期なの……。  少女は日陰丸の応えを待たずに日陰丸の唇に己が唇を重ねた。  口を塞がれて日陰丸は、  おずおずと少女を抱きしめた。  ぎらぎらと真上から照りつける太陽のもと、少女は日陰丸の衣を一枚一枚脱がせながら、 日陰丸の徐々にあらわになってゆく裸身に軟らかな舌を這わせた。うなじから、まだうす い胸板の乳首を経て、へそ、さらにその下へと少女はゆっくりと這い進んでゆく。日陰丸 はただ少女の為すがままに身体を委ねた。  少女の荒い息づかいが日陰丸の毛並みをくすぐる。日陰丸の呼吸も自然と激しくなって くる。熱い鼓動が耳朶を打つ。意識が朦朧とするほどの興奮の中、日陰丸の中で少女を抱 きたいという熱情が激しく高ぶり始める。日陰丸は知らず、少女の舌が己自信をなめるの に合わせて腰を動かし始めた。  日陰丸の準備が整ったのを見て取った少女は日陰丸の手を取り、泊めてある船と船の間 の影へと日陰丸をいざない……日陰丸に背を向け、四つん這いになった。 「さ、いらっしゃい」  日陰丸は犬族としての本能の命ずるまま、覆い被さるようにして背後から少女を抱きし めた。たゆたう両の乳房を両手で抱きしめ、怒張した陰茎を少女の尻に打ちつけた。  最初の一回、日陰丸は狙いをはずし、ただ少女の尻の上を空しくこするだけだった。二 度目は小陰唇をなぞるだけに終わった。だが、三度目、日陰丸の陰茎は、にゅるっという 音を立てて、少女の花弁の中にゆっくりとうずまっていった。 「あぁ……」日陰丸は生まれて初めての《ほと》の感触に酔った。無我夢中で少女にしが みつくと激しく腰を振るった。幾度も幾度も腰を打ちつける。何回か腰を引いた際に、初 めてのため手際の悪い日陰丸の陰茎は少女の花弁から抜けてしまいかけた、が、少女はそ の度に上手く腰を使い日陰丸の陰茎を正しい場所に導いた。  ほどなく日陰丸は腰の使い方を覚え、上手く少女の奥を突く事が出来るようになった。 少女は顔を紅潮させ、喘ぎながら、「――上手くなってきたわね」日陰丸に囁いた。また、 日陰丸の方は日陰丸の方で高まる気持ちを少女の中に何度も突き上げた。  と……  日陰丸の陰茎の根元がゆっくりと球状に膨らみ始めた。  犬族の男性器の構造は、ヒト族のそれとは全くことなる。ヒト族が海面体を充血させる 事で勃起させるのに対し、犬族は、普段は体内にある軟骨を陰茎内にせり上がらせる事で 勃起させる。だが、犬族の男性器でヒト族ともっとも異なる構造を示すのは球茎や亀頭球 と呼ばれる、この陰茎の根元の球なのである。交尾を始め、興奮が高まると犬族の男性の 陰茎の根元は膨れ上がる。これによって陰茎を女性の膣内に固定して交尾中に陰茎が抜け てしまう事をふせぎ、確実に仔を孕ませる様に出来ているのである。  日陰丸はとまどった。このまま球茎まで突き入れてしまいたい。しかし、そうしたらこ の少女を孕ませる事になってしまう。興奮と悦楽の中にあったが日陰丸にもその程度の事 は容易く考えついた。  が、少女は日陰丸のそんな逡巡をすぐに察した。 「いいのよ、それも入れちゃって」はぁはぁと熱い吐息を吐きながら少女は日陰丸にせが んだ。 「で、でも……」と、日陰丸がさらに躊躇するのを見て取るや、少女は両手を背中越しに 日陰丸の尻に回すと、ぐいっと日陰丸の身体を引き寄せた。 「あっ」と日陰丸は小さく声をあげた。半ばまで膨らみかけた球茎が少女の膣内に引きこ まれる。球茎が膣口部をくぐりぬける時の絞るような締め付けに日陰丸は喘ぎ、  そして、  つぷんっ、  音を立てて日陰丸の陰茎は少女の膣内奥深くに飲み込まれた。  少女の膣はぬめるように陰茎を包みこみ、日陰丸を悦楽へと誘った。日陰丸は無我夢中 になってその奥へ奥へと猛る己自身を抽送した。高まる快楽に猛る血が球茎を熱い鼓動で 満たす。  日陰丸はその段になって漸く我に帰った。慌てて己が陰茎を膣から抜こうとした、が、 奮まった日陰丸自身はすでに少女の胎内でのっぴきならぬほどに膨れ上がっており、いく ら腰を引いても抜けなくなっていた。日陰丸は何とか引きぬこうとして混乱に陥った。  と、少女が甘い声で囁いた。 「もう、抜けないんだから、一緒に楽しもうよ、ね?」 そして、少女は腰を揺らめかせながら、日陰丸を締め付けた。時に柔らかく、時に激しく、 ぬめるように、押し包むように、――日陰丸を悦楽へと導いた。そして、 「んっ……あっ!」  少女の導くままに頂きへと駆け上った日陰丸はたまらずに精を放った。生まれてはじめ ての精を、少女の膣を満たさんばかりに吐出した。それが幼い日陰丸が迎えたはじめての 雄としての頂点だった。 「んんっ、熱いのがっ……いっぱいっ」少女はひときわ高い喘ぎ声とともに、さらに日陰 丸を締めつけた。  日陰丸は完全に我を忘れた。城へ帰参すべき事を忘れた。己の立場を忘れた。少女を孕 ませてしまう事への怖れを忘れた。ただ全身を満たす悦楽に未だ幼いその身を任せ、幼な き精を、ただひたすら、何度も何度も少女の膣内に放った。  犬族はヒト族と違い、一度の射精で果てるのではない。十五分、時には三十分ほどの間、 犬族の男性は続けざまに、何度も、何度も大量の精を放つ。  日陰丸も例外ではない。最初の高まりは入り口に過ぎなかった。それまで途絶えていた 線が繋がったかのように、彼の意識の全てが雌雄のまぐわりへと繋がった。 「――うぅっ、……はぁっ!」  日陰丸は少女を後から抱きしめる姿勢から、身体をずらし、繋がりを中心にして身体の 向きを変え、丁度、少女と尻と尻とつき合わせた体勢になった。その姿勢で日陰丸は体内 からこみ上げてくる精をとめどなく射ち放った。そして陰茎の先端で少女の膣内をまさぐ り、子宮口を探り当てると陰茎の先端をそこに突き立てた。少女が悦楽に躰を震わせるの を感じながら、強引に子宮口を陰茎の先端で押し開き、直接子宮内に子種を解き放った。  ――どくん、どくん  脈を打たせながら日陰丸は少女の躰の一番奥に精を放ち、そこを満たした。快楽に朦朧 となりながら。――と、その時、 「若、何をなさっておられますか!」  唐突に保田の声がした。保田は帰りの遅い日陰丸を案じてここまで降りてきた。砂浜の 足跡をたどり……、保田は脱ぎ散らかされた日陰丸の衣に気がついた。そして、年上の少 女とあられもない姿をさらしている日陰丸の姿を船陰に見出したのだ。  日陰丸は慌てた。恥ずべき姿を親とも信頼する保田に見られた事の羞恥に身を震わせ、 慌ててその身を隠そうとした、が、いかんせん完全に交尾結合状態になった二人は離れる 事はおろか、ろくに身動きすら取れない。否、悦楽の極みにいる日陰丸の肉体は性の快楽 を追い求めるばかりで、日陰丸の弱々しい理性などには耳を傾けようとなどしなかった。  そして……保田の見詰める中、恥辱に身を振るわせながらも、快楽を求め、日陰丸はさ らなる精を止めど無く少女の中に注ぎ込んだ。 「や、保田……」日陰丸は悦楽の中、朦朧とする意識の中で哀願した。 「余の、最後の我侭だ……今だけ、今だけはっ……」 保田はしばし沈黙した。己が主が堕落した快楽に身を委ね、震わせている姿を……ある種 の慈しみにすら満ちた瞳で見詰めていた。 「申したき事は多々ござれども……」保田はただ交尾に夢中の日陰丸に重々しく囁いた。 「今は『離れられぬ』ご様子なれば、小言は後ほど」  そう告げると、保田はまぐわる二人に背を向け、茶屋への小径をゆっくりと引き返して いった。 「子ども子どもと思っており申したが……」道すがら、だれにともなく保田は呟いた。 「大きくなられたのですな……」  じりじりと焼けるような真昼の日差しの下、熱い砂の上、日陰丸はその身を仰向けにし、 かすかに荒い息を継ぎながら横たわっていた。行為を終え少女の膣内からずるりと抜けた 日陰丸の陰径は、愛液と精液にまみれぬらぬらと艶めかしく日の光に照っていった。少女 は、そんなすっかり悦楽に果て、疲れ切り気だるい愉悦に浸っている日陰丸の陰茎を丹念 に舌でなめ、性交液を拭い取っていた。  二人の交尾は実に三十分にも及んだ。初めての日陰丸が絶え果てるのも無理からぬもの だったと云えよう。少女は陰茎をなめ終えると、そんな日陰丸により沿うように砂上に身 を横たえた。 「――ありがとう」そんな少女のたゆたう豊かな胸に顔をうずめながら、日陰丸は甘えた 声で少女に語りかけた。 「とても……、とても気持ちがよかったです」  少女は、そんな日陰丸の髪を優しくその手でくしけずると、いとおしむように日陰丸に 口付けをした。 「私もよ」唇を離し、微笑みながら囁く少女。 「お姉さんの……名前を教えてくれませんか?」自分の初めての相手の事を胸に刻みつけ たく思い日陰丸は尋ねた。と、少女はそんな日陰丸の唇を人差し指でふさぎ、やさしく囁 きかけた。 「私と君はひととき出会って、ひとときのまぐわいをして、そして別れるの」再びついば むような口付け。 「行きずりの二人は、お互いの事を詮索しないのが遊びのお約束だよ。憶えておきなさい」 「でも……!」日陰丸は声をあげた。 「お姉さんのお腹には……」  少女は自分の下腹をなぜか嬉しそうになでさすると、微笑みながら囁いた。 「君みたいなコの仔なら、産んでもいいかも……ね?」  少女に衣服を整えてもらい、日陰丸は後ろ髪を引かれる思いのまま漁村を背にした。日 陰丸が保田の待つ茶屋についた時には八つの鐘(午後2時ほど)が鳴り響いていた。  保田は小言の一つも漏らさず、手にしていた茶を飲み干すと、 「少々遅れましたな。急ぎますかな」と微笑んだ。  午後の街道を照れた面持ちで黙り歩く日陰丸。保田はふぅ、と小さくため息をつくと 「私の位置からは、お相手の顔はうかがえませなんだが」と切り出した。 「美しい毛並みのおなごでしたな」 「ああ」日陰丸はますます顔を赤らめ、うつむきながら応える。 「とても……とても、美しい娘だった」 「ふむり、善栽善栽」保田はひげをなでこすりながら呵々と笑い、そして急に真顔になっ て日陰丸に尋ねた。 「御身が杉平日陰丸であることは、知られておりませぬな?」 「うむ」日陰丸は慌てて応えた。 「偽名を名乗っておいた。正体は知られてはおらぬ」 「それならば結構」保田は胸をなでおろしながら云った。 「杉平の落とし胤という事が知られれば、後々の禍根となりましょうからな」 ――そうか、と日陰丸は今更ながらに思った。あの少女の名を聞かなかったのは正解であ った。知ってしまったらいかなる政争に仔が巻き込まれる事になるか。行きずりの恋で終 わった事は寂しくはあるが、そう思えば、全てはこれで良かったのであろう。流れる空の 雲を見やりながら、日陰丸はそう思う事にした。  二人が四河城に着いた時、すでに夕闇が迫りつつあった――やはり遅れましたな、保田 は苦笑した――。が、門衛は二人の姿を見ると、ただちに居住まいを正し、 「日陰丸様、保田忠正様、只今ご帰参〜!」と呼ばわった。そしてそのまま一の門を大き く開く。どうやら、二人が今日帰参する事はすでに知られていた様である。  二人が城内深く本丸へと歩を進めるや否や、本丸から護衛すら振りきって駆け寄ってく る人影があった。  犬族領主杉平安元その人だった。  安元は泣いていた。 「よくぞ……よくぞ無事戻ってきてくれた!」状況を理解できぬままの日陰丸をひしと抱 きしめながら、猛将として知られる安元がその顔をぐしゃぐしゃにして涙する様は傍目に はこっけいですらあった。 「こんなに大きくなってのう!ほんに立派になった。お主の母のお北が生きておれば、ど れだけ喜んだ事であろうか……」 ――ああ、と日陰丸は心の中でつぶやいた。自分は捨てられたのではなかったのか。この 父は自分の事を思っていてくれたのか。  遅れて護衛達がたどり着く。よく見ると護衛たちに混じり、立派な身なりの男女も二人、 そこに押しかけてきていた。 「おおぅ、物心つく前では憶えておらんであろう。紹介せねばな」安元が背後を振りかえ りながら日陰丸に語りかける。 「お主の兄の安春と、姉の楓姫じゃ」  ――だが、日陰丸には父の言葉が全く入ってきていなかった。目の前の人物の姿に唖然 とするばかりであった。  ――姉の楓姫。数え年で十九、小柄な身に立派な反物をまとった白銀の毛並みを持つ美 しい少女――楓姫も驚きの表情で日陰丸を見詰めていた。  が、  ふっ、と表情を緩めると  自分の下腹を慈しむようにさすり、  日陰丸に微笑みかけた。